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ムスター家の魔王
139. お掃除のお誘い
しおりを挟む翌日、俺の義兄上様はまたもや、やる時はやる男だと証明してくれた。
お姉様に公開プロポーズをしてのけた時も思ったけれど、お姉様のことは彼に任せてオッケーと心から信頼できる。
ラブレターどころか、本人が花束持って会いに来たわ! お姉様に!
「父上と母上がくだらぬことを言っていたようだが、私達の結婚に影響することは決してない。どうか信じてほしい、アデリナ」
「エアハルト様……」
玄関ホールで涙ぐみながら、花束を受け取るお姉様。それを見てホッとしつつ、俺とリシェルはこっそり目を見合わせて笑った。
つうか、『アデリナ嬢』ではないんだな?
いつの間にか呼び捨てをするようになっていたんだな? ほほぉう。
いつも気丈なお姉様の涙に、エアハルト兄様のハートへ見えない矢がドスドスドスッとぶっ刺さっているようです。
微笑みと一緒に潤んだ瞳で見上げられるって凶悪だよね!
俺もリシェルにやられたら一秒後には白旗を振るな。
あれに勝つとか無理。経験談です。
それにしてもエアハルトはエアハルトで、レーツェル家を停滞から転落へ向かわせないように忙しいはずだった。
しかもレーツェル公爵夫妻はシュピラーレ公とは正反対の理由で、跡継ぎ息子に力を持たせ過ぎないようにしている。
その分、俺よりもエアハルトのほうが忙しさは上なんじゃないかな。俺は今も昔も母上様が味方だから、やりたいことを制限される不便さなんて感じたことがない。
案の定、お姉様が母上様とヨハンのことも呼ぼうとしたけれど、エアハルトはさっさと帰ってしまいそうな雰囲気になった。
無理に時間を作って飛んできたので、あんまり長居はできないようだ。
――この機会を逃したら、次はもっと先になりそうだな。
「兄様、ちょっと男同士の内緒話をさせてほしいです。それほど時間はかかりませんから、馬車の中に失礼させてもらってもいいですか?」
「ん? ああ、構わないが……」
玄関前にはレーツェル家の馬車が移動せずに停まっており、従僕は馬車の後部に立って乗っている。
中に人はいない。
名残り惜しそうにお姉様へ再会の約束をしたあと、エアハルトは馬車へ乗り込み、俺は首を傾げているリシェルの手を引っ張ってそのあとに続いた。
お姉様が不思議そうにしているけれど、男兄弟の内緒話なんです、ごめんなさい。
「いきなりすみません、兄様。今を逃すと、この先なかなかお会いできそうになかったので」
「いや、構わない。話とは何だ?」
「その前に、この馬車に庭を回らせてもらっていいですか? 万が一にも外の者に聞かれたくないのですよ」
「……わかった」
馬車を動かせば車輪の音が響き、俺達が大きな声を出さない限り御者席にも、外側に乗っている従僕の耳にも届かない。
エアハルトはすぐにそれを察し、御者席へ繋がる小窓をひらき、指示を出してくれた。
小窓を閉じるとゆっくり馬車が動き始め、それを確認してから改めて俺は話し始めた。
レーツェル公爵夫妻を確実に排除し、エアハルトにすべての実権を移させる方法を。
話しているとエアハルトの顔がどんどん引きつり、気のせいか身体もドン引き気味になっている。
あれぇ、そんなに引くほどのことかな?
隣の座席に座っているリシェルに顔を向けると、彼はいい笑顔で「素敵な方法だね」と言ってくれた。
何故かエアハルトはそんなリシェルに愕然とした目を向ける。兄様がリシェルにそんな表情を向けるのって初めて見るなぁ。
「しかし……おまえ、ランハート……その方法は……」
「そんなに大変なことでもありませんよ? はっきり言いますと、あのレーツェル公爵夫妻はもはや我々三公全員にとって有害なんです。これ以上彼らに四公を名乗り続けてもらいたくはない。だから兄様さえ心を決めてくださるのなら、三公全員があなたの後押しをします」
シュピラーレ公は、大事に隠し育ててきた次男の存在を大勢の前でバラした挙句、よこせと言いやがった国王の味方だけは絶対にしない。
そしてそんな国王の思惑にホイホイ乗りやがったレーツェル公爵夫妻も敵だ。
ヴェルク公はリシェルの父親。フェーミナへの偏見を助長しそうな国王夫妻にそもそも好意を持てず、そいつらに賛同するであろうレーツェル公爵夫妻のことも気に入らない。
エアハルトはしばし悩み、おそらくお姉様のことを考え、そしてリシェルのことを見た。
あの夫妻は絶対にお姉様を大切にはしないだろう。
そしてお姉様だけでなく、リシェルにとっても害をなす存在になる可能性が低くはなかった。
ヨハンの行動により、ムスター家は国王夫妻の怒りを買っている。
その怒りの対象は、遠からず俺になり、そしてリシェルに向かうだろう。
そうなった時に、リシェルを守る立場を取る者は多いほどいい。
「……おまえの作戦に乗ろう。おまえの望みは、私自身の望みにもなる」
レーツェル家を完全に掌握し、お姉様の憂いを取り除くこと。
腹を決めたらエアハルトは強いし、悩まない。実に頼もしい存在だった。
それに彼の頭にあるのは、お姉様と自分の幸福な未来だけではない。
ちゃんと俺達の未来も考えてくれているのがわかるから、俺もリシェルも兄様が好きなんだよ。
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