とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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今日も飲みますよ!

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「クエンサに到着しましたし、私はここまでですね」

 クエンサの街に入るなり私は、皆にそう告げて荷物を背負う。

「ねぇシラハ。私達は一週間クエンサに滞在したら、ブランタ王国に戻るの。だからシラハさえ良ければ、その時も一緒に来ない?」

 降りる準備をしていると、リィナさんがそんな提案をしてくれる。
 きっと私の事を心配してくれているんだと思う。
 
 やっぱり優しいね。

「ごめんなさい。私、当分は帝国内を旅しようかと思っているんです。ここクエンサにいつまで滞在するかは決めてないんですけど、今は王国に戻る予定はないです」
「そ、そっか……。うん、なんかゴメンね。シラハの予定も考えないで……」

 リィナさんが悲しげな表情になる。
 こういう雰囲気には弱いから、なるべく早く移動したかったんだけどな……。

「いえ……誘ってくれたのに、こちらこそスミマセン」
「まっ、俺らは一週間はクエンサにいるし冒険者ギルドで見かけたら声かけてくれよな! それと気が変わったらいつでも来いよ、シラハなら歓迎するぜ」

 少し暗くなりかけた空気をデュークさんが変えてくれる。
 リィナさんも、その隣でうんうんと頷いていた。

「それでは、またです!」

 私は四人に手を振ってから、その場を去る。


「はぁ……。良い人達…だったなぁ」

 私はスキルが使えなければ、小柄でひ弱な子供でしかない。
 【竜気】なら見かけによらず力があるな、で片付くけど何か危険が迫った場合、私は間違いなくスキルを使う。

 スキルを使って身を守る事に問題はない。

 ただ今回の短い旅の中でさえ、スキルの言い訳に困ったのだ。今後も付き合いを増やせば、隠し通せなくなるかもしれない。

 もしそれで私が異端だと知られたら?

 私は生まれたばかりの頃を思い出す。

 あの気味が悪い、というような視線に晒されるのは嫌だ。

 それが仲良くなったと思った人から向けられるなんて耐えられない。

 怖い。
 怖くて怖くて踏み出せない。足が竦んでしまう。

 自分の力の事を話してしまえれば楽になれる。けれど、その先を想像すると、どうしてもネガティブな思考になってしまう。

 頭の中でイヤな事ばかりがグルグルと回って、結局一人で行動するという結論に行き着いてしまう。

(それなら、スキルを使う必要のない一市民として働きながら細々と暮らしていく? そして、誰かと結婚して子供が生まれて……って、ないない)

 私は子供を抱えている自分を想像して、自嘲気味に首を横に振る。

 そもそも私みたいな身寄りのない子供が就ける仕事がないから、冒険者になったのだ。
 それなのに、どこで働くというのか。

 冒険という言葉には憧れがあるけど、ハイオークの時は本当に死にかけた。
 生贄にされてから痛みは身近なものだったけど、それらを覚悟して冒険や旅をしたいわけじゃない。

 あれ? それならアルクーレから出ないで、仕事を探しても良かったんじゃ……。
 いや、でも、あそこに住んでいるガイズさんとナッシュさんが、仕事が無いと言ってたのだから仕事を見つけるのは楽ではないはず。
 
 なら、このクエンサで仕事を探して何かしら体験してみるのは、どうかな?

 もし見つからなければ冒険者稼業をやればいいわけだし。
 お金もそれなりに余裕がある。

 そうと決まれば市民権を発行して貰おう!

 
 私は近くを歩いていた人に道を尋ねながら、市民権を発行してくれる役所に辿り着く。
 そして、受付に並んでいるいくつかの列に私も加わり自分の番を待った。
 そして私は一つの受付へと案内され、身分証の提示を求められたので冒険者カードを出してみる。

「ん? 君はブランタ王国の出身なの?」
「そうですけど」
「あー……。それじゃあ市民権は発行できないね」
「ええ?! ブランタ王国の人間ってだけで駄目なんですか?!」
「え? ああ、ゴメン。そういう意味じゃないよ」

 受付の人に話を聞くと、ガルシアン帝国で市民権を得るなら三年間、帝国に貢献したという実績が必要なんだそうな。

 冒険者なら帝国内での冒険者活動を三年。
 村人なら村長の紹介状と街での下働きを三年。
 
 と、なるらしい。そして王国でも似たようなものなんだとか。くそぅ……。

「だから君の場合は冒険者活動を三年間やるしかないね。それでも何かしらの仕事をやってみたいのであれば、直接お店とかに行って雇ってもらうしかないね」

 市民権があれば仕事の紹介をしてくれるけど、市民権がない場合は信用がないという事で紹介はできない。
 当然だよね。

 だけど直接雇ってもらうように頼んだとして、そこがブラックな職場だとしても自己責任になるし、雇う側も問題がある人な可能性もあるので慎重になる、結果として就職先を見つけるのが難しい、となる訳だ。

 仕方ない……。今日は宿屋に行って休むとしよう。


 私は受付の人に宿屋の場所を聞いて役所を出る。

 なんか疲れちゃったよ……。



 宿屋を見つけて私は、その中に入る。

 ここの宿屋も一階は食事ができるらしく、昼前なのにそれなりの客が入っていた。
 奥の席で酒宴を開いてる人もいるよ。

 とりあえず受付へ向かって今日の宿を取ることにする。

 私が受付に立っても、すぐに人が来ない。お客もいるから忙しいのかな。

「すみませーん」
「はーい! すぐ行きまーす」

 奥から男の人の声が聞こえてくると、すぐに人がやってくる。
 童顔で顔にそばかすがあって、それでいて大人しそうな雰囲気な男の人だった。
 ちょっと顔をジロジロ見過ぎだね。目を逸らされちゃったよ。

「えっと、お泊まりですか?」
「はい、とりあえず一泊でお願いします」
「わかりました。食事の方はどうします?」

 そういえばノンストップでクエンサの街まで来たから、朝はご飯食べてないんだよね。
 何を食べようか、と迷っていると奥で声が聞こえた。

 酒盛りしてる人達だね。

「こっち来て酌しろってんだよ!」
「ここは、そういう事してないんです! イヤ…止めてください!」
 
 酒盛りしてる人達に手を掴まれて、ウェイターの女性が絡まれている。
 あ、今お尻触ってたよ。最低だね。

「姉さん!」

 受付をしていた男の人が飛び出す。
 姉弟なんだね。私は置いてけぼりだけど仕方ないね。

 それにしても他のお客も知らん顔なんだね。顔逸らしてるし関わりたくないよね。

「姉さんから手を離せ!」

 弟くんがお姉さんと男達の間に強引に入る。

「なんだぁ? 邪魔すんなよ小僧」
「他のお客にも迷惑になるから出て行ってくれ!」
「おいおい、俺達も客だぜぇ? なぁ、おい?」

 男の言葉に周りの男達がゲラゲラと笑う。
 何が楽しいんだろうね、ほんと。

 そして男が弟くんの胸倉を掴み上げる。

「カイト! お願いします、カイトから手を離して!」
「なら、お前が俺の相手をしてくれるのか? あぁ?」
「そ…れは……」

 お姉さんが自分の服をギュッと掴む。今のって完全に性的な意味で言ったよね。どうしようもないヤツだよ。
 
「私が相手をしてあげましょうか?」
「あん? なんだ、ガキじゃねえかよ」

 酷い! レディに向かってガキとか失礼にも程があるよ!

「お酒の飲み比べでもしませんか? お酌くらいならしてあげますよ」
「はっ! それで俺が勝ったらどうすんだ?」
「その時はご自由にどうぞ」
「俺は酒もヤるのも、ガキ相手だからって容赦しねえぞ?」

 男がベロリと舌舐めずりする。
 うわ、キッモ! 私相手でも興奮するの? 怖いわー

「敗者は勝者に従う。という事で、私が勝ったらお金払って大人しく出て行って下さい。出て行かなかった場合は問答無用で衛兵に突き出します」
「面白え……。おい! 酒持ってこい!」

 男に指示されて姉弟は慌てて厨房に引っ込むと、お酒の入った小さい樽を持ってくる。

 私がそれを受け取り、男のジャッキへとお酒を注いでいく。

「それでは……」
「今日は寝られると思うなよ」

 この男いちいち気持ち悪いな……。

 私と男はお互いにジョッキの中身を飲み干した。

 



「嘘だろ……」

 飲み比べをしている男の仲間が呆然としている。
 私の目の前には、ジョッキを握ったままテーブルに突っ伏している男。

「口程にもないですね……」

 そう言って私は残っていたお酒を呷る。

「さて、それでは約束通り、代金だけおいて出て行ってもらいましょうか」
「ふ、ふざけんな!」
「それでは、あなたも私と飲みますか? なんなら全員を相手にしてもいいですけど」

 男達が息を飲む。
 顔色一つ変えないで男一人を酔い潰した私に勝てないと思っているのかもしれない。
 
 その証拠に挑発したにも関わらず、誰も勝負に乗ってこない。

「おい、いくらだ!?」

 一人の男が姉弟に金額を聞くと、他の男達が酔い潰れている男を担ぎだす。

 そして支払いを済ませると慌ただしく店を出て行った。やれやれ……

「あ、あの……」
「はい?」

 私が樽に残ったお酒をチビリチビリと飲み始めると、お姉さんが話しかけてきた。

「先程はありがとうございました。本当に助かりました!」
「いえいえ。私はタダ酒飲んでただけですので気にしないでください」
「俺からもお礼を……。姉さんを助けてくれてありがとう」
「それで、なにかお礼をさせて貰いたいんですけど……」

 お礼とかいいんだけどな……。
 そして私はふと目の前にある料理を見る。
 男達が途中で撤収したから手付かずの料理もあるんだよね。

「なら、ここの料理食べちゃっていいですか? 私お腹減ってて……」
「えっ?! あれだけ飲んでて、まだお腹に入るんですか?!」
「それに、それは食べ残し……」
「勿体ないですし……。我慢できないのでいただきます」

 姉弟も他のお客も信じられない、という顔で私を見ている。
 お酒で少しお腹がたぽたぽするけど、水分だけでは空腹は誤魔化せないよ。
 私は水代わりにお酒を飲みつつ食事を済ませた。けぷ。

 食事が終わると一人の女性がやってくる。女将さんかな?

 さっきのお姉さんに少し似てるから母親かも?
 母親らしき人は私の前に来ると、静かに頭を下げた。

「メリーを助けてくれて、ありがとうございました。せめてものお礼として今日の宿代は結構ですので、ゆっくりと休んでください」
「ご丁寧にどうもです。それよりいいんですか? 私お酒飲んでただけですよ?」
「ウチは主人が亡くなってから三人で切り盛りしているんですけど、ああいった方が相手だと、どうしても侮られてしまって……。今までは主人が何とかしてくれてましたから」
「ゴメン、母さん。俺が弱いから……」

 女将さんの後ろから弟くんが申し訳なさそうにやってくる。とはいえ荒事が正解とも限らない。

 たぶん私はチンピラ相手なら対処できると思うけど、私は抑止力にはならないんだよね。
 確実に見かけで侮られる。

 絡んでくる人、全部を叩きのめせたとしても、騒ぎばかり起きる店からは客足が遠退くと思う。
 それは、この人達にとっても望む事ではないはずだ。

「私は当分この街に滞在する予定なので、困った事があれば言ってください。これでも冒険者なので、ああいった事にも多少慣れてますし」
「えっ?! 君、冒険者なの?!」
「はい、一応」

 やっぱり驚かれるんだね。私みたいなちっさい冒険者が珍しいのは王国も帝国も同じですか……。

「助けてもらったのに、これ以上頼るのは心苦しいですが、何かあればお願いします」
「はい、任されました。あっ、それと受付が途中になってましたね。部屋の鍵もらえますか?」
「あ! そうだった! ゴメン、すぐに用意します!」

 慌てて鍵を取りに行った弟くんに、女将さんが苦笑している。


 私は弟くんから鍵を受け取ると部屋へと向かい、その日の残りは惰眠を貪る事にした。









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後書き
シラハ「いやー、真っ昼間からお酒飲んで、ぐうたらして寝るとか最高だね!」
リィナ「太るよ」
シラハ「全部、身長と胸にいかないですかねー」
リィナ「それなら世の中の女性は怠惰な生き物になってるわね」
シラハ「早く、大きくても肩凝るだけなんだよねーとか言ってみたい」
リィナ「夢を持つのは自由よ……」
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