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手紙(マリルノ視点)
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しばらく私が落ち着くまで、お母様は一緒にいてくださいました。
それから頃合いを見計らってでしょうか、「ああ、そうでしたね」と何かを思い出したように、私のもとを離れました。
温もりが消えて私は少し寂しい気持ちになったのですが、すぐにお母様は戻って来られて、「先ほど届きましたよ」と私に何かを差し出しました。
手紙……
宛名を見て、どくんと心臓が跳ね上がりました。
アルダタさん……!
「さて」と言って、お母様は立ち上がりました。
「まだ夕食には早いですからね。マリルノ、宿題が出されているなら、部屋で済ませてしまいなさい」
「はい、お母様」
今日が学園のテスト最終日であったことを、お母様はご存知のはずです。
そしてテストが終わったその日に宿題が出されることなんて滅多にありません。
私はお母様の優しさに甘えて、自室にこもりました。
震える指でペーパーナイフを使い、そっと中を傷つけないように封を切ります。
中からは懐かしい筆跡が、しかし以前よりも形が整い、明らかに洗練されているものが現れました。
私はそれを目にすると、さっと手紙を封筒の中に戻しました。
彼の字を見た途端、様々な記憶が蘇ってきて、それだけで胸がいっぱいになったのです。
最後に会った日からまだ十日ほどしか経っていないなんて、ちょっと信じられません。
なんだか随分と昔のことのように感じられます。
婚約解消が無事成立して、まるで夜逃げかのように慌ただしくペドロル様が引っ越された後。
私はアルダタさんと一緒に、ある場所へと向かいました。
その時の御者はいつも良くしてくださっているパージさん……ではなく、アルダタさんの叔父であるダグラスさんでした。
「ただの荷馬車ですから、乗り心地はあまり良くないと思いますが……」
ダグラスさんは申し訳なさそうにそうおっしゃられましたが、幌のついた荷台に乗ったことはありませんでしたから、新鮮で、むしろわくわくしながら乗り込みました。
幌に覆われた荷台の中で、はじめ私とアルダタさんは向かい合って座っていました。
しかし馬車が大きく揺れるたびに、私は跳ねたりよろけたりして体勢を崩してしまいましたから、見兼ねたアルダタさんが「失礼しますね」と言って、私の隣に座ってくださったのです。
彼が隣に来ると、私は急に緊張してしまいました。何か話をするどころか、お顔すら見ることができません。
彼は私に腕を回して、揺れるたび、そっと支えてくださいました。
最初の目的地であったダグラスさんのお家に着いたのは、すっかり夜が更けてからのことでした。
私たちはそこで一泊させてもらい、翌朝また、馬車での旅を続けました。
最終の目的地についたのは、太陽の光が落ち着いて、午後の穏やかな風が吹く頃になってからのことです。
ダグラスさんは私たち二人をその場所に下ろすと、知り合いのところに渡してくる荷があると言って、再び馬車に乗り込みました。
アルダタさんとともに訪れたのは、緑の美しいなだらかな丘でした。
そのてっぺんには、肩を寄せ合うように小さな石碑が並んでいました。そのうちの一つに、アルダタさんのお母様のお名前が記されていました。
アルダタさんがこの場所へ参られると聞き、お供させてくださいと私の方からお願いしたのです。
婚約者との揉め事に関係のないアルダタさん、そしてアルダタさんのお母様を巻き込んでしまった私の、せめてものけじめのつもりでした。
天国にいらっしゃるお母様に祈りを捧げると、私は胸の支えがとれたような心持ちになりました。
それからダグラスさんが戻って来られるまでの間、私とアルダタさんは見晴らしのいいその丘に座って、とりとめのない会話を心ゆくまで楽しみました。
それから頃合いを見計らってでしょうか、「ああ、そうでしたね」と何かを思い出したように、私のもとを離れました。
温もりが消えて私は少し寂しい気持ちになったのですが、すぐにお母様は戻って来られて、「先ほど届きましたよ」と私に何かを差し出しました。
手紙……
宛名を見て、どくんと心臓が跳ね上がりました。
アルダタさん……!
「さて」と言って、お母様は立ち上がりました。
「まだ夕食には早いですからね。マリルノ、宿題が出されているなら、部屋で済ませてしまいなさい」
「はい、お母様」
今日が学園のテスト最終日であったことを、お母様はご存知のはずです。
そしてテストが終わったその日に宿題が出されることなんて滅多にありません。
私はお母様の優しさに甘えて、自室にこもりました。
震える指でペーパーナイフを使い、そっと中を傷つけないように封を切ります。
中からは懐かしい筆跡が、しかし以前よりも形が整い、明らかに洗練されているものが現れました。
私はそれを目にすると、さっと手紙を封筒の中に戻しました。
彼の字を見た途端、様々な記憶が蘇ってきて、それだけで胸がいっぱいになったのです。
最後に会った日からまだ十日ほどしか経っていないなんて、ちょっと信じられません。
なんだか随分と昔のことのように感じられます。
婚約解消が無事成立して、まるで夜逃げかのように慌ただしくペドロル様が引っ越された後。
私はアルダタさんと一緒に、ある場所へと向かいました。
その時の御者はいつも良くしてくださっているパージさん……ではなく、アルダタさんの叔父であるダグラスさんでした。
「ただの荷馬車ですから、乗り心地はあまり良くないと思いますが……」
ダグラスさんは申し訳なさそうにそうおっしゃられましたが、幌のついた荷台に乗ったことはありませんでしたから、新鮮で、むしろわくわくしながら乗り込みました。
幌に覆われた荷台の中で、はじめ私とアルダタさんは向かい合って座っていました。
しかし馬車が大きく揺れるたびに、私は跳ねたりよろけたりして体勢を崩してしまいましたから、見兼ねたアルダタさんが「失礼しますね」と言って、私の隣に座ってくださったのです。
彼が隣に来ると、私は急に緊張してしまいました。何か話をするどころか、お顔すら見ることができません。
彼は私に腕を回して、揺れるたび、そっと支えてくださいました。
最初の目的地であったダグラスさんのお家に着いたのは、すっかり夜が更けてからのことでした。
私たちはそこで一泊させてもらい、翌朝また、馬車での旅を続けました。
最終の目的地についたのは、太陽の光が落ち着いて、午後の穏やかな風が吹く頃になってからのことです。
ダグラスさんは私たち二人をその場所に下ろすと、知り合いのところに渡してくる荷があると言って、再び馬車に乗り込みました。
アルダタさんとともに訪れたのは、緑の美しいなだらかな丘でした。
そのてっぺんには、肩を寄せ合うように小さな石碑が並んでいました。そのうちの一つに、アルダタさんのお母様のお名前が記されていました。
アルダタさんがこの場所へ参られると聞き、お供させてくださいと私の方からお願いしたのです。
婚約者との揉め事に関係のないアルダタさん、そしてアルダタさんのお母様を巻き込んでしまった私の、せめてものけじめのつもりでした。
天国にいらっしゃるお母様に祈りを捧げると、私は胸の支えがとれたような心持ちになりました。
それからダグラスさんが戻って来られるまでの間、私とアルダタさんは見晴らしのいいその丘に座って、とりとめのない会話を心ゆくまで楽しみました。
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