どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

文字の大きさ
85 / 265
小さな魔王による改革

85. 歩み寄りの順番

しおりを挟む

 読みに来てくださってありがとうございますm(_ _)m
 いつも来てくださる方々には大変お待たせいたしました!
 本日2話投稿予定です。

---------------------------------------



「ランハート……あの、ありがとう……嬉しい……」

 耳と首もとの感触を確かめながら、微笑むリシェルの瞳には涙が滲んでいた。ものすごく喜んでくれているのが、その表情だけでもわかる。
 ドス! と見えない何かが俺の胸に衝突し、うぐぅ、と変な声が漏れそうになった。

 これほど用意してよかったと実感するプレゼントもそうそうあるまい。
 俺の中に生息している独占欲さんが補強されてしまった気もするが……。

 俺達は服を整えて食堂に向かった。疲れているなら無理しなくていいと言われていたけれど、久々に母上様やお姉様とたくさん話しながら夕食をご一緒したかった。
 先に待ってくださっていたお姉様と母上様は、もちろんリシェルの耳と首で輝くものに大注目だ。

「まあ、リシェル素敵……! それ、あちらで見つけたという石でしょう? とっても綺麗……!」
「良い物をもらいましたね。よく似合っていますよ」

 口々に褒められて、リシェルは恥ずかしがりつつも嬉しそうだ。
 俺も、母と姉の前で贈り物を披露するのはちょい気恥ずかしさがあったんだけれど、リシェルのこの顔を見られただけでそういうのが全部どうでもよくなるな。
 この現場には緑頭のオヤジもいたんだが、こちらの様子を見るだけで特に口は挟んでこなかった。今は俺達がどういう会話をしているのか、じっと観察している感じだ。
 昔に比べればいろいろ考えるようになったらしいので、こいつのことは何も言わず放置することにした。母上様達も、別段話題を振るということもなく、ただそこにいるのを許してやっている感じ。

 リシェルはこのオヤジの登場に、自分はどういう態度を取ればいいのか迷いつつ、俺達に倣うことにしたようだ。
 これが俺の父親であることも、過去に何があったかもすべて聞いている。時おりどこかで出没した際に、姿を見かけてもいた。
 でも、それだけ。自分から何かアクションを取れるような間柄ではない。この子がそう判断するのは自然なことだった。
 今はその程度の距離でいい。もしこのオヤジがさっさと息子の婚約者に接触して、優しい父親づらでもしようものなら、俺は激怒していたろうからな。
 それを思うと最近のこの男は、めちゃくちゃだった以前と異なり、『正解』を選び取ることが増えた。言葉を発する前、行動を取る前に、まずは考えるというごく当たり前の手順を、ようやく踏むようになったからかもしれない

 俺達の小旅行については話題が尽きることがなく、珍しくリシェルのほうが積極的に喋っていた。
 あとで俺がすべて報告書の形にして提出するんだけれど、直接リシェルの口から聞けるのは母上様も楽しいようだ。
 お姉様も興味津々だから、いつか母上様やお姉様もご招待できるよう、道を早めに整えなければ。ファーデン手前のロッジでの宿泊、俺達は楽しかったけれど、貴婦人を泊めるのには向いていない。だからそれも新たに建てる必要がある。
 話題は尽きないかと思われたが、話したいことがたくさんあり過ぎて、何を話せばいいかわからなくなってきたらしい。リシェルが一旦料理に集中し始めると、頃合いを見て母上様が言った。

「既に聞いているでしょうけれど、おまえにフェーミナの教師をつけてあげることは叶いません。ですからバウアー男爵家の次男と交流ができるよう、ヴェルク公に意向を確認するつもりでいます」

 リシェルは顔を上げた。動揺するだろうかと思ったけれど、そうはならなかった。
 少し困ったように瞼を伏せて考え込み、次に母上様を見た時には、迷いが綺麗に消えていた。
 しっかりとした強い目だ。

「お義母さま。ヴェルク公……お父さまへのお手紙、わたしが書いても良いでしょうか」

 母上様がジ、とリシェルを見つめ返した。
 ああそうか、ほんと母上様、敵わねーや。おまえはそれでいいかって問いかけるために、ご自分でさっさと手配してしまわなかったんだな。

「よろしいでしょう。おまえの『友人』の件ですから、おまえが頼みなさい」
「はい。ありがとうございます」

 リシェルが少し硬い表情で、それでも真剣にお礼を言った。
 そう。この子にとっては緑頭のオヤジより、こっちが先だよ。愛情があると教えられていても実感が湧かず、今までずっと距離を置いていた実の父親。
 自分がこの家で自由にできているのは、もちろん母上様のおかげではあるんだけれど、父親が余計なことをゴチャゴチャ言って心を乱してくることがないからでもあると、彼はちゃんとわかっている。
 何年もずっと要らんことはせずに、折に触れて好物を送ってくるだけとか、その程度に留めていた。だからやっと、歩み寄ってもいいかもしれないと、少しずつ思えるようになってきたのだろう。

「リシェル。わたくしの便箋を分けてあげるから、好きなのを選びなさいな」
「ありがとうございます、お義姉さま」

 おっと、お姉様に先を越されてしまった。これは食事のあと、お姉様の部屋にリシェルを持って行かれてしまうな。
 苦笑し、母上様にちらりと視線を送ったら、「出遅れましたね」と言いながら鼻で嗤われてしまった。きびしー。



 夕食後の俺は案の定、ボッチになってしまいましたとさ。いいもん、俺にはミッテちゃんという可愛いヒヨコさんがいるから。
 ちょっぴり生真面目で、部屋に戻るなりさっそく説教と懺悔のお時間になったけれども。まあ俺としても、外に出してはいけないモンスターが二匹も腹の中に出現したもんで、コレどうやって飼えばいいのかなと相談したかったし。

「簡単なことです。暴走させなければよいのですよ」

 あのミッテちゃんや? このモンスターの生態的に、それが一番難しそうなのですが?

「イゾルデならばこう言うでしょう。『やれない・やりたくない・無理ではなく、やりなさい』と」

 ――言いそうだ。めっちゃ言いそうだ。なんなら表情と口調まで思い浮かんでしまう。
 ひとまず想像の中の母上様に「ハイ!」と良い子のお返事をして、今日のところは早めに休むことにした。

 リシェルの手紙の結果についてはあまり心配していない。ヴェルク家の次男であり、跡継ぎ息子であるルーディについても、懸念材料はそんなになかった。
 ルーディは現在、五歳。義父上ちちうえ様が家人の様子に目を光らせ、兄への悪感情は植え付けられていないと聞いている。
 さらに頼もしいメイドが、もし兄への悪意を吹き込んでくる奴がいれば、そいつは何か企んでいる奴だから疑ってかかれと教育してくれているらしい。
 だから弟のほうはそんなに心配していないけれど、リシェルの気持ちに関しては少し心配だ。自分と違い、最初から皆に大切にされ、幸福に健やかに育っている弟の存在に、彼は何を思うのか。
 本来だったら、今頃ルーディは生きていなかったかもしれないなんて、知りようもないことだしな。

「リシェルは弟に手紙を書いてやるのでしょうか。既に簡単な文章なら読めるようになっているのでしょう?」

 ミッテちゃんがリシェルの部屋の方角を見ながら言った。
 そうだな。三歳の頃から教育が始まったらしいから、もうそこそこ読めるだろう。
 でも俺個人の意見としては、どっちでもいい。親父だけじゃなく弟にも書いてやれ、なんて一般論を押し付ける気はない。
 だってその弟のことなんて、何も知らないのだから。
 将来その子が変な勘違いをして、兄貴を下に見るようにさえならなければどうでもいいんだ。

 仮にそうなった時、俺がリシェルの弟だからと手心なんぞ加えないことぐらい、義父上ちちうえ様はよくご存じだろう。

 俺はミッテちゃんと使用人におやすみなさいを告げ、ベッドに入った。


しおりを挟む
感想 832

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...