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スキル検証もほどほどに
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「えっ?! 明日街を出るの?!」
冒険者ギルドの中にエレナさんの声が響く。
その声につられて何人もの視線が集まるのを感じる。大したことじゃないので、こっち見ないでください……
「はい。なので今日はその準備と、お世話になった人に挨拶だけでも、と思いまして」
「それでも急すぎない?」
「まあ、ちょっと屋敷にいるのも疲れましたし。かと言って宿屋だと迷惑かけちゃうかもしれないので……それなら、ほとぼりが冷めるまではブラブラしてようかなぁ、と思いまして」
私の説明で納得してくれた様子のエレナさんだけど、まだ引き留めたそうにしている。
たしかに急に決めたから驚くのも無理はないよね。
屋敷の生活自体は慣れてきたんだけど、さすがに毎日のようにカイラスに絡まれるのは疲れる。
相手にする気はないのだけれど、ふらりと現れては横でずっとグチグチ言ってくるのだ。正直なところ気が滅入る。
いつかカッとなって殴ってしまいそうだよ。
領主夫妻のいる所では大人しいので、ヒラミーさん経由で話を聞いているだけだから小言で済ませているのだと思う。
そんな事もあってアルクーレの街を出ようかな、と考えたわけなんだよ。
思い立ったが吉日と言うからね! まぁ、街出るのは明日なんだけど。
そして私は冒険者ギルド、日向亭、門番の詰所に行って知り合いに挨拶をしてから、日持ちする食料を買い込んだ。
アルクーレの街に辿り着くまでの道のりを旅と言うつもりはないけれど、食べ物の確保ができなくて困ったからね。
今回はきちんと用意しますとも!
領主様の屋敷に帰った私は、明日アルクーレの街を発つ事を領主夫妻に伝えると夕食に誘われた。
「シラハちゃんが居なくなると私も寂しいわ……」
「二度と帰ってこないわけじゃないので、お土産を楽しみにしててください」
私とファーリア様が食事をしながらにこやかに話をしていると、テーブルの向かいに座っていたバカ次男が鼻で笑う。
「貴族である俺に献上できるような物をお前が買えるのか?」
「貴方に渡すつもりはないですけど」
「は? この屋敷に滞在させてもらっておいて礼の一つも返せないとか、所詮は平民か……」
「カイラスやめろ」
領主様が諫めるが私の肩を持った事が、カイラスには不快だったようだ。
「そうではないですか父上! コイツは人の好意に甘えるだけの穀潰しだ!」
「領主夫妻には手土産の一つも買ってくるつもりですけど、屋敷に滞在するにあたって貴方のお世話にはなっていないので礼を尽くす必要が感じられません。そもそも、私は冒険者稼業をしていますし、穀潰しは貴方の方ではないのですか?」
「貴様……」
カイラスが顔を真っ赤にして私を睨む。ホントに面倒なヤツだなこの人。
「あの、領主様」
「なんだ?」
領主様がこめかみを押さえながら返事をする。もう食事をする雰囲気じゃないよね。なんでこの人を同席させたのさ。
「失礼ですが、まともな会話が成り立っている気がしないんですけど、彼は薬物を使ってはいないんですよね?」
「この無礼者が!」
カイラスが怒鳴り、目の前の料理をぶち撒けながら立ち上がる。唾でも飛んできそうな勢いだよ。
そして領主夫妻とハサウェル様がまさか、という顔をする。根拠があるわけじゃないんだけどね。
「シラハは匂いで分かるんじゃなかったのか?」
「分かりますけど、彼は香水の類を頭から被ってるんじゃないかってくらい、匂いがキツいので分からないんですよ」
正直なところ近くにいてほしくはないくらいに匂いがキツい。というか臭い。
少量なら良い匂いなんだろうけどね。これは【獣の嗅覚】の弊害だよね。
「カイラス!」
領主様が名前を呼ぶが怒り狂った様子のカイラスは返事をしない。食堂に配置されていた護衛の人も手を出すべきか迷っている感じだ。
「お前は目障りだ! この屋敷から出て行け!」
カイラスが叫びながらテーブルを乗り越えて私に殴りかかってくる。
その拳は私の顔を狙っているのが分かった。
(女の子の顔を狙うとか最低だね……)
私は呆れながらもカイラスの拳が私の額に当たるように調整する。領主様やハサウェル様は止せ! と叫んでいるが止まりはしないだろうね。
そして私は【竜気】を発動させてカイラスの拳を受ける。
(っ! いったぁ…… 【竜気】使っても、やっぱり痛いや……)
とは言っても、相手との体格差を考えれば殴り倒されても不思議ではないんだけどね。
カイラスはと言うと私を殴ってニヤリと笑っている。相手は一応貴族だからね、ここまでやれば領主様も許してくれるでしょ。
額に打ちつけられた拳を、私は左手で掴んで力を込めた。
「ぐぁ!」
メキリと骨が軋む音がした。折れてはいないと思うけど痛みはあるはずだ。
カイラスは痛みに耐えかねて跪く。
「一発は一発です。歯を食いしばってください」
私は右手を握り締めて拳を作る。
「や、やめ……」
カイラスが何かを言いかけるが私は止まらない。
そして跪いたカイラスの顔に目掛けて拳を振り抜いた。
「がっ!」
短くあがった呻き声とともにカイラスが吹き飛ぶ。
吹き飛んだ際に壁に当たって、なんか高そうな壺が床に落ちて割れたけど気にしない。私悪くない。正当防衛だよ。
食堂がシンと静まる。
カイラスを煽った自覚はあるけど、領主様はどう思うのかな?
そろりと周囲を見渡せば、皆が私を見ていた。
(ヤバい……。やり過ぎたかな……)
今の状況を不安に思っているとファーリア様が駆け寄ってきた。
「大丈夫シラハちゃん?!」
ファーリア様はハンカチを取り出すと私の額に当てる。
怒ってない?
「ヒラミーすぐに冷やした布を持ってきて!」
「わかりました!」
ヒラミーさんが慌てて食堂を出ていく。
カイラスの方には領主様とハサウェル様がいて、気絶しているカイラスを護衛の人が抱えている。
私はオロオロしているファーリア様の顔を覗き込みながら口を開いた。
「あの……、怒らないんですか?」
ファーリア様は一瞬、何を言われたのか分からないような顔をしたが、すぐに首を横に振った。
「あれはカイラスが悪いわ。何度注意してもシラハちゃんに突っ掛かるのだもの、むしろ怒られるのは私達の方よ」
「そういうものですか」
そんなやり取りをしていると、ヒラミーさんが濡れた布を持ってきてくれた。実のところ痛かったのは最初だけで、もう痛くなかったりしちゃう。
あ、ひんやりしてて気持ちいい……
その間にカイラスは食堂から連れ出された。
あとのことは領主夫妻に任せよう。
「ところでシラハ、さっき言ってた事は本当か?」
「なんの事ですか?」
出て行ったと思った領主様が私のところにやって来る。いきなり何を言っているのだろうか。
「さっき言っていただろう。カイラスが薬物をやっているのではないか…と。あれは、つまりカイラスが魔薬を使っているかもしれないのだろう?」
「ああ、それですか。先程も言いましたけど分かりませんよ? ただ今まで絡んできた中毒者があんな感じだったので確認しただけです」
「そうか……」
気になるのならカイラスの部屋を調べたり、押収した魔薬を確認すればいいのだから、これ以上私が口を出す必要はないだろうね。
仮にカイラスが魔薬を使っていたら、領主にとっては醜聞なのだから私が知る必要は無いと思う。
夕食は中途半端になってしまったけど、もう食事をする気にもならなかったので、お風呂に入ることにした。
「はぁ~~……」
お湯に浸かると深い溜息を吐く。
大きなお風呂に入れるのは領主様の屋敷に滞在する特権みたいなものだけど、面倒事が私に寄ってくるのは困る。
旅に出たら当分はお風呂もお預けだね。
入浴する時は私一人にして貰っている。
最初はヒラミーさんも付いてきていたのだけど、人に身体を洗われるのはむず痒くて堪らない。
ヒラミーさんは残念そうにしていたけど、そこは譲れない。
なら代わりにファーリア様が一緒に入るとか言い出したけど、それも丁重に断った。油断も隙もあったもんじゃない。
私はお風呂に浸かっていると、ふと【潜水】スキルを思い出した。
「そうだよ、【潜水】も検証できてないじゃん」
【潜水】は手に入れたはいいが、水辺は魔物がいる事が多かった為、水を飲んだり手早く水浴びをしたりと検証する程の時間が取れていなかったのだ。
なら街を出る前に調べられるなら調べるべきだ。
私は再度【潜水】の説明を確認する。
【潜水】泳ぎと水中での息を止めておく時間にプラス補正。
「そっか、これは割と説明がしっかりしてたね」
ただ、浴槽は私が手足を伸ばしても問題ないくらいには広いが、泳げるほどではない。
なので調べられるのは息を止めていられる時間だけだ。
私はそれだけでも十分かと思い、お湯にプカプカと浮かびながら引っくり返る。
時間を計れる物がないので、おおよそになってしまうが、それは仕方ないね。
五分くらいは経ったかな? まだ余裕がありそうだな……
いずれは水中で呼吸できるようになったらいいなぁ、とか思っていると、どこからか悲鳴が聞こえた。近い!
私がザパリとお湯から顔を出すとヒラミーさんが真っ青な顔をして立っていた。あ、察し……
今の悲鳴はヒラミーさんだね。悲鳴が近いはずだよ。
「シ、シラハ様。ご無事ですか?!」
「あ、はい。この通り無事です」
「良かったです……。浴室が静かになってもシラハ様が出ていらっしゃらないので、様子を見てみれば湯船に浮かんでいて、わたくし心臓が止まってしまうかと思いました……」
「あはは……ごめんなさい」
「大事なければ問題ありません」
もう少し【潜水】の検証をしたかったけど、騒がれちゃったのなら仕方ないね。
スキル検証はここまでにして、お風呂から上がるとしますかね。
すると、いくつかの足音が近付いてくるのが聞こえ、領主夫妻とハサウェル様が浴室に飛び込んできた。
「何事だ!」
「大丈夫?! シラハちゃん!」
領主様とファーリア様が声をあげながら私へと視線を向けた。ここは浴室なので私は当然、裸だ。
ファーリア様は恐ろしく素早い動きで領主様とハサウェル様の顔を鷲掴んだ。
「二人とも見ちゃ駄目でしょ!」
「「ぎゃああぁ……!」」
二人から悲鳴が上がる。
ファーリア様って動きも早いし握力も相当なんだね。人って見かけによらないね……
私はヒラミーさんからタオルを貰って身体を拭き始める。
こんな貧相な身体を見て喜ぶ人なんているのかな。
そんなこと言ったらファーリア様とヒラミーさんに怒られちゃうのは目に見えているので口には出さないけどね。
私が服を着て部屋に戻ってくると、領主様とハサウェル様が土下座させられていた。
その目の前には腰に手を当てて立っているファーリア様。
この世界にも土下座があるんだね。
「ほら、シラハちゃんに伝えること、あるよね?」
ファーリア様が怖い。有無を言わせない迫力があるよ。
「嫁入り前の娘の裸を覗こうなんて万死に値するわ」
覗こうとしたわけじゃないと思うんだけどね……
「シラハ、済まなかった……」
「許して欲しい、この通りだ」
二人が謝罪の言葉を述べるとファーリア様が私の方を見る。
「シラハちゃん。この二人は煮ても焼いてもいいから好きにしてちょうだい」
「いえ、私の方こそお騒がせしてすみませんでした」
「シラハちゃんが謝る必要はないわ! 裸を見られたんだからお金を取ってもいいくらいよ!」
「さすがにそれは……」
正直、二人に土下座されても困るので曖昧に笑っておく。
するとファーリア様も困った表情になりながら私の頬を撫でる。
「シラハちゃんは女の子なんだから、もう少し自分を大事にしなさいね」
「はい……」
似たような事を以前ヒラミーさんにも言われたね。私の意識が変わってないから早々に変えられる物じゃないけど、気を付けないとね。
そうしないと領主様のような被害者が出かねない。
教訓。人のいる場所でのスキル検証は良くない、だね!
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
ルーク「ハァ……ファーリアは怒ると怖いな」
セバス「ラッキースケベでしたね、旦那様」
ルーク「嬉しくないわ!」
ファーリア「あら、シラハちゃんの裸を見て嬉しくないとか……。どうしてくれようかしら?」
ルーク「シラハの裸を見て喜ぶのは、お前だけだろ……」
セバス「旦那様。幼女は愛でて楽しむものですぞ」
ルーク「どん引きだよ……」
冒険者ギルドの中にエレナさんの声が響く。
その声につられて何人もの視線が集まるのを感じる。大したことじゃないので、こっち見ないでください……
「はい。なので今日はその準備と、お世話になった人に挨拶だけでも、と思いまして」
「それでも急すぎない?」
「まあ、ちょっと屋敷にいるのも疲れましたし。かと言って宿屋だと迷惑かけちゃうかもしれないので……それなら、ほとぼりが冷めるまではブラブラしてようかなぁ、と思いまして」
私の説明で納得してくれた様子のエレナさんだけど、まだ引き留めたそうにしている。
たしかに急に決めたから驚くのも無理はないよね。
屋敷の生活自体は慣れてきたんだけど、さすがに毎日のようにカイラスに絡まれるのは疲れる。
相手にする気はないのだけれど、ふらりと現れては横でずっとグチグチ言ってくるのだ。正直なところ気が滅入る。
いつかカッとなって殴ってしまいそうだよ。
領主夫妻のいる所では大人しいので、ヒラミーさん経由で話を聞いているだけだから小言で済ませているのだと思う。
そんな事もあってアルクーレの街を出ようかな、と考えたわけなんだよ。
思い立ったが吉日と言うからね! まぁ、街出るのは明日なんだけど。
そして私は冒険者ギルド、日向亭、門番の詰所に行って知り合いに挨拶をしてから、日持ちする食料を買い込んだ。
アルクーレの街に辿り着くまでの道のりを旅と言うつもりはないけれど、食べ物の確保ができなくて困ったからね。
今回はきちんと用意しますとも!
領主様の屋敷に帰った私は、明日アルクーレの街を発つ事を領主夫妻に伝えると夕食に誘われた。
「シラハちゃんが居なくなると私も寂しいわ……」
「二度と帰ってこないわけじゃないので、お土産を楽しみにしててください」
私とファーリア様が食事をしながらにこやかに話をしていると、テーブルの向かいに座っていたバカ次男が鼻で笑う。
「貴族である俺に献上できるような物をお前が買えるのか?」
「貴方に渡すつもりはないですけど」
「は? この屋敷に滞在させてもらっておいて礼の一つも返せないとか、所詮は平民か……」
「カイラスやめろ」
領主様が諫めるが私の肩を持った事が、カイラスには不快だったようだ。
「そうではないですか父上! コイツは人の好意に甘えるだけの穀潰しだ!」
「領主夫妻には手土産の一つも買ってくるつもりですけど、屋敷に滞在するにあたって貴方のお世話にはなっていないので礼を尽くす必要が感じられません。そもそも、私は冒険者稼業をしていますし、穀潰しは貴方の方ではないのですか?」
「貴様……」
カイラスが顔を真っ赤にして私を睨む。ホントに面倒なヤツだなこの人。
「あの、領主様」
「なんだ?」
領主様がこめかみを押さえながら返事をする。もう食事をする雰囲気じゃないよね。なんでこの人を同席させたのさ。
「失礼ですが、まともな会話が成り立っている気がしないんですけど、彼は薬物を使ってはいないんですよね?」
「この無礼者が!」
カイラスが怒鳴り、目の前の料理をぶち撒けながら立ち上がる。唾でも飛んできそうな勢いだよ。
そして領主夫妻とハサウェル様がまさか、という顔をする。根拠があるわけじゃないんだけどね。
「シラハは匂いで分かるんじゃなかったのか?」
「分かりますけど、彼は香水の類を頭から被ってるんじゃないかってくらい、匂いがキツいので分からないんですよ」
正直なところ近くにいてほしくはないくらいに匂いがキツい。というか臭い。
少量なら良い匂いなんだろうけどね。これは【獣の嗅覚】の弊害だよね。
「カイラス!」
領主様が名前を呼ぶが怒り狂った様子のカイラスは返事をしない。食堂に配置されていた護衛の人も手を出すべきか迷っている感じだ。
「お前は目障りだ! この屋敷から出て行け!」
カイラスが叫びながらテーブルを乗り越えて私に殴りかかってくる。
その拳は私の顔を狙っているのが分かった。
(女の子の顔を狙うとか最低だね……)
私は呆れながらもカイラスの拳が私の額に当たるように調整する。領主様やハサウェル様は止せ! と叫んでいるが止まりはしないだろうね。
そして私は【竜気】を発動させてカイラスの拳を受ける。
(っ! いったぁ…… 【竜気】使っても、やっぱり痛いや……)
とは言っても、相手との体格差を考えれば殴り倒されても不思議ではないんだけどね。
カイラスはと言うと私を殴ってニヤリと笑っている。相手は一応貴族だからね、ここまでやれば領主様も許してくれるでしょ。
額に打ちつけられた拳を、私は左手で掴んで力を込めた。
「ぐぁ!」
メキリと骨が軋む音がした。折れてはいないと思うけど痛みはあるはずだ。
カイラスは痛みに耐えかねて跪く。
「一発は一発です。歯を食いしばってください」
私は右手を握り締めて拳を作る。
「や、やめ……」
カイラスが何かを言いかけるが私は止まらない。
そして跪いたカイラスの顔に目掛けて拳を振り抜いた。
「がっ!」
短くあがった呻き声とともにカイラスが吹き飛ぶ。
吹き飛んだ際に壁に当たって、なんか高そうな壺が床に落ちて割れたけど気にしない。私悪くない。正当防衛だよ。
食堂がシンと静まる。
カイラスを煽った自覚はあるけど、領主様はどう思うのかな?
そろりと周囲を見渡せば、皆が私を見ていた。
(ヤバい……。やり過ぎたかな……)
今の状況を不安に思っているとファーリア様が駆け寄ってきた。
「大丈夫シラハちゃん?!」
ファーリア様はハンカチを取り出すと私の額に当てる。
怒ってない?
「ヒラミーすぐに冷やした布を持ってきて!」
「わかりました!」
ヒラミーさんが慌てて食堂を出ていく。
カイラスの方には領主様とハサウェル様がいて、気絶しているカイラスを護衛の人が抱えている。
私はオロオロしているファーリア様の顔を覗き込みながら口を開いた。
「あの……、怒らないんですか?」
ファーリア様は一瞬、何を言われたのか分からないような顔をしたが、すぐに首を横に振った。
「あれはカイラスが悪いわ。何度注意してもシラハちゃんに突っ掛かるのだもの、むしろ怒られるのは私達の方よ」
「そういうものですか」
そんなやり取りをしていると、ヒラミーさんが濡れた布を持ってきてくれた。実のところ痛かったのは最初だけで、もう痛くなかったりしちゃう。
あ、ひんやりしてて気持ちいい……
その間にカイラスは食堂から連れ出された。
あとのことは領主夫妻に任せよう。
「ところでシラハ、さっき言ってた事は本当か?」
「なんの事ですか?」
出て行ったと思った領主様が私のところにやって来る。いきなり何を言っているのだろうか。
「さっき言っていただろう。カイラスが薬物をやっているのではないか…と。あれは、つまりカイラスが魔薬を使っているかもしれないのだろう?」
「ああ、それですか。先程も言いましたけど分かりませんよ? ただ今まで絡んできた中毒者があんな感じだったので確認しただけです」
「そうか……」
気になるのならカイラスの部屋を調べたり、押収した魔薬を確認すればいいのだから、これ以上私が口を出す必要はないだろうね。
仮にカイラスが魔薬を使っていたら、領主にとっては醜聞なのだから私が知る必要は無いと思う。
夕食は中途半端になってしまったけど、もう食事をする気にもならなかったので、お風呂に入ることにした。
「はぁ~~……」
お湯に浸かると深い溜息を吐く。
大きなお風呂に入れるのは領主様の屋敷に滞在する特権みたいなものだけど、面倒事が私に寄ってくるのは困る。
旅に出たら当分はお風呂もお預けだね。
入浴する時は私一人にして貰っている。
最初はヒラミーさんも付いてきていたのだけど、人に身体を洗われるのはむず痒くて堪らない。
ヒラミーさんは残念そうにしていたけど、そこは譲れない。
なら代わりにファーリア様が一緒に入るとか言い出したけど、それも丁重に断った。油断も隙もあったもんじゃない。
私はお風呂に浸かっていると、ふと【潜水】スキルを思い出した。
「そうだよ、【潜水】も検証できてないじゃん」
【潜水】は手に入れたはいいが、水辺は魔物がいる事が多かった為、水を飲んだり手早く水浴びをしたりと検証する程の時間が取れていなかったのだ。
なら街を出る前に調べられるなら調べるべきだ。
私は再度【潜水】の説明を確認する。
【潜水】泳ぎと水中での息を止めておく時間にプラス補正。
「そっか、これは割と説明がしっかりしてたね」
ただ、浴槽は私が手足を伸ばしても問題ないくらいには広いが、泳げるほどではない。
なので調べられるのは息を止めていられる時間だけだ。
私はそれだけでも十分かと思い、お湯にプカプカと浮かびながら引っくり返る。
時間を計れる物がないので、おおよそになってしまうが、それは仕方ないね。
五分くらいは経ったかな? まだ余裕がありそうだな……
いずれは水中で呼吸できるようになったらいいなぁ、とか思っていると、どこからか悲鳴が聞こえた。近い!
私がザパリとお湯から顔を出すとヒラミーさんが真っ青な顔をして立っていた。あ、察し……
今の悲鳴はヒラミーさんだね。悲鳴が近いはずだよ。
「シ、シラハ様。ご無事ですか?!」
「あ、はい。この通り無事です」
「良かったです……。浴室が静かになってもシラハ様が出ていらっしゃらないので、様子を見てみれば湯船に浮かんでいて、わたくし心臓が止まってしまうかと思いました……」
「あはは……ごめんなさい」
「大事なければ問題ありません」
もう少し【潜水】の検証をしたかったけど、騒がれちゃったのなら仕方ないね。
スキル検証はここまでにして、お風呂から上がるとしますかね。
すると、いくつかの足音が近付いてくるのが聞こえ、領主夫妻とハサウェル様が浴室に飛び込んできた。
「何事だ!」
「大丈夫?! シラハちゃん!」
領主様とファーリア様が声をあげながら私へと視線を向けた。ここは浴室なので私は当然、裸だ。
ファーリア様は恐ろしく素早い動きで領主様とハサウェル様の顔を鷲掴んだ。
「二人とも見ちゃ駄目でしょ!」
「「ぎゃああぁ……!」」
二人から悲鳴が上がる。
ファーリア様って動きも早いし握力も相当なんだね。人って見かけによらないね……
私はヒラミーさんからタオルを貰って身体を拭き始める。
こんな貧相な身体を見て喜ぶ人なんているのかな。
そんなこと言ったらファーリア様とヒラミーさんに怒られちゃうのは目に見えているので口には出さないけどね。
私が服を着て部屋に戻ってくると、領主様とハサウェル様が土下座させられていた。
その目の前には腰に手を当てて立っているファーリア様。
この世界にも土下座があるんだね。
「ほら、シラハちゃんに伝えること、あるよね?」
ファーリア様が怖い。有無を言わせない迫力があるよ。
「嫁入り前の娘の裸を覗こうなんて万死に値するわ」
覗こうとしたわけじゃないと思うんだけどね……
「シラハ、済まなかった……」
「許して欲しい、この通りだ」
二人が謝罪の言葉を述べるとファーリア様が私の方を見る。
「シラハちゃん。この二人は煮ても焼いてもいいから好きにしてちょうだい」
「いえ、私の方こそお騒がせしてすみませんでした」
「シラハちゃんが謝る必要はないわ! 裸を見られたんだからお金を取ってもいいくらいよ!」
「さすがにそれは……」
正直、二人に土下座されても困るので曖昧に笑っておく。
するとファーリア様も困った表情になりながら私の頬を撫でる。
「シラハちゃんは女の子なんだから、もう少し自分を大事にしなさいね」
「はい……」
似たような事を以前ヒラミーさんにも言われたね。私の意識が変わってないから早々に変えられる物じゃないけど、気を付けないとね。
そうしないと領主様のような被害者が出かねない。
教訓。人のいる場所でのスキル検証は良くない、だね!
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後書き
ルーク「ハァ……ファーリアは怒ると怖いな」
セバス「ラッキースケベでしたね、旦那様」
ルーク「嬉しくないわ!」
ファーリア「あら、シラハちゃんの裸を見て嬉しくないとか……。どうしてくれようかしら?」
ルーク「シラハの裸を見て喜ぶのは、お前だけだろ……」
セバス「旦那様。幼女は愛でて楽しむものですぞ」
ルーク「どん引きだよ……」
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