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早まったプロローグ
111. どうして、こうなるんだろう? (2) -sideルチナ
しおりを挟む思い出した瞬間は混乱するしかなかったけれど、しばらく経ったら落ち着いてきた。
僕は今度こそ彼らと幸せになろうとして、でも失敗してしまったから、元に戻してもらえたんだ。
だけど、どうしてなんだろう。
ティバルト様もエアハルト様もヨハン様もリシェル様も、みんな公爵家の人なのに。
この国で一番身分の高い貴族の、それも当主とか当主の息子っていう立場の人ばかりなのに、どうして同じ展開になってしまったのかな?
彼らが守ってくれていれば、王様も僕を捕まえようなんてしないかなって思ったのに。
わからないけれど、僕はひとまず助かったんだ。まずはそのことに感謝しないと。
懐かしい家。優しい家族。懐かしい使用人。
王様達に睨まれたあと、彼らがどうなったのかわからないんだよね。いつも行方不明になってしまって……。
エアハルト様やリシェル様に調べてもらっても、夜逃げしたらしいとしかわからなかった。
僕の家族が何も言わずに逃げることなんてあるのかなって思うけれど、酷い目に遭っていないのならいい。
みんな元気でよかった。
こんな風に、懐かしい平穏な暮らしに戻ることができて本当に嬉しい。
……本当に、嬉しいんだよ?
でも、正直に言ってしまうと、だんだんつらくなってきた。
だって、部屋の広さが違う。椅子の座り心地が違う。
料理の質が違う。飲んでいるお茶の銘柄が違う。
服も、靴も、ベッドも全然違う。
それから、お菓子が滅多に食べられない。僕の生まれた家……メルクマール男爵家は、あんまり裕福じゃないから。
あの頃はすごく綺麗で広い部屋に住まわせてもらって、座り心地のいい椅子に座り、とても腕のいい料理人の作る最高の料理を食べていた。
上質のベッドに寝て、起きたら大勢の使用人に上質の服を着せてもらい、僕の恋人と一緒に美味しいお茶を飲む。
彼らとのお茶会では、いつも美味しいお菓子が用意されていた。
そういえば前回もそうだった。彼らに会うまでは我慢するしかないと思ったから、頑張って数年後の再会まで待ったんだけれど。
……我慢、しなくていいんじゃないのかな?
そうだよ。早めに会いに行って何がいけないの? 大変なことが起こるのは、僕らが大きくなってからだ。
今から会いに行ったって、きっと何も変わらない。
僕は父様に一生のお願いをして、シュピラーレ公爵邸に連れて行ってもらった。
だけど、公爵様やティバルト様に会うことは許してもらえなかったらしい。メルクマール家は一介の小貴族に過ぎないから、何か用事でもない限り、雲の上の公爵様になんて普通は会えないんだって。
僕は公爵邸の門前で、とても大きなお館を外から眺めるしかなかった。
けれど、僕にはやっぱり天の導きがある。
ティバルト様のほうから、門前の小貴族の話に興味を持って会いに来てくれたんだ。
彼はそこで、四~五年ぐらい前に会った僕のことを思い出してくれた。――以前はこんなに早く思い出してもらえなかったのに。
それもそのはず、一番最初の時は、僕自身も彼のことをよく覚えていなかったんだ。
あの時は恋人同士になったあと、やっとお互いに思い出せたんだ。僕らが小さな頃に会っていて、大きくなってから運命的な再会を果たしたんだってことを。
今回は大きくなる前に会ったことで、思い出しやすかったんだろう。
やっぱり、早く来て良かったんだ。
ティバルト様は僕を公爵邸に住まわせると言ってくれた。「私のフェーミナだ」とも言ってくれた。
なんて幸せなんだろう。
でも、父様の反応が今回、前と違っていた。
前まではいつも僕を応援してくれていたのに、「まだこの子は子供だから」って、おそるおそる断ったんだ。
僕がティバルト様と一緒にいたいってお願いしても、すごく心配そうな顔をして、首を横に振るばかり。
そうこうしているうちに公爵様もやってきて、他家の大切なご令息にバカなことを言うなってティバルト様を叱った。
ティバルト様はとても優秀な方なのに、公爵様も奥様も、何故かご自分の息子に厳しいんだ。
きっとご両親に認めてもらえないのはおつらいだろうから、なおさら僕が彼の傍で癒やしてあげたい。
結局、ティバルト様が僕の腕を掴んで庭に引っ張って行き、いつかのように広大な庭を二人で逃げ回った。……こんなことを言ったらいけないかもしれないけれど、楽しかった。
だけど今回は使用人に見つけられたあとも、僕らが引き離されることはなかった。公爵様と父様が話し合い、僕は彼の傍にいていいことになったらしい。
父様にいっぱい感謝した。なのに父様は、ずっと悲しそうな心配そうな顔のまま、頑張りなさいとすら言ってくれなかった。
「つらくなれば、いつでも戻ってきなさい」
……どうして、そんなことを言うの?
前回はあんなに応援してくれたのに。
とにかく僕は、客室のひとつを僕の部屋にしてもらえた。そして公爵様に厳しい先生をつけられた。
「父上、何故ルチナにあのような厳しい教師を」
「不要などと言うでないぞ。大切なご子息を預かるからには、教育はしっかり受けさせねばならない。嫌ならばメルクマール男爵邸に戻すだけだ」
公爵様が言うことはもっともなんだけれど、いつも言葉が厳しい。ティバルト様は優秀で人気者なのに、公爵様も奥様も評価がすごく低くて、僕に対しても常によそよそしく振る舞う人達だった。
今回は仲良くできたらなって思うのに、ほとんど会うことすらできない。広い広いお館の中は、避けようと思えば簡単なんだ。
僕は今回も、あの人達に歓迎されていない。
ちょっと寂しかったけれど、僕にはティバルト様がいてくれる。
彼が僕を大切にしてくれるおかげで、僕は以前と同じような生活ができるようになった。
ほら、やっぱり。早めに会いに来ても別によかったんだ。
父様のおかしな反応が少し頭をよぎったけれど、僕は微妙な違和感に蓋をして、ただティバルト様に感謝した。
■ ■ ■
……なんだか、おかしい。
一年ぐらい経ってから、僕の中の違和感は大きくなっていた。
ティバルト様の周囲にいる子が、とても少ない気がする。
まだ子供時代だからかな? いつもティバルト様と再会するのは、僕が十四歳か十五歳かそのぐらいだった。
これからどんどん増えていくんだろう、きっと。
「…………」
「……ほら……」
「しっ……」
ティバルト様に連れられてどこかへ行くと、大人達の視線が突き刺さってくる。
突き刺さるのに、僕がそちらに目を向けると、誰も僕を見ていない。さりげなく上手に逸らされているんだ。
その上で僕が通りかかると、近くでひそひそ、ぼそぼそと何かを言っている。とても気になるのに、うまく聴き取れない。
しかも、見えない視線や聞こえにくいひそひそ話は、僕だけじゃなくティバルト様にも向けられていた。
どういうことなんだろう?
ほかにも気になることがあった。
アデリナ様だ。彼女はどこにいるんだろう?
今回はまだ一度も会っていない。ひょっとして、まだ婚約していない時期だったのかな?
わからないけれど、もし彼女が僕に意地悪をしてきたとしても、今回はきっと負けない。
前回は「ろくに教養がない」とか「下賤な」と言われても言い返せなかったけれど、今回は違う。
公爵様から厳しい先生をつけられて、いつも頑張っているんだ。
たとえ酷いことを言われても、負けるもんか。
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