とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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祝福持ち

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 Dランクの魔物エアーハントは、私達の方へ目掛けて飛んで来ている。
 鷲のような姿で翼を広げると、とても大きく見える。私より大きいね。比べるのもあれだけど。

 エアーハントは私達の上空で旋回を始めたかと思うと、突如として急降下してきた。

 三人は慌てた様子もなく構えて、フィッツさんが矢を放つ。
 しかし、放たれた矢はエアーハントの目の前で弾かれるようにして軌道を逸らし、そのまま落下した。

(明らかに可笑しな動きだった。という事はエアーハントが防いだって事か……)

 魔物は空を飛べるうえに、対空手段に対する備えがあるなんて厄介だね。

 それでもフィッツさんは矢を放ち続けるが、いくつかの外した矢以外は全て弾かれていた。
 このままでは三対三で厳しい戦いになるのでは、と思った時だった。

「グェッ?!」

 一本の矢がエアーハントに刺さった。

(今の矢、どこから飛んできたの……?)

 私が不思議に思っている間に、矢が刺さり怯んだエアーハントの眉間をフィッツさんの矢が貫いた。
 これで残り二体だね。

 疑問は残るけど、とりあえずは目の前の敵だね。
 エアーハントが近くまでくると、フィッツさんは矢ではなく短剣を右手に持ち替えていた。
 なるほど遠近で武器を使い分けてるんだね。

 他の冒険者の戦いなんて見ないから、勉強になるね。
 私でも弓とか使えるかな。

 視線を移すとリィナさんは槍、デュークさんは剣を持って構えていた。
 立ち位置からすると、一人一匹ずつ相手にするみたいだね。
 そして、フィッツさんがフォローってところかな?

 エアーハントは急降下した勢いもそのままに二人を嘴で突こうとする。

 しかし二人は避けずに攻撃を仕掛ける。

 エアーハントはリィナさん達の攻撃を体を捻って回避する。アクロバティック飛行を見せられてる気分だね。

 エアーハント達は低空飛行のまま旋回して、再度二人に向かっていく。
 速いうえに飛んでるとやり難いね。

「フィッツはリィナの援護を頼む! そっちを倒したら手伝ってくれ!」
「わかった!」

 デュークさんが指示を出す。見栄を張って一人で倒す事に拘ったりはしないんだね。本当にいいパーティーだと思う。

 それにしても私も何かしたいところだけど、三人の連携を見てると手を出し辛いね……。

 エアーハントは素早くてリィナさんとフィッツさんの二人がかりでも捉えきれない。

 そして何度目かの旋回を行い、エアーハントがリィナさん達に向かって来た時、いつもと違う動作を行った。

 エアーハントが二人に向けて羽を向けたのだ。

「まずっ!」

 慣れた動きからの突然の変化についていけなかった二人は反応が遅れていた。

 それでもフィッツさんがリィナさんを突き飛ばし、フィッツさんもその勢いで狙われた場所から離れる事ができていた。

 その二人の間に強い風が通り過ぎたのが分かった。ただ目で見て分かるものではないので、その威力が分からない。

 そして突き飛ばされ尻餅をついているリィナさんにエアーハントが狙いを定めた。
 
(不味い!)

 特に手があるわけではないが、私は走りだした。

 エアーハントが翼を大きく広げてリィナさんに向けた。

「リィナ!」

 フィッツさんが焦った様に叫ぶ。

「あ……」

 リィナさんの口から声が漏れた。

 私は迫りくる風とリィナさんの間に割って入り、リィナさんを抱き抱えた。

(【竜気】【竜鱗(剣)】!)

 私はリィナさんを庇うと同時にスキルを使用する。

 とにかく身を守れるようにと【竜鱗(剣)】をローブの内側へと出現させると全身に衝撃が走った。

「っ!!」

 体が浮いたのが分かり、吹き飛ばされたのだと理解した。

 そして地面に落ちると何度か跳ねながら転がり、止まる。

「シラハ!」

 勢いが止まると、リィナさんが私の体を退かして起き上がり名前を呼ぶ。

「いやー……ビックリしましたね」
「へ?」

 私がむくりと体を起こして、そう言うとリィナさんが間の抜けた声をだす。
 パチクリと目を瞬いていたリィナさんだが、少しの間を置いて私の体を触りだした。いやん

「だ、大丈夫なの?」
「ちょっと目が回りましたけど、なんともないです。それより魔物の注意が外れたみたいですし、フィッツさんに加勢した方がいいんじゃないです?」
「あっ」

 状況を思い出したのかリィナさんが、すぐさま立ち上がる。

「これ、飲んでおいてね!」

 リィナさんは私に体力回復薬を渡すと走っていった。
 私は受け取った体力回復薬を飲みながら戦いを眺めるが、リィナさんが復帰してからは早かった。

 近接戦闘では分が悪いフィッツさんは、エアーハントの攻撃を避けているだけだったけど、死角から投擲したリィナさんの槍がエアーハントを撃ち落として、それをフィッツさんが仕留めていた。
 気が付いていない攻撃は防げないみたいだね。

 
 ずっと一人で戦っていたデュークさんは、擦り傷を負いはしていたけど三人の攻撃を受けたエアーハントは敢えなく撃沈した。

 エアーハントを倒した三人に私が駆け寄ると、リィナさんとフィッツさんに心配された。

「ちょっとシラハ! 体力回復薬を飲んだからって、すぐに動いちゃダメでしょ!」
「そうだよ。君はおじさんの所で休んでてくれ」
「はぁい……」

 剥ぎ取りとか手伝おうと思ったんだけどなぁ……。

「回復薬って、なんだ怪我でもしたのか?」
「実はね――」

 デュークさんは私がリィナさんを庇った事に気が付いてないみたいだった。戦闘中だったしね。

 私が馬車に着くと中からカルロさんが顔を出してきた。

「お嬢ちゃん大丈夫か?」

 不安そうな顔で私の体調を気遣ってくれる。たぶん、私が吹き飛ばされたのを見たのかな?
 私は問題が無いと分かるように体を軽く動かしてみる。

「見ての通りなんともないんですけど、休んでいるように言われちゃいました」
「そうか……」

 私の様子を見て、少しホッと息を吐いたカルロさん。私は心配かけてばかりだなぁ……。

「フィッツが叫んだから何だと思ったら、お嬢ちゃんがリィナと一緒に吹き飛んでいたから肝が冷えたよ」
「ご心配をおかけしました」
「いやいや。それよりリィナを助けてくれて、ありがとう」

 私達が馬車の中で話をしていると、三人が戻ってくる。

 そしてデュークさんが私に近づいてきた。

「リィナを庇ってくれたんだってな! ありがとよ!」

 デュークさんは笑いながら私の背中をバシバシと叩いてくる。もうちょっと加減してくれないかな……。悪気がないから怒りにくいよ。

 そこにリィナさんがやって来てデュークさんに蹴りを入れる。

「あだっ。何すんだよリィナ」
「シラハは怪我人なんだから乱暴しないの!」
「えぇ……。俺も怪我してんだけど」
「デュークのは唾でもつけとけば治るよ」
「ひでぇ!」

 デュークさんの扱い雑だなぁ……。わかる気もするけど、悪い人ではないんだよねぇ。

 その後は、リィナさんが男三人を御者台に追いやって、荷台を閉め切った中で私は服を脱がされた。
 別に変な事してる訳じゃないよ。

 リィナさんが私の怪我の具合を診ると言ったので、それに従ってるだけだよ。

「ホントに怪我らしい怪我はしてないわね……。驚いた」
「当たりどころが良かったんですかね。それよりリィナさんは大丈夫なんですか? 直撃はしなかったけど一緒に吹き飛ばされましたし……」
「私も目は回ったけど、それくらいね。以前にフィッツが吹き飛ばされた時は丸一日動けなかったから、凄く焦ったわ」

 なるほど、あの時フィッツさんが凄く焦ってたのは心配だけじゃなくて、その時の事を思い出していたのかもね。
 
 私も咄嗟に庇いはしたけど、危なかったかもしれない。今回は大した怪我もなくて良かったよ。

「それよりシラハは防具は手甲と脛当てしかつけてないの? さすがに軽装過ぎない?」
「ちょっと前に胸当て壊れちゃいまして……」
「とは言え、何もないのはどうなのよ……」

 リィナさんに呆れられる。
 以前、変な薬をかけられて胸当てが壊れてから修理をしようとは思ったんだけどね。
 スキルの【竜鱗(剣)】が防御にも使えるかもって分かったら、防具って邪魔かなーとか考えちゃったんだよ。
 
 もしもの事を考えると必要だとは思うけどね。

「あ、そう言えばリィナさんって目がいいんですか?」

 私は服を着ながらリィナさんに聞いてみる。ただの興味本位なので、別に答えてくれなくてもいいんだけどね。
 しかし、リィナさんは嫌な顔一つしなかった。

「ん? ああ、もしかして魔物が来た時の事?」
「はい、それです。凄く遠いのに見えてたみたいですし」
「それはね、私が遠見の祝福ギフトを持っているからだよ」
「祝福……」

 私、初めて祝福持ちの人に会ったよ。いいなぁ、憧れちゃうよ……。

「私のは遠くが見えるだけなんだけどね」
「でも、あるだけいいじゃねえかよ」

 それまで、ずっと御者台に居たデュークさんが幌の隙間から顔を覗かせて羨ましがる。わかるよ、その気持ち。

「覗くな!」
「ぎゃあ!」

 リィナさんが指を二本立ててデュークさんに目潰しをかける。
 あれは痛いと思う……。
 もう私も着替え終わってるし構わないのに。

「女の子だけの空間なんだから許可が出てから顔を出しなさいよ! ほんと駄目なんだから!」

 リィナさんがぷりぷりと怒っている。そんなリィナさんも可愛いね。……あれ? 私って、そっちの気があるとかじゃないよね? 
 別に可愛いを可愛いって思うのは普通だよね。うんうん

「そうだ、エアーハントって食べられないんですか? 証明部位と魔石しか取ってませんでしたけど」
「何言ってんだシラハ。魔物肉なんか食ったら死ぬぞ?」

 え、そうなの? 私普通に食べてたんだけど……。

 そんな、何言ってんだコイツ。みたいな顔しないでくださいよ……。本当に知らなかったんです。

「まあ、腹減って我慢出来ずに食っちまう奴もいるし、知らない奴もいるだろ。いいか、お嬢ちゃん。魔物の体内には魔素ってもんがあるらしくて、それが人間には毒なんだと。少しなら調子悪くなるくらいだが、食いすぎると死んじまうんだとさ」
「普通は体調が悪くなって、死ぬ前に食べられなくなるみたいだけどね」

 カルロさんが説明をして、フィッツさんが補足をしてくれた。
 なるほど、毒ね……。だから無事だったのかもね。魔物肉を干し肉加工して人前で食べなくて良かったよ。完全にアウトだもん。
 そもそも干し肉の作り方知らないしね。
 塩が必要なのは知ってるけど、それすら手に入らない環境だったから無理。

 結果としては良かったのかもだけどね。

「そうだ、これシラハの取り分ね」

 リィナさんがそう言って、私に魔石を手渡してきた。

「私何もしてませんけど……?」
「何言ってるのよ。私を庇ってくれたでしょ」
「そうだよ。二匹は僕達だけで倒したけど、あの一匹は君の協力もあって倒せたんだから、それは君のだ」
「遠慮すんなって!」

 本当にこの人達は優しいね。体力回復薬だって渡したんだし、そのまま黙って全部貰っちゃっても構わないのにね。

「ありがとうございます」

 短い間だけど、この旅は楽しく過ごせそうだと思えた。









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後書き
シラハ「祝福羨ましいなー」
リィナ「とは言え良いことばかりでもないよ」
シラハ「たとえば?」
リィナ「たとえば幌の向こうで鼻息荒くしてるデュークが見えるとか……。そこぉ!」
デューク「ぐあっ!」
シラハ「今の遠見関係ないんじゃ……。もはや透視能力」
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