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【1・光の聖守護獣 編……第二章 魔法界】
5・踏んだり蹴ったり②
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魔法台に乗り、一階まで移動してきた二人。授業中である為か廊下は再び静けさを取り戻していて、せいぜいいるのはエルゥ族の者達くらい。校長を見かけると、彼らは道を開けるように横に逸れた。そんな様子を見た優兎は、急に自分の地位が上がったような感覚になった。実際、フォー・チャートに選ばれもしなかった優兎が威張れる立場ではないのだが……。
その内二人は、『第一倉庫』と書かれた戸の前で止まった。大きな両開きの戸を開けて入る。壁のスイッチを入れると、天井からぶら下がったガラスケースのようなものが、パッパッパッと手前から奥に、横にと、範囲を広げる形で明かりを灯していった。
部屋は思ったよりもかなり広く、いくつもの棚が並んでいる。棚には紙を丸めて紐でくくった巻物の束、厚みのあるファイルといった資料館にありそうなものから、ホコリが張り付いた球、中身が沈殿して固まっている小瓶といった完全放置されているものまで並んでいた。管理状態は今ひとつのように見える。背もたれが壊れているイスもあるのだが、ひょっとしてやらかしを隠すのに都合のいい場所としても利用されているのだろうか?
「ふーむ、そろそろ窓を開けて、一度換気した方が良さそうじゃの」
古くなった紙・木・さびた鉄などの匂いがしてくる中、優兎と校長は奥へ奥へと突き進んで行く。優兎が物珍しそうにキョロキョロしていると、校長は一番奥地にある扉を開けて入り、階段を下りていった。
扉を閉めて後に続くと、ふと、水の流れる音を耳にする。地面に足が付くと、港の停泊地に似た場所には、小さなゴンドラのような乗り物が水の上に浮かんでいた。暗くてうっすらとしか見えないが、どうも川のようになっているらしい。舳先にある明かりに光を灯すと、ガタンッと大きく揺れて勝手に動き出した。と、同時に川に沈んだ石が道なりに光り出し、壁際の明かりも点灯していって、周囲は途端にエネルギーが回ったように呼吸をし出す。
全貌が明らかになると、優兎は目を丸くした。壁にはカラフルで子供向けのポップな風景画が描かれていて、ステージの上ではどこからか流れてくる音楽に合わせて、人形がダンスを踊っているのだ。
「あ、あの、校長先生? これ何か……どこかのパークのアトラクションを参考にしました?」
目の前をすっと通り過ぎていく糸無しの人形にビクッとしながら、優兎は尋ねた。
「ほっほっほ。愉快じゃろう? こういうのがわしも欲しいと思ってのう~。目立たないところにこっそり作らせたんじゃ。君はラッキーじゃぞ」
校長は得意気に話した。
「はあ……」
「しかし、魔力の一切ない星にも関わらず、アレはどうやって動かしておるんかのう? 不思議なもんじゃわい」
「仕組みが分からないから、魔法でカバーしたというわけですか。ははは……」
こちらとしては、魔法も凄技ものなのだが。頭がこんがらがりそうな、何とも奇妙な心地だった。
参考元よりも体感短い時間、穏やかに揺られていった後、ゴンドラはとある停泊地で停まった。先にはまた扉がある。まるで壁全体が光を持っているかのように、妙に明るい通路の先には、魔法台があった。初めての場所でも上へどうぞと案内される前にスムーズに乗るようになった辺り、優兎もすっかり慣れてきたようだった。
「指輪室へ!」
紫色の輝きに包まれながら移動すると、到着した場所は、ほのかに青い壁と床で囲まれた通路だった。太陽光を受けたガラスのように周囲が光っている。水族館や展示場なんかで水中を演出している時と、似たようなものを目にしている感覚。神秘的な雰囲気の場所だ。一体ここは、学校のどの辺なのだろう?それとも、別の場所へ飛んだのだろうか?
歩いていると、自分達の周辺の壁や床も明かりを増すことに面白みを感じる。二手に分かれたらやっぱり二人分の反応を示すのだろうか? ぎゅうぎゅうに人が詰め込まれたとしたら? なんて考えていると、先の方でクラゲのような物体がふよふよと浮かんでいるのに気がついた。
クラゲは銀色の四角いドアの真ん前にいる。近付くと、後ろの景色が透けて見えるほど透明で、触手の内部が電気信号のように点滅していた。
「優兎君、この生物は『マジェレット』というんじゃ。指輪室の管理を任せておる」
校長が紹介する。と、マジェレットは触手を伸ばして、しゅるんと校長と優兎の手首に巻き付いた。ひんやりのプルプルで、しらたきがひっついたような感覚に思わず鳥肌が立つ。
やがてマジェレットは触手を解くと、定位置に戻ってまたプカプカと浮いた。巻き付けられた手首には、別にうんと締め付けられた覚えはないのに、赤い輪のような痕が残されていた。
「何だったんですか? あれは」
「ふむ。あれは変に緊張していないか調べておったんじゃ。彼らは防衛意識の高い魔物でな。ああやって尻尾を巻き付けて、不当な事を考えていないか、汗や心臓の鼓動で判断しておる」
「(尻尾? あれ、尻尾なんだ)この赤い痕はなんです?」
「キスじゃ。許可証みたいなもんじゃな。一日も立てば消えるぞ」
(尻尾に……キス?)
見た目がクラゲにしか見えない為に、優兎の頭は混乱していた。
ドアの先の部屋に入ると、宝石店のようなディスプレイケースに入れられた指輪が沢山あった。こうしてライトに当てられている姿を見ると、どれもこれもが水晶のように美しい。すごいなあ!
「さあさ、彼の持ち主となりたい者は、三、二、一で光るんじゃぞ。よいな?」 校長は石達に言い聞かせる。
三……二……一!
しーん……。
反応無し。優兎は深いため息をつき、校長は眉をしかめた。
「あの、奥でかき氷みたいなのが浮いているんですが、あれは?」
「あれもマジェレットじゃよ。体を器にして食事しているんじゃな。」
「(尻尾、キス、かき氷……)氷の中にミカンときゅうりが入ってませんか?」
「生徒が氷付けにしたミカンときゅうりを学校に持ち込んできたことがあっての、そこに群がったんで、食事として提供し始めたんじゃ」
(尻尾、キス、かき氷、ミカンときゅうりと生徒……)
気分を変えようと話しをしながら、部屋を渡る二人。しかし次の部屋も、その次の部屋も、結果は同じだった。ここまで来ると、流石に優兎もショックの色を隠せない。校長もこんな事は初めてのようで、困っている様子だった。
何となくこのまま続けても心の傷を深めていく恐れがあったので、校長は部屋に一匹のマジェレットを連れ込んできた。マジェレットはフォー・チャートから意志を読み取る事も出来るようだ。方法は、指輪一つ一つに尻尾を巻き付ける……というわけではなく、ケースの上にちょこんと尻尾を一本乗っけるだけ。マジェレットの体内で、まるでエネルギーを吸い取っているかのように光が蠢いた。
しばらくすると、マジェレットはふわりとケースから離れ、校長の手首に絡み付いた。石達の意志を受け取った校長は、顔をしかめた。
「石達はなんて言っていたんですか?」 知りたいような知りたくないような、そんな苦い思いを抱えながら優兎は聞いた。
「あー……ええっと……そうじゃな、『わしなりに柔らかく表現した言葉』と『ど直球な言葉』どちらがいいかな?」
「……前者を」
「『この人、何か好きじゃない』」
「へぐっ!!」
優兎は胸元を抑えた。アニメや本の展開によくある「あなたは既に充分凄すぎるので指輪は必要ありません」とか「あなたに合う特別な指輪はここにはないです」というのをちょっぴりでも期待していたというのに! 最悪「全部の指輪が壊れてる」でも仕方ないと思っていた。それすら違うっていうのか!?
「す、すみません、後者も気になります……」
「いいのか?」
「お願いします……」
「『キモい』」
「ごっふぁあッ!!」
優兎はついに散った。力が抜けていき、床に膝をつく。
(キモいって何? 何が!? 顔が? 雰囲気が?? 以外と面食いだっていうのか??? 妹にだってそんな事言われたことは……あったけど! あったけどっ!! でも、好きな女の子キャラクターがプリントされたシャツ着て出掛けるなんて、別に変なことじゃ――って、いやいやいや今はそんなこと関係ないし!!)
「まあ、気を落とすでない。見ていない部屋はまだ沢山ある。次へ行こうではないか」
校長は優兎の肩を優しく叩く。気の毒に感じたが、表面に出さぬようにした。
「うう……はいぃ」
そうして校長と元気のない優兎は部屋を出て行こうとした。しかし、マジェレットに行く手を阻まれてしまう。
マジェレットはくいくいと尻尾を動かしていた。後ろ?何を伝えようとしているのだろう?二人は振り返る。すると、奥の方で一つの指輪が"ぎこちない感じで"光り輝いているではないか!
校長はすぐにその場所に向かって、ケースを外す。そして今尚チカチカと光っている指輪を取り出した。それを優兎に渡す。
「おお、おお、よかった。今日からこの指輪は君のものじゃ」
校長は安堵した様子で微笑んだ。優兎は渡された指輪を左右・上下、様々な角度から眺めた。天井の明かりにかざすと、透明な中にも石特有の模様が入っている事がよく分かる。先ほど発せられた光量から察するに、同情されて名乗りを上げたふうに受け取ったが、それでも優兎は嬉しかった。早速右手の人差し指にはめてみる。
注視していると、不思議な事が起こった。リングに突然、空が浮かび上がったのだ!透明感のある空色の中に雲が流れ、淡い色の綺麗な虹までかかった。驚いた優兎は校長に説明を求める。
「フォー・チャートははめた瞬間、一時的に感情とリンクして、持ち主の心情をも表す事が出来るんじゃ。君の場合は空らしい。そして今、とても嬉しいと感じているじゃろ?だから澄み切った青空となった。逆に悲しい気持ちであったり落ち込んでいたりすると、きっと雨模様のように濁るじゃろうな」
「へえ、面白いですね」
「さあて、一旦優兎君の指輪をこちらに預けてもらおうか」
「?」
「リングの内側に名前を彫らんとな。サイズはフォー・チャートが調整してくれるから安心してくれ」
「あ、確かに指に馴染む感じがします! 分かりました、お願いします」
優兎は校長に指輪を渡した。校長はハンカチでくるんで、ポケットに仕舞った。
(それにしても……ううむ、ここまで石達に避けられた子は、記憶にないわい。光の魔法が願いによって発現するものなら、その働き方が極端過ぎて「キモい」と思われてしまったのかのう。ラヴァーもちっぽけな魔力と言っていたが……?)
校長は浮かれた優兎を見ながら、不思議に思った。
その内二人は、『第一倉庫』と書かれた戸の前で止まった。大きな両開きの戸を開けて入る。壁のスイッチを入れると、天井からぶら下がったガラスケースのようなものが、パッパッパッと手前から奥に、横にと、範囲を広げる形で明かりを灯していった。
部屋は思ったよりもかなり広く、いくつもの棚が並んでいる。棚には紙を丸めて紐でくくった巻物の束、厚みのあるファイルといった資料館にありそうなものから、ホコリが張り付いた球、中身が沈殿して固まっている小瓶といった完全放置されているものまで並んでいた。管理状態は今ひとつのように見える。背もたれが壊れているイスもあるのだが、ひょっとしてやらかしを隠すのに都合のいい場所としても利用されているのだろうか?
「ふーむ、そろそろ窓を開けて、一度換気した方が良さそうじゃの」
古くなった紙・木・さびた鉄などの匂いがしてくる中、優兎と校長は奥へ奥へと突き進んで行く。優兎が物珍しそうにキョロキョロしていると、校長は一番奥地にある扉を開けて入り、階段を下りていった。
扉を閉めて後に続くと、ふと、水の流れる音を耳にする。地面に足が付くと、港の停泊地に似た場所には、小さなゴンドラのような乗り物が水の上に浮かんでいた。暗くてうっすらとしか見えないが、どうも川のようになっているらしい。舳先にある明かりに光を灯すと、ガタンッと大きく揺れて勝手に動き出した。と、同時に川に沈んだ石が道なりに光り出し、壁際の明かりも点灯していって、周囲は途端にエネルギーが回ったように呼吸をし出す。
全貌が明らかになると、優兎は目を丸くした。壁にはカラフルで子供向けのポップな風景画が描かれていて、ステージの上ではどこからか流れてくる音楽に合わせて、人形がダンスを踊っているのだ。
「あ、あの、校長先生? これ何か……どこかのパークのアトラクションを参考にしました?」
目の前をすっと通り過ぎていく糸無しの人形にビクッとしながら、優兎は尋ねた。
「ほっほっほ。愉快じゃろう? こういうのがわしも欲しいと思ってのう~。目立たないところにこっそり作らせたんじゃ。君はラッキーじゃぞ」
校長は得意気に話した。
「はあ……」
「しかし、魔力の一切ない星にも関わらず、アレはどうやって動かしておるんかのう? 不思議なもんじゃわい」
「仕組みが分からないから、魔法でカバーしたというわけですか。ははは……」
こちらとしては、魔法も凄技ものなのだが。頭がこんがらがりそうな、何とも奇妙な心地だった。
参考元よりも体感短い時間、穏やかに揺られていった後、ゴンドラはとある停泊地で停まった。先にはまた扉がある。まるで壁全体が光を持っているかのように、妙に明るい通路の先には、魔法台があった。初めての場所でも上へどうぞと案内される前にスムーズに乗るようになった辺り、優兎もすっかり慣れてきたようだった。
「指輪室へ!」
紫色の輝きに包まれながら移動すると、到着した場所は、ほのかに青い壁と床で囲まれた通路だった。太陽光を受けたガラスのように周囲が光っている。水族館や展示場なんかで水中を演出している時と、似たようなものを目にしている感覚。神秘的な雰囲気の場所だ。一体ここは、学校のどの辺なのだろう?それとも、別の場所へ飛んだのだろうか?
歩いていると、自分達の周辺の壁や床も明かりを増すことに面白みを感じる。二手に分かれたらやっぱり二人分の反応を示すのだろうか? ぎゅうぎゅうに人が詰め込まれたとしたら? なんて考えていると、先の方でクラゲのような物体がふよふよと浮かんでいるのに気がついた。
クラゲは銀色の四角いドアの真ん前にいる。近付くと、後ろの景色が透けて見えるほど透明で、触手の内部が電気信号のように点滅していた。
「優兎君、この生物は『マジェレット』というんじゃ。指輪室の管理を任せておる」
校長が紹介する。と、マジェレットは触手を伸ばして、しゅるんと校長と優兎の手首に巻き付いた。ひんやりのプルプルで、しらたきがひっついたような感覚に思わず鳥肌が立つ。
やがてマジェレットは触手を解くと、定位置に戻ってまたプカプカと浮いた。巻き付けられた手首には、別にうんと締め付けられた覚えはないのに、赤い輪のような痕が残されていた。
「何だったんですか? あれは」
「ふむ。あれは変に緊張していないか調べておったんじゃ。彼らは防衛意識の高い魔物でな。ああやって尻尾を巻き付けて、不当な事を考えていないか、汗や心臓の鼓動で判断しておる」
「(尻尾? あれ、尻尾なんだ)この赤い痕はなんです?」
「キスじゃ。許可証みたいなもんじゃな。一日も立てば消えるぞ」
(尻尾に……キス?)
見た目がクラゲにしか見えない為に、優兎の頭は混乱していた。
ドアの先の部屋に入ると、宝石店のようなディスプレイケースに入れられた指輪が沢山あった。こうしてライトに当てられている姿を見ると、どれもこれもが水晶のように美しい。すごいなあ!
「さあさ、彼の持ち主となりたい者は、三、二、一で光るんじゃぞ。よいな?」 校長は石達に言い聞かせる。
三……二……一!
しーん……。
反応無し。優兎は深いため息をつき、校長は眉をしかめた。
「あの、奥でかき氷みたいなのが浮いているんですが、あれは?」
「あれもマジェレットじゃよ。体を器にして食事しているんじゃな。」
「(尻尾、キス、かき氷……)氷の中にミカンときゅうりが入ってませんか?」
「生徒が氷付けにしたミカンときゅうりを学校に持ち込んできたことがあっての、そこに群がったんで、食事として提供し始めたんじゃ」
(尻尾、キス、かき氷、ミカンときゅうりと生徒……)
気分を変えようと話しをしながら、部屋を渡る二人。しかし次の部屋も、その次の部屋も、結果は同じだった。ここまで来ると、流石に優兎もショックの色を隠せない。校長もこんな事は初めてのようで、困っている様子だった。
何となくこのまま続けても心の傷を深めていく恐れがあったので、校長は部屋に一匹のマジェレットを連れ込んできた。マジェレットはフォー・チャートから意志を読み取る事も出来るようだ。方法は、指輪一つ一つに尻尾を巻き付ける……というわけではなく、ケースの上にちょこんと尻尾を一本乗っけるだけ。マジェレットの体内で、まるでエネルギーを吸い取っているかのように光が蠢いた。
しばらくすると、マジェレットはふわりとケースから離れ、校長の手首に絡み付いた。石達の意志を受け取った校長は、顔をしかめた。
「石達はなんて言っていたんですか?」 知りたいような知りたくないような、そんな苦い思いを抱えながら優兎は聞いた。
「あー……ええっと……そうじゃな、『わしなりに柔らかく表現した言葉』と『ど直球な言葉』どちらがいいかな?」
「……前者を」
「『この人、何か好きじゃない』」
「へぐっ!!」
優兎は胸元を抑えた。アニメや本の展開によくある「あなたは既に充分凄すぎるので指輪は必要ありません」とか「あなたに合う特別な指輪はここにはないです」というのをちょっぴりでも期待していたというのに! 最悪「全部の指輪が壊れてる」でも仕方ないと思っていた。それすら違うっていうのか!?
「す、すみません、後者も気になります……」
「いいのか?」
「お願いします……」
「『キモい』」
「ごっふぁあッ!!」
優兎はついに散った。力が抜けていき、床に膝をつく。
(キモいって何? 何が!? 顔が? 雰囲気が?? 以外と面食いだっていうのか??? 妹にだってそんな事言われたことは……あったけど! あったけどっ!! でも、好きな女の子キャラクターがプリントされたシャツ着て出掛けるなんて、別に変なことじゃ――って、いやいやいや今はそんなこと関係ないし!!)
「まあ、気を落とすでない。見ていない部屋はまだ沢山ある。次へ行こうではないか」
校長は優兎の肩を優しく叩く。気の毒に感じたが、表面に出さぬようにした。
「うう……はいぃ」
そうして校長と元気のない優兎は部屋を出て行こうとした。しかし、マジェレットに行く手を阻まれてしまう。
マジェレットはくいくいと尻尾を動かしていた。後ろ?何を伝えようとしているのだろう?二人は振り返る。すると、奥の方で一つの指輪が"ぎこちない感じで"光り輝いているではないか!
校長はすぐにその場所に向かって、ケースを外す。そして今尚チカチカと光っている指輪を取り出した。それを優兎に渡す。
「おお、おお、よかった。今日からこの指輪は君のものじゃ」
校長は安堵した様子で微笑んだ。優兎は渡された指輪を左右・上下、様々な角度から眺めた。天井の明かりにかざすと、透明な中にも石特有の模様が入っている事がよく分かる。先ほど発せられた光量から察するに、同情されて名乗りを上げたふうに受け取ったが、それでも優兎は嬉しかった。早速右手の人差し指にはめてみる。
注視していると、不思議な事が起こった。リングに突然、空が浮かび上がったのだ!透明感のある空色の中に雲が流れ、淡い色の綺麗な虹までかかった。驚いた優兎は校長に説明を求める。
「フォー・チャートははめた瞬間、一時的に感情とリンクして、持ち主の心情をも表す事が出来るんじゃ。君の場合は空らしい。そして今、とても嬉しいと感じているじゃろ?だから澄み切った青空となった。逆に悲しい気持ちであったり落ち込んでいたりすると、きっと雨模様のように濁るじゃろうな」
「へえ、面白いですね」
「さあて、一旦優兎君の指輪をこちらに預けてもらおうか」
「?」
「リングの内側に名前を彫らんとな。サイズはフォー・チャートが調整してくれるから安心してくれ」
「あ、確かに指に馴染む感じがします! 分かりました、お願いします」
優兎は校長に指輪を渡した。校長はハンカチでくるんで、ポケットに仕舞った。
(それにしても……ううむ、ここまで石達に避けられた子は、記憶にないわい。光の魔法が願いによって発現するものなら、その働き方が極端過ぎて「キモい」と思われてしまったのかのう。ラヴァーもちっぽけな魔力と言っていたが……?)
校長は浮かれた優兎を見ながら、不思議に思った。
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