どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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家計にやさしい攻略潰し

63. 予想外の宝

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 長から聞いた話を速攻で手紙にまとめ、騎士の一人に託した。
 母上様が六名も護衛につけてくれてよかったよ、まだ人数に余裕がある。

 よくよく思い返しても、ゲーム本編どころか特典ショートストーリーでさえ、この地の人々についてはまったくと言っていいほど言及されていなかった。
 以下、ここに来る前後のルチナのモノローグである。

『僕はティバルトに誘われて、新しく彼の家の領地に加わった場所を見に行くことになった。そこはファーデンというところで、ものすごく田舎でびっくりした』
『そこの長の家に泊めてもらうことになったんだけど、彼らは僕がティバルトの婚約者だと思っているみたい。……ちょっぴり恥ずかしいな』

 以上。
 これだけだ。ほかは一切ない。
 お次は到着時のティバルトのセリフ。

『ここへ来たら邪魔も入らず、おまえとのんびりできるだろう? だから父上からこのお役目をもぎとったのだ』
『視察などと、つまらぬことを言うな。せっかく二人でいられるのだから』

 つまりあのアホボンは視察なんぞしておらず、最初からする気もなかった。ここに住む人々の声に、何ひとつ関心を向けることはなく、スケジュールのすべてをいちゃいちゃデートに費やしたのだ。
 ファーデンの民は、恋に夢中な奴らの視界にすら入っていなかった。
 例の石をティバルトが発見した後は、おそらくシュピラーレの人間がどかどかと入り込み、地元民は駆逐されたか、よくて奴隷にされたのではないか。

「――ほぼその通りのことが起こりました。シュピラーレの人間が大量に流入し、石を採掘・加工する人員のための町へ問答無用で作り変えられ、もとから住んでいた民は小間使いに等しい存在に……そして見目のよい若者は、労働者のための娼婦か男娼にされてしまったのです。シュピラーレ公爵は、実はファーデンの民についてよく知りません。ティバルトが『少々変わった衣装を着ているが、ただの田舎の民』程度にしか報告しなかったからです」

 シュピラーレ側の商人によって、娘達があちらの領へされていそうな件については、ミッテちゃんも知らなかったらしい。なら当然、その娘達も放置だな。
 歩く災い製造機か、あの野郎は……。
 俺がミッテちゃんをなでていると、長は珍しいものを見る目をヒヨコに向けるだけで、特に不愉快そうにする様子はなかった。

「坊ちゃまを特別な場所にお連れします。新しい領主様にご案内せよと、前の長には言われておったのですが」

 その領主が来ないからこその現状であり、孫の俺のほうがあてになると判断してくれたなら何よりだ。
 少々遠出になるそうで、多めの荷物を準備し、俺達はそれぞれ我が家の騎士の馬に相乗りをさせてもらうことになった。
 行く先々で、通りすがりのファーデンの民がしげしげと俺達を眺めていた。騎士なんて初めて見るのだろう、はしゃいでいる子供がいる。
 ざっと見渡しただけでも、首輪をした人物をちょこちょこ見かけた。ごく当たり前に集落の人々になじんでいるが、ルチナはこの光景を眺めて、何も心が動かなかったのだろうか。
 そんなことを思っているうちに、こんもりと森が見えてきた。

「長殿。お祖父様から薪をいただいていたというが、木こりはいないのか?」
「昔はおったのですが、斧が壊れてしまいまして、それきりです」
「そうか……」

 鍛冶師がおらず、自然に落ちた枝を拾い、燃料にするしかないのだと。
 本当にこの地域、ギリギリだったんだな……。
 七年後だと、もっと酷いことになっているぞ。今来て本当によかった。

「川がありますね。馬に水を飲ませてもよいでしょうか」

 騎士に問われ、俺は頷いた。長の言う目的地まではまだあるけれど、ここでいいのだ。
 何故なら、ティバルトとルチナも馬を駆けさせて護衛をまき、水を飲ませるべく小川に寄って、あれを発見したのだ。

「おお、これは……」
「綺麗な川ですね」

 控え目な歓声が上がった。それはそうだろう、俺もビックリした。
 水がおそろしく澄んでいるだけでなく、川底が青い。画面に映し出されたスチルより綺麗に見えるかもしれない。
 上流の川ほど澄み、水底も青く見えるものだが、そういう場所はたいてい深くて流れもきつい。
 けれどここの小川は浅く、流れもゆるやかだ。

「坊ちゃまを案内させていただく場所に湖があるのですが、このあたりの川はそこから流れておるのです」

 長の説明に頷きながら、休憩のため騎士に馬からおろしてもらっていると、川底でひときわキラリと輝くものが見えた。
 ――あれだ。

「なあ、あれは何だろう? あそこだけ色が違っていないか?」

 俺が指で示すと、皆が「確かに」と頷いた。

「見て参ります。少々お待ちください」

 従僕が靴を脱ぎ、ズボンの裾を折りたたんで川に入って行った。

「坊ちゃま! この川底、色石がたくさんあります! とても綺麗ですよ」

 彼は両手で石を掴み、ぱしゃぱしゃ音を立てながら戻って来た。
 そして俺とリシェルによく見えるよう、腰より低めの位置で手を広げる。

「うわぁ……これ、とっても綺麗だね」
「ああ……美しいな」

 そこには青緑色の小石がいくつかと、それから目が覚めるように鮮やかな青い小石があった。

「この石、リシェルの瞳にそっくりじゃないか?」
「えっ、そうかな?」
「わたくしもそのように思いますよ」

 晴れた空の青。澄んだ青。ゲームのスチルより、実物のほうがもっと明るくて綺麗だ。

「長よ、この石は持ち帰ってもいいだろうか」
「もちろんですぞ。いずれこの地のものはすべて、坊ちゃまのものになりますので。ですがこれからお連れする場所にも、それと同じ……もっと綺麗な石が見つかるやもしれません」
「これよりも?」

 ――この場所で石を見つけたティバルトは、もっと上流にたくさんの石があるのを発見し、それをシュピラーレ公に報告した。
 その『上流』とやらは画面には映されなかった。森に囲まれた場所で空を眺める視点のスチルと、説明文のテキストだけだったのだ。

「あっ! あの実、あの実ですランハート! あの実を採ってください! ピィッ、ピピピッッ!」
「お? おお、わかったわかった」
「坊ちゃま、いかがなさいました?」
「すまん、ミッテちゃんがあの実を食べたいみたいなんだ」
「あれですね。食べさせても大丈夫なのでしょうか?」

 従僕の疑問に答えあぐねていると、長が「大丈夫ですぞ」と助け船を出してくれた。

「この季節になると実が生りまして、わしらも採って食べますし、鳥も食べに来るのです。腹はふくれませんが、甘くて旨いですぞ」

 さくらんぼの半分ほどの大きさしかないので、お腹が張るほど食べるのは無理だろう。
 俺も味見させてもらうと、熟した桃に似た甘さが口内にひろがり、何だこれはと目をみはった。
 ――この土地、実は宝の山が手つかずなんじゃないの?
 服や敷物にしたってそうだ。布を織る技術、独特な衣類の染色、そもそも糸自体が多分ほかの土地にはないものだぞ。

「んっ……おいし……!」

 実を口に入れた瞬間、リシェルがぱああ……と目を見開いて頬を染めたので、俺はこのファーデンを開発しつつ永久保護区にすることを心に決めた。


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