どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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ムスター家の魔王

149. 進展の気配

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 読みに来てくださってありがとうございます!
 本日1話投稿です~m(_ _)m

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「――すまない、少し思い付いたことがあっただけだ。膝掛けはこのままでいい。ありがとうな」
「いえ……」

 つい凝視してしまったせいで、カイを不安にさせてしまった。
 慌てて侘びと礼を言い、再び瞼を閉じる。
 ミッテちゃんがパタパタと羽ばたき、膝掛けの上に着地したのを感じた。俺の肩の上より、ふんわり膝掛けのほうが気持ちいいもんな。

「しかし、国王の侍従ですか?」

 ミッテちゃんがピヨヨと呟く。
 うん、それだよ。俺が完全に頭から除外していたやつ。
 前世の世界でもあったよなぁ。主君に近しい使用人が、その寵を笠に着て権力を握るというやつが。
 我が家ではまさに、元メイド長のカーラがそうだった。


 俺の専属であるカイとノアは、従僕であって侍従ではない。
 その二つを一緒にしている国もあるけれど、この国では完全に別の職業だ。
 それぞれを細かく言うと……

 侍従や侍女になれるのは貴族だけ。彼らの仕事内容は主人によって変わり、単なるお喋り友達でしかない者や、秘書のような役割を果たす者もいる。
 従僕やメイドは、主人の身の回りの世話や給仕などがメインの仕事。
 下男や下女は主人の前に姿を現すことが滅多になく、掃除洗濯などの家事労働が主な仕事だ。

 うちには侍従も侍女もいない。ハッキリ言っていなくても回るし、金がかかるからという身も蓋もない理由で、母上様が一人も置かない主義を貫いている。
 だから我が家の使用人の中で、俺専属の護衛兼従僕であるカイとノアの地位は高い。
 使用人のトップは家令のノイマン。次が執事。俺がムスター公爵になった今、カイとノアはその次に位置することになった。
 つまり二人は使用人の中で上から三番目、メイド長よりも立場が上なんだ。

 平民として、彼らは間違いなく成功者と言える。
 だからあの二人がその気になれば、ヒルダの威光を利用しまくったカーラと似たようなこともできてしまうわけだ。

「いえ、それはないでしょう。あなたの威を利用などしたら恐ろしい末路を迎えると誰もが理解しておりますよ。その筆頭がほかでもないカイとノアでしょう」

 いやあのねミッテちゃん、仮定の話だから!
 だいたい彼らがそんなことをするわけがないって俺は信じているし、よく知ってもいるからね!

 それは置いといて、王宮はどうかというと……
 国王夫妻の身の回りの世話係は貴族だけ、すなわち侍従と侍女しかいない。
 制服もあり、彼らは従僕やメイドと似たような仕事をしている。
 貴族だから当然、新人であっても掃除洗濯などは一切行わない。

 どんな家でもそうだけれど、仕えている主人のランクの高さが使用人のランクに直結している。
 いくら国王夫妻の性格に問題がありまくりでも、この国の頂点に仕える侍従や侍女は、貴族の家で仕えるそれよりも上と見做されるのだ。
 身分の低い小貴族の五男六男であろうと、王の侍従になれたら大出世。
 下手をすれば実家の当主よりも立場が上になるかもしれない。

「確かに。先ほどあなたが仰ったように、できるかできないかで言えば、その者達はできる立場におりますね。ですが前に王宮を見た時は、特に怪しい者などいなかったのですけど」

 それな。
 俺もそこでつまづいたんだわ。
 王宮とは野心家が足しげく通う場所であり、怪しい人間しかいない場所。
 調べても調べても、腹の中が真っ黒そうな奴しか出てこない。
 その中から犯人を捜すのはホネが折れそう――と、ずっと思っていた。

 ところが、もいた。
 それが王の侍従だ。
 何の野心も表に出さず、不審な言動を一切見せないがために、シュピラーレ公や義父上ちちうえ様にも注目されていない存在。

 怪しくない奴が怪しいなんて、短絡的かもしれない。
 だけど、賢い奴が何かしら悪さを働こうとしたら、大抵目立たないようにするものだ。

 第一ミッテちゃんが前に王宮を見たのって、巻き戻す以前のこと――つまり『思考を読む』ことに重点を置いていた時期だろう?
 そいつの本性だか魂だか、気配については適当に流していた頃じゃないか?

「っ! ――そうでした。それに、怪しくない者の気配などを気にしても無意味だと思っておりましたし」

 だよな、普通は。
 何ら不審なところがなければ、いちいちそこを探ろうとは思わないよ。
 短絡的な逆張り思考かもしれないけれど、他の四公と宿で話していた時には一度もなかった「これだ」感を、今は感じちゃってるんだよな……。

 どのみち、ずっと何も進展がなかったのだから、一度も目を付けていなかった場所を洗うのも悪くはないだろう。
 シュピラーレ公や義父上ちちうえ様に意見を仰いでみるか。

 ただ、調べるとすればこれまで以上に慎重に振る舞わないといけない。
 もし当たりだったとすれば、そいつは確実に頭が切れる。
 そして慎重で、気が長く、そうそうボロを出さない。
 俺達がそいつに注目し、調べ始めていることを悟られないようにしなければ。

「厄介ですね。私が直接、出向けたら良いのですけれど」

 ……あ~、それはやっぱりやめたほうがいいよミッテちゃん。
 俺もあの王様を見た瞬間は、こっそり連れて行けばよかったと思わなくもなかったけどさ。
 なんかあのオーク、ミッテちゃんを頭からバリバリ食いそうで怖いんだわ。

「ひっ!? そ、そうですね。忠告に従うとしましょうか、ええ」

 いくら不死身でも――いや不死身だからこそ、食われるのは嫌だもんな、絶対。



 しばらく休んだフリをしたあと、シュピラーレ公と義父上ちちうえ様宛に手紙を書いた。
 さっきの思い付きを伝えるためにだ。
 エアハルトはレーツェル家の掌握に忙しいだろうし、お姉様との結婚も目と鼻の先。彼にも伝えようかどうしようか少し迷ったけれど、ちゃんと書くことにした。

 忙しそうだから今はやめておこうと気を回して先延ばしにしたら、実はそちらのほうが悪い結果をもたらすことがままある。俺の前世の教訓だ。
 報告・連絡・相談は、なんか先輩や上司が忙しそうにしているし迷惑かな……なんて思っても、絶対に速攻でやれ。
 後回しにしたら「なんで早く言わなかったんだ!?」ということになりかねないし、最悪のパターンでは報告忘れという恐ろしい事態を招くからな……!

 ホラー映画と報告漏れ、どちらが怖いかと同僚がアンケートを取ったら、圧倒的に『報告漏れ』だったよ。
 新人さんが定期的にやるんだよね。そりゃあ肝が冷えたもんさ、はは。

 エアハルトがあまり根を詰めずに済むよう、手紙には『本日の素敵なお姉様』の話もモリモリ盛り込み、封蝋を押した。


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