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30.密かな想い
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朝日の差し込む明るい厨房に、アロナの姿があった。
全員分の朝食を用意しなければならず、食材を刻んだり、鍋の中を確認したりと大忙しだった。
パンの焼ける香りが漂い、急いでオーブンに駆け寄る。
そこに、二階から戻ったドルバインが顔を出した。
「彼らはよく眠っているようだ。カインの様子もついでに見てきたぞ。彼もよく寝ていた」
お酒を少し飲み過ぎたカインは、まだぐっすり眠っていた。
アロナはいつもの時間にぱっと目を覚まし、カインを起こそうとしたが、ドルバインがそれを止めたのだ。
「もう少し寝かせてやると良い。今日は俺がカインの仕事をかわろう」
そんなことが出来るのだろうかとアロナは驚いたが、一人暮らしの長いドルバインに出来ない仕事はなかった。
厩舎の馬の世話をし、浴室の掃除から、湯の用意まで終わらせ、薪を運び、暖炉の手入れまで終えると食材を食料庫から運び出し、アロナの仕事まで手伝った。
農民以上の働きぶりに、アロナの方が驚いた。
カインも働き者だが、ドルバインの動きには無駄がない。
「食事作りだけは手伝えないな。アロナのような繊細な味付けはしたことがない」
ドルバインはようやく厨房の椅子に腰を下ろし、忙しそうに調理台の向こうで動き回るアロナを眺めた。
貴婦人のような淑やかさはないが、生き生きとした表情で、元気に手を動かしている。
花リスのように無邪気で庇護欲をそそられる姿だと思ったが、アロナの容姿だけに惹かれているわけではないことには、とうに気づいていた。
「もうこれで完成です。皆に朝食を配ってきますね。まだ寝ているかもしれませんけど、このパンの香りで目を覚ますと思いますから」
アロナがお皿をお盆に乗せていく。二階に食事を上げる運搬装置を収めた扉を開け、そこにお盆を入れると紐をひっぱり上にあげる。
一番上についたら、紐が落ちないように金具にひっかけ、アロナは扉を閉めた。
あとは二階でお盆を下ろし、ワゴンに乗せれば客人の部屋に持っていける。
「二階に行ってきます」
アロナが厨房を出ようとドルバインの横を通り抜ける。
その腕をドルバインが握って引き止めた。
足を止め、驚いたように顔を上げるアロナの唇を素早く奪う。
赤くなったアロナを見おろし、ドルバインはもう一度唇を重ねようとした。
「駄目です」
小さな声がドルバインを引き止めた。
「食事が冷めてしまいますし……」
夫が傍にいなければ、ドルバインを受け入れるわけにはいかないという意味だとドルバインは察した。
すぐに腕を離す。
逃げるようにアロナが厨房を出ていくと、ドルバインは大きく息を吐きだし、今アロナに触れた自分の手を見おろした。
絶対に自分のものにはならない女性の腕の感触に、胸が熱くなったが、今はそれだけでは物足りないと感じていた。
強固な意思を持ってその感情を髭の下に押し隠してきたが、それは限界に近づいていた。
ドルバインは静かに立ち上がり、アロナを追って厨房を出た。
三つの部屋に食事を届けたアロナは、カインの様子を見るために控えの間に来ていた。
お盆を乗せたワゴンを部屋の片隅に置き、簡易ベッドの上で眠っているカインに近づく。
その寝顔は穏やかで、朝日が差し込んでいるというのに起きる兆しもない。
アロナはやはり起こせなくなり、そっと寝室のカーテンを閉めに行った。
陽ざしが遮られ、室内が薄暗くなる。
その時、背後で扉の閉まる音がした。
アロナが振り返ると、そこにドルバインが立っていた。
カーテンを閉めている間に入ってきたらしく、既に扉を閉め終え、アロナに近づいてくる。
「ドルバイン様?」
大きなドルバインの体を見上げ、アロナは首を傾ける。
そのアロナの体を抱き上げ、ドルバインはカインの寝ている簡易ベッドの隣にある大きな寝台に向かった。
そこに横たえられたアロナは、困ったようにカインに視線を向ける。
ドルバインはアロナの上に覆いかぶさり唇をねっとりと奪った。
「んっ……」
甘い声が漏れ、アロナは顔を赤くして目をさまよわせた。
夫の了承も無しにドルバインと触れ合うことに慣れていない。
ドルバインの手がアロナの体をまさぐり、そのドレスを脱がしにかかる。
「ど、ドルバイン様……あの……」
もし嫌だといえばどいてくれるとわかっていたが、アロナはなかなかそれを言い出せない。
ドルバインの手がドレスをまくりあげ、アロナの首から引き抜くと、今度は下着の中に熱い手を這わせ始める。
「あっ……」
夫の目を欺く行為に、アロナは困惑し横を向いた。
カインはさきほどと同じ姿勢でぐっすり眠っている。
剣の鍛錬で固くなった熱い手のひらが、アロナの乳房を包み込んだ。
ちりんと乳首のピアスが音を立て、宝石飾りがきらきらとした輝きを放つ。
すかさず下着まで抜き取り、ドルバインは大きな体でアロナを押さえこんだ。
もうどれだけ暴れてもドルバインの体の下から抜け出ることは出来ない。
その状態で再び熱い口づけを受けたアロナは、鼻にかかった甘い声をもらしながら、ドルバインの逞しい肩に手をかけた。
「ど、ドルバインさま……」
唇が離れる一瞬で顔を背け、掠れた声で訴える。
「だ、駄目です」
欲望に火が付いた体は、狂おしいぐらいにドルバインの体を欲している。
肌に触れる男の硬い熱を意識し、秘芯は濡れ、愛撫を受けた乳房は支配される喜びにはりつめ、最初から固くなっていた乳首はドルバインの胸毛にこすられ、さらに強い刺激を求めて疼いている。
体の準備は万端だが、心がまだそれを受け入れる態勢に入っていない。
甘く溶けてしまいそうな体をもてあまし、アロナは熱い眼差しでドルバインを見上げる。
歳を感じさせない強い意思を宿す瞳の中に、自分の顔が映り込んでいる。
その蕩けた顔は、やはりドルバインを欲している。
「駄目なのか?」
低くドルバインが囁いた。
「なぜ?」
大きな手で体を撫でられながら、アロナはもう一度ちらりとカインの方に視線を向けた。
「私は……ドルバイン様が好きです……だから……夫がいないと……」
その顔をまた正面に向けさせ、ドルバインはアロナの目を覗き込んだ。
「俺は醜いか?禿げているし太っている。それに毛深く、獣みたいなのだろう?」
本来ドルバインは容姿にこだわるような男ではなかったが、今はそうしたことが気になって仕方がなくなっていた。
とはいえ、他の紳士たちのように、女性が不快に思う部分の毛を剃り出すのも滑稽なことだとわかっていた。
どんなに体毛を剃ったところで生まれながらの容姿が変わるわけではない。
髭で顔を半分隠しているのも、生まれながらの強面であるから、人々を怖がらせないようにするためだ。
アロナだって最初はドルバインの容姿を嫌っていた。
今は好きだと言ってくれるが、それが本心かどうかわからない。
その恐れはドルバインの心の中で少しずつ膨らんでいた。
「醜いなんて……思っていません。ドルバイン様……私は……ドルバイン様に惹かれています。時々、自分の気持ちが怖くなるぐらい好きです。でも……それ以上に怖いと思っています」
やはりと、ドルバインは失望に顔を染めた。
ところが、アロナは両手でドルバインの頬を抱き、その髭に隠れた顔を探るように撫でた。
「これ以上ドルバイン様のことが好きになって、愛してしまったら……夫と……カインと離れなければならなくなってしまうかもしれない。そう考えたら怖くてたまりません。
カインとは物心ついた時からずっと一緒に生きてきました。夫を心から愛しています。だから、ドルバイン様を愛してしまって、カインに捨てられるようなことになったら、私はもう生きていけません。
怖いのです。ドルバイン様にこれ以上惹かれて、カインを失うことになったら、私は自分を許せない」
「カインより、俺を愛してしまうことが怖いのか?カインはお前の一番だろう?」
「そうです……。でも、同じぐらいドルバイン様を愛してしまったら……。カインの愛を失ってしまいそうで……」
二人の男を同じぐらいの強さで愛してしまうことは、二人の男に対する裏切り行為だとアロナは思っていた。
カインに愛を誓っておきながら、ドルバインにも同じ強さで愛を誓えば、それは夫を裏切る行為にならないだろうか。
最初は嫌っていたドルバインを好きになり、少しずつその気持ちはアロナの中で育っている。
今はカインの次に大好きだと言えるが、その気持ちはそこで止まったりしなかった。
ドルバインの優しさに触れるたびに、惹かれる気持ちは膨らみ、その想いはカインを愛する気持ちに匹敵するところまで近づいている。
それでも、アロナが選ぶのはカインだった。
幼いころからずっと一緒にいて、今更離れることなんて考えられない。
二人の男を愛することは出来ないのだから、一人を選ぶとしたらどうしてもカインだ。
ドルバインはアロナの心の葛藤をその涙に濡れた瞳の中に見て、静かに頷いた。
カインは貧しい暮らしの中、心を寄り添わせ手を取り合って生きてきた魂の片割れのような存在なのだ。
そんなカインに勝てるわけがない。
「だから、カインが見ていてくれないと……心配で……」
ドルバインの大きな体に押しつぶされながら、アロナは弱々しくそう言って目を伏せた。
「夫のいないところで俺に抱かれたら、夫と同じぐらい俺を愛してしまうかもしれないからか?」
ドルバインの問いに、アロナは観念して小さく頷いた。
その答えはドルバインの愛に飢えた心を少しだけ慰めた。アロナがそのままのドルバインを好きだとわかっただけでも、ドルバインは満足するべきだと自身に言い聞かせた。
「わかった。ならば今は止めておこう」
ドルバインはあっさり身を引き、アロナの体から手を放した。
寝台に落ちた服を拾い上げ、アロナの上にかける。
「カインが起きる前に着ておいた方がいいだろう」
優しい声音でそう囁き、何事もなかったかのように出て行った。
残されたアロナは、服を着こみ、寝台に横になった。
視線の先には眠るカインの姿がある。
夫を裏切るような発言をしてしまったことに罪悪感を覚えながらも、出ていったドルバインの背中を思い出し、胸が痛くてたまらない。
混乱する想いを抱え、アロナは毛布の中にもぐりこんだ。
全員分の朝食を用意しなければならず、食材を刻んだり、鍋の中を確認したりと大忙しだった。
パンの焼ける香りが漂い、急いでオーブンに駆け寄る。
そこに、二階から戻ったドルバインが顔を出した。
「彼らはよく眠っているようだ。カインの様子もついでに見てきたぞ。彼もよく寝ていた」
お酒を少し飲み過ぎたカインは、まだぐっすり眠っていた。
アロナはいつもの時間にぱっと目を覚まし、カインを起こそうとしたが、ドルバインがそれを止めたのだ。
「もう少し寝かせてやると良い。今日は俺がカインの仕事をかわろう」
そんなことが出来るのだろうかとアロナは驚いたが、一人暮らしの長いドルバインに出来ない仕事はなかった。
厩舎の馬の世話をし、浴室の掃除から、湯の用意まで終わらせ、薪を運び、暖炉の手入れまで終えると食材を食料庫から運び出し、アロナの仕事まで手伝った。
農民以上の働きぶりに、アロナの方が驚いた。
カインも働き者だが、ドルバインの動きには無駄がない。
「食事作りだけは手伝えないな。アロナのような繊細な味付けはしたことがない」
ドルバインはようやく厨房の椅子に腰を下ろし、忙しそうに調理台の向こうで動き回るアロナを眺めた。
貴婦人のような淑やかさはないが、生き生きとした表情で、元気に手を動かしている。
花リスのように無邪気で庇護欲をそそられる姿だと思ったが、アロナの容姿だけに惹かれているわけではないことには、とうに気づいていた。
「もうこれで完成です。皆に朝食を配ってきますね。まだ寝ているかもしれませんけど、このパンの香りで目を覚ますと思いますから」
アロナがお皿をお盆に乗せていく。二階に食事を上げる運搬装置を収めた扉を開け、そこにお盆を入れると紐をひっぱり上にあげる。
一番上についたら、紐が落ちないように金具にひっかけ、アロナは扉を閉めた。
あとは二階でお盆を下ろし、ワゴンに乗せれば客人の部屋に持っていける。
「二階に行ってきます」
アロナが厨房を出ようとドルバインの横を通り抜ける。
その腕をドルバインが握って引き止めた。
足を止め、驚いたように顔を上げるアロナの唇を素早く奪う。
赤くなったアロナを見おろし、ドルバインはもう一度唇を重ねようとした。
「駄目です」
小さな声がドルバインを引き止めた。
「食事が冷めてしまいますし……」
夫が傍にいなければ、ドルバインを受け入れるわけにはいかないという意味だとドルバインは察した。
すぐに腕を離す。
逃げるようにアロナが厨房を出ていくと、ドルバインは大きく息を吐きだし、今アロナに触れた自分の手を見おろした。
絶対に自分のものにはならない女性の腕の感触に、胸が熱くなったが、今はそれだけでは物足りないと感じていた。
強固な意思を持ってその感情を髭の下に押し隠してきたが、それは限界に近づいていた。
ドルバインは静かに立ち上がり、アロナを追って厨房を出た。
三つの部屋に食事を届けたアロナは、カインの様子を見るために控えの間に来ていた。
お盆を乗せたワゴンを部屋の片隅に置き、簡易ベッドの上で眠っているカインに近づく。
その寝顔は穏やかで、朝日が差し込んでいるというのに起きる兆しもない。
アロナはやはり起こせなくなり、そっと寝室のカーテンを閉めに行った。
陽ざしが遮られ、室内が薄暗くなる。
その時、背後で扉の閉まる音がした。
アロナが振り返ると、そこにドルバインが立っていた。
カーテンを閉めている間に入ってきたらしく、既に扉を閉め終え、アロナに近づいてくる。
「ドルバイン様?」
大きなドルバインの体を見上げ、アロナは首を傾ける。
そのアロナの体を抱き上げ、ドルバインはカインの寝ている簡易ベッドの隣にある大きな寝台に向かった。
そこに横たえられたアロナは、困ったようにカインに視線を向ける。
ドルバインはアロナの上に覆いかぶさり唇をねっとりと奪った。
「んっ……」
甘い声が漏れ、アロナは顔を赤くして目をさまよわせた。
夫の了承も無しにドルバインと触れ合うことに慣れていない。
ドルバインの手がアロナの体をまさぐり、そのドレスを脱がしにかかる。
「ど、ドルバイン様……あの……」
もし嫌だといえばどいてくれるとわかっていたが、アロナはなかなかそれを言い出せない。
ドルバインの手がドレスをまくりあげ、アロナの首から引き抜くと、今度は下着の中に熱い手を這わせ始める。
「あっ……」
夫の目を欺く行為に、アロナは困惑し横を向いた。
カインはさきほどと同じ姿勢でぐっすり眠っている。
剣の鍛錬で固くなった熱い手のひらが、アロナの乳房を包み込んだ。
ちりんと乳首のピアスが音を立て、宝石飾りがきらきらとした輝きを放つ。
すかさず下着まで抜き取り、ドルバインは大きな体でアロナを押さえこんだ。
もうどれだけ暴れてもドルバインの体の下から抜け出ることは出来ない。
その状態で再び熱い口づけを受けたアロナは、鼻にかかった甘い声をもらしながら、ドルバインの逞しい肩に手をかけた。
「ど、ドルバインさま……」
唇が離れる一瞬で顔を背け、掠れた声で訴える。
「だ、駄目です」
欲望に火が付いた体は、狂おしいぐらいにドルバインの体を欲している。
肌に触れる男の硬い熱を意識し、秘芯は濡れ、愛撫を受けた乳房は支配される喜びにはりつめ、最初から固くなっていた乳首はドルバインの胸毛にこすられ、さらに強い刺激を求めて疼いている。
体の準備は万端だが、心がまだそれを受け入れる態勢に入っていない。
甘く溶けてしまいそうな体をもてあまし、アロナは熱い眼差しでドルバインを見上げる。
歳を感じさせない強い意思を宿す瞳の中に、自分の顔が映り込んでいる。
その蕩けた顔は、やはりドルバインを欲している。
「駄目なのか?」
低くドルバインが囁いた。
「なぜ?」
大きな手で体を撫でられながら、アロナはもう一度ちらりとカインの方に視線を向けた。
「私は……ドルバイン様が好きです……だから……夫がいないと……」
その顔をまた正面に向けさせ、ドルバインはアロナの目を覗き込んだ。
「俺は醜いか?禿げているし太っている。それに毛深く、獣みたいなのだろう?」
本来ドルバインは容姿にこだわるような男ではなかったが、今はそうしたことが気になって仕方がなくなっていた。
とはいえ、他の紳士たちのように、女性が不快に思う部分の毛を剃り出すのも滑稽なことだとわかっていた。
どんなに体毛を剃ったところで生まれながらの容姿が変わるわけではない。
髭で顔を半分隠しているのも、生まれながらの強面であるから、人々を怖がらせないようにするためだ。
アロナだって最初はドルバインの容姿を嫌っていた。
今は好きだと言ってくれるが、それが本心かどうかわからない。
その恐れはドルバインの心の中で少しずつ膨らんでいた。
「醜いなんて……思っていません。ドルバイン様……私は……ドルバイン様に惹かれています。時々、自分の気持ちが怖くなるぐらい好きです。でも……それ以上に怖いと思っています」
やはりと、ドルバインは失望に顔を染めた。
ところが、アロナは両手でドルバインの頬を抱き、その髭に隠れた顔を探るように撫でた。
「これ以上ドルバイン様のことが好きになって、愛してしまったら……夫と……カインと離れなければならなくなってしまうかもしれない。そう考えたら怖くてたまりません。
カインとは物心ついた時からずっと一緒に生きてきました。夫を心から愛しています。だから、ドルバイン様を愛してしまって、カインに捨てられるようなことになったら、私はもう生きていけません。
怖いのです。ドルバイン様にこれ以上惹かれて、カインを失うことになったら、私は自分を許せない」
「カインより、俺を愛してしまうことが怖いのか?カインはお前の一番だろう?」
「そうです……。でも、同じぐらいドルバイン様を愛してしまったら……。カインの愛を失ってしまいそうで……」
二人の男を同じぐらいの強さで愛してしまうことは、二人の男に対する裏切り行為だとアロナは思っていた。
カインに愛を誓っておきながら、ドルバインにも同じ強さで愛を誓えば、それは夫を裏切る行為にならないだろうか。
最初は嫌っていたドルバインを好きになり、少しずつその気持ちはアロナの中で育っている。
今はカインの次に大好きだと言えるが、その気持ちはそこで止まったりしなかった。
ドルバインの優しさに触れるたびに、惹かれる気持ちは膨らみ、その想いはカインを愛する気持ちに匹敵するところまで近づいている。
それでも、アロナが選ぶのはカインだった。
幼いころからずっと一緒にいて、今更離れることなんて考えられない。
二人の男を愛することは出来ないのだから、一人を選ぶとしたらどうしてもカインだ。
ドルバインはアロナの心の葛藤をその涙に濡れた瞳の中に見て、静かに頷いた。
カインは貧しい暮らしの中、心を寄り添わせ手を取り合って生きてきた魂の片割れのような存在なのだ。
そんなカインに勝てるわけがない。
「だから、カインが見ていてくれないと……心配で……」
ドルバインの大きな体に押しつぶされながら、アロナは弱々しくそう言って目を伏せた。
「夫のいないところで俺に抱かれたら、夫と同じぐらい俺を愛してしまうかもしれないからか?」
ドルバインの問いに、アロナは観念して小さく頷いた。
その答えはドルバインの愛に飢えた心を少しだけ慰めた。アロナがそのままのドルバインを好きだとわかっただけでも、ドルバインは満足するべきだと自身に言い聞かせた。
「わかった。ならば今は止めておこう」
ドルバインはあっさり身を引き、アロナの体から手を放した。
寝台に落ちた服を拾い上げ、アロナの上にかける。
「カインが起きる前に着ておいた方がいいだろう」
優しい声音でそう囁き、何事もなかったかのように出て行った。
残されたアロナは、服を着こみ、寝台に横になった。
視線の先には眠るカインの姿がある。
夫を裏切るような発言をしてしまったことに罪悪感を覚えながらも、出ていったドルバインの背中を思い出し、胸が痛くてたまらない。
混乱する想いを抱え、アロナは毛布の中にもぐりこんだ。
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