どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

文字の大きさ
132 / 270
進む人々、停滞する人々

132. これもまた青春

しおりを挟む

 本日の投稿は1話ですm(_ _)m

------------------------



 いったい、何が起こったんだろう。
 内心首を傾げながらもリシェルを全力であやし、なんとか彼が落ち着いてくれたのはいいが、俺はリシェル付きの使用人達から彼の部屋を追い出されてしまった。
 文字通り、ノアとメイド達みんなから追い出された。
 脈絡のない「若様、おやすみなさいませ」の圧がすごかったよ……。

 自室に戻って以降も、何が起こったんだろうと心の中で首を傾げつつ、とりあえず風呂に直行した。
 リシェルの涙でそこは完全に息を潜めていたけれど、思い出したら緊急事態が発生しそうな予感があったからな。
 そして風呂から上がって現在、ソファの上で俺の頭は、時間差爆発を起こしていた。


 あれはッ!!
 あれはリシェルからのッ!!
 初キッスではないのかッ!?

 
 リシェルから。
 ここが一番重要な、特大のポイントである。
 俺の初キスをリシェルに奪われましたよひゃっほい! ……いかん、水を飲もう。
 カイから同情とも憐れみともつかない視線を感じつつ、なるべく冷たい水を入れてくれるように頼んだら、わざわざ氷室まで行って氷入りの水を作ってきてくれた。マジ理解の深い従僕でありがたいです。

 今回に限ってカイとノアに仁王が降臨しなかったのは、この『リシェルから』っていう特大ポイントがあったからだ。
 そうでなければ俺は今頃、破廉恥ハレンチな害獣扱い必至……。
 しかしいくらリシェルに仕掛けてもらえたからといって、その後がいただけない。俺はまんまと理性をぶっ飛ばし、よりによってディープなキスをかましてしまった。
 そう、ディープなやつである。

 初心者のリシェルにとんでもないことをしてしまった……!

 俺も今は初心者なんだけどな。
 一応はな。
 だから部屋に戻るなり、既に一度入っていた風呂へ再突入したわけだよ。
 そしてその後もリシェルの唇のやわらかさとか吐息の甘さとか、あれこれ思い出しそうになっては頭の中で「うぎゃあああっ!!」と悲鳴を上げているわけだよ。
 風呂に入っておいてよかった。
 
 あそこで俺がブチ切れなきゃ、あんなに泣かせることもなかったのに。
 ものすごくビックリしただろうなぁ……。
 貴族の子作り教育では基本しか教えていないから、彼の知識の中の『口付け』にはバードキスしか存在しなかったことだろう。

 あれが原因で二度としてくれなくなったらどうしよう?
 それ以前に、近付くことすら許してくれなかったらどうする?
 再びブチ切れて襲う未来しか見えないんだが。

「……あれ? ミッテちゃんは?」
「若様がご自分でリシェル様の胸に押し付けておられたでしょう?」

 ……そうだった。
 ちょっとでも和んでもらおうと、ミッテちゃんに頑張って愛嬌を振りまいてもらったんだ。
 で、リシェルがうつむきながらもミッテちゃんを大事に抱っこしていたから、なぐさめ要員としてそのまま置いてきたんだったな。
 道理でさっきから一度も突っ込みが入らないわけだよ。
 特に『ブチ切れて襲う』のくだり、あのへんで俺の顔面にヒヨコキックが入らないのはおかしいしな。

「しかし……どうしよう。眠れる自信がない……」

 騎士団養成所の件を詰めようと思ったのに、結局何も話し合わずに舞い戻ってしまった。
 自分だけで考えようにも、この状態では何も頭に浮かばんしなぁ。

「若様。難しいかもしれませんが、寝台に入るだけは入ってください。横になって目を閉じているだけでも、少しは休まりますから」

 カイは俺に同情的なまなざしを送りつつ、「徹夜作業はいけませんよ」と釘をきっちり刺してきた。
 徹夜それは前世の俺にとっても大敵だったから、夜更かし不可に異論はない。
 あの仕事は休憩時間以外すべて、脳みそと舌をフル稼働させなきゃいけなかったからな……常に考えながら言葉を発し、自分とお客さんの会話の要点をPCに入力して必要書類を手配する作業、これを同時進行でやるというのは今思い返しても特殊な技術だったと思う。
 側近にも俺の作業は速いってよく言われるけれど、その時の土台が現在に活きているんだろうな。

 そんな風に、つとめて別のことを考えつつ、言われた通りにベッドに入った。

 ……予想通り、ぜんっぜん寝付けなかった。

 湯上がりリシェルの鎖骨。
 上気した頬。
 思い出すな俺、別のことを考えろ俺と目を閉じて念じても、脳内を隅から隅までリシェルが占拠してしまう。 
 やがて外からピィ、チチチ……という爽やかな合唱が聞こえ始めた。

「ふ。そうなるだろうと思ったよ」

 賢者に転生でもしたかのようなセリフを諦念とともに吐き出し、俺はメイドを呼んで朝風呂の準備を頼んだ。



 心身を少しでもスッキリさせてからリシェルに会おうと思ったんだが、やはりその日、彼に会うことは叶わなかった。
 泣いた跡が腫れぼったくなっているので、こんな顔では絶対に会いたくないと拒否られてしまったのだ。
 どんな顔でも絶対にリシェルは可愛い。
 だからといって俺が無理に会おうとするのは厳禁だと、俺付きとリシェル付きのメイドさん一同から、忠告というか警告されてしまった。

「デリカシーのない殿方は嫌われてしまうのですわよ、若様」
「そうです。ご本人が『みっともないから見せたくない』と仰っているものを、見せよと無理強いする行為はいくら愛しさゆえであっても許されませんわ」

 俺は彼女らの迫力に、コクコクコクッと頷くしかない。
 そして俺の『リシェルの部屋で暴走やらかし事件』は、ムスター邸の使用人の間で光の速さで駆け巡ったようだ。

 待て、なんで最初に俺が襲ったことになっているのだ?
 俺がリシェルの肩に頭をのっけて、彼の顔を見上げていたらこう、顔を近付けてきてくれたんだぞ?
 噂って怖い!
 というか使用人同士の情報伝達はどうなっているんだ!?
 大事な話まで伝言ゲームになっちゃいかんだろ!?

 ……え、最初の伝達からひとことも変えてないの?
 変えずにその内容になっているの? 全部?
 ……おい、誰だ俺が襲ったと一番最初に伝えた奴は。

 しかし翌日もリシェルに会わせてもらえず、だんだんあれは俺の願望が見せた幻覚か白昼夢だったのではないかという気すらしてきた。
 
「ピヨ……ご安心なさい、ランハート。あなたの頭は一応……? 正常に働いております。幻覚でも記憶違いでもありませんから」

 ミッテちゃん~!
 リシェルの部屋から帰還を果たしたミッテちゃんが、俺に福音をもたらしてくれた。
 疑問符付きの『一応?』が入っている理由については問わないでおくよ。

「リシェルもいろいろ、それはもういろいろ、あなたに負けず劣らず頭の中がぐるぐると大変なことになっていまして……。メイド達の言うように、今はそっとしておいてあげるのが一番でしょう」

 そうか、あっちもあっちで大変なことになっているのか。だよな。
 俺はおとなしく、リシェルが少しでも気持ちを落ち着けてくれるのを待つことにしよう。

 ……でもごめんだけどリシェル、俺が「よし襲おう」となる前には顔を見せてね?



-----------------------------

 読んでくださってありがとうございます!
 次回か次々回あたりからまた大きな展開があるので、1話投稿になるかもしれません。

しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...