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【3・優兎の日常 編 (前編)】
6・水面下の攻防と、気の毒な少年①
しおりを挟む連休が明けた日の朝。ジールは自室のドアに鍵をかけて、ふわあと欠伸をした後、魔法台へ向かった。休みで生活リズムが少し狂ったのか、瞼がまだ重い。
魔法台に乗って二階に到着。山積みの箱を乗せた台車を引くエルゥ族に道を譲りつつ、教室へ向かっていると、進行方向上に見知った後ろ姿を発見した。
「おはよう優兎。久し振り!」
駆け寄ったジールは、肩を叩いて話しかけた。
「ああ、おはようジール」 優兎はそう返すと、カルラから借りていた本を持ち直した。
「お、ちゃんとした反応が返ってきた。次会った時、ストレスでおかしくなってシュリープにでもなってたらどうしようかと思ってたけど、心配なさそうだね」
「あはは、そんな大げさな」
教室の出入り口が続く壁とは反対の端に寄り、並んで歩く。次々と生徒が教室へと吸い込まれて行く最中、二人は真っ直ぐ前進する。
「四日間実家で過ごしてたんだよね? 久し振りの帰省はどうだった? ゆっくり出来た?」と優兎。
「まあね。みんな元気にしてたよ」
「お父さんとお母さんと、祖父母、曾祖父母揃って健在で、七人家族なんだっけ。病気の気配もなく過ごしてるって、すごいよなあ」
「それに甘えてる親不孝者と言えるけどね、俺は。案の定、残留し続ける事について突っつかれたけど、手みやげにお菓子と新しい彫刻刀を買っていったら、忘れたように食いついてたよ」 ジールはひひっとイタズラっぽく微笑した。「優兎の方は? 修行は順調?」
「多少なりとは上達したと思うんだけど、どうだろう。一歩進んじゃあ立ち往生しているような気もするし、最近は本当にがむしゃらで。……ああでも、今日は元気だよ! 疲労困憊で倒れて、たっぷり六時間寝られたからね。地面の上で寝ちゃったから、風邪引かないか、そこだけが気掛かりかな。ははっ」
「今のやつ、笑える話だった?」
「そうだ、ジールに聞きたい事があるんだ。フィディアさんから貰った種の事なんだけどさ――」
優兎は種をつぼみの段階まで育てた事を報告した。会話が出来るようになったこと、普通の植物ではないと知ったこと、つぼみがしゃべれるようになってからは、気を効かせたつもりの行動が総じて裏目に出て、うまくいかない事も。水が欲しいと数時間置きに要求され、あまり眠れていないらしい。修行中はベリィの助けを借りて任せているのだが、修行も修行でゴッド級にハードなので、息つく暇がないという。
話を聞いていたジールは、思いがけず優兎の背に何か取り憑いてやしないかと目で探してしまった。
「優兎……きっと前世に相当な悪行を働いたんだね。神様の名を語ってデタラメな宗教を開いたとか、野山をいくつも焼き払ったとか? 御愁傷様」
半分冗談だったが、優兎は「そうだね、償えるように頑張るよ……」と声色を沈ませながら返した。修行も種を貰ったのも自分が発端とは言え、本当に何か見えざる力が働いているんじゃないか、なんて思うところがあるのだ。
「話を戻すけど、ジールは植霊族について何か知ってない?」
「成長過程は確かに植物のそれと似てるって聞くけどね。本来、栄養補給も眠りにつく場所決めも、全部自分で何とか出来る種族だし、自分の事は誰よりも自分が一番よく知ってるみたいだから、わざわざ育てようって物好きは、まずいないんだよね。生半可な優しさで手出ししていいもんじゃないっていうか……そういえば、カサついてるように見えたんだよな、あの種。水以外にも、すっごい無茶苦茶言ったりしてない?」
「無茶苦茶? ――ああ、そう言えばアレはちょっと恥ずかしい要求だったかな」
「アレ?」
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