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警備隊の隊長さんらしき人が剣を軽く振るって血糊を飛ばしてから鞘に納める。
凄く様になっているね。
隊長さんは部下に指示を出しながら、被害状況を確認している。
こういう時って被害を受けた人達って、どうなるんだろうね。保険とかないだろうし。
やっぱり自己責任だよね。
「私達はおじさんを探そうか」
「そうだな」
私達は馬車を探しに動こうとする。カルロさんは馬車の避難と応援を呼びに行ったから駐屯地のどこかで、馬車を停めて待機しているはずだ。
私達が駐屯地に向かって移動を始めると、後ろから声をかけられる。
「すまない、魔物の襲撃を予測したのは君達かい?」
その声に振り返ると先程オークをサクサク斬り倒していた隊長さんが立っていた。
これは面倒事かな? 私の事、内緒にしておいて欲しいなー、とか思ったりしてー。
「あ、それは、この子です」
「君か!」
リィナさんにあっさりとバラされちゃったよ。
変な事になるなら私、超逃げるよ?
私が隊長さんの動向を窺っていると、隊長さんがずんずんと私に近付き手を掴んできた。
「君のおかげで死者が出なかった! 被害も少なく済んだし本当にありがとう!」
「あ、はい。……力になれて良かったです」
凄い勢いでお礼を云われた。勢いに押されて、ちょっと仰反っちゃったよ。あと近いです、隊長さん。
私が軽く引いていると隊長さんはそれに気付いたようで、慌てて離れてくれる。
「すまない……。オークが出ると被害が酷くてな、今回は怪我人はいても馬車が壊される事もなかったし、後処理が楽で本当に助かったよ!」
ああ、被害が出ると何かしらの報告は必要になるんだね。
それでこの感謝ね、なるほど。
「ちなみに魔物の接近に気付いたのは祝福か何かか? 後学の為にも教えて貰えないだろうか」
「えーと……祝福ではないです。私は森育ちで鼻が利くんですよ」
「なんと森育ちには、そんな恩恵があるのか! 訓練に組み込んでみるか……」
あ、隊長さんが真剣に思案しだした。警備隊の皆さんごめんなさい。変な訓練が追加されるかもです。
「ん?」
「どうしたの?」
私が声を出すとリィナさんが尋ねてくる。うん、まあ匂いを嗅ぎとっただけなんだけどね。
「またオークです。さっきと同じ方角ですね」
「これで本当に来たら、君の力は本物だね。是非、ここで働かないか?」
「私が食べるのに困ったら考えさせてください」
こんな時に勧誘とかやめて下さい。余裕ですか。
あ、オークなら余裕でしたね。
隊長さんが移動を始めたので、私達も一応ついて行く。
オークが来ると言ったのは私なので、それくらいはね。
「ガレウス隊長、どうしました?」
一人の警備隊の人が隊長さんに近付く。ガレウスさん、て言うんだね。
「またオークが来るやもしれん! 全員警戒せよ!」
「了解!」
警備隊の人達が返事をする。
冒険者達も隊長さんの声が聞こえていたのだろう、武器を手にして闇を睨む。
あ、来た。
でも、皆からの反応がないから見えていないんだよね。真っ暗だし。
「あそこにオークが一体です」
私が指差した方に皆が視線を向ける。足音が聞こえてきたけど、まだ見えてはいなさそうだ。
「シラハ、本当に良く見えるね。なんにも見えないよ」
「森育ちですし?」
「森で育つと、そうなるのか。俺らも森に篭ってみるか?」
隊長さんに引き続き、デュークさんまで真に受けてしまった。
フィッツさんが止めてくれるのを祈っておくよ。
オークを睨みながら私がフィッツさんに祈っていると、私は異変に気が付いた。
あのオークでかい?
「なんか、さっきのオークより体が大きいです」
「大きい……。何色か分かるか?」
暗闇を睨みながら隊長さんが私に確認する。でもオークの色は先程襲ってきたオークと同じで肌色だ。
色が何か関係あるのかな?
「色ですか? 色はさっきと同じですけど……」
「では上位種ではないか……。上位種だったら危なかったな」
なるほどね、上位種がいるんだ。そして、それは色と大きさで判断できると。
そしてオークが姿を現した。いや、私は見えてるんだけどね。周囲の反応からして、皆が視認できる所まで出てきたって事だよ。
「本当に来やがった……」
「でかいぞ」
やっぱり信じてなかった人もいるよね。それが普通だと思うよ。
「全員下がれ! 俺がやる!」
そう言って隊長さんが突っ込んだ。
一体だけなら警戒する事もないって事かな?
隊長さんは先の戦闘のようにオークの棍棒を避けると剣で斬りつけた。
しかし――
「チッ」
隊長さんが忌々しそうに舌打ちをする。
隊長さんの攻撃は、オークの脂肪に遮られて傷が浅かった。
そこへオークが棍棒を振り下ろすが、なんとか回避する。
見ていてヒヤヒヤするね。
オークが棍棒を振り回し、隊長さんがそれを回避するが明らかに隊長さんの攻撃頻度が減っていた。
「コイツ、速い!」
隊長さんが絞り出した言葉に周囲に不安が広がる。
それを聞いたからかは分からないが、隊長さんがオークの首目掛けて剣を振るった。
「おおっ」
誰かが声を上げるが、すぐに周囲から驚きの声が聞こえてくる。
「首を落とせてないぞ……」
「馬鹿な……」
そんな中、隊長さんは剣を抜こうとするが、分厚い脂肪に阻まれた剣が抜ける様子はない。
そこへ隊長さんを捕まえようと、オークが棍棒を持っていない手を伸ばす。
「くそっ」
隊長さんはすぐに剣を手放してオークから距離をとって難を逃れた。
そしてオークは自分の首に切り込まれた剣に手を伸ばすと、それを引き抜いた。
「ブモオォォォー!」
剣を抜いたところから血を吹き出しながら叫ぶオーク。狂気的な光景だね。
皆がオークを見ている中、オークに変化が起こる。
オークは自分の血に染まるように全身が赤くなっていく。
何アレ、何が起きてるの?
「やはり上位種か……」
隊長さんが呟いたのが聞こえた。あれが上位種? つまり今のは進化か何かって事? こんなタイミングで?
「警備隊の者はここでヤツを食い止める! クェートは帝国側に事情を説明して他の者達を帝国側に避難させろ!」
「しかし隊長――」
「異論は認めん! 行け!」
クェートと呼ばれた人が隊長さんに何か言いかけるが、それをぶった斬る隊長さん。たしかに問答してる時間もなさそうだよね。
「シラハ、私達も逃げるよ!」
「え、逃げていいんですか? てっきり冒険者も戦うのかと……」
こういう時って戦える人が戦うもんじゃないのかな、って思うんだけど違うのかな? 勝てるとも思えないけど。
「オークの上位種っていったらハイオークだから、ランクはBだもの、私達じゃ勝ち目はないわ!」
「それに、こういう時のために税金で警備隊が組織されてるんだから任せるのはおかしくないよ」
「そうそう。ここで俺らにも戦えってなったら税金泥棒だぜ」
だから、本当に危険な魔物が出た場合は警備隊に任せると。なるほどね……。
私達はカルロさんを探しに動きだした。
カルロさんは最初にオークが出た時点で避難していたので、すでに国境門にまで来ていた。
なにかあれば国境門が開くので、有事の際はここに逃げるのが暗黙のルールなのだとか。
今はまだ国境門は開いていないが、通用口らしき所で警備隊の人が話をしている。
たぶん相手は帝国側の警備隊なんだろうね。
国境門の周りには馬車が集まってきていて、冒険者が早く開けるように騒いでいる。
勝てないから、と焦っているのだろうか。
そこで、ふと私は考える。
私もこのまま逃げていいの? いや、さすがに他人の為に自分の命を懸けるつもりとかはないよ。
でも私は力を隠している。
その結果、何人もの人が死ぬのはどうなのかな……。
私のスキルは異端だ。露見したら少なからず騒がれる。
最悪、国とかに囲われたら、もう自由に出歩けなくなるだろう。そもそも人として終わるかもしれない。モルモットとかね。
仮に、ここで誰かを助けたとしても、その人が私の立場を守る為の力になってくれるだろうか。
きっと無い。そんな都合の良い事なんてないだろうね。
ならバレないようにスキルを使って、私だとバレないように攻撃する。これしかないね。
そうと決まれば行動あるのみ!
「まだ国境門が開くまで時間かかりそうですし、少し様子を見てきますね」
「シラハ、危ないよ!」
「私は夜目が利くので、オークがもしこっちに移動したらすぐに戻ってきます」
「分かった……。気を付けてね」
リィナさんをどうにか説得して私は移動する。
暗闇に紛れてしまえば私が見つかる事はないと思うけど、念のため見つかりにくそうな場所を探す。
隊長さんが中心となって、警備隊の人達がオークを囲って攻撃しているのが見えたが、すでに何人か倒れていた。
(間に合わなかった……)
手遅れになってしまったか、と後悔するが今はできることをするしかない。
結局、隠れられそうな所がなかったので、オーク達がやって来たと思われる木々がある方へと移動して身を隠す事にした。
私がここで使うのは【竜鱗(剣)】だ。というか遠距離から攻撃できそうな手段がこれしかない。
【竜咆哮】もあるけど、これを使ったら警備隊も巻き込むから駄目だね。
私は右手を前に出して【竜鱗(剣)】を掌へと生やしてみる。うわっ、鱗がにょきっと出てきたよ。キモ!
掌に生えた【竜鱗(剣)】をハイオークへと向ける。
(アルクーレで調べたソードドラゴンの資料では、鱗を飛ばすって書いてあった。それなら私にもできるはず……)
私は自分の願望を込めて【竜鱗(剣)】を飛ばそうと念じる。
他の人に当たらないように注意して……。
(飛べ!)
私が念じると体から少し力が抜けて【竜鱗(剣)】が射出された。成功だ!
私から放たれた竜鱗がハイオークの背中へと突き刺さる。
「ブモ?!」
「なんだ?!」
突如として背中に走る痛みに動きを止めるハイオークと、いきなり怯んだハイオークに驚く隊長さん達。
今なら大丈夫かな。
(弾けろ!)
バキン、と金属が砕けたような音が聞こえた。
「ブギイィィィ?!」
一拍おいてハイオークから大きな悲鳴があがる。
良かった。効いてるみたいだね。
背中を見ると肉が抉れていて、その周りに細かい傷がついている。
うわぁ……。痛そう。
でも動けないという程の傷でもない。
実際、棍棒振り回してるし。
隊長さんは何が起きたか分かっていないけど、チャンスとばかりに攻撃してくれている。
呆けて手が止まる、なんて事にならなくて良かったよ。
私は、もう一度攻撃する為に場所を移動する。
なんかハイオークが私がいる方向を睨んでるんだよね。
直視されてるわけじゃないから、位置が特定されてるわけでもないんだろうけど。
それでも、さっきの攻撃で何かがいる。という事は把握されてるんだろうね。
それにオーク達は、この暗闇の中からやって来たのだから夜目が利くのかもしれない。
そうなると何回も攻撃していると、位置がバレる可能性があるね。
私は少し移動すると、先程と同じように構えた。
(警備隊の人達が離れたタイミングで…………今!)
放った竜鱗はハイオークの左腕に刺さり、そして弾ける。
「ブギィ……!」
腕が吹き飛ぶなんて事はなかったけど、左腕が力なく垂れ下がる。
これで隊長さん達も戦いやすくなるといいんだけどね。
隊長さん達の身を案じながら、今度は木の上に登って構える。
可能であれば頭を狙って終わりにしたいところだけど、あれだけ動き回られると狙いが定まらない。
さっきの左腕だって、一番狙いやすい体を狙ったのにハイオークが動いたせいで腕に当たったのだ。
一瞬、外れて他の人に当たるかと思って焦ったよ。
今度こそは、と私は竜鱗を放つ。
ハイオークは背を向けている。
私は当たる、と思ったその時だった。
ハイオークがいきなり振り返り竜鱗を打ち払った。
「え……」
今の攻撃に反応した? 嘘でしょ?
そして、ハイオークと目があった。
「あ、ヤバい。バレた」
私は乗っていた木から飛び降りて一目散に逃げ出した。
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
シラハ「いやー! 犯されるー!」
ハイオーク「ブモッ! ブモッ!」
シラハ「くっ、こうなったら竜鱗を急所に!」
チーン
ハイオーク「ーーーっ?!(声にならない悲鳴)」
シラハ「ふぅ……悪は滅ぶべし。って皆さん、どうしたんですか?」
デューク「シラハ今の攻撃は俺達にもダメージが……」
フィッツ「見ただけで、これほどの威力とは……」
凄く様になっているね。
隊長さんは部下に指示を出しながら、被害状況を確認している。
こういう時って被害を受けた人達って、どうなるんだろうね。保険とかないだろうし。
やっぱり自己責任だよね。
「私達はおじさんを探そうか」
「そうだな」
私達は馬車を探しに動こうとする。カルロさんは馬車の避難と応援を呼びに行ったから駐屯地のどこかで、馬車を停めて待機しているはずだ。
私達が駐屯地に向かって移動を始めると、後ろから声をかけられる。
「すまない、魔物の襲撃を予測したのは君達かい?」
その声に振り返ると先程オークをサクサク斬り倒していた隊長さんが立っていた。
これは面倒事かな? 私の事、内緒にしておいて欲しいなー、とか思ったりしてー。
「あ、それは、この子です」
「君か!」
リィナさんにあっさりとバラされちゃったよ。
変な事になるなら私、超逃げるよ?
私が隊長さんの動向を窺っていると、隊長さんがずんずんと私に近付き手を掴んできた。
「君のおかげで死者が出なかった! 被害も少なく済んだし本当にありがとう!」
「あ、はい。……力になれて良かったです」
凄い勢いでお礼を云われた。勢いに押されて、ちょっと仰反っちゃったよ。あと近いです、隊長さん。
私が軽く引いていると隊長さんはそれに気付いたようで、慌てて離れてくれる。
「すまない……。オークが出ると被害が酷くてな、今回は怪我人はいても馬車が壊される事もなかったし、後処理が楽で本当に助かったよ!」
ああ、被害が出ると何かしらの報告は必要になるんだね。
それでこの感謝ね、なるほど。
「ちなみに魔物の接近に気付いたのは祝福か何かか? 後学の為にも教えて貰えないだろうか」
「えーと……祝福ではないです。私は森育ちで鼻が利くんですよ」
「なんと森育ちには、そんな恩恵があるのか! 訓練に組み込んでみるか……」
あ、隊長さんが真剣に思案しだした。警備隊の皆さんごめんなさい。変な訓練が追加されるかもです。
「ん?」
「どうしたの?」
私が声を出すとリィナさんが尋ねてくる。うん、まあ匂いを嗅ぎとっただけなんだけどね。
「またオークです。さっきと同じ方角ですね」
「これで本当に来たら、君の力は本物だね。是非、ここで働かないか?」
「私が食べるのに困ったら考えさせてください」
こんな時に勧誘とかやめて下さい。余裕ですか。
あ、オークなら余裕でしたね。
隊長さんが移動を始めたので、私達も一応ついて行く。
オークが来ると言ったのは私なので、それくらいはね。
「ガレウス隊長、どうしました?」
一人の警備隊の人が隊長さんに近付く。ガレウスさん、て言うんだね。
「またオークが来るやもしれん! 全員警戒せよ!」
「了解!」
警備隊の人達が返事をする。
冒険者達も隊長さんの声が聞こえていたのだろう、武器を手にして闇を睨む。
あ、来た。
でも、皆からの反応がないから見えていないんだよね。真っ暗だし。
「あそこにオークが一体です」
私が指差した方に皆が視線を向ける。足音が聞こえてきたけど、まだ見えてはいなさそうだ。
「シラハ、本当に良く見えるね。なんにも見えないよ」
「森育ちですし?」
「森で育つと、そうなるのか。俺らも森に篭ってみるか?」
隊長さんに引き続き、デュークさんまで真に受けてしまった。
フィッツさんが止めてくれるのを祈っておくよ。
オークを睨みながら私がフィッツさんに祈っていると、私は異変に気が付いた。
あのオークでかい?
「なんか、さっきのオークより体が大きいです」
「大きい……。何色か分かるか?」
暗闇を睨みながら隊長さんが私に確認する。でもオークの色は先程襲ってきたオークと同じで肌色だ。
色が何か関係あるのかな?
「色ですか? 色はさっきと同じですけど……」
「では上位種ではないか……。上位種だったら危なかったな」
なるほどね、上位種がいるんだ。そして、それは色と大きさで判断できると。
そしてオークが姿を現した。いや、私は見えてるんだけどね。周囲の反応からして、皆が視認できる所まで出てきたって事だよ。
「本当に来やがった……」
「でかいぞ」
やっぱり信じてなかった人もいるよね。それが普通だと思うよ。
「全員下がれ! 俺がやる!」
そう言って隊長さんが突っ込んだ。
一体だけなら警戒する事もないって事かな?
隊長さんは先の戦闘のようにオークの棍棒を避けると剣で斬りつけた。
しかし――
「チッ」
隊長さんが忌々しそうに舌打ちをする。
隊長さんの攻撃は、オークの脂肪に遮られて傷が浅かった。
そこへオークが棍棒を振り下ろすが、なんとか回避する。
見ていてヒヤヒヤするね。
オークが棍棒を振り回し、隊長さんがそれを回避するが明らかに隊長さんの攻撃頻度が減っていた。
「コイツ、速い!」
隊長さんが絞り出した言葉に周囲に不安が広がる。
それを聞いたからかは分からないが、隊長さんがオークの首目掛けて剣を振るった。
「おおっ」
誰かが声を上げるが、すぐに周囲から驚きの声が聞こえてくる。
「首を落とせてないぞ……」
「馬鹿な……」
そんな中、隊長さんは剣を抜こうとするが、分厚い脂肪に阻まれた剣が抜ける様子はない。
そこへ隊長さんを捕まえようと、オークが棍棒を持っていない手を伸ばす。
「くそっ」
隊長さんはすぐに剣を手放してオークから距離をとって難を逃れた。
そしてオークは自分の首に切り込まれた剣に手を伸ばすと、それを引き抜いた。
「ブモオォォォー!」
剣を抜いたところから血を吹き出しながら叫ぶオーク。狂気的な光景だね。
皆がオークを見ている中、オークに変化が起こる。
オークは自分の血に染まるように全身が赤くなっていく。
何アレ、何が起きてるの?
「やはり上位種か……」
隊長さんが呟いたのが聞こえた。あれが上位種? つまり今のは進化か何かって事? こんなタイミングで?
「警備隊の者はここでヤツを食い止める! クェートは帝国側に事情を説明して他の者達を帝国側に避難させろ!」
「しかし隊長――」
「異論は認めん! 行け!」
クェートと呼ばれた人が隊長さんに何か言いかけるが、それをぶった斬る隊長さん。たしかに問答してる時間もなさそうだよね。
「シラハ、私達も逃げるよ!」
「え、逃げていいんですか? てっきり冒険者も戦うのかと……」
こういう時って戦える人が戦うもんじゃないのかな、って思うんだけど違うのかな? 勝てるとも思えないけど。
「オークの上位種っていったらハイオークだから、ランクはBだもの、私達じゃ勝ち目はないわ!」
「それに、こういう時のために税金で警備隊が組織されてるんだから任せるのはおかしくないよ」
「そうそう。ここで俺らにも戦えってなったら税金泥棒だぜ」
だから、本当に危険な魔物が出た場合は警備隊に任せると。なるほどね……。
私達はカルロさんを探しに動きだした。
カルロさんは最初にオークが出た時点で避難していたので、すでに国境門にまで来ていた。
なにかあれば国境門が開くので、有事の際はここに逃げるのが暗黙のルールなのだとか。
今はまだ国境門は開いていないが、通用口らしき所で警備隊の人が話をしている。
たぶん相手は帝国側の警備隊なんだろうね。
国境門の周りには馬車が集まってきていて、冒険者が早く開けるように騒いでいる。
勝てないから、と焦っているのだろうか。
そこで、ふと私は考える。
私もこのまま逃げていいの? いや、さすがに他人の為に自分の命を懸けるつもりとかはないよ。
でも私は力を隠している。
その結果、何人もの人が死ぬのはどうなのかな……。
私のスキルは異端だ。露見したら少なからず騒がれる。
最悪、国とかに囲われたら、もう自由に出歩けなくなるだろう。そもそも人として終わるかもしれない。モルモットとかね。
仮に、ここで誰かを助けたとしても、その人が私の立場を守る為の力になってくれるだろうか。
きっと無い。そんな都合の良い事なんてないだろうね。
ならバレないようにスキルを使って、私だとバレないように攻撃する。これしかないね。
そうと決まれば行動あるのみ!
「まだ国境門が開くまで時間かかりそうですし、少し様子を見てきますね」
「シラハ、危ないよ!」
「私は夜目が利くので、オークがもしこっちに移動したらすぐに戻ってきます」
「分かった……。気を付けてね」
リィナさんをどうにか説得して私は移動する。
暗闇に紛れてしまえば私が見つかる事はないと思うけど、念のため見つかりにくそうな場所を探す。
隊長さんが中心となって、警備隊の人達がオークを囲って攻撃しているのが見えたが、すでに何人か倒れていた。
(間に合わなかった……)
手遅れになってしまったか、と後悔するが今はできることをするしかない。
結局、隠れられそうな所がなかったので、オーク達がやって来たと思われる木々がある方へと移動して身を隠す事にした。
私がここで使うのは【竜鱗(剣)】だ。というか遠距離から攻撃できそうな手段がこれしかない。
【竜咆哮】もあるけど、これを使ったら警備隊も巻き込むから駄目だね。
私は右手を前に出して【竜鱗(剣)】を掌へと生やしてみる。うわっ、鱗がにょきっと出てきたよ。キモ!
掌に生えた【竜鱗(剣)】をハイオークへと向ける。
(アルクーレで調べたソードドラゴンの資料では、鱗を飛ばすって書いてあった。それなら私にもできるはず……)
私は自分の願望を込めて【竜鱗(剣)】を飛ばそうと念じる。
他の人に当たらないように注意して……。
(飛べ!)
私が念じると体から少し力が抜けて【竜鱗(剣)】が射出された。成功だ!
私から放たれた竜鱗がハイオークの背中へと突き刺さる。
「ブモ?!」
「なんだ?!」
突如として背中に走る痛みに動きを止めるハイオークと、いきなり怯んだハイオークに驚く隊長さん達。
今なら大丈夫かな。
(弾けろ!)
バキン、と金属が砕けたような音が聞こえた。
「ブギイィィィ?!」
一拍おいてハイオークから大きな悲鳴があがる。
良かった。効いてるみたいだね。
背中を見ると肉が抉れていて、その周りに細かい傷がついている。
うわぁ……。痛そう。
でも動けないという程の傷でもない。
実際、棍棒振り回してるし。
隊長さんは何が起きたか分かっていないけど、チャンスとばかりに攻撃してくれている。
呆けて手が止まる、なんて事にならなくて良かったよ。
私は、もう一度攻撃する為に場所を移動する。
なんかハイオークが私がいる方向を睨んでるんだよね。
直視されてるわけじゃないから、位置が特定されてるわけでもないんだろうけど。
それでも、さっきの攻撃で何かがいる。という事は把握されてるんだろうね。
それにオーク達は、この暗闇の中からやって来たのだから夜目が利くのかもしれない。
そうなると何回も攻撃していると、位置がバレる可能性があるね。
私は少し移動すると、先程と同じように構えた。
(警備隊の人達が離れたタイミングで…………今!)
放った竜鱗はハイオークの左腕に刺さり、そして弾ける。
「ブギィ……!」
腕が吹き飛ぶなんて事はなかったけど、左腕が力なく垂れ下がる。
これで隊長さん達も戦いやすくなるといいんだけどね。
隊長さん達の身を案じながら、今度は木の上に登って構える。
可能であれば頭を狙って終わりにしたいところだけど、あれだけ動き回られると狙いが定まらない。
さっきの左腕だって、一番狙いやすい体を狙ったのにハイオークが動いたせいで腕に当たったのだ。
一瞬、外れて他の人に当たるかと思って焦ったよ。
今度こそは、と私は竜鱗を放つ。
ハイオークは背を向けている。
私は当たる、と思ったその時だった。
ハイオークがいきなり振り返り竜鱗を打ち払った。
「え……」
今の攻撃に反応した? 嘘でしょ?
そして、ハイオークと目があった。
「あ、ヤバい。バレた」
私は乗っていた木から飛び降りて一目散に逃げ出した。
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後書き
シラハ「いやー! 犯されるー!」
ハイオーク「ブモッ! ブモッ!」
シラハ「くっ、こうなったら竜鱗を急所に!」
チーン
ハイオーク「ーーーっ?!(声にならない悲鳴)」
シラハ「ふぅ……悪は滅ぶべし。って皆さん、どうしたんですか?」
デューク「シラハ今の攻撃は俺達にもダメージが……」
フィッツ「見ただけで、これほどの威力とは……」
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