翼が無ければ鳥でない

櫻井広大

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かおり

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 給食を食べ、昼休みに差し掛かった時刻、かおりはサーヤをはじめとするいくつかの友達と一緒に外で遊んでいた。
 給食はカレーと海藻サラダのセットだった。よく言えば鼻を抜けるカレーの風味、悪く言えば鼻にこべり付くカレーの風味を匂わせながらはしゃぐのは抵抗があったが、周りのみんなも同じ状況なので、あまり気にすることはないように思われた。
 いつも決まったメンバーが揃えば、遊ぶ内容もやはり決まっていた。靴を履いたらすぐさま爪先を中心に集め、円を描くようにして足を並べる。一人が回した指先が止まった人が鬼で、今回はカズキに決まった。男の子のような名前のその子は性格も、髪型も男子のようなのだが、顔つきはかなり可愛いかった。カズキが数を数え始めると一目散に八方へ散っていき、鬼ごっこが始まった。
 カズキはバスケをやっているからか足が速く、ものの数分ですぐに全員を捕まえてしまった。あー疲れた、とかおりが呟くと、カズキマジで速すぎない?とサーヤが応え、それに連鎖したかのように各々感想を言いあった。しかし五時間目が始業する十分前の鐘が鳴ったのでクラスに戻り、また談笑した。
 かおりは鬼ごっこが好きだった。「お兄ちゃん」と遊んでいた頃はよく走り回った覚えがある。そのせいなのか、鬼ごっこは懐かしい気分を思い起こさせ、束の間、むじゃきに楽しむことができる。ほとんど「お兄ちゃん」との記憶はなく、ただ仲良く遊んでいた男の人がいて、その人を「お兄ちゃん」と呼んでいたことだけは確かだった。名前も知らない、顔も知らない「お兄ちゃん」。
 先生が号令をかけた。いよいよ楽しい時間がやってくる。最高のアルバムを夢想しながら、あいさつをした。
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