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20.地獄の交わり
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王都のマグリット家にはナリアが軟禁されていた。
軟禁されていなかったとしても、ナリアには外に出ることは出来なかった。
夫のフェイデンに内緒でドルバインに会いにいったわけではなかった。
家令には伝えたし、監視役にもなるようにフェイデンの忠実な騎士達を二人連れていった。
侍女たちもフェイデンが良く知っている古くから働いてくれている娘たちだ。
日程についてだけ話さなかった。
多少の気まずさから、フェイデンが仕事で家を空ける時期に、北に向けて出発した。
夫の目を盗んで会いに行ったと言われたら、確かにその通りだった。
しかも護衛と侍女を外に出し、ドルバインと話をしたことも事実だ。
アロナとカインも一緒にいたが、彼らの身分は低く、主であるドルバインに一緒にいたことにしろと命じられたら、従うしかないような存在だ。
一緒にいたという証言がえられても、信じてもらえない。
温厚で優しい夫が、まさかこんなことを始めるとは思わず、ナリアは怯えていた。
自分の軽率な行動で、ドルバインは国に拘束されてしまったのだ。
無実の罪で殺されるかもしれない。
椅子に深く体を沈め、じっとその恐怖に耐えていたナリアは、扉の鳴る音に心臓が飛び上がるほど驚いた。
両足を持ち上げ、椅子の上で膝を抱える。
ドアノブが回り、扉が開いた。
入ってきたのは夫のフェイデンだった。
険しい表情で扉を閉め、暖炉傍のソファに座るナリアの前まで来た。
「ドルバインがついに証言をしたぞ」
「な、何を……」
ナリアはおどおどと顔を上げた。
「お前を襲ったことを認めた」
青ざめたナリアは、握りしめた両手で口元を隠した。
「まさか……なぜそんな嘘の証言を……」
「取引をした」
フェイデンは向かいの椅子を引き寄せて座ると、足を組んだ。
その目は物騒な光を帯び、じっとナリアの様子を見つめている。
「あいつの領地からカインとかいう名前の農民を連れてきた。
その男を拷問すると言ったら、取引を持ち掛けられた。お前を襲ったことにしてもいいと言った。さらに冬の期間に行われるサロンについても、自分の変態的な趣味のために、嘘で騙して人を集めたと証言するそうだ。自分一人の処刑でこの問題を終わらせて欲しいと頭を下げた」
「な、なぜそんなことを。カインは誠実な召使だったし、ドルバインは私を襲ってなんていない」
「ならば、なぜ俺の不在の間に会いに行った。何を話した?目的は?あいつが他人の妻を寝取るのが好きな変態だと知っていながら、なぜ今になって会いにいく必要がある」
「誤解があって……申し訳ないことをしたと思ったから……。結婚時代のことでも、解決しておいた方がいいと思って……」
最初のドルバインの証言と似たような話だったが、フェイデンは信じなかった。
口裏を合わせているのだとさらなる怒りが湧いてきた。
立ち上がり、ナリアの座るソファの背もたれに両手を置き、顔を近づける。
「ならば、なぜ人払いが必要だった?話し合いの時に、お前が護衛と侍女を外に出したと聞いている」
「結婚前のことだから……あなたに知られたくなかった。私は……あなたを愛しています。ドルバインとの結婚は間違いだった。それがはっきりわかったの。
それを確かめたのよ。フェイデン、どうか許して、罪のない人を処刑するなんて」
「処刑になるとは限らない。ただ、ドルバインの名前は地に落ちるだろうな。変態であることを貴族社会に知られ、恥ずべき存在として名前を残す。さらに、人妻になった元妻を呼び寄せ、襲おうとしたのだから男として最も軽蔑される存在になり下がるわけだ」
「無理矢理そんなことをする人では……」
ドルバインを庇おうとしたナリアは、さらに恐ろしい形相になった夫を見て、口を閉ざした。
憎悪を滲ませ、フェイデンは首を傾けた。
「ナリア、彼を庇うつもりなのか?」
もしそうだと言えば、もっと酷い状況に陥るかもしれない。
そんな恐怖に駆られ、ナリアは首を横に振った。
「間違いだったら、あなたの名誉はどうなりますか?もし……罪のない人を投獄したことが発覚したら……少なくともカインは助けるべきでは?彼の身分を考えたら証人にするのも難しいはず」
「そんなことはない。あれは保険だ。ドルバインが証言を変えるようなことがあれば、彼を殺すと脅している。多少痛めつけて裁判に連れていくつもりだ」
ナリアはフェイデンにすがりついた。
「どうして、私の言葉を信じてくれないの!お願いよ、フェイデン!」
「お前が……俺に満足出来ていないことは知っていた。どんなに優しく、紳士的に接しても、お前はいつもどこか遠くを見ている。浮気をしているのかと調査をしたこともあったが、男の影はなかった。
信じられなかった。お前はドルバインと婚姻中に、他の男と浮気をしていただろう?
となれば、元夫の体が忘れられなかった。そういうことだ」
かっとしてナリアは手を振り上げた。その手首をフェイデンはあっさり掴み、ソファに押しつけた。
「俺に何かを隠している。ドルバインには言えるのに、俺には言えないことがある。そうだろう?」
ドルバインの何倍も見た目の良いフェイデンを見上げ、ナリアは自分の性癖を告白するべきだろうかと迷った。
容姿も完璧だし、性格も素敵だった。完璧な夫だったのだ。
物足りなく感じていたのは自分の特殊な性癖のせいだ。ドルバインに抱いてもらえず浮気はしたが、ドルバインとの夜の営みにも疑問を感じていた。
浮気中も、満たされていたわけではない。
今回ドルバインを訪ねたことで、自分が何を欲していたのか理解したが、それを夫に告白するのは難しい。変態だと言われ、軽蔑されてしまえば、社交界で居場所を失うだけでなく、夫まで失うことになる。
ナリアは自分の無力さを呪い、黙って涙をこぼした。
「あなたを愛しているの。何も隠していない。ただ話を……」
「もういい!」
割れるような声でフェイデンが遮った。
「裁判の日はお前も連れて行く。そんなに遠い日ではないぞ。三日後だ」
「そ、そんな!」
ナリアは叫んだが、フェイデンはもう扉に向かっていた。
後ろを振り返り、フェイデンはナリアをじっと見据えた。
「ナリア、ドルバインが消えたら、お前は俺に愛を証明する必要がある」
それはフェイデンの隠された本心を、わずかに明かす言葉だった。
扉を開け、部屋を出ていく夫の姿を見送り、ナリアは初めて夫の気持ちを考えた。
自分が満たされることばかり考えてきたが、夫の気持ちを満たそうと考えたことはあるだろうか。
カインと一緒にアロナとドルバインの交わりを見た時の高揚感は例えようもなかった。
カラカラの鉢植えに水を注いだかのように、飢えていた心は満たされ、これ以上ないほどの多幸感に包まれた。
これまで生きてきて、一度も感じたことのない幸福な気持ちに、今なら悔いなく死ねるとさえ思ったほどだった。
そんな幸福を夫に与えたことがあっただろうか。
自分ばかりが幸せになる形は、あの三人の中にはなかった。
アロナとカイン、それからドルバインの関係を思い出し、ナリアは夫婦の在り方を考えた。
どちらかが満たされるために、どちらかが犠牲になるような関係は幸福な夫婦とはいえない。
夫婦としてやり直す必要があると思いながらも、ナリアには何も思いつくことが出来なかった。
自分の性癖を夫に知られ、軽蔑されるのも、周りから白い目で見られるようなことになるのも恐ろしい。
ドルバインが人妻好きだとその性癖を明かし、ナリアに結婚時代は寂しい思いをさせてすまなかったと謝罪しにきた時、ナリアは容赦なくドルバインが変態だと言いふらした。
なぜ、そんな残酷なことが出来たのだろう。そして、なぜドルバインは一言もナリアを責めたりしなかったのか。
酷いことをしたのはナリアの方だ。それなのに、ドルバインは全ての秘密を一人で抱え、死んでいく覚悟をした。
容姿は好みではなかったが、やはり元夫は素晴らしい男性だったのだ。
ナリアは膝を抱え、一人静かに泣き続けた。
――
牢に入れられたカインは、新たな拷問を受けていた。
大男に体を嬲られ、口での奉仕を強要されたカインは、大男をいかせようと顎が痛くなるまで頑張ったが、大男を満足させることは出来なかった。
逃げようとするカインを軽々と捕まえた大男は、カインを天井から吊るし、体を直角に曲げさせると、突き出されたお尻を後ろから抱え込んだ。
「や、やめてください……」
カインはもうぼろぼろで、逃げる気力もなかったが、弱々しく大男に哀願した。
体中を男の手で嬲られ、女のように口づけを受け、乳首まで舐められた。
カインは魂も体も汚れてしまったような気がしていた。
そんなカインの体を背後から抱きしめ、大男が熱を持った肉棒をカインの尻に押し付けた。
男の巨体にカインの体はすっぽりと覆われ、カインはその重さにも悲鳴をあげた。
天井から伸びた鎖は、前で縛られた手首に繋がっていたが、その長さは体を強制的に引っ張りあげてくれるほどではなく、自分の体は自分の足で支えるしかない。
カインは視線の先にぶらさがる鎖に両手で掴まり、体を直角に曲げ、お尻を突き出した状態で立っていた。
後ろから覆いかぶさっている大男は、カインの尻に肉棒をこすりつけながら、手を前に回し、カインの乳首を嬲り出した。
太い指がカインの胸を探り、乳首をつまみだすと、その周りや先っぽをこね始める。
感触を楽しむように、時折引っ張り、指先で擦り上げる。
「や、やめっ……」
涙も枯れ果てたカインの声はかすれ、悲鳴さえまともに出せない。
カインはついに膝を床に落とした。
天井から垂れ下がる鎖は、ようやくカインの両手を強制的に上にあげさせ、カインは自分で姿勢を保たなくてもよくなった。
しかしそれは体がそれ以上動かないことを意味していた。
膝立ちで、両手を頭上につられたカインの背後から、大男が抱き着いた。
乳首を嬲り、股間の物を片手で包み込む。
同時に二か所の性感帯を嬲られることになり、カインはがっくりと首を落としながら静かに泣いていた。
その顎を強引に上に向けさせられる。
喜びに満ちた醜悪な大男の顔が迫り、また唇を奪われる。
「うっ……うう……」
カインは微かな喘ぎ声をあげた。
長時間体を嬲られ続け、体はわずかな刺激にも敏感になり、乳首は固くなっている。
大男の分厚く固い体も、毛深い手も最悪の感触なのに、思考が追い付かなくなると体はただ物理的な刺激に反応し始める。
それは耐え難い恥辱であり、男として生まれた魂は、ばらばらに砕かれ、この大男の女に作り変えられてしまったような気さえしてくる。
このままでは、相手が犬や豚でも刺激さえあれば感じてしまう、下品で淫らな体に作り変えられてしまいそうだった。もうそれはカインの考える男ではなかった。女でもない。カインという人格も存在も全てが消えてしまうことを意味している。
そんな押し寄せる絶望の中、カインはアロナを抱いた感触を思い出そうとした。
女の体に喜ぶ自分を取り戻したいと願った。
それに、女性の体やその魅力を思い出せば、背後から抱き着いている大男がどれほど嫌悪すべき存在か体が思い出し、疼き始めた淫らな欲求が静まってくれるのではないかと考えた。
ところが、体はカインの思惑とは正反対の反応を示した。
大男の手でしごかれながらアロナを思い出せば、その刺激は強い快感にかわってしまったのだ。
「嫌だ……男は嫌だ。妻がいる。俺には妻が……」
自分に言い聞かせるように、カインは淫らに喘ぎながら声に出した。
そんなカインと肌を密着させ、大男が耳元で囁いた。
「馬鹿を言うな。お前は雌だろう?」
ざらついた大男の胸毛がカインの背中をぞわりと撫でた。
最悪な感触に、カインは発狂したように悲鳴をあげた。
「あああっ」
余計な想像は不要だった。唐突にその嫌悪感を思い出し、体をよじり、最後の力を振り絞り大男の体から離れようと鎖を掴んで立ち上がろうとした。
その瞬間、カインの股間のものを大男がくわえこみ、じゅるじゅると音をたててしゃぶりはじめた。
「ううっ……うわっ……」
腰を揺らし、逃げようとしたが、太い腕に腰を抱かれ、カインは身動きできないまま、その乱暴な愛撫を受け入れた。
長時間嬲られた体は、その刺激を容易に受け入れ、心に反して生理的な欲求に従いその快感のままに機能した。
頭が真っ白にはじけ、体を小刻みに震わせた時には白濁した液体を吐き出していたのだ。
これ以上の恥辱はないと思い続けていたのに、それはさらなる絶望の始まりだった。
すすり泣きながら、カインは男の口によって出されてしまった自分の滴りを床に見ていた。
大男はすぐに口を離し、カインの垂れ下がった物を指でつまみ、うなだれたカインの視線の先で振ってみせた。
ぼとぼと垂れるその子種は、カインのずたずたになった心のように、無残にかび臭い床に捨てられていく。
愛する女性のためでもなく、自分の心を満たすためでもない。
カインとアロナ、ドルバインで楽しむとき、カインは床に吐き出す時があるが、こんなに辛く悲しい行為ではなかった。
惨めでもそれを楽しめていたし、アロナの中に出せない辛さが気持ち良かった。
望まない快感を押し付けられることが、これほど魂を殺される行為になるとは、カインは思いもしなかった。
こんな残酷な行為が、アロナに行われなかったことにカインは、ただ感謝した。
力を失い、膝立ちで鎖に吊り下げられているカインの腰を大男が後ろから引っ張り上げた。
無理やり立たされ、また体を直角に曲げ、お尻を突き出した姿勢にさせられる。
「男の手で感じたお前は、立派な雌だが、これからさらに思い知らせてやる。お前はやられるだけの俺の雌だと」
カインに覆いかぶさった大男はその耳にしゃぶりつきながら、囁いた。
お尻に生暖かい感触がぴたりと張り付き、ごつごつした手がカインのお尻を左右に割り裂いた。
残酷な瞬間に備え、カインは固く目を閉じた。
軟禁されていなかったとしても、ナリアには外に出ることは出来なかった。
夫のフェイデンに内緒でドルバインに会いにいったわけではなかった。
家令には伝えたし、監視役にもなるようにフェイデンの忠実な騎士達を二人連れていった。
侍女たちもフェイデンが良く知っている古くから働いてくれている娘たちだ。
日程についてだけ話さなかった。
多少の気まずさから、フェイデンが仕事で家を空ける時期に、北に向けて出発した。
夫の目を盗んで会いに行ったと言われたら、確かにその通りだった。
しかも護衛と侍女を外に出し、ドルバインと話をしたことも事実だ。
アロナとカインも一緒にいたが、彼らの身分は低く、主であるドルバインに一緒にいたことにしろと命じられたら、従うしかないような存在だ。
一緒にいたという証言がえられても、信じてもらえない。
温厚で優しい夫が、まさかこんなことを始めるとは思わず、ナリアは怯えていた。
自分の軽率な行動で、ドルバインは国に拘束されてしまったのだ。
無実の罪で殺されるかもしれない。
椅子に深く体を沈め、じっとその恐怖に耐えていたナリアは、扉の鳴る音に心臓が飛び上がるほど驚いた。
両足を持ち上げ、椅子の上で膝を抱える。
ドアノブが回り、扉が開いた。
入ってきたのは夫のフェイデンだった。
険しい表情で扉を閉め、暖炉傍のソファに座るナリアの前まで来た。
「ドルバインがついに証言をしたぞ」
「な、何を……」
ナリアはおどおどと顔を上げた。
「お前を襲ったことを認めた」
青ざめたナリアは、握りしめた両手で口元を隠した。
「まさか……なぜそんな嘘の証言を……」
「取引をした」
フェイデンは向かいの椅子を引き寄せて座ると、足を組んだ。
その目は物騒な光を帯び、じっとナリアの様子を見つめている。
「あいつの領地からカインとかいう名前の農民を連れてきた。
その男を拷問すると言ったら、取引を持ち掛けられた。お前を襲ったことにしてもいいと言った。さらに冬の期間に行われるサロンについても、自分の変態的な趣味のために、嘘で騙して人を集めたと証言するそうだ。自分一人の処刑でこの問題を終わらせて欲しいと頭を下げた」
「な、なぜそんなことを。カインは誠実な召使だったし、ドルバインは私を襲ってなんていない」
「ならば、なぜ俺の不在の間に会いに行った。何を話した?目的は?あいつが他人の妻を寝取るのが好きな変態だと知っていながら、なぜ今になって会いにいく必要がある」
「誤解があって……申し訳ないことをしたと思ったから……。結婚時代のことでも、解決しておいた方がいいと思って……」
最初のドルバインの証言と似たような話だったが、フェイデンは信じなかった。
口裏を合わせているのだとさらなる怒りが湧いてきた。
立ち上がり、ナリアの座るソファの背もたれに両手を置き、顔を近づける。
「ならば、なぜ人払いが必要だった?話し合いの時に、お前が護衛と侍女を外に出したと聞いている」
「結婚前のことだから……あなたに知られたくなかった。私は……あなたを愛しています。ドルバインとの結婚は間違いだった。それがはっきりわかったの。
それを確かめたのよ。フェイデン、どうか許して、罪のない人を処刑するなんて」
「処刑になるとは限らない。ただ、ドルバインの名前は地に落ちるだろうな。変態であることを貴族社会に知られ、恥ずべき存在として名前を残す。さらに、人妻になった元妻を呼び寄せ、襲おうとしたのだから男として最も軽蔑される存在になり下がるわけだ」
「無理矢理そんなことをする人では……」
ドルバインを庇おうとしたナリアは、さらに恐ろしい形相になった夫を見て、口を閉ざした。
憎悪を滲ませ、フェイデンは首を傾けた。
「ナリア、彼を庇うつもりなのか?」
もしそうだと言えば、もっと酷い状況に陥るかもしれない。
そんな恐怖に駆られ、ナリアは首を横に振った。
「間違いだったら、あなたの名誉はどうなりますか?もし……罪のない人を投獄したことが発覚したら……少なくともカインは助けるべきでは?彼の身分を考えたら証人にするのも難しいはず」
「そんなことはない。あれは保険だ。ドルバインが証言を変えるようなことがあれば、彼を殺すと脅している。多少痛めつけて裁判に連れていくつもりだ」
ナリアはフェイデンにすがりついた。
「どうして、私の言葉を信じてくれないの!お願いよ、フェイデン!」
「お前が……俺に満足出来ていないことは知っていた。どんなに優しく、紳士的に接しても、お前はいつもどこか遠くを見ている。浮気をしているのかと調査をしたこともあったが、男の影はなかった。
信じられなかった。お前はドルバインと婚姻中に、他の男と浮気をしていただろう?
となれば、元夫の体が忘れられなかった。そういうことだ」
かっとしてナリアは手を振り上げた。その手首をフェイデンはあっさり掴み、ソファに押しつけた。
「俺に何かを隠している。ドルバインには言えるのに、俺には言えないことがある。そうだろう?」
ドルバインの何倍も見た目の良いフェイデンを見上げ、ナリアは自分の性癖を告白するべきだろうかと迷った。
容姿も完璧だし、性格も素敵だった。完璧な夫だったのだ。
物足りなく感じていたのは自分の特殊な性癖のせいだ。ドルバインに抱いてもらえず浮気はしたが、ドルバインとの夜の営みにも疑問を感じていた。
浮気中も、満たされていたわけではない。
今回ドルバインを訪ねたことで、自分が何を欲していたのか理解したが、それを夫に告白するのは難しい。変態だと言われ、軽蔑されてしまえば、社交界で居場所を失うだけでなく、夫まで失うことになる。
ナリアは自分の無力さを呪い、黙って涙をこぼした。
「あなたを愛しているの。何も隠していない。ただ話を……」
「もういい!」
割れるような声でフェイデンが遮った。
「裁判の日はお前も連れて行く。そんなに遠い日ではないぞ。三日後だ」
「そ、そんな!」
ナリアは叫んだが、フェイデンはもう扉に向かっていた。
後ろを振り返り、フェイデンはナリアをじっと見据えた。
「ナリア、ドルバインが消えたら、お前は俺に愛を証明する必要がある」
それはフェイデンの隠された本心を、わずかに明かす言葉だった。
扉を開け、部屋を出ていく夫の姿を見送り、ナリアは初めて夫の気持ちを考えた。
自分が満たされることばかり考えてきたが、夫の気持ちを満たそうと考えたことはあるだろうか。
カインと一緒にアロナとドルバインの交わりを見た時の高揚感は例えようもなかった。
カラカラの鉢植えに水を注いだかのように、飢えていた心は満たされ、これ以上ないほどの多幸感に包まれた。
これまで生きてきて、一度も感じたことのない幸福な気持ちに、今なら悔いなく死ねるとさえ思ったほどだった。
そんな幸福を夫に与えたことがあっただろうか。
自分ばかりが幸せになる形は、あの三人の中にはなかった。
アロナとカイン、それからドルバインの関係を思い出し、ナリアは夫婦の在り方を考えた。
どちらかが満たされるために、どちらかが犠牲になるような関係は幸福な夫婦とはいえない。
夫婦としてやり直す必要があると思いながらも、ナリアには何も思いつくことが出来なかった。
自分の性癖を夫に知られ、軽蔑されるのも、周りから白い目で見られるようなことになるのも恐ろしい。
ドルバインが人妻好きだとその性癖を明かし、ナリアに結婚時代は寂しい思いをさせてすまなかったと謝罪しにきた時、ナリアは容赦なくドルバインが変態だと言いふらした。
なぜ、そんな残酷なことが出来たのだろう。そして、なぜドルバインは一言もナリアを責めたりしなかったのか。
酷いことをしたのはナリアの方だ。それなのに、ドルバインは全ての秘密を一人で抱え、死んでいく覚悟をした。
容姿は好みではなかったが、やはり元夫は素晴らしい男性だったのだ。
ナリアは膝を抱え、一人静かに泣き続けた。
――
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大男に体を嬲られ、口での奉仕を強要されたカインは、大男をいかせようと顎が痛くなるまで頑張ったが、大男を満足させることは出来なかった。
逃げようとするカインを軽々と捕まえた大男は、カインを天井から吊るし、体を直角に曲げさせると、突き出されたお尻を後ろから抱え込んだ。
「や、やめてください……」
カインはもうぼろぼろで、逃げる気力もなかったが、弱々しく大男に哀願した。
体中を男の手で嬲られ、女のように口づけを受け、乳首まで舐められた。
カインは魂も体も汚れてしまったような気がしていた。
そんなカインの体を背後から抱きしめ、大男が熱を持った肉棒をカインの尻に押し付けた。
男の巨体にカインの体はすっぽりと覆われ、カインはその重さにも悲鳴をあげた。
天井から伸びた鎖は、前で縛られた手首に繋がっていたが、その長さは体を強制的に引っ張りあげてくれるほどではなく、自分の体は自分の足で支えるしかない。
カインは視線の先にぶらさがる鎖に両手で掴まり、体を直角に曲げ、お尻を突き出した状態で立っていた。
後ろから覆いかぶさっている大男は、カインの尻に肉棒をこすりつけながら、手を前に回し、カインの乳首を嬲り出した。
太い指がカインの胸を探り、乳首をつまみだすと、その周りや先っぽをこね始める。
感触を楽しむように、時折引っ張り、指先で擦り上げる。
「や、やめっ……」
涙も枯れ果てたカインの声はかすれ、悲鳴さえまともに出せない。
カインはついに膝を床に落とした。
天井から垂れ下がる鎖は、ようやくカインの両手を強制的に上にあげさせ、カインは自分で姿勢を保たなくてもよくなった。
しかしそれは体がそれ以上動かないことを意味していた。
膝立ちで、両手を頭上につられたカインの背後から、大男が抱き着いた。
乳首を嬲り、股間の物を片手で包み込む。
同時に二か所の性感帯を嬲られることになり、カインはがっくりと首を落としながら静かに泣いていた。
その顎を強引に上に向けさせられる。
喜びに満ちた醜悪な大男の顔が迫り、また唇を奪われる。
「うっ……うう……」
カインは微かな喘ぎ声をあげた。
長時間体を嬲られ続け、体はわずかな刺激にも敏感になり、乳首は固くなっている。
大男の分厚く固い体も、毛深い手も最悪の感触なのに、思考が追い付かなくなると体はただ物理的な刺激に反応し始める。
それは耐え難い恥辱であり、男として生まれた魂は、ばらばらに砕かれ、この大男の女に作り変えられてしまったような気さえしてくる。
このままでは、相手が犬や豚でも刺激さえあれば感じてしまう、下品で淫らな体に作り変えられてしまいそうだった。もうそれはカインの考える男ではなかった。女でもない。カインという人格も存在も全てが消えてしまうことを意味している。
そんな押し寄せる絶望の中、カインはアロナを抱いた感触を思い出そうとした。
女の体に喜ぶ自分を取り戻したいと願った。
それに、女性の体やその魅力を思い出せば、背後から抱き着いている大男がどれほど嫌悪すべき存在か体が思い出し、疼き始めた淫らな欲求が静まってくれるのではないかと考えた。
ところが、体はカインの思惑とは正反対の反応を示した。
大男の手でしごかれながらアロナを思い出せば、その刺激は強い快感にかわってしまったのだ。
「嫌だ……男は嫌だ。妻がいる。俺には妻が……」
自分に言い聞かせるように、カインは淫らに喘ぎながら声に出した。
そんなカインと肌を密着させ、大男が耳元で囁いた。
「馬鹿を言うな。お前は雌だろう?」
ざらついた大男の胸毛がカインの背中をぞわりと撫でた。
最悪な感触に、カインは発狂したように悲鳴をあげた。
「あああっ」
余計な想像は不要だった。唐突にその嫌悪感を思い出し、体をよじり、最後の力を振り絞り大男の体から離れようと鎖を掴んで立ち上がろうとした。
その瞬間、カインの股間のものを大男がくわえこみ、じゅるじゅると音をたててしゃぶりはじめた。
「ううっ……うわっ……」
腰を揺らし、逃げようとしたが、太い腕に腰を抱かれ、カインは身動きできないまま、その乱暴な愛撫を受け入れた。
長時間嬲られた体は、その刺激を容易に受け入れ、心に反して生理的な欲求に従いその快感のままに機能した。
頭が真っ白にはじけ、体を小刻みに震わせた時には白濁した液体を吐き出していたのだ。
これ以上の恥辱はないと思い続けていたのに、それはさらなる絶望の始まりだった。
すすり泣きながら、カインは男の口によって出されてしまった自分の滴りを床に見ていた。
大男はすぐに口を離し、カインの垂れ下がった物を指でつまみ、うなだれたカインの視線の先で振ってみせた。
ぼとぼと垂れるその子種は、カインのずたずたになった心のように、無残にかび臭い床に捨てられていく。
愛する女性のためでもなく、自分の心を満たすためでもない。
カインとアロナ、ドルバインで楽しむとき、カインは床に吐き出す時があるが、こんなに辛く悲しい行為ではなかった。
惨めでもそれを楽しめていたし、アロナの中に出せない辛さが気持ち良かった。
望まない快感を押し付けられることが、これほど魂を殺される行為になるとは、カインは思いもしなかった。
こんな残酷な行為が、アロナに行われなかったことにカインは、ただ感謝した。
力を失い、膝立ちで鎖に吊り下げられているカインの腰を大男が後ろから引っ張り上げた。
無理やり立たされ、また体を直角に曲げ、お尻を突き出した姿勢にさせられる。
「男の手で感じたお前は、立派な雌だが、これからさらに思い知らせてやる。お前はやられるだけの俺の雌だと」
カインに覆いかぶさった大男はその耳にしゃぶりつきながら、囁いた。
お尻に生暖かい感触がぴたりと張り付き、ごつごつした手がカインのお尻を左右に割り裂いた。
残酷な瞬間に備え、カインは固く目を閉じた。
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でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
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