兵士たちは泥濘にて

こむさん

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スターリングラードの泥濘にて

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1942年の秋、スターリングラード

私、アレクセイ・チェコフは軍から配られた銃を手に落胆したように呟いた

「はぁ、、、ついにこんな日かぁ。」

そんな私に誰かが声をかける

「そんなにシケた顔するなよ、何もまだ死ぬって決まった訳じゃァ無いんだから」

声の主は顔立ちのはっきりとした少し痩せた男、ニコライ・ダーリだった

「やぁニコライ、君は相変わらずだね」

「へへへ、お前は無駄に気負わない奴だなァってよく言われるぜ」

ニコライは私の肩を叩き、ポケットからくしゃくしゃのタバコを二本取り出した。
一本は自分が咥え、そしてもう一本を私に差し出す。

「ほらよアレクセイ。一服でもしとけ。同志スターリンの街を守る前に、腹は満たせなくとも肺を満たしておいたらどうだァ?ドイツ野郎どもが来る前なァ」

私はタバコを受け取り、ニコライが自分のタバコに火をつけたマッチを私に差し出した。
マッチを受け取り、火をつけ、どこか悲しい煙を深く吸い込んだ。
煙が冷たい秋風に溶けていく。街は廃墟と化し、崩れた建物の影から敵の砲声が絶え間なく響いていた。
昨日だけで、隣の小隊が全滅したと聞く。冬が来れば、ヴォルガ川は凍りつき、補給はさらに途絶えるだろう。

「楽観的だな、ニコライ。お前はいつもそうだ。昨日の夜、私の夢で見たよ。お前が笑いながらドイツ兵に突っ込んでいくんだ」

「夢かよォ! そりゃいい夢だぜ。俺は運がいいんだよ、アレクセイ。母親が言ったんだ、『ニコライ、お前は猫みたいに九つの命を持ってる』ってな。実際スペインで三回穴開けられたのに生きてるぜェ」

彼の言葉に、私は苦笑した。ニコライはいつもこうだ。皆が泣くなり母親への手紙を書くなりする中、彼だけが冗談を飛ばす。だが、その瞳の奥には、死の影がちらついているのを俺は知っていた。

「なぁアレクセイ、お前さんは戦争が終わったら何がしたい」

「、、、教師になって子供たちに文学を教えてやりたい。ドストエフスキーやトルストイの世界を」

「へぇ、似合ってるじゃァねぇか!」

ニコライは大きく身振りをして、そう答えた。そんな彼に私は聞き返した。

「そういう君は何をやりたいんだ?」

「俺か。俺はなァ——」

突然、空が裂けるような不気味な音がした。ジェリコのラッパ。急降下爆撃だ!
地面が揺れ、土煙が上がる。私たちは塹壕に身を投げ、銃を握りしめた。

「来たか! アレクセイ、俺の後ろについてこい!」

ニコライが立ち上がり、笑い声を上げながら小銃を構えた。私は少し怯えながらも後に続く。スターリングラードの秋は、死の匂いが濃くなる季節だった。
爆撃の余波が収まると、私たちは廃墟の路地を進んだ。敵の斥候が潜むかもしれない。ニコライが囁く。

「なぁ、アレクセイ。生き残ったら、シベリアの森で熊狩りしようぜ。酒を飲んで、女を抱いてさァ。約束だ」

「約束だよ、ニコライ。だが、まずはこの地獄から抜け出そうか」

「それと、アレクセイ。アンタの授業いつか受けてやるよ。絶対に死ぬんじゃァ無いぜ__先生。」

「ありがとよ、当たり前だ。」

その時、角から銃声が響いた。ドイツ兵のシルエットが三つ。ニコライが先陣を切り、鉛玉を叩きつける。私は援護射撃をし、一人を倒した。弾が飛び交う中、ニコライの笑いが再び聞こえた。

「xaxaxa!ドイツ野郎の脆いこった!」

戦いはまだ始まったばかりだった。私たち二人は、スターリングラードの灰の中で、互いの命を預け合う同志に、友人となった。冬の足音が、近づいていた。
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