「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

文字の大きさ
25 / 107

心清らかな公爵令嬢(タラレッダ視点)

しおりを挟む
「アルダタ、アルダタ!」
 全く、あの美男子の坊やはどこに行ったのかね。

 まさかあの後、マリルノ様と一緒に、向こうのお屋敷まで行ったんじゃなかろうね。
 まぁ客人をもてなすのも仕事のうちだから、マリルノ様が望まれるなら仕方ないことだね。

 私がティーパーティーのお相手をしたのも、あくまで仕事の一環だ……と言いたいところだけれど、あれはさすがにやりすぎだったかもしれないね。

 マリルノ様のお言葉に甘えて、クッキーまで頂いちまった。

 焼いたことは千度あるけれど、口にしたことはほとんどなかったからね。
 あんなにうまいもんかと、思わず自分の腕を褒めたくなっちまったよ。

 まぁ、ペドロル様が購入されている材料が良いってこともあるんだろうけどさ。

 それにしてもマリルノ様は、素晴らしい人だね。私みたいな使用人にも分け隔てなく接してくれてさ。
 このお屋敷に来た客人の中で、あんな人今までいたかい、って話だよ。
 
 そりゃあ身分が違うのだから、お屋敷に来られる方々は、私らみたいな使用人に挨拶する必要もないし名前も覚える必要もない。

 でもね、あたしらだって人間なんだよ。マリルノ様みたいに温かく接してくださったら、そりゃあ嬉しいに決まってるじゃないか。

 だからね……ちょっと心配ではあるんだよ。マリルノ様はちょっと変わったところもあるけれど、あんなにもお優しくて、真っ直ぐなお方だろう? 

 それに対して、ペドロル様。
 
 主人のことを悪く言うのは憚られるけれど、あのお方はちょっと。性格的にもそうだし、何より良くないのは……ここだけの話、彼の女癖の悪さだよ。

 私たちの耳にはいろんな噂が入ってくる。というのも、使用人たちはみんな噂が大好きだからさ。

 それに私らの主たちは、みんな私らをいないものとして扱うだろう? 

 私らは屋根裏にいるネズミと同じ。
 いくら話を聞かれても、ネズミ同士チューチュー鳴くだけだから、何も怖くはないってことだろうよ。

 ペドロル様の女癖の悪さなんて、使用人はみんな知ってるよ。あっちにもこっちにも女を作ってるってね。
 まぁほとんどは遊びなんだろうけどさ。

 でもね、私ら使用人が知っているからって、マリルノ様が知ってらっしゃるとは限らない。だから私、それとなく探ってみたんだ。
「ペドロル様のことはどのように思っておられるのですか?」ってね。

 もちろん出過ぎたことだってのはわかってる。
 でも「身分なんて関係ないわ、話しましょう」なんてお茶に誘われたこと、一度もなかったからね。
 そのくらいのことは聞いてもいいと思ったんだ。

 マリルノ様は案の定、悪いことを一つも言わないんだ。
「自分の意志を強く持たれていて立派」とか、「社交性があって、学園でも友人が多い」とかさ。

 婚約相手が女遊びしてるかもなんて話、ひとつも出てこない。代わりにされるのは、おうちで飼っているワンちゃんの話!
 なんでも、よく散歩で行くお気に入りの場所があって、そこにワンちゃんを連れて行って思い切り遊ぶんだとさ。

 なんだか下世話な私の心まで洗われるような気分になったよ。

 しかし私みたいなもんは、やきもきもするからね。思わずこっちから言い出したくなったくらいさ。
「ペドロル様には、女性のご友人も少なくないんじゃないですか?」ってね。

 もちろんそんなこと、口が裂けても聞けるわけないけどさ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...