赤い星に生まれて

丸井竹

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4.物言わぬ大地

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 やわらかな風が頬に触れ、太陽の熱が肌を焼いている。
何かが体の傍で揺れている。
どこか懐かしい感覚に、外の景色を想像してみるが、思い出すのは死に絶えた赤い大地ばかりだ。

リブの手がミアの手を強く握っている。
その感触に安堵して、ミアはそっと目を開けた。
飛び込んできたのは青い空。
どこまで見上げても、吸い込まれそうな闇も星も見えてこない。

透けるような白い雲がゆっくり視界を横切った。
視線を下げてみると、緑の草が優しい風に吹かれ同じ方向に揺れている。
さらさらと鳴る草の音に混じって、時々虫の羽音も聞こえてくる。

「草だ……」

ミアが呟くと、手を包むリブの力が強くなった。

「ミア……」

顔を向けると、懐かしいリブの顔がそこにあった。
見知らぬものばかりで落ち着かないが、リブがいれば、そこがミアの居場所だ。
ミアの唇に優しい感触が重なった。

濡れた舌も温かな唇も、それから少し強引な口づけも懐かしいリブのものだ。
唇を離し、リブが耳元で囁いた。

「失われた古代都市シーラの話を思い出さないか?」

ミアも思い出した。
草や木、花まで豊富にあった美しい町。
自然と呼ばれたものが少しずつ消え、人工と呼ばれるものにすり替わった。
それは遠い歴史の彼方に消えた伝説の古代都市の話だ。

その記録や映像は二人の頭にも多少入っている。
生きていく上に必要な知識の一端として組み込まれたものだが、実際に目にしたことはない。
巨大都市アーブでも草を見たことがあるが、それはとても貴重なもので、特殊なガラスの容器に入れられ、たった一本か二本生えているだけだった。

「すごくきれいなところ」

「生命体が生きやすそうだ」

リブは力強く微笑み、ミアを抱き起した。
二人は膝を抱えて座り、初めて見る光景に抱かれた。
鮮やかな緑の中に、白い綿のようなものがぽんぽんと咲いている。

「花かな?」

「どうかな?生き物かもしれない。何かに見せかけて生きているものもいそうだ」

多種多様な生命の息吹を感じ、二人は見つめ合う。
これだけたくさんの種がいれば、他の種が一つ混ざったところで誰も気づかないに違いない。

「ミア……俺と生きてくれるか?」

「もちろん」

ミアが声を輝かせて答えると、リブの手がミアの胸元に滑り込んだ。
助け起こしたばかりだというのに、リブはミアを押し倒し、その体にのしかかる。

「あっ……」

胸元がひらかれ、素肌に温かな風が触れた。

「まだ触れていないのに……」

自分より先にミアを愛撫し、声をあげさせた風に、嫉妬するようにリブが言う。
ミアの乳房には金色のピアスが輝き、小さな鈴が揺れている。
そのピアスの根元をリブは唇でくわえこみ、優しく舌でなぶりだした。

「んっ……」

眩しい光の中で、ミアはリブの頭を抱き、その髪の色を確かめた。
ずっと黒だと思っていたが、日差しの下で見るリブの髪は少し赤っぽい。
きれいな鼻筋が乳房に埋まり、柔らかな舌の愛撫が少しずつ乱暴な動きに変わる。

乳首が伸びるほど引っ張られ、ミアは小さく悲鳴をあげた。
リブは容赦なく、もう片方の乳首を指先で摘まみ、上にひっぱりあげる。

「いたいっ」

痛みは快感に変換され、甘くうねるように腰が揺れる。
乳房が唾液に濡れ、風でひんやりさまされると、ミアは上半身を少しあげ、素早くリブのシャツの間に手を入れてその乳首をこすった。

「うっ……」

掠れたリブの声にうれしくなり、ミアはさらに体を起こすとリブのズボンに手を入れた。
熱く熱をもったそこの根元を指先で締め上げる。

「はっ……」

蕩けるようなリブの目元に魅せられ、ミアはリブを草の上に押し倒した。

「縛って欲しい?」

小さくリブが頷く。
靴ひもを解き、肉棒の根元を縛る。それからリブがミアのピアスをひっぱり、乳房に歯をつきたてる。
痛みと快感を交互に味わいながら、二人は濡れた性器を擦り合わせる。

最後はリブが上になった。
張り詰めたものをゆっくりミアの中に沈ませる。
腰を押し付け、リブが苦痛の声をあげた。
弾けるような快感を押さえ込まれ、生殖器に痛みが走る。
それは快感に変換されるが、またすぐに苦痛が込み上げる。

「あっ……んっ……」

吐き出したい欲求に押され腰を動かすが、ミアも堪えている。
ピアスで伸ばされた乳首にリブが舌先で刺激を与える。

「リブ!駄目……」

ミアの甘い声を聞きながら、リブはさらに乱暴に乳首を引っ張り、根元に歯を立て舌で嬲った。
嬌声を上げ、ミアが大きく背中をのけぞらせる。
その体を深く抱きしめ、リブも押さえ込まれている性欲を爆発させるように激しく腰を打ち付けた。

達したミアが、素早く手を伸ばし、柔らかな肉を手のひらで包む。
その指先で、器用に靴ひもを解き始めた。

「早く……」

締め付けが消えた途端、リブは腰をさらに深く沈め、甘い余韻に浸るミアの体を激しく揺すり始めた。
乱暴なほどの強い快感から逃げようと身をよじるミアを押さえ込み、リブはやっと腰を震わせ欲望を吐き出した。
じんわりとした熱がミアの下腹部を覆い、新しい種族の子種が地面に滴った。

この土地に受け入れてもらえるだろうかと、少しだけ不安そうな顔をしたミアに、リブは強く微笑みかけた。

「いつまでも一緒にいよう」

うまくいかなくても二人でいられるだけで幸せだ。

「リブ、愛している」

幸福な余韻の中、ミアが囁いた声は、揺れる草の音と共に風に乗ってリブの耳に届いた。
ミアの輝く瞳には青い空が映り込み、その体は温かな日差しの下にある。
現実のものとは思えないその幸福な光景を目に焼き付け、リブはミアを抱きしめた。




数年後。

澄み渡る青空の下に、白い綿毛が飛んでいる。
それは雲の色に重なり、まるで子供の雲のように見える。

白い綿の中で眠っていたミアは大きな欠伸をして体を起こした。
そこは布の原料となるぽんの咲き乱れる牧場で、リブが大きな袋に収穫した綿の塊を詰め込んでいる。

「リブ、ごめんなさい。ずいぶん眠ってしまったみたい」

リブがすぐに近づいてきてミアの横に座って抱き寄せた。
その手が優しく膨らんだミアのお腹を撫でる。

「今日は天気も良いし、収穫もはかどっている。寝室で寝てきたらいい」

「駄目よ。リブが見えるところにしかいたくないの」

困ったように微笑み、リブはミアの頬に口づけをした。

「わかった。もう少し収穫を続けるから、この袋がいっぱいになったら家に帰ろう」

ミアはにっこり微笑む。
ふわふわの綿毛が風に舞い上がり、またしても空に登っていってしまった。
収穫できる分もあるが、風に飛ばされてしまう分もずいぶん多い。

それでも二人はぽんに網をかぶせてしまおうとはしなかった。
自由に日に当て、風で遊ばせる。
二人の作る布は、品質が良いと評判で、最近値段もあがっている。
さらに、ミアは娼館時代に培った裁縫の腕で、服まで作っていた。

少々過激なデザインで、この国の娼館でも売れている。
もうさすがに見世物小屋で働くことはないが、二人は砂嵐の無いこの世界が気に入っていた。

ふたりがこの星に来た最初の年、右も左もわからず、ただ山の斜面で美しい自然を眺め続けていた。
初めて見る空に、湿った風、それから澄んだ空気、色とりどりの花に、様々な特徴を備えた生き物たち。
それらの全てを学ぶことから始めたのだ。

町や人を発見したのは到着から一年後、少しずつ暮らしになれ、人里離れた場所に住まいを持った。

国の名前や王様の名前、それから国の決まりや仕組みなど、覚えなければならないことはたくさんあったが、商売をして暮らすことまで出来るようになったのは到着から三年後のことだった。

少々体のつくりはこの国の人々と異なるが、外見はそっくりだった。
もしかしたら、数百年前に愛を知り進化した人工生命体の子孫たちの国かもしれない。

広い宇宙のどこかに、あるいはこの国のどこかに、同じ赤い星からやってきた同士がいるかもしれない。

もちろん、それを確かめることは出来ないが、そう考えるとこの広い世界に二人しかいないと考えるより、心強い気がしてくる。

ミアのお腹の中には新しい命が宿っている。
人工生命体として進化したミアが産む子供は新種となる。
この宇宙にまた一つ、新たな種が誕生することになるのだ。

それがどんな意味を持つことになるのか、正直ミアにもリブにもわからない。
ただ種の本能に従い、生まれた命を育み、生きていきたいと望むばかりだ。

「よし終わったぞ。家に入ろう」

袋をかついでリブが戻ってくる。
ミアは立ち上がり、スカートについた草切れを払った。
斜面の下まで緑の大地が続き、そのふもとにはレンガ造りの家々が詰め込まれたイスハール国の小さな町がある。

その美しい景色を確認し、ミアはリブを振り返る。
優しく笑うリブの向こうには二階建ての小さな家がある。
この間、そこに近所の人をまねいて結婚式のまねごとをしたばかりだ。

この国の制度に従い、ミアは妻になり、リブは夫になった。
そして生まれる子供は夫婦の子供となる。

「ミア、抱いていくか?」

お腹の大きなミアを気遣いリブが声をかける。
ミアは首を横に振った。

「一緒に歩きたい!」

手を繋ぎ、草の中を進む二人の後ろで、真っ白なぽんの花が舞い上がる。
優しい風が草を揺らし、小さな虫が飛び出した。

やわらかな日差しの下、物言わぬ大地の上には、どこまでも豊かな自然が広がっていた。



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