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35.女はついに恋を知る
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その日の朝、訓練所に出勤したゼルは、厩の親方にルークが来ていないと連絡を受けた。
そんなことは一度もないことだったため、ゼルは急いでルークの住んでいる小屋に向かった。
午後からは結婚式で、ルークは当然参列する予定だったのだ。
ところがルークの家に到着すると、ドアは空いたままで、中に入ればテーブルに紙が一枚だけ残されていた。
それを手に取り、文面に目を走らせると、ゼルは飛び上がって走り出した。
訓練所の門をくぐるのと同時に、ゼルはロイダール隊長に用があると叫び、見張りが知らせに走ると、そのすぐ後ろをゼルも走った。
ロイダールはゼルから手紙を受け取り、ルークの筆跡を確認すると、その内容に喉を鳴らし、緊張と喜びに胸を熱くした。
ロイダールは即座に馬を出し、山際に建つ子供学習院を目指した。
朝の支度を終え、授業の準備をしていたルイゼは飛び込んできたロイダールと、その後ろを追いかけてきたゼルに目をみはった。
ロイダールは無言でその手紙をルイゼに突き付けた。
四つ折りの紙を開いて目を走らせた、ルイゼは手を震わせ大粒の涙を落とした。
涙でインクが染みて見えなくなってしまわないように、ロイダールが意外にも持っていたハンカチでルイゼの目元を素早く拭った。
紙には二行しか書いていなかった。
『俺が名付けたシフィルと共に町を出ます。
彼女と生涯を共にすると誓います。 ルーク』
シフィルというのが、誰のことをさしているのかわからない者はいなかった。
ロイダールも涙を滲ませていた。
たったこれだけであったが、それでも孤独なクリスの心を今度こそ救えるかもしれない、そんな希望が見えるような気がしたのだ。
その頃、ゴデ町から西へ向かう街道の上を馬が一頭のんびり歩いていた。
一文無しだと胸を張った男は馬を用意して、温かな外套や油を塗りつけた雨よけのフードまで買って来て、あっという間に旅を快適な物にしてしまった。
それは、シフィルがゼルに突き返したロイダールからのお金で、ゴデの町に戻った時にゼルがルークに託したものだった。
いつか、クリスがルークの前に現れることがあったら、使って欲しいと押し付けたのだ。
ルークはそのお金を大事にとっておいたのだ。そして、もしまた会うことが出来たらこうして使おうと決めていた。
馬の前に乗せ、腕に抱いたシフィルの柔らかな赤い髪が腕にこすれて時々ルークを妙な気分にさせていた。
シフィルの全身からは蕩けるような甘い香りが出ているようで、何度も吸い寄せられるように口づけをねだりたくなるし、服を全部脱がせたくなった。
なぜ彼女を男だと思っていたのだろうかと不思議に思うほどだった。
「ルーク、お前、良い匂いがするな」
シフィルが突然後ろを向いて、ルークの顔を見上げた。
それはお前の匂いではないのかとルークは思ったが、シフィルの視線はルークの胸ポケットに向いていた。
中に入っている物をシフィルはポケットに手を入れて取り出した。
その際、乳首をこすられ、ルークはやはり気持ちが抑えきれなくなった。
どこかで馬を止められないかと街道沿いに目を凝らす。
ルークの胸ポケットから出てきたのはクムのキノコから稀に咲くことがある白い花だった。
糞を運んだ者しか知らないような花だ。
萎れ、渇きかけていたが、シフィルはそれを懐かしそうに見て、鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
「糞の中にあったとは思えないな。あっそうだ」
何か思いついたようにシフィルが叫んだ。同時に、馬がスピードを上げて走り始めた。
萎れた花を落としそうになり、シフィルが短く悲鳴を上げたが、ルークは腕の中にシフィルを抱いたままさらに馬を速く走らせた。
誰かに追われているのかと思い、シフィルが後ろを覗いたが、誰がついてくる様子もない。
何をそんなに急いでいるのかとシフィルが腕の中から叫ぶと、ルークは堂々と声を張って答えた。
「俺も生まれ変わることにした。もっと悪い男になる。お前が嫌だと言っても何度も抱いてしまうぐらい悪い男になって、お前を泣かせるからな!」
自分限定で悪い人間になるのかと、シフィルはわけがわからないといった顔をしたが、激しく揺れる馬の上で、それ以上何も考えていられず、鞍につかまり背中をルークに預けたまま、これから向かう道の先へ視線を向けた。
ルークはシフィルを存分に抱くことの出来る場所を探し、道の先を見つめていた。
ちょうど日が昇り始め、よく踏み固められた街道は黄土色に輝き始めている。
晴れ渡る空の下、ルアン平原を横に貫くその道は、たった一本しかなく、やっと交わった二人の未来のようにどこまでも真っすぐに続いてみえた。
全身でシフィルのぬくもりを感じながら、ルークはもう二度とこの腕を離すまいと固く心に誓っていた。
それからひと月後、ルアン平原の遥か西にある、小さな町に二人の姿があった。
旅の間、ルークはシフィルから片時も目を離そうとしなかった。
路銀を稼ぐ時でさえ、二人は常に一緒に行動した。
ルークは街道沿いの町に立ち寄るたびにシフィルを仕事斡旋所に連れていった。
資材の採集や害獣の駆除、商隊の護衛、屋根の修理や裁縫仕事までいろいろな依頼が掲示板に貼られていた。
ルークは大抵討伐依頼の掲示板の前に並んだ。
シフィルはうまく字が読めないから嫌いだと寄り付かなかったが、ルークが一緒であればいやいやながらもそれにつきあった。
絵や文字が多い依頼を選び取り、ルークが声に出して読んでやると、興味惹かれたようにシフィルも覗き込んだ。
「灰色アイデンベアの討伐がいいな。美味しそうだ」
森で暮らしている時はよく狩ったと言うシフィルに驚き、ルークはその依頼を受けて、訓練所では見ることのできなかったシフィルの本来の強さを知ることになった。
シフィルの戦い方は確かに正規の軍隊の訓練で習うような堂々としたものではなかったが、生きのびることに特化した、確実なものだった。
罠や毒、あるいは急所を的確に狙ったのだ。
プロの暗殺者の仕事に違いないと噂された数々の事件を思いだし、やはりシフィルがやったのだろうとルークは考えた。
ある時、ルークは青い指輪を持っていた母親と子供の死の真相についてさりげなく問いかけた。
眠りかけていたシフィルはルークの腕の中でうつらうつらしながらも、嫌な依頼だったと静かに語った。
瀕死の子供と生きる気力を失った母親。命のあるうちに一瞬で殺してほしいとの願いの報酬があの指輪だったのだ。
それから、貧しい集落の人々の集団死。復讐を依頼してきたのに、自分たちのした残酷な行いを知るシフィルの口を封じようとして返り討ちにあった。
要塞を一つ落とした話にはルークは声もなく驚愕した。
それはシフィルが初めて酒を口にした夜に聞きだしたことだったが、要塞の兵士の一人に奪われた母親の形見を取り戻してほしいという依頼から始まり、それを取り返しに入り込んだら、芋づる式に依頼に繋がり、城内を自由に歩き回るために毒を焚いていたらたまたま死人が多くでたというのだ。
「ああいうところは報復されたら怖いから、一人残らず口を封じないといけなくて大変なんだ」
シフィルは面倒そうに言って、昔こき使われていた霊薬師の老婆の一味を根絶やしにした時にそうした悪事の指南書を手に入れ、言止め所で内容を教えてもらったのだと打ち明けた。
言止め書で扱う文書には守秘義務が伴うが、それにしても王国側にその内容は保存されるのだ。強盗の指南書が国の機関に保存されているというのも驚きだった。
ルークはそうした証言を時々手紙に書いて、ゴデの町のロイダールの元に送っていた。
シフィルが少年のクリスであった時に起こした事件だったが、そのすべての真相が明らかになればクリスが極悪人であったなどとは言えないはずだった。
金をもらって依頼を受けただけだと豪語していたが、全くその通りだった。
生きるためとはいえ、表と裏の世界を行き来して、誰にも理解されない孤独を深め、心をすり減らしたに違いなかった。
相変わらず冷淡なところはあるが、シフィルは少しだけまるくなったようだった。ルークは逆に用心深くなった。もうおめでたい光の中の男とは呼べないだろうとルークは思った。
ベッドの中でシフィルが時々ルークのことをそう呼んだのだ。
しかし二人で旅を続け、人を疑い、斬らなければならない時もあったし、困っている人を見捨てなければならないこともあった。
抱えきれないものに手を差し伸べてどうするのだとシフィルは言い放ち、ルークもその考えを受け入れた。
報酬で仕事を選ばず受けようとするシフィルをルークが止めることもあった。魂をすり減らすような仕事はもう受けさせたくなかったのだ。
ある時、灰色角狼の討伐を引き受けた二人はその巣穴の前に山盛りの糞を見つけた。
そこには大量のクムのキノコが生えていた。
「懐かしいな。しかもこれ、良い香りじゃないか?」
シフィルはふとルークの胸ポケットから出てきた白い花を見て思いついたことを口にした。
「これ、売れないかな?」
糞の花だと知っている市井の人々には無理だろうとルークは言ったが、シフィルは意地の悪い笑みを浮かべた。
「貴族連中は知らないだろう?これ、匂いだけ嗅げば最高に良いと思うんだ。お上品な貴族の姫君たちが自分の糞の匂いを消すために使いたがるかもしれないよ?」
灰色角狼の糞から取れるクムのキノコの花。
それは確かに普通ではお目にかかれない特別なものだった。
二人はさっそく、その案を実行に移した。
花を蒸留してみたのだ。抽出されたものはかなり強い香りを放つ液体で、香水として十分通用するものだった。
さらに驚きの発見があった。
その香りを吹きかけると糞尿の匂いがたちどころに消えたのだ。
意地の悪い笑みを交わし合い、二人はそこに大きな工場を建てた。
シフィルは女の子が喜びそうな瓶や飾りを考えた。
糞にまみれ、風呂も忘れ、日夜必死に働いた二人が作成した香水は最初、小さな宿場町の一角で手売りされた。
糞の匂いをさせて現れたルークに、シフィルが香りを吹きかけると、鼻をつまんでいた連中はおそるおそる鼻から指を離し、香りを嗅いだ。
何度か小さく鼻を動かし、ついには深呼吸まで始めると、驚くほど良い香りが肺を満たしたのだ。
実演販売をした日は、あっという間に完売だった。
なにせそこでしか売っていないのだ。お土産に買っていく者も多かった。
そんなことをしていると、大きな町で店を出しているという商人がその香水を店で売らせてほしいとやってきた。
その交渉に来たのは女性の商売人で、洗練されたドレスに身を包み、長い髪を後ろに編んで、おしろいの香りがした。
食堂のテーブルを挟んでその女性の真向かいに座ったルークは顔を赤くして、おどおどと目を揺らした。ルークが知っている女性は母親とシフィルぐらいで、他の女性と間近で顔を合わせ、話をしたことなどなかったのだ。
もう少し夜会に真面目に通い、貴族令嬢達との交流を楽しんでおけば耐性もついていたのだろうが、その当時、ルークは少年クリスと交わることしか頭になかった。
商売人の女性に艶やかな作り笑顔を向けられ、この金額で考えて頂けないでしょうかと書類を差し出されると、ルークはとても今すぐ答えは出せないと音を上げた。
名前を女名に変えても、男のように振舞ってきたシフィルは、そのルークの態度に衝撃を受けた。
気づいた時にはルークはクリスに夢中で、自分以外の女に心移りするなど思いもしなかったのだ。しかしその可能性があることにシフィルは気がついた。
その夜、商会の女性が置いていった書類を読んでいたルークは、突如股間をまさぐられ、驚いて椅子を引いた。
いつの間にかルークの股の間に入り込んでいたシフィルが、ルークのズボン紐を解いて中のものを口で咥えこもうとしていたのだ。
慌てるルークをシフィルは無理やりベッドに誘い込んだ。
ルークに存分に愛されたが、シフィルはやはりこんなことでは安心できないと考えた。
仰向けに寝そべったルークの胸に這い上がり、疲れたように目を閉ざすその顔を見おろすと、シフィルの胸に溢れるような愛おしさが込み上げた。
風になびく草の中、自分の正面に座り、顔を赤くしながらキスがしたいと告白したまだ少年だったルークの姿を不意に思いだした。
疲れて眠りに落ちかけていたルークは甘い唇の感触に、うっすらと目を開けた。
シフィルがまるでおもちゃで遊ぶようにルークの顔中に口づけをしていたのだ。
唇を舐め、深く重ねたかと思えば、今度は髭の生えた顎や頬まで口づけを繰り返し、さらに首を舐めて耳まで咥えこんだ。
ルークは幸福な感触に、微笑みながらシフィルの好きなようにさせていたが、そのまま胸や腹、わき腹や腕まで口づけをされ始めるとくすぐったさに体をよじり、そろそろシフィルを止めようかと上半身を起こした。
その時、ついにシフィルは先ほど撃ち尽くしたと思われる伸びた逸物に到達した。
シフィルがそれを正面に見て、口を開けると、ルークはまさかと、シフィルの体を引っ張り上げようとした。
「シフィル、だめだ!今日はもう……」
ルークの制止を振り切りシフィルはそれを咥えこみ、溢れる愛おしさのまま口の中で舐めて転がした。すぐに元気を取り戻した逸物はシフィルの口からはみ出した。
シフィルは自分を抱き上げようとするルークを制止し、今度はその周りもきれいに舐め始めた。
今度こそ耐えきれず、ルークはシフィルを捕まえて引き揚げると体勢を変えて自分が上になった。
シフィルは手を前に伸ばし、ルークの両頬に触れた。
ルークの目にはシフィルの顔が映り込んでいる。
指でルークの鼻や目元をなぞり、唇をなぞると、シフィルはまるで初めてルークの顔を見たかのような気持ちになった。
見慣れているはずなのに、ルークの顔は本当に素敵で、輝いて見えたのだ。
「もう一度やりたいのか?」
優しいルークの声が耳に落ち、シフィルはうっとりと微笑んだ。
その瞬間、シフィルはやっと恋を知り、この人にずっと愛されたいと初めて願った。
その日をきっかけにシフィルは変わった。
髪をさらに伸ばし始め、スカートを購入した。ルークは喜んだが、少し心配した。
「伸ばすのは嫌いじゃなかったのか?」
髪を切り男として生きろといいながら、女の名で呼んで娘として父親に引き合わせようとした母親をまだ恨んでいるシフィルは、やはり女らしい恰好を避けたのだ。
男でいるのも嫌だが、女に戻るのも癪だった。
しかし、シフィルはその日、突然母親のことなどどうでもよくなった。
ただ、ルークを他の女に奪われないために変わろうと決めたのだ。
都会からやってきたきれいな女性の前で、顔を赤くし、もじもじしていたルークを思いだすたびに、シフィルの心は燃え上がった。
髪が編めるようになると、ルークはシフィルに白いリボンを買ってきた。
恥ずかしそうにそれを差し出したルークに、シフィルは少し不機嫌な顔になった。
「これ買ったお店の店員さんって若い女だった?」
ルークは驚き、考えもせず口に出していたシフィルは真っ赤になった。
遅い恋に付随してやってきたのは、やきもちだったのだ。
そんなことは一度もないことだったため、ゼルは急いでルークの住んでいる小屋に向かった。
午後からは結婚式で、ルークは当然参列する予定だったのだ。
ところがルークの家に到着すると、ドアは空いたままで、中に入ればテーブルに紙が一枚だけ残されていた。
それを手に取り、文面に目を走らせると、ゼルは飛び上がって走り出した。
訓練所の門をくぐるのと同時に、ゼルはロイダール隊長に用があると叫び、見張りが知らせに走ると、そのすぐ後ろをゼルも走った。
ロイダールはゼルから手紙を受け取り、ルークの筆跡を確認すると、その内容に喉を鳴らし、緊張と喜びに胸を熱くした。
ロイダールは即座に馬を出し、山際に建つ子供学習院を目指した。
朝の支度を終え、授業の準備をしていたルイゼは飛び込んできたロイダールと、その後ろを追いかけてきたゼルに目をみはった。
ロイダールは無言でその手紙をルイゼに突き付けた。
四つ折りの紙を開いて目を走らせた、ルイゼは手を震わせ大粒の涙を落とした。
涙でインクが染みて見えなくなってしまわないように、ロイダールが意外にも持っていたハンカチでルイゼの目元を素早く拭った。
紙には二行しか書いていなかった。
『俺が名付けたシフィルと共に町を出ます。
彼女と生涯を共にすると誓います。 ルーク』
シフィルというのが、誰のことをさしているのかわからない者はいなかった。
ロイダールも涙を滲ませていた。
たったこれだけであったが、それでも孤独なクリスの心を今度こそ救えるかもしれない、そんな希望が見えるような気がしたのだ。
その頃、ゴデ町から西へ向かう街道の上を馬が一頭のんびり歩いていた。
一文無しだと胸を張った男は馬を用意して、温かな外套や油を塗りつけた雨よけのフードまで買って来て、あっという間に旅を快適な物にしてしまった。
それは、シフィルがゼルに突き返したロイダールからのお金で、ゴデの町に戻った時にゼルがルークに託したものだった。
いつか、クリスがルークの前に現れることがあったら、使って欲しいと押し付けたのだ。
ルークはそのお金を大事にとっておいたのだ。そして、もしまた会うことが出来たらこうして使おうと決めていた。
馬の前に乗せ、腕に抱いたシフィルの柔らかな赤い髪が腕にこすれて時々ルークを妙な気分にさせていた。
シフィルの全身からは蕩けるような甘い香りが出ているようで、何度も吸い寄せられるように口づけをねだりたくなるし、服を全部脱がせたくなった。
なぜ彼女を男だと思っていたのだろうかと不思議に思うほどだった。
「ルーク、お前、良い匂いがするな」
シフィルが突然後ろを向いて、ルークの顔を見上げた。
それはお前の匂いではないのかとルークは思ったが、シフィルの視線はルークの胸ポケットに向いていた。
中に入っている物をシフィルはポケットに手を入れて取り出した。
その際、乳首をこすられ、ルークはやはり気持ちが抑えきれなくなった。
どこかで馬を止められないかと街道沿いに目を凝らす。
ルークの胸ポケットから出てきたのはクムのキノコから稀に咲くことがある白い花だった。
糞を運んだ者しか知らないような花だ。
萎れ、渇きかけていたが、シフィルはそれを懐かしそうに見て、鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
「糞の中にあったとは思えないな。あっそうだ」
何か思いついたようにシフィルが叫んだ。同時に、馬がスピードを上げて走り始めた。
萎れた花を落としそうになり、シフィルが短く悲鳴を上げたが、ルークは腕の中にシフィルを抱いたままさらに馬を速く走らせた。
誰かに追われているのかと思い、シフィルが後ろを覗いたが、誰がついてくる様子もない。
何をそんなに急いでいるのかとシフィルが腕の中から叫ぶと、ルークは堂々と声を張って答えた。
「俺も生まれ変わることにした。もっと悪い男になる。お前が嫌だと言っても何度も抱いてしまうぐらい悪い男になって、お前を泣かせるからな!」
自分限定で悪い人間になるのかと、シフィルはわけがわからないといった顔をしたが、激しく揺れる馬の上で、それ以上何も考えていられず、鞍につかまり背中をルークに預けたまま、これから向かう道の先へ視線を向けた。
ルークはシフィルを存分に抱くことの出来る場所を探し、道の先を見つめていた。
ちょうど日が昇り始め、よく踏み固められた街道は黄土色に輝き始めている。
晴れ渡る空の下、ルアン平原を横に貫くその道は、たった一本しかなく、やっと交わった二人の未来のようにどこまでも真っすぐに続いてみえた。
全身でシフィルのぬくもりを感じながら、ルークはもう二度とこの腕を離すまいと固く心に誓っていた。
それからひと月後、ルアン平原の遥か西にある、小さな町に二人の姿があった。
旅の間、ルークはシフィルから片時も目を離そうとしなかった。
路銀を稼ぐ時でさえ、二人は常に一緒に行動した。
ルークは街道沿いの町に立ち寄るたびにシフィルを仕事斡旋所に連れていった。
資材の採集や害獣の駆除、商隊の護衛、屋根の修理や裁縫仕事までいろいろな依頼が掲示板に貼られていた。
ルークは大抵討伐依頼の掲示板の前に並んだ。
シフィルはうまく字が読めないから嫌いだと寄り付かなかったが、ルークが一緒であればいやいやながらもそれにつきあった。
絵や文字が多い依頼を選び取り、ルークが声に出して読んでやると、興味惹かれたようにシフィルも覗き込んだ。
「灰色アイデンベアの討伐がいいな。美味しそうだ」
森で暮らしている時はよく狩ったと言うシフィルに驚き、ルークはその依頼を受けて、訓練所では見ることのできなかったシフィルの本来の強さを知ることになった。
シフィルの戦い方は確かに正規の軍隊の訓練で習うような堂々としたものではなかったが、生きのびることに特化した、確実なものだった。
罠や毒、あるいは急所を的確に狙ったのだ。
プロの暗殺者の仕事に違いないと噂された数々の事件を思いだし、やはりシフィルがやったのだろうとルークは考えた。
ある時、ルークは青い指輪を持っていた母親と子供の死の真相についてさりげなく問いかけた。
眠りかけていたシフィルはルークの腕の中でうつらうつらしながらも、嫌な依頼だったと静かに語った。
瀕死の子供と生きる気力を失った母親。命のあるうちに一瞬で殺してほしいとの願いの報酬があの指輪だったのだ。
それから、貧しい集落の人々の集団死。復讐を依頼してきたのに、自分たちのした残酷な行いを知るシフィルの口を封じようとして返り討ちにあった。
要塞を一つ落とした話にはルークは声もなく驚愕した。
それはシフィルが初めて酒を口にした夜に聞きだしたことだったが、要塞の兵士の一人に奪われた母親の形見を取り戻してほしいという依頼から始まり、それを取り返しに入り込んだら、芋づる式に依頼に繋がり、城内を自由に歩き回るために毒を焚いていたらたまたま死人が多くでたというのだ。
「ああいうところは報復されたら怖いから、一人残らず口を封じないといけなくて大変なんだ」
シフィルは面倒そうに言って、昔こき使われていた霊薬師の老婆の一味を根絶やしにした時にそうした悪事の指南書を手に入れ、言止め所で内容を教えてもらったのだと打ち明けた。
言止め書で扱う文書には守秘義務が伴うが、それにしても王国側にその内容は保存されるのだ。強盗の指南書が国の機関に保存されているというのも驚きだった。
ルークはそうした証言を時々手紙に書いて、ゴデの町のロイダールの元に送っていた。
シフィルが少年のクリスであった時に起こした事件だったが、そのすべての真相が明らかになればクリスが極悪人であったなどとは言えないはずだった。
金をもらって依頼を受けただけだと豪語していたが、全くその通りだった。
生きるためとはいえ、表と裏の世界を行き来して、誰にも理解されない孤独を深め、心をすり減らしたに違いなかった。
相変わらず冷淡なところはあるが、シフィルは少しだけまるくなったようだった。ルークは逆に用心深くなった。もうおめでたい光の中の男とは呼べないだろうとルークは思った。
ベッドの中でシフィルが時々ルークのことをそう呼んだのだ。
しかし二人で旅を続け、人を疑い、斬らなければならない時もあったし、困っている人を見捨てなければならないこともあった。
抱えきれないものに手を差し伸べてどうするのだとシフィルは言い放ち、ルークもその考えを受け入れた。
報酬で仕事を選ばず受けようとするシフィルをルークが止めることもあった。魂をすり減らすような仕事はもう受けさせたくなかったのだ。
ある時、灰色角狼の討伐を引き受けた二人はその巣穴の前に山盛りの糞を見つけた。
そこには大量のクムのキノコが生えていた。
「懐かしいな。しかもこれ、良い香りじゃないか?」
シフィルはふとルークの胸ポケットから出てきた白い花を見て思いついたことを口にした。
「これ、売れないかな?」
糞の花だと知っている市井の人々には無理だろうとルークは言ったが、シフィルは意地の悪い笑みを浮かべた。
「貴族連中は知らないだろう?これ、匂いだけ嗅げば最高に良いと思うんだ。お上品な貴族の姫君たちが自分の糞の匂いを消すために使いたがるかもしれないよ?」
灰色角狼の糞から取れるクムのキノコの花。
それは確かに普通ではお目にかかれない特別なものだった。
二人はさっそく、その案を実行に移した。
花を蒸留してみたのだ。抽出されたものはかなり強い香りを放つ液体で、香水として十分通用するものだった。
さらに驚きの発見があった。
その香りを吹きかけると糞尿の匂いがたちどころに消えたのだ。
意地の悪い笑みを交わし合い、二人はそこに大きな工場を建てた。
シフィルは女の子が喜びそうな瓶や飾りを考えた。
糞にまみれ、風呂も忘れ、日夜必死に働いた二人が作成した香水は最初、小さな宿場町の一角で手売りされた。
糞の匂いをさせて現れたルークに、シフィルが香りを吹きかけると、鼻をつまんでいた連中はおそるおそる鼻から指を離し、香りを嗅いだ。
何度か小さく鼻を動かし、ついには深呼吸まで始めると、驚くほど良い香りが肺を満たしたのだ。
実演販売をした日は、あっという間に完売だった。
なにせそこでしか売っていないのだ。お土産に買っていく者も多かった。
そんなことをしていると、大きな町で店を出しているという商人がその香水を店で売らせてほしいとやってきた。
その交渉に来たのは女性の商売人で、洗練されたドレスに身を包み、長い髪を後ろに編んで、おしろいの香りがした。
食堂のテーブルを挟んでその女性の真向かいに座ったルークは顔を赤くして、おどおどと目を揺らした。ルークが知っている女性は母親とシフィルぐらいで、他の女性と間近で顔を合わせ、話をしたことなどなかったのだ。
もう少し夜会に真面目に通い、貴族令嬢達との交流を楽しんでおけば耐性もついていたのだろうが、その当時、ルークは少年クリスと交わることしか頭になかった。
商売人の女性に艶やかな作り笑顔を向けられ、この金額で考えて頂けないでしょうかと書類を差し出されると、ルークはとても今すぐ答えは出せないと音を上げた。
名前を女名に変えても、男のように振舞ってきたシフィルは、そのルークの態度に衝撃を受けた。
気づいた時にはルークはクリスに夢中で、自分以外の女に心移りするなど思いもしなかったのだ。しかしその可能性があることにシフィルは気がついた。
その夜、商会の女性が置いていった書類を読んでいたルークは、突如股間をまさぐられ、驚いて椅子を引いた。
いつの間にかルークの股の間に入り込んでいたシフィルが、ルークのズボン紐を解いて中のものを口で咥えこもうとしていたのだ。
慌てるルークをシフィルは無理やりベッドに誘い込んだ。
ルークに存分に愛されたが、シフィルはやはりこんなことでは安心できないと考えた。
仰向けに寝そべったルークの胸に這い上がり、疲れたように目を閉ざすその顔を見おろすと、シフィルの胸に溢れるような愛おしさが込み上げた。
風になびく草の中、自分の正面に座り、顔を赤くしながらキスがしたいと告白したまだ少年だったルークの姿を不意に思いだした。
疲れて眠りに落ちかけていたルークは甘い唇の感触に、うっすらと目を開けた。
シフィルがまるでおもちゃで遊ぶようにルークの顔中に口づけをしていたのだ。
唇を舐め、深く重ねたかと思えば、今度は髭の生えた顎や頬まで口づけを繰り返し、さらに首を舐めて耳まで咥えこんだ。
ルークは幸福な感触に、微笑みながらシフィルの好きなようにさせていたが、そのまま胸や腹、わき腹や腕まで口づけをされ始めるとくすぐったさに体をよじり、そろそろシフィルを止めようかと上半身を起こした。
その時、ついにシフィルは先ほど撃ち尽くしたと思われる伸びた逸物に到達した。
シフィルがそれを正面に見て、口を開けると、ルークはまさかと、シフィルの体を引っ張り上げようとした。
「シフィル、だめだ!今日はもう……」
ルークの制止を振り切りシフィルはそれを咥えこみ、溢れる愛おしさのまま口の中で舐めて転がした。すぐに元気を取り戻した逸物はシフィルの口からはみ出した。
シフィルは自分を抱き上げようとするルークを制止し、今度はその周りもきれいに舐め始めた。
今度こそ耐えきれず、ルークはシフィルを捕まえて引き揚げると体勢を変えて自分が上になった。
シフィルは手を前に伸ばし、ルークの両頬に触れた。
ルークの目にはシフィルの顔が映り込んでいる。
指でルークの鼻や目元をなぞり、唇をなぞると、シフィルはまるで初めてルークの顔を見たかのような気持ちになった。
見慣れているはずなのに、ルークの顔は本当に素敵で、輝いて見えたのだ。
「もう一度やりたいのか?」
優しいルークの声が耳に落ち、シフィルはうっとりと微笑んだ。
その瞬間、シフィルはやっと恋を知り、この人にずっと愛されたいと初めて願った。
その日をきっかけにシフィルは変わった。
髪をさらに伸ばし始め、スカートを購入した。ルークは喜んだが、少し心配した。
「伸ばすのは嫌いじゃなかったのか?」
髪を切り男として生きろといいながら、女の名で呼んで娘として父親に引き合わせようとした母親をまだ恨んでいるシフィルは、やはり女らしい恰好を避けたのだ。
男でいるのも嫌だが、女に戻るのも癪だった。
しかし、シフィルはその日、突然母親のことなどどうでもよくなった。
ただ、ルークを他の女に奪われないために変わろうと決めたのだ。
都会からやってきたきれいな女性の前で、顔を赤くし、もじもじしていたルークを思いだすたびに、シフィルの心は燃え上がった。
髪が編めるようになると、ルークはシフィルに白いリボンを買ってきた。
恥ずかしそうにそれを差し出したルークに、シフィルは少し不機嫌な顔になった。
「これ買ったお店の店員さんって若い女だった?」
ルークは驚き、考えもせず口に出していたシフィルは真っ赤になった。
遅い恋に付随してやってきたのは、やきもちだったのだ。
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