異世界転性 ~竜の血脈~

草野猫彦

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第7話 13歳の旅立ち

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 木刀と木剣が真っ向から打ち合い、拮抗する。だが両手持ちの木刀は徐々に力を込められる。
 ライアスは盾を振るってリアを跳ね飛ばそうとしたが、その前にリアは木刀から手を離していた。
 意外な動きに一瞬ライアスの動きが止まる。それは致命的な隙だった。
 懐に潜り込み、剣を持つ手を取る。肩から腹部のプレートメイルにぶち当たると、それに対抗しようと力が入る。

 計算通り!

 次の瞬間、リアの体を中心にライアスは一回転し、背中から地面に叩きつけられていた。
「ぶほっ」
 地面に捨てていた木刀を取り直し、その先を首筋に当てる。間違いなく、リアの勝利であった。
「…いや…まさかあそこで刀を捨てるとは…」
 ライアスはしばらくしてからようやく立ち上がり、複雑な笑みを浮かべた。

 純粋な剣術では、まだライアスには勝てない。だが、対人戦闘という意味では、リアの勝利である。
 この世界は魔物との戦いや戦争での戦闘がメインのため、無手での格闘術、特に投げ技や関節技は発展していない。
 リアは前世では空手二段、柔道二段に加えて、中国拳法や柔術を学んでいた。スキルとしては、体術レベル6である。

 とまれこれで、目標の一つは達成した。



 いつものごとく王城を抜け出したリアは、アガサの店へとやって来た。
「ただいま~」
 王城に住んでいる今も、店へ入る時はいつもこの挨拶だ。店番のフェイと、カウンターの椅子に腰掛けたルルーが顔を向ける。
「おかえりなさい」
 そう返したのはフェイだ。ルルーは柔らかに微笑んでいる。
「ルルー、ライアスに勝ったぞ!」
 リアが自信満々でそう言うと、フェイの方が驚いた。
「王の剣、のライアス様ですか?」
「そうそう。まあ、ようやく一本取ったと言ったところだけどね」
 ルルーの隣に座る。それでカウンターの椅子は満員だ。
「母さんは?」
「店長ならギルドに依頼を出しに行っています」
「それよりリア、ライアス様に勝ったということは…」
 ルルーがおそるおそる尋ねてくる。ここにいる二人は、リアの決意を知っている。ルルーには旅立ちの準備もしてもらっているのだ。
「うん、準備が出来次第、出ていこうと思う」
 ほう、とルルーが溜息をついた。
「それでは明日にでも出発出来ますね」
 ルルーは既に魔法省を辞めている。ここしばらくは、アガサの店を手伝っていた。
 食料をはじめとする旅に必要な品物は、リアが貯めていた小遣いで揃えてくれていた。
 そして、彼女もリアの旅に同行するのだ。

「私が言うのもなんだけど、本当にいいの? ゴブリン退治とかとは訳が違うよ?」
 一度拾って助けたものだ。リアは意思を確認する。
「両親の血でしょうね。あたしも旅に出たいとは思っていました」
 かつて空腹で野垂れ死にしそうになっていたハーフエルフは、随分と立派になっていた。
 確かに旅の仲間としては、ルルーはうってつけの人材である。
 ルーファスの指導を受けた魔法の腕は、国内でもかなりの水準にあるであろう。
 何よりリアにはないものを、彼女は持っている。臆病さとか小心さというものである。

 やがて帰ってきたアガサを交えて、四人は食卓を囲んだ。既に結婚して家庭を持っていたフェイも、この日は特別に店に泊まっていった。



 夜中に王宮に戻ったリアは女官の小言を受けてから、自室に戻る。
 寝室に付属したウォークインクローゼットの扉を開けると、その一面は武器で飾られていた。
 まず用意するのは魔法の袋。この部屋いっぱいの物全てを入れられる、時空魔法のかかった貴重品である。この中に何を入れるか厳選する。

 ドレスの類は全くいらない。貴金属は、換金可能な物は出来るだけ詰めておく。
 王家の紋章が刻印された指輪と短剣を一つだけ所持する。

 問題は武器である。
 この世界、現役で刀剣類が武器として使われているだけあって、鍛冶の技術はきわめて高い。おそらく日本の刀でも、江戸時代以降に作られた数打ちの物では、文字通り太刀打ちできないであろう。
 前世で国宝や重要文化財を鑑賞する機会があったが、刀に関しては古いほど良かった。もちろん実際に斬って確かめたことがあるのは現代刀だけなのだが、古い刀ほど美しく、また実際に試し斬りをした人からも、古い刀ほど良いという話を聞いた。
 鋼の製法や作刀の製法が、秘伝として継承されなかったのが原因であるのだが、リアも前世ではさんざんもったいないと思ったものだ。

 鉄の刀は出来るだけ持っていく。ミスリルで作られた刀も持っていくが、実は強度や粘り、切れ味では鋼の刀の方が優れている場合が多い。ミスリルは魔法に親和性が高い金属なのだ。

 そして刀だけでなく、剣も持っていく。さらには戦鎚、戦斧、槍、ナイフなども、出来るだけ持っていく。
 収集癖はあまりないリアであるが、前世でも武器だけはコレクションしていた。
 死んだことに未練はないが、あの刀剣のコレクションはどうなっただろうか。価値の分かる人間の手に渡ってくれていればいいが。
 特に長曽祢虎徹の名刀は、金だけでは手に入らない物だった。入手して一週間は、にたにた笑いながら鑑賞していたものだ。今思えば我ながら不気味だが、日本刀にはそれだけの魔性があったのだ。



 翌日夜明け前に起床したリアは普段の遠出の格好をして、魔法の袋をたすきがけにした。
 いつものごとく、窓から飛び降りてアナイアスの町並みに入る。大通りの広場に、ロバを連れたルルーが待っていた。その横にはアガサも一緒にいる。

「母さん」
 一声だけかけて抱き合う。
「言っても無駄なんだろうけど、無茶はしないでね。ルルーに迷惑をかけたら駄目よ」
「大丈夫、ルルーが危険になりそうなことはしないから」
 そう、ストッパーとしてルルーは重要な役割を果たしてくれる。むしろそれが主な役割だ。
「二年以内には帰ってくるから」
「手紙は出してね」
「うん」

 互いに手を振り合いながら別れる。夜明けとともに正門が開かれ、二人は行商人たちと紛れてアナイアスを出た。



「さて、では行きますか」
「最初は迷宮都市でしたね?」
 前もってそれは話してある。旅の目的も。
 ちなみに王宮のリアの部屋には、一行の書置きが残してあった。



『私より 強い奴に 会いにいく』
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