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最後の仕上げ
222. 避けて通りたい覚悟
しおりを挟む「あの時もしやと感じたのですが、やはりそうだったのですね」
俺がほんの少し落ち着き、そこそこ冷静な会話が成立するようになった頃、ミッテちゃんが言った。
この前俺がリシェルといちゃいちゃしていた時、ミッテちゃんが独り言を漏らしていたと思ったら、どうもこのことでピンときていたらしい。
ミッテちゃんもこういうの、すぐにはわからないもんなのか?
「以前の私ならばすぐにわかりましたけれど、今は少し日がかかりますね。ほんの少しずつ魂が形成されている気配を感じたのですよ」
魂か。俺の時みたいに、ポンと宿るもんでもないんだな。
そりゃそうか。俺は特殊な例だったし、参考に出来るものじゃないだろう。
「そのようなことよりも、これからが大変ですよランハート。あなた、お父様になるのですからね? もしリシェルにそっくりの女の子かフェーミナが産まれたとしても、冷静で寛容な心を保てるように今から精神を鍛えておきなさい」
ぐおおおッ!?
俺がこれまで、あえて考えないように避けてきた可能性を……!!
そんなの想像するまでもなく、「うちの子は嫁にやらん」状態になるのがもう確定じゃないか。
将来どこぞの馬の骨に掻っ攫われるイメージトレーニングなんて積みたくない……!!
苦悩する俺にミッテちゃんは「ふうピヨ」とジト目で溜め息をつき、おやつの赤い実をつんつんつつき始めた。
せっかく落ち着いたと思ったのに、俺の頭はぷちパニック時に巻き戻ってしまったようだ。
仕方ない、リシェルに膝枕で癒やしてもらおう。
■ ■ ■
来るかもね~と噂をすれば影、ヴェルクの義父上様が速攻でやって来た。
リシェルと話してから一日しか経ってないじゃん。
俺と同じく四君主の一人となったレナード・フォン・ヴェルク大公殿下は、爆速で来ておきながらいざリシェル本人と顔を合わせた瞬間、石化して言葉を失うという醜態を玄関前で晒した。
うちの玄関でよかったね。我が家ならみんな見逃してあげるけれど、それ、ほかの家ではやらないように注意しようね義父上様……お互いにさ。
「来てくださって嬉しいです、お父様。どうぞお入りください」
「う、う、うむ……リシェルは、息災のようだな。うむ。よかった」
「はい。毎日つつがなく過ごしております」
慈愛に満ちた笑顔で、親父のカチコチっぷりをスルーしてあげる優しい息子。もはやどっちが年上かわからんな。
我が家の親父とは別ベクトルで仕方のない親父を、リシェルはもうだいぶ前に許してあげている。態度もすっかり軟化しており、頻繁に文通もしているんだが、義父上様が時々石化するのは相変わらずだった。
無理に直さなければいけないことでもないし、そのうち慣れるだろうから放っておきなさいと母上様は仰っている。
「ほら父上、突っ立っていないで入りましょう。突然押しかけて申し訳ございません兄様方。そしてリシェル兄様、このたびはおめでとうございます」
「ありがとう、ルーディ」
年々しっかりしてくるなぁルーディは。きちんとした弟の挨拶に、リシェルは面映ゆそうに返している。
面目潰れまくりの父ちゃんの後ろでは、バウアー男爵がやれやれといった感じで生ぬるく微笑んでいた。
館に招き入れると、義父上様を脇に置いて、バウアー男爵が贈り物のことを教えてくれた。
リシェルの食の好みが変わっていないことを聞き、お土産はほとんど食べ物関係にしてくれたらしい。
やっぱり義父上様もお子様用品を片っ端から買い漁ろうとしていて、我が家で準備している品と被ったらいけないからと、男爵がストップをかけてくれたそうだ。
はは、あっちもこっちも似たような親父がいるな。周りに頼もしい人間がいると助かるぜ。
……俺、ほんと気を付けよう。
ちょうどそのタイミングで、お姉様とエアハルトから連名でのお祝いの手紙が届いた。俺達のもとにお客さんが何人も押しかけたら、祝うどころか迷惑だからと自粛してくれたらしい。
気にしなくていいのになと思いつつ、実際にヴェルク家の親子が来ている以上、素直にありがたいとしか言えん。お姉様達にも会いたかったんだが、慌ただしくなってもいけないし、もう少しゆっくりできる時間ができたら会うとしよう。
ちなみにレーツェル夫妻からの贈り物は、お抱え調香師の派遣だった。
なぜ調香師。
首を傾げつつ手紙の続きを読むと、どうやらお姉様は気分が悪くなった時、お気に入りの香りを鼻の近くでかざして気を紛らわせることが多かったそうだ。
『その者はわたくし好みの香りを熟知しているから、リシェルにもどうかと思うの。ただ、好みから外れた香りだと、逆に悪化してしまうかもしれないと思って』
食の好みは変わらずとも、香りの好みは変化しているかもしれない。だから調香師本人を派遣し、基本はお姉様おすすめの香りでありつつ、リシェルのその時の状態に合わせた香りを作らせよう……ということだそうだ。
これは誰とも被っていない贈り物だし、リシェルは大喜びだった。
彼のつわりは空腹にさえならなければいいという単純な話のようでいて、実はそう楽なものでもないらしい。この先は運動を徐々に控えることになるので、常に食べ続けることが難しくなれば、途端に症状が悪くなるのがこれの特徴だと医師から説明を受けていた。
なので今後、間違いなくリシェルの助けになってくる。俺はリシェルと一緒に、お姉様達へお礼の返事をしたためた。
シュピラーレの一家からも連名でお祝いが届いた。
こちらもやはり、変に形に残る品を大量に贈るのは迷惑になると考え、メインは食べ物や酒以外の飲み物、それからシュピラーレ産の肌に優しい生地を何種類か贈ってくれた。
リシェル用の室内着を新たに仕立てるには、最も質のいいシュピラーレの生地を注文することになると読み、先にそれを提供してくれたのである。これも本当にありがたい。
カール個人からのお祝いの手紙も嬉しかったな。
そして、みんなからのお祝いにリシェルとほっこり微笑み合った一日が過ぎ。
あくる日の朝、俺の気分はどん底だった。
「王宮行きたくない……!」
なんで俺は三日に一度にしてしまったんだ。
週一を推すべきだった。
三日ごとにリシェルを家に置いて出勤しなければならないなんて……!
などと、休暇明けのサラリーマンのごとく嘆きながら奥さんにしがみつくアホが一匹。
俺がヘコんでいる時はリシェルが年上モードになり、よしよしと甘やかしてくれるものだから、余計に離れ難くなってしまう。
「さっさと参りますよ殿下」
そんな俺を遠慮なくグイグイ引っ張り、リシェルから引き剥がして馬車に押し込んだのは侍従となったカイだ。
もしやおまえに無断で勝手に話を進めた報復か?
おまえに侍従になってもらって正解だったよコンチクショウ。これからもよろしくな!
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読んでくださってありがとうございます!
気付けば222話になりました。
そして物語はラストが目と鼻の先……。
なのですが、エピローグへ進む前にsideルチナやその他キャラのエピソードを挟むか、完結後の後日談とするか考え中です。
少し進め方を考えたいので7/25は投稿お休みとし、7/26に再会いたしますm(__)m
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