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【3・優兎の日常 編 (前編)】
4・吹き荒ぶ煽り風②
しおりを挟む昼食時の売店は、いつもながらの盛況ぶり。店の店員は波のように来る客の対応で忙しそう。
三人は空いた席を確保すると、店の列に並んだ。優兎は魚の唐揚げとミニサラダを注文。最初はあまり食欲が湧かなかったが、頼まれた品が出されると、食欲は復活した。ジールの奢りのジュースを飲むと、頭も少しスッキリした。
「そういえば気になったんだけどさ、ジールって古代語得意だったっけ」
優兎はジュースにストローを刺して言った。以前古代語の授業を受けた時、優兎と一緒に頭を抱えていた覚えがあるのだが、先ほどのはさくっと答えてみせた事を取り上げた。
「あれは暗記だよ。別に読めてたわけじゃないさ。翻訳の割には、教科書の模範解答みたいだったでしょ」
ジールは苦笑い。言われてみれば。
「試験によく出る問題だから、重要なんだと思って覚えちゃったんだろうな。何かフクザツかも」
ね? とジールはアッシュを見る。優兎はどういう意味なんだろうと首を傾げた。
「優兎は今日も修行か? 相手が相手だろうと、指摘はした方がいいと思うが」アッシュは優兎の唐揚げを一つ貰って言った。
「僕より、ユニがやる気満々なんだよね。人間側の身になって考えてくれって言ったって、相手は疲れる事を知らないし、痛みを知らないし、限度も知らないし……食べる事も、寝る事も休む事もしないし。以外と単純な事で、人間あっさり死ねるって事も分からないんじゃないかな。――うわあああ! どう考えても人選ミスじゃないかっ!」
優兎は髪を掻きむしった後、自分を落ち着かせる為に魚の唐揚げを食べ、ジュースを飲んだ。美味しい美味しいとがっつく優兎だが、他二人はその様子を見て苦々しく思う。魔法界の人間は白身や赤身などの肉質ある部分以外を、ミンチにしたり衣で誤摩化す傾向がある。そういった事から、この料理にも通常の唐揚げの具にはしないであろうあらゆる部位が混ざっている。おまけにジュースはミゥロと言って、生徒の間でも「激甘すぎて、何で売ってるのか分からない」と悪評に名高いものだった。甘ったるい味に、牛乳のあぶくと見事に分離したタマゴの黄とチョコパウダーの黒いブツブツが浮いているという見た目は、どう偏見したっておかしいと思うはずなのだが。
「――そうだ! いっその事、二人が僕の修行の指導者になってよ! うん、それがいい! どうかな、アッシュ?」 衣を纏った大きな目玉をミゥロと共に噛み潰しながら、優兎は提案する。
「ん? ああ……」若干引いていたアッシュは、少し反応が遅れた。
「悪いな優兎。オレら、明後日に試験が控えてんだよ」
「試験? 何の?」
「卒業試験だよ。俺やアニキだけじゃない。ミントやカルラも対象者だよ。今の一・二年組以外はみんなだ。今日最初の授業の時、地理の先生が話してたはずだけど……もしかして、寝ぼけてた?」
優兎は慌てて記憶の糸を辿った。……ダメだ。穴だらけで思い出せない。それどころか、突然の衝撃の言葉にどうしたらいいのか分からなくなる。
卒業試験が近いという事は、近い内みんな学校からいなくなってしまうという事だ。こんな大事な事を聞き逃すなんて! 優兎は胸がぎゅっと締め付けられた。
「んな世界の終わりみたいな青い顔するなよ優兎。平気だって。オレらまた残留するつもりだしな」
アッシュは勇気づけるように優兎の背中を叩いた。
「へ? 残留?」
「もう毎度の事だし。ミントとカルラもじゃねえの?」
「あっ! そうか、だから倉庫に教室が出来たんだっけ……」
在学歴何年であるか、クラスのみんなから聞いていたのを思い出して腑に落ちた。
「覚えてない優兎に一から説明すると、試験期間は三日間」 ジールは三本指を立てる。「一日目が筆記で、リスニング問題を始めとした、生活していく中での基礎知識や歴史が中心かな。古代語もちょこっと。二日・三日目は実技が試される。つまり魔法だよね。試験官達の前で一人ずつ、コントロール能力とか、判断力とかいろいろ見られる」
「魔法のテストかあ。僕なら簡単に落っこちちゃいそう」
「今の内だけだよ。俺らの場合は残留する旨を報告して、校長室で面談かな。試験してる間に残留予定の奴が遊びほうけるのは流石にまずいからって事で、派手な活動は自粛しなきゃね。試験にまるで関係ない人は、試験前の一日と試験当日・結果発表までの計六日間がお休み。優兎、たっぷり修行が出来るよ」
「優兎が生き延びてたら、また三人でどっか遊びに行こうぜ!」
アッシュは笑って優兎を勇気づけた。優兎もニコリとする。こう思ってしまうのは悪い事かもしれないけど、卒業試験が終わった後も友達二人とは、また学校で笑い合えているといいなと思った。
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