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【1・光の聖守護獣 編……第三章 宿題】
2・アミダラ②
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「――で? 用件は何なのさ。その子を紹介しにきただけじゃないんだろう?」
「ああ。来週ゼリィ玉を授業で作ることになってな。宿題で合成ゼリィを用意しなくちゃなんねえんだ。あるだろ?」
切り株にドカッと腰を下ろして言うアッシュ。
「残念だけど、ないね。ひとっつも。最後のはこの間使っちまった」
「はあ? じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「店で買えばいいだろう? アタシなんかと違ってどこでも行けるんだから」
「リヲがねえ。しかも優兎は地球から来た奴でさ、すっからかんだ」
「へえ? ――そしたら、初めから作るしかないね。合成ゼリィをさ。『ラテ・ゼリィ』を捕まえて来な。後はアタシが何とかしてやるよ」
「ラテ……ゼリィ?」
優兎は顔をしかめた。さっきから、いや、以前から『ゼリィ』という単語がやたら出てくる。当たり前のように言っているが、そもそもそれは何なのだろうか。
(まさかとは思うけど、プルプルしてて果物の味がする、食べると美味しいやつ……じゃないよね?)
するとアミダラはフッと笑った。
「あんた、食品のゼリーの方を思い浮かべているね? アタシがいうラテ・ゼリィは魔物の事なんさ。『ラテ』ってのは古代語で『赤い』って意味。よくあるんだ、昔の言葉と今の言葉が混ざりあっている単語って。その名の通り、赤くて、ゼリィ玉の材料になる。――ああ、ゼリィ玉ってのは、疲れた時に食べる回復アイテムの事。ゼリィ種は三種類いて、赤、紫、そして青の順に回復量が大幅アップしていく。体力をえらく消費する職種は紫色の『ルース・ゼリィ』や青色の『マグ・ゼリィ』の入ったゼリィ玉を使うけど、一般人は安価で手に入りやすい赤で十分さね」
アミダラはフーッと息をつく。優兎はなるほど、とあっさり受け入れたが、家畜とは別種の魔物を食べる行為については彼の中では特に引っかからなかった。
「――んで、そいつらの捕まえ方は?」 アッシュが尋ねた。
「アタシにはわけないんだけどね。人間のあんたらだったら、まずゼリィの群れを見つける。そしたら木の実を入れた大口の瓶を群れの中に放り込むんさ。我慢強く待ってればいつかは瓶の中に入って来るから、食い尽くされる前に蓋をする。一匹ずつ捕まえてくれば上等だろう」
「生息地は分かるか?」
「皮肉かい?でも、ん~……アタシの『クモの巣ネットワーク』によると――」
「「「『クモの巣ネットワーク』!?」」」 三人同時に口を開いた。
「随分前からやってたけど、教えてなかったかい? ほら、アタシはこの森から出られないだろう。だから、アタシの子供達を小さいうちから離して、いろんな大陸に巣食わせてるのさ。子供達はこの呪いの対象外だからね。やり方は……まあ見てなよ」
アミダラは前足で「どいてな」と三人を払った。そして全身の毛を逆立てると、そのまま動かなくなった。
一分も立たないうちに、アミダラは何かをキャッチしたようだ。ピクンと頭部が僅かに動く。
「――来た。ここから手軽に行ける場所だと、〈ハルモニア大陸〉、〈ゼオブルグ大陸〉に生息確認が取れた。でも、量的には〈シャロット〉の方が多いかねえ」
プッと糸を吐いて縮図を作り出し、前足で指し示した。
「どういう仕組みになってんだよ、そのネットワーク……」 アッシュが顔をしかめる。
「代々受け継がれてるものでさ。何て言うか……親子の絆っていうのかねえ。とにかく、これで外の情報が分かるってわけさ。これがなかったら、アタシはもっと手がつけられない程獰猛になっていたかもしれないね」
「「ハハハ……」」
優兎とジールは苦笑いするしかなかった。なんというか、たくましい女性だ。
クモといったら毎年凄まじい量の卵を産むと聞いている。つまりは魔法界中にアミダラの子が何万匹も……いや、少ししゃがれた声質から推測するに、もっとだろう。とにかく沢山いるわけだ。ひゃー……。
「でも、〈シャロット〉に魔法台ってあったっけ?」 とジール。
「あるよ。かなり昔からね。あそこは現代のものじゃなくって、旧型の魔法台が置いてある」
「よっしゃ! そうと決まれば、さっさと行ってこようぜ!」
「ちょいとお待ちよ」
アッシュが他の二人を率いて外に出ようとした途端、アミダラは三人を呼び止めた。
「何だよ?」 張り切っていたところを阻害されて、不服そうなアッシュ。
「合成ゼリィを作ってやるんだ。報酬を出しな。今回は前払いさ。……美味しそうなごちそうの匂いがするよ。こんなのを後の楽しみにしておく程、余裕はないんでね」
そう言って、アミダラは一本の前足をちょいちょいっと動かす。
「分かった分かった。今出してやるよ」
アッシュとジールは腰を屈める。そして今まで両手に持っていたカゴを、その場にドサッと置いた。
布が取り払われ、すかさず優兎が覗き込むと、中には蝶やカマキリなどの昆虫類を初め、カエルにトカゲ、極めつけにヘビまでもが何匹も入っていた。それらを見た優兎は「ひいっ!!」と声を出してしまった。
(ま、まさか、これって……!?)
アッシュとジールは何て事ない顔で、合計四つのカゴをアミダラの前に置く。カゴの中では危険を察知してか、ガタガタと揺れ出し、一つは倒れてしまう。
するとアミダラは口から糸を吐き、綱のようにしてカゴを覆うと、そのまま後退して小屋の中に入って行った。バタンッ! とドアが激しい音を立てて閉まる。
不穏な騒ぎが起こり出した小屋に、優兎は耳を塞いで背を向けた。中で起こっている事を想像すると、恐怖心がこみ上げてきて居たたまれない。
アミダラは優しい。優しいけど……諸手を挙げて受け入れるのには時間が掛かりそうだ。心を開きつつあった優兎だったが、やはり彼女はクモなのだということを思い知った。
「ああ。来週ゼリィ玉を授業で作ることになってな。宿題で合成ゼリィを用意しなくちゃなんねえんだ。あるだろ?」
切り株にドカッと腰を下ろして言うアッシュ。
「残念だけど、ないね。ひとっつも。最後のはこの間使っちまった」
「はあ? じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「店で買えばいいだろう? アタシなんかと違ってどこでも行けるんだから」
「リヲがねえ。しかも優兎は地球から来た奴でさ、すっからかんだ」
「へえ? ――そしたら、初めから作るしかないね。合成ゼリィをさ。『ラテ・ゼリィ』を捕まえて来な。後はアタシが何とかしてやるよ」
「ラテ……ゼリィ?」
優兎は顔をしかめた。さっきから、いや、以前から『ゼリィ』という単語がやたら出てくる。当たり前のように言っているが、そもそもそれは何なのだろうか。
(まさかとは思うけど、プルプルしてて果物の味がする、食べると美味しいやつ……じゃないよね?)
するとアミダラはフッと笑った。
「あんた、食品のゼリーの方を思い浮かべているね? アタシがいうラテ・ゼリィは魔物の事なんさ。『ラテ』ってのは古代語で『赤い』って意味。よくあるんだ、昔の言葉と今の言葉が混ざりあっている単語って。その名の通り、赤くて、ゼリィ玉の材料になる。――ああ、ゼリィ玉ってのは、疲れた時に食べる回復アイテムの事。ゼリィ種は三種類いて、赤、紫、そして青の順に回復量が大幅アップしていく。体力をえらく消費する職種は紫色の『ルース・ゼリィ』や青色の『マグ・ゼリィ』の入ったゼリィ玉を使うけど、一般人は安価で手に入りやすい赤で十分さね」
アミダラはフーッと息をつく。優兎はなるほど、とあっさり受け入れたが、家畜とは別種の魔物を食べる行為については彼の中では特に引っかからなかった。
「――んで、そいつらの捕まえ方は?」 アッシュが尋ねた。
「アタシにはわけないんだけどね。人間のあんたらだったら、まずゼリィの群れを見つける。そしたら木の実を入れた大口の瓶を群れの中に放り込むんさ。我慢強く待ってればいつかは瓶の中に入って来るから、食い尽くされる前に蓋をする。一匹ずつ捕まえてくれば上等だろう」
「生息地は分かるか?」
「皮肉かい?でも、ん~……アタシの『クモの巣ネットワーク』によると――」
「「「『クモの巣ネットワーク』!?」」」 三人同時に口を開いた。
「随分前からやってたけど、教えてなかったかい? ほら、アタシはこの森から出られないだろう。だから、アタシの子供達を小さいうちから離して、いろんな大陸に巣食わせてるのさ。子供達はこの呪いの対象外だからね。やり方は……まあ見てなよ」
アミダラは前足で「どいてな」と三人を払った。そして全身の毛を逆立てると、そのまま動かなくなった。
一分も立たないうちに、アミダラは何かをキャッチしたようだ。ピクンと頭部が僅かに動く。
「――来た。ここから手軽に行ける場所だと、〈ハルモニア大陸〉、〈ゼオブルグ大陸〉に生息確認が取れた。でも、量的には〈シャロット〉の方が多いかねえ」
プッと糸を吐いて縮図を作り出し、前足で指し示した。
「どういう仕組みになってんだよ、そのネットワーク……」 アッシュが顔をしかめる。
「代々受け継がれてるものでさ。何て言うか……親子の絆っていうのかねえ。とにかく、これで外の情報が分かるってわけさ。これがなかったら、アタシはもっと手がつけられない程獰猛になっていたかもしれないね」
「「ハハハ……」」
優兎とジールは苦笑いするしかなかった。なんというか、たくましい女性だ。
クモといったら毎年凄まじい量の卵を産むと聞いている。つまりは魔法界中にアミダラの子が何万匹も……いや、少ししゃがれた声質から推測するに、もっとだろう。とにかく沢山いるわけだ。ひゃー……。
「でも、〈シャロット〉に魔法台ってあったっけ?」 とジール。
「あるよ。かなり昔からね。あそこは現代のものじゃなくって、旧型の魔法台が置いてある」
「よっしゃ! そうと決まれば、さっさと行ってこようぜ!」
「ちょいとお待ちよ」
アッシュが他の二人を率いて外に出ようとした途端、アミダラは三人を呼び止めた。
「何だよ?」 張り切っていたところを阻害されて、不服そうなアッシュ。
「合成ゼリィを作ってやるんだ。報酬を出しな。今回は前払いさ。……美味しそうなごちそうの匂いがするよ。こんなのを後の楽しみにしておく程、余裕はないんでね」
そう言って、アミダラは一本の前足をちょいちょいっと動かす。
「分かった分かった。今出してやるよ」
アッシュとジールは腰を屈める。そして今まで両手に持っていたカゴを、その場にドサッと置いた。
布が取り払われ、すかさず優兎が覗き込むと、中には蝶やカマキリなどの昆虫類を初め、カエルにトカゲ、極めつけにヘビまでもが何匹も入っていた。それらを見た優兎は「ひいっ!!」と声を出してしまった。
(ま、まさか、これって……!?)
アッシュとジールは何て事ない顔で、合計四つのカゴをアミダラの前に置く。カゴの中では危険を察知してか、ガタガタと揺れ出し、一つは倒れてしまう。
するとアミダラは口から糸を吐き、綱のようにしてカゴを覆うと、そのまま後退して小屋の中に入って行った。バタンッ! とドアが激しい音を立てて閉まる。
不穏な騒ぎが起こり出した小屋に、優兎は耳を塞いで背を向けた。中で起こっている事を想像すると、恐怖心がこみ上げてきて居たたまれない。
アミダラは優しい。優しいけど……諸手を挙げて受け入れるのには時間が掛かりそうだ。心を開きつつあった優兎だったが、やはり彼女はクモなのだということを思い知った。
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