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進む人々、停滞する人々
132. これもまた青春
しおりを挟む本日の投稿は1話ですm(_ _)m
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いったい、何が起こったんだろう。
内心首を傾げながらもリシェルを全力であやし、なんとか彼が落ち着いてくれたのはいいが、俺はリシェル付きの使用人達から彼の部屋を追い出されてしまった。
文字通り、ノアとメイド達みんなから追い出された。
脈絡のない「若様、おやすみなさいませ」の圧がすごかったよ……。
自室に戻って以降も、何が起こったんだろうと心の中で首を傾げつつ、とりあえず風呂に直行した。
リシェルの涙でそこは完全に息を潜めていたけれど、思い出したら緊急事態が発生しそうな予感があったからな。
そして風呂から上がって現在、ソファの上で俺の頭は、時間差爆発を起こしていた。
あれはッ!!
あれはリシェルからのッ!!
初キッスではないのかッ!?
リシェルから。
ここが一番重要な、特大のポイントである。
俺の初キスをリシェルに奪われましたよひゃっほい! ……いかん、水を飲もう。
カイから同情とも憐れみともつかない視線を感じつつ、なるべく冷たい水を入れてくれるように頼んだら、わざわざ氷室まで行って氷入りの水を作ってきてくれた。マジ理解の深い従僕でありがたいです。
今回に限ってカイとノアに仁王が降臨しなかったのは、この『リシェルから』っていう特大ポイントがあったからだ。
そうでなければ俺は今頃、破廉恥な害獣扱い必至……。
しかしいくらリシェルに仕掛けてもらえたからといって、その後がいただけない。俺はまんまと理性をぶっ飛ばし、よりによってディープなキスをかましてしまった。
そう、ディープなやつである。
初心者のリシェルにとんでもないことをしてしまった……!
俺も今は初心者なんだけどな。
一応はな。
だから部屋に戻るなり、既に一度入っていた風呂へ再突入したわけだよ。
そしてその後もリシェルの唇のやわらかさとか吐息の甘さとか、あれこれ思い出しそうになっては頭の中で「うぎゃあああっ!!」と悲鳴を上げているわけだよ。
風呂に入っておいてよかった。
あそこで俺がブチ切れなきゃ、あんなに泣かせることもなかったのに。
ものすごくビックリしただろうなぁ……。
貴族の子作り教育では基本しか教えていないから、彼の知識の中の『口付け』にはバードキスしか存在しなかったことだろう。
あれが原因で二度としてくれなくなったらどうしよう?
それ以前に、近付くことすら許してくれなかったらどうする?
再びブチ切れて襲う未来しか見えないんだが。
「……あれ? ミッテちゃんは?」
「若様がご自分でリシェル様の胸に押し付けておられたでしょう?」
……そうだった。
ちょっとでも和んでもらおうと、ミッテちゃんに頑張って愛嬌を振りまいてもらったんだ。
で、リシェルが俯きながらもミッテちゃんを大事に抱っこしていたから、なぐさめ要員としてそのまま置いてきたんだったな。
道理でさっきから一度も突っ込みが入らないわけだよ。
特に『ブチ切れて襲う』のくだり、あのへんで俺の顔面にヒヨコキックが入らないのはおかしいしな。
「しかし……どうしよう。眠れる自信がない……」
騎士団養成所の件を詰めようと思ったのに、結局何も話し合わずに舞い戻ってしまった。
自分だけで考えようにも、この状態では何も頭に浮かばんしなぁ。
「若様。難しいかもしれませんが、寝台に入るだけは入ってください。横になって目を閉じているだけでも、少しは休まりますから」
カイは俺に同情的なまなざしを送りつつ、「徹夜作業はいけませんよ」と釘をきっちり刺してきた。
徹夜は前世の俺にとっても大敵だったから、夜更かし不可に異論はない。
あの仕事は休憩時間以外すべて、脳みそと舌をフル稼働させなきゃいけなかったからな……常に考えながら言葉を発し、自分とお客さんの会話の要点をPCに入力して必要書類を手配する作業、これを同時進行でやるというのは今思い返しても特殊な技術だったと思う。
側近にも俺の作業は速いってよく言われるけれど、その時の土台が現在に活きているんだろうな。
そんな風に、つとめて別のことを考えつつ、言われた通りにベッドに入った。
……予想通り、ぜんっぜん寝付けなかった。
湯上がりリシェルの鎖骨。
上気した頬。
思い出すな俺、別のことを考えろ俺と目を閉じて念じても、脳内を隅から隅までリシェルが占拠してしまう。
やがて外からピィ、チチチ……という爽やかな合唱が聞こえ始めた。
「ふ。そうなるだろうと思ったよ」
賢者に転生でもしたかのようなセリフを諦念とともに吐き出し、俺はメイドを呼んで朝風呂の準備を頼んだ。
心身を少しでもスッキリさせてからリシェルに会おうと思ったんだが、やはりその日、彼に会うことは叶わなかった。
泣いた跡が腫れぼったくなっているので、こんな顔では絶対に会いたくないと拒否られてしまったのだ。
どんな顔でも絶対にリシェルは可愛い。
だからといって俺が無理に会おうとするのは厳禁だと、俺付きとリシェル付きのメイドさん一同から、忠告というか警告されてしまった。
「デリカシーのない殿方は嫌われてしまうのですわよ、若様」
「そうです。ご本人が『みっともないから見せたくない』と仰っているものを、見せよと無理強いする行為はいくら愛しさゆえであっても許されませんわ」
俺は彼女らの迫力に、コクコクコクッと頷くしかない。
そして俺の『リシェルの部屋で暴走やらかし事件』は、ムスター邸の使用人の間で光の速さで駆け巡ったようだ。
待て、なんで最初に俺が襲ったことになっているのだ?
俺がリシェルの肩に頭をのっけて、彼の顔を見上げていたらこう、顔を近付けてきてくれたんだぞ?
噂って怖い!
というか使用人同士の情報伝達はどうなっているんだ!?
大事な話まで伝言ゲームになっちゃいかんだろ!?
……え、最初の伝達からひとことも変えてないの?
変えずにその内容になっているの? 全部?
……おい、誰だ俺が襲ったと一番最初に伝えた奴は。
しかし翌日もリシェルに会わせてもらえず、だんだんあれは俺の願望が見せた幻覚か白昼夢だったのではないかという気すらしてきた。
「ピヨ……ご安心なさい、ランハート。あなたの頭は一応……? 正常に働いております。幻覚でも記憶違いでもありませんから」
ミッテちゃん~!
リシェルの部屋から帰還を果たしたミッテちゃんが、俺に福音をもたらしてくれた。
疑問符付きの『一応?』が入っている理由については問わないでおくよ。
「リシェルもいろいろ、それはもういろいろ、あなたに負けず劣らず頭の中がぐるぐると大変なことになっていまして……。メイド達の言うように、今はそっとしておいてあげるのが一番でしょう」
そうか、あっちもあっちで大変なことになっているのか。だよな。
俺はおとなしく、リシェルが少しでも気持ちを落ち着けてくれるのを待つことにしよう。
……でもごめんだけどリシェル、俺が「よし襲おう」となる前には顔を見せてね?
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読んでくださってありがとうございます!
次回か次々回あたりからまた大きな展開があるので、1話投稿になるかもしれません。
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