「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

文字の大きさ
72 / 107

熱の記憶(アルダタ視点)

しおりを挟む
ダイナさんは語り始めた。

この世界がどういうものであるか。

高名な哲学者たちはそれをどう捉えているのか。

私たちはなぜ学ぶべきなのか。

何から学び始めればよいのか。


話は多岐にわたった。

そして次々に移り変わった。

私は時間を忘れ、どうしてここにいるのかも忘れ、彼の声に、彼の言葉に聞き入った。

全身の肌の表面に、熱いような、くすぐったいような感触を覚えた。

鳥肌だった。



「では、今日はこのあたりにしよう」

彼がそう言った瞬間、広場が暗くなった。

あれ……と思い、首を傾げると、太陽が沈んでいることに気が付いた。

私は目を見開いた。

それから自然に、笑みがこぼれた。

懐かしい記憶が頭に浮かんできたのだ。



学んで、学んで。気が付くと、窓の外が燃えるような橙に染まっている。

マリルノ様の、穏やかな表情。

「アルダタさんの集中力は素晴らしいです」

あのとき私は、「時間を忘れる」という経験の幸福さを知った。

何にも代えがたい、喜びにあふれた感覚だった。

だから好きになった。

学ぶということを。

自分が知らなかったことを知るという行動を。

そしていつの間にか、その好きは広がった。

目の前で楽しそうに教えてくれる彼女に対して、私の好意は抗いがたく広がっていったのだ。

そんな記憶が私の頭に浮かんできた。



「なににやにやしてるんだ?」

隣を見ると、怪訝そうな顔をしたジョルジュの顔があった。

私はいっぺんに、「自分は使節団の一員だ」という意識を取り戻した。

「いえ」と言って、私は首を振った。

「ふぅん。おっ、まだ何かあるのか?」

ジョルジュは私に興味を失うと、前の方を指差して言った。

人々が、ダイナさんの周りに集まっている。

レピシ団長が立ち上がった。

「我々も行こう。彼に何か聞けるかもしれん」

そう言って、人混みに向かって行く。

立ち上がり追いかけようとした私の腕を、ジョルジュが掴んだ。

「ちょっと待てよ……」

真剣な表情で、ジョルジュは鼻をすんすんとやった。

「何かいい匂いしない?」

つくづく憎めない陽気さだなぁと、私は笑った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...