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コイツら……
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◆ディアン視点
嬢ちゃんが父親を名乗る男から受け取った剣のような物で、変異種にトドメを刺した。
俺達がいくら攻撃をしても、まともに傷を負わせられなかったっていうのに割と簡単に頭を割っていた。
嬢ちゃんが受け取った、あの武器はなんなんだ?
いや……それよりも、あの変異種の攻撃を易々と受け止めるこの男や、軽々と殴り飛ばす女は何なんだ?
この二人を嬢ちゃんは「父さん、母さん」と呼んでいた。
つまりは俺達の敵では無いはずだ。
なのに何でだ?
なんで俺は、嬢ちゃんが父さんと呼んだ男に睨まれているんだよ!
「な、なんすか?」
俺はAランクの冒険者だ。
そこいらのチンピラに睨まれたくらいじゃビビったりはしねぇ。
なのに、この男の睨みと威圧感は、まるで大型の魔物を前にした時のようだ。
コイツは一体……
「ディアン!」
そこへボロボロになったライオスとサシャがルーアから応急手当を受けたのか、ふらつきながらも歩いてきた。
「よぅ……お互いボロボロになったもんだなぁ」
「さすがに今回は駄目かと思ったよ」
「全くだ」
「それと……」
ライオスがチラリと嬢ちゃんの両親に視線を向けた。
やっぱ気になるよな。
「あー…っと。この二人はなんでも、嬢ちゃんの両親らしいぞ」
「そうなのか! 本当に助かりました。娘さんにも助けていただいて、なんとお礼を言ったらいいか……」
「気にするな。娘が助けようとした者達を助けるのは親として当然だからな!」
ライオスの言葉を遮りながら、なんて事もないように言い切った。
いや…普通はあんな簡単には倒せないからな!
「それよりも貴方達、怪我をしているのなら先に治した方がいいんじゃない?」
「あ……それでは私は治療に集中させて貰います。ほらディアン! そこに座ってください」
嬢ちゃんの母親に促されて、ルーアが俺の治療を始める。
って、俺より先に治すヤツがいるだろ!
「おい、ルーア…俺より先に嬢ちゃんを治せって……! 肩もやられてるし、最初にかなりヤバイ受け方してただろ?!」
「そうなんですけど……」
俺の言葉にルーアが気不味そうな態度になる。
コイツが治療を嫌がる訳がないだろうし、何かあったのか?
「大丈夫よ。見たところ死ぬような怪我ではないし、貴方達は自分の事を優先しなさい」
すると嬢ちゃんの母親がそんな事を言い出した。
親なのに娘の怪我を気にもしないのか?!
「おい……親なのにそれはないんじゃないのか? 娘が心配じゃねえのかよ!」
「よせっディアン!」
ライオスが止めようとするが、俺は腹の怪我も気にせずに立ち上がると二人を睨みつける。
二人は何の事かわからない様子だし、本当に嬢ちゃんの両親なのか?
「何を怒っているのかは知らないけれど、それくらいの怪我ならシーちゃんは一晩で治るもの」
「なに?」
俺は眠っている嬢ちゃんを見るが、肩の周りは血で服が赤く染まっているし、とてもではないが一日二日で治るようなもんには見えない。
嘘をつくにしても、もう少しまともな嘘は吐けないのか?
「あ、あの……」
そこでルーアが治療の手を止め、二人の方を向いた。
「なにかしら?」
「そ、それは…シラハさんが致命傷を一瞬で治したのと同じ力……なんですか?」
「致命傷…というのは?」
ルーアの言葉に嬢ちゃんの母親が問いを返す。
致命傷が一瞬で治った? どういう事だ?
「シ、シラハさんの左腕とお腹の所……服が破けてますよね。シラハさん……私とライオスを庇ったせいで、左腕の欠損にお腹の半分近くを持っていかれて……私の魔法では治せませんでした……。
私は確かにシラハさんが亡くなったのを確認しました。でも……急に時が戻るかのようにシラハさんの傷が、みるみると塞がっていったんです……!」
ルーアが信じられない、と言わんばかりの表情をしている。
ルーアが嘘をつくとは思わないが、とても信じられる話ではなかった。
全員、口には出さなかったが俺と同じ思いだとおもう。
「どう思う? ガイアス」
「それは……アレだろう」
「ええ……アレ、よね」
そんな中、嬢ちゃんの両親が何やら話をしている。
なんだよ、アレって……
少し二人だけで話した後、嬢ちゃんの母親がルーアの方に顔を向け直した。
「はっきりとは言えないけれど、おそらくは……としか私は言えないわね」
「そうですか……」
「あの…シラハが使う体術とかは、両親である二人が教えたの?」
ルーアの問いが終わると、続けてサシャが嬢ちゃんの戦闘法について聞き始めた。
確かに俺もそれは気になっていたんだよな。
駆けつけて来たと思ったら張り手で変異種を吹っ飛ばしていたし、その前のウッドゴーレムも突きで真っ二つだったしな。
この二人も相当な格闘家なのかもしれねぇ……
「体術?」
父親の方が何の事か分からない、と言った風に首を傾げている。
実はこの二人、嬢ちゃんの事をあまり知らないんじゃないのか?
というか、本当に親なのか?
確かにこの二人は嬢ちゃんに父さん、母さんと呼ばれてはいたが、よく見なくとも嬢ちゃんには似ていねえ。
なんで黒髪の父親と、薄青の髪の母親から白髪の娘が産まれるんだよ。
まぁ、そこら辺は事情があるだろうから下手には聞けないがな……
「二人が教えたんじゃないの?」
「我がそんな小手先の技を知っている訳がないだろう……」
「私も教えてないわ。戦い方はシーちゃんが生きていく中で自然と身に付けたモノのはずよ」
「まだ大人とも言えない年齢なのに、なんでそんな風に手放しにできるのさ」
サシャが嬢ちゃんの両親を咎めるような言い方をする。
「よすんだ、サシャ」
「でも……!」
それをライオスが止める。
言いたい気持ちは分かるが、今日会ったばかりの俺達がどうこう言うのは良くないだろうな。
もし話し合うなら嬢ちゃんも交えて話すべきだしな。
「言いたい事はそれだけか?」
「な……」
嬢ちゃんの父親の言葉にサシャが反応するが、すぐに口を閉じる。
それを見て父親はつまらなそうな冷めた視線をこちらに向けて来た。
「まったく……ついでとはいえ助けてやったというのに、苦言を呈してくるとはな……」
「それについては感謝しているけど、それとこれとは話が別だろっ」
サシャは、嬢ちゃんの父親の言い方に腹が立っているのか止まろうとしない。
コイツが俺以外に食ってかかるのは珍しいな……
「ガイアス。この子達は私達の事を何も知らないのだから、何を言っても無駄よ」
「分かっている……だからこそ腹が立つ。貴様らが我等の何を知っているというのだ?」
「少なくとも、アンタ達が思っているほどシラハは強くないって事は知ってるよ!」
「シラハが我等より弱いのは分かりきっている。我等とシラハとでは戦い方が根本的に異なるから、戦い方を教える事もできない。だからと言って娘を蔑ろにしている事など断じてない!」
嬢ちゃんの父親が、そうはっきりと言い切った。
たしかに嬢ちゃんは、この二人を信頼している様子だったしな。
「俺の仲間がすまない……。二人がシラハを大切にしているのは助けに来た事から明らかだ」
「そうだけど……」
ライオスに言われてサシャが大人しくなる。
そうそう、少し落ち着こうや。
「ふぅ……」
会話が途切れたところで、嬢ちゃんの母親が抱きとめたままの嬢ちゃんをそのままに、近くにあった岩に腰掛ける。
それだけ見ると本当に親娘そのものなんだよな。
「帰らんのか?」
「シーちゃんが助けようとした子達を、そのまま放って行くわけにもいかないわ……。だから、シーちゃんが目を覚ますまではここにいるわ」
「仕方ないか……」
どうやら二人は、まだ俺達と一緒に居るらしい。
俺達はボロボロだし、腕の立つヤツがいてくれるのはありがてぇ。
とはいえ、サシャが喧嘩をうらなきゃいいんだがな……
「そんじゃ、火だけでも起こすとするか……」
「ディアンは治療です!」
なんか嬢ちゃんの両親には話しかけ難いから、この場から離れたかったんだが、ルーアに止められた。
ルーアは怪我をしている奴は放っておけないからな……
ライオスやサシャも怪我はしているが、その辺の融通はきくからまだマシだけどな。
その間にライオスとサシャが薪を拾ってくる。
「シーちゃんは何故、貴方達と一緒に行動していたの?」
暇だったのか、嬢ちゃんの母親が俺に話しかけてきた。
俺も治療を受けている間は暇だから、嬢ちゃんが俺達と合流した経緯を説明する。
すると、嬢ちゃんの母親が頭を抱え始めた。
「シーちゃんだけなら逃げる事もできたでしょうに、なんで、こんなボロボロになるまで……」
「レティーツィア……シラハは我を使い走りにさせてまで人助けをさせようとするのだぞ? 自分の目の前に助ける対象がいれば無理もするだろう」
「そうだけど……」
なんだかな……
最初は娘を助けにきた頼れる両親って感じだったが、少し話せば放任主義かとも思える発言。
そんで今は娘の無理な行動に頭を悩ませている。
よく分からんが、やはり娘の事は気にかけているのは分かった。
「アンタら、なんで嬢ちゃんが一人で出歩くのを認めたんだ?」
「何故って?」
「アンタらを見てると普通に親が子を心配している様に見えるのに、なんで危険な一人旅を認めたのかが分からねえんだよ」
俺の言葉に二人が少し考える素振りをする。
そして、
「一人旅って危険なのか?」
「その辺なら、危険はないと思うけど……」
なんて台詞が返ってきた。
いや、何言ってるんだコイツら……
そうか…嬢ちゃんの一人旅を認めたのはコイツらが、そもそも一人旅を危険なものと認識していなかったからなのか……それはなんと言えばいいのだろうか。
「ルーア。俺、頭痛くなってきたわ……なんとかしてくれ」
「それは私に言われても治せないので我慢してください……」
俺の治療をしているルーアも、なんだか遠い目をしている気がするな。
「おお、そうだった。貴様らに確認しておく事があったのだ」
「確認?」
さっきまでの会話をしていると疲れるから、話題を変えてくれるのは構わないが、確認する事なんか何かあるのか?
「先程倒した魔物。アレはシラハが倒したから全部シラハの物だろう?」
「まぁ……そうなるな」
なるほど、分配の話か……
アレを嬢ちゃんが倒した。というのは違う気もしないでもないが、ボコボコにしていた当の本人がそれでいいのなら、どうでもいいか……
だが、あれ程の魔物だ。
今回、俺達が調査している理由とも関係している可能性もあるんだよな……
そうなると、全てとは言わないがジャガールの変異種だと証明できるだけの証拠が欲しい。
「つまり、アレの魔石はシラハの物という事で構わんな?」
「ん、魔石? それだけでいいのか?」
「それ以外に必要な物があるか?」
俺がどうにか交渉して証拠となる物だけでも確保しないとな、と考えていると魔石以外要らないと言われた。
いや……正気か?
あれだけ硬い外皮なら、頑丈な防具ができるだろうし、爪や牙も武器の材料になるはずだ。
なのに要らないとか……
「魔石は構わないが、他にも欲しい物があるんじゃないのか?」
「要らんだろ。どう見ても筋張っていて不味そうだ」
「いや、誰が肉質の話をしたんだよ!」
ここでも二人はよく分かっていない様子だった。
なんだよ本当にコイツらは!
常識っつうもんが備わってないのかよ!
「ま、まぁ……取り分の話は嬢ちゃんが起きてから改めて話すとしよう」
「それで構わんぞ」
というか父親の方はなんで喋り方が、そんなに尊大なんだよ……
その後は、戻ってきたライオスとサシャも治療を受けつつ、焚き火で暖をとった。
その間も嬢ちゃんの両親は、嬢ちゃんの寝顔を覗き込んでは微笑ましそうにしていた。
それを見てサシャは、なんだか気不味そうな顔をしていたが、あれは人ん家の事情に口出ししたコイツが悪いからな。
それよりも……腹が減ったなぁ……
俺の腹の虫が鳴くと三人に睨まれた。
好きで鳴らしたんじゃねぇんだから、俺を睨むんじゃねぇ!
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
サシャ「お腹減ったね……」
ディアン「言うな。余計に腹が減る」
ライオス「帰ったら、まず食事にしよう。腹一杯食べような」
ディアン「だから言うなって…!」
ルーア「モツ鍋とか食べてお腹の中から温まりたいです……」
ディアン「ああ…いいなぁ。じゃなくて、食い物の話やめろぉ! 聞いてて辛いだろうが! あとルーア、お前よく人の腹を治しておいてモツとか言えるな!」
嬢ちゃんが父親を名乗る男から受け取った剣のような物で、変異種にトドメを刺した。
俺達がいくら攻撃をしても、まともに傷を負わせられなかったっていうのに割と簡単に頭を割っていた。
嬢ちゃんが受け取った、あの武器はなんなんだ?
いや……それよりも、あの変異種の攻撃を易々と受け止めるこの男や、軽々と殴り飛ばす女は何なんだ?
この二人を嬢ちゃんは「父さん、母さん」と呼んでいた。
つまりは俺達の敵では無いはずだ。
なのに何でだ?
なんで俺は、嬢ちゃんが父さんと呼んだ男に睨まれているんだよ!
「な、なんすか?」
俺はAランクの冒険者だ。
そこいらのチンピラに睨まれたくらいじゃビビったりはしねぇ。
なのに、この男の睨みと威圧感は、まるで大型の魔物を前にした時のようだ。
コイツは一体……
「ディアン!」
そこへボロボロになったライオスとサシャがルーアから応急手当を受けたのか、ふらつきながらも歩いてきた。
「よぅ……お互いボロボロになったもんだなぁ」
「さすがに今回は駄目かと思ったよ」
「全くだ」
「それと……」
ライオスがチラリと嬢ちゃんの両親に視線を向けた。
やっぱ気になるよな。
「あー…っと。この二人はなんでも、嬢ちゃんの両親らしいぞ」
「そうなのか! 本当に助かりました。娘さんにも助けていただいて、なんとお礼を言ったらいいか……」
「気にするな。娘が助けようとした者達を助けるのは親として当然だからな!」
ライオスの言葉を遮りながら、なんて事もないように言い切った。
いや…普通はあんな簡単には倒せないからな!
「それよりも貴方達、怪我をしているのなら先に治した方がいいんじゃない?」
「あ……それでは私は治療に集中させて貰います。ほらディアン! そこに座ってください」
嬢ちゃんの母親に促されて、ルーアが俺の治療を始める。
って、俺より先に治すヤツがいるだろ!
「おい、ルーア…俺より先に嬢ちゃんを治せって……! 肩もやられてるし、最初にかなりヤバイ受け方してただろ?!」
「そうなんですけど……」
俺の言葉にルーアが気不味そうな態度になる。
コイツが治療を嫌がる訳がないだろうし、何かあったのか?
「大丈夫よ。見たところ死ぬような怪我ではないし、貴方達は自分の事を優先しなさい」
すると嬢ちゃんの母親がそんな事を言い出した。
親なのに娘の怪我を気にもしないのか?!
「おい……親なのにそれはないんじゃないのか? 娘が心配じゃねえのかよ!」
「よせっディアン!」
ライオスが止めようとするが、俺は腹の怪我も気にせずに立ち上がると二人を睨みつける。
二人は何の事かわからない様子だし、本当に嬢ちゃんの両親なのか?
「何を怒っているのかは知らないけれど、それくらいの怪我ならシーちゃんは一晩で治るもの」
「なに?」
俺は眠っている嬢ちゃんを見るが、肩の周りは血で服が赤く染まっているし、とてもではないが一日二日で治るようなもんには見えない。
嘘をつくにしても、もう少しまともな嘘は吐けないのか?
「あ、あの……」
そこでルーアが治療の手を止め、二人の方を向いた。
「なにかしら?」
「そ、それは…シラハさんが致命傷を一瞬で治したのと同じ力……なんですか?」
「致命傷…というのは?」
ルーアの言葉に嬢ちゃんの母親が問いを返す。
致命傷が一瞬で治った? どういう事だ?
「シ、シラハさんの左腕とお腹の所……服が破けてますよね。シラハさん……私とライオスを庇ったせいで、左腕の欠損にお腹の半分近くを持っていかれて……私の魔法では治せませんでした……。
私は確かにシラハさんが亡くなったのを確認しました。でも……急に時が戻るかのようにシラハさんの傷が、みるみると塞がっていったんです……!」
ルーアが信じられない、と言わんばかりの表情をしている。
ルーアが嘘をつくとは思わないが、とても信じられる話ではなかった。
全員、口には出さなかったが俺と同じ思いだとおもう。
「どう思う? ガイアス」
「それは……アレだろう」
「ええ……アレ、よね」
そんな中、嬢ちゃんの両親が何やら話をしている。
なんだよ、アレって……
少し二人だけで話した後、嬢ちゃんの母親がルーアの方に顔を向け直した。
「はっきりとは言えないけれど、おそらくは……としか私は言えないわね」
「そうですか……」
「あの…シラハが使う体術とかは、両親である二人が教えたの?」
ルーアの問いが終わると、続けてサシャが嬢ちゃんの戦闘法について聞き始めた。
確かに俺もそれは気になっていたんだよな。
駆けつけて来たと思ったら張り手で変異種を吹っ飛ばしていたし、その前のウッドゴーレムも突きで真っ二つだったしな。
この二人も相当な格闘家なのかもしれねぇ……
「体術?」
父親の方が何の事か分からない、と言った風に首を傾げている。
実はこの二人、嬢ちゃんの事をあまり知らないんじゃないのか?
というか、本当に親なのか?
確かにこの二人は嬢ちゃんに父さん、母さんと呼ばれてはいたが、よく見なくとも嬢ちゃんには似ていねえ。
なんで黒髪の父親と、薄青の髪の母親から白髪の娘が産まれるんだよ。
まぁ、そこら辺は事情があるだろうから下手には聞けないがな……
「二人が教えたんじゃないの?」
「我がそんな小手先の技を知っている訳がないだろう……」
「私も教えてないわ。戦い方はシーちゃんが生きていく中で自然と身に付けたモノのはずよ」
「まだ大人とも言えない年齢なのに、なんでそんな風に手放しにできるのさ」
サシャが嬢ちゃんの両親を咎めるような言い方をする。
「よすんだ、サシャ」
「でも……!」
それをライオスが止める。
言いたい気持ちは分かるが、今日会ったばかりの俺達がどうこう言うのは良くないだろうな。
もし話し合うなら嬢ちゃんも交えて話すべきだしな。
「言いたい事はそれだけか?」
「な……」
嬢ちゃんの父親の言葉にサシャが反応するが、すぐに口を閉じる。
それを見て父親はつまらなそうな冷めた視線をこちらに向けて来た。
「まったく……ついでとはいえ助けてやったというのに、苦言を呈してくるとはな……」
「それについては感謝しているけど、それとこれとは話が別だろっ」
サシャは、嬢ちゃんの父親の言い方に腹が立っているのか止まろうとしない。
コイツが俺以外に食ってかかるのは珍しいな……
「ガイアス。この子達は私達の事を何も知らないのだから、何を言っても無駄よ」
「分かっている……だからこそ腹が立つ。貴様らが我等の何を知っているというのだ?」
「少なくとも、アンタ達が思っているほどシラハは強くないって事は知ってるよ!」
「シラハが我等より弱いのは分かりきっている。我等とシラハとでは戦い方が根本的に異なるから、戦い方を教える事もできない。だからと言って娘を蔑ろにしている事など断じてない!」
嬢ちゃんの父親が、そうはっきりと言い切った。
たしかに嬢ちゃんは、この二人を信頼している様子だったしな。
「俺の仲間がすまない……。二人がシラハを大切にしているのは助けに来た事から明らかだ」
「そうだけど……」
ライオスに言われてサシャが大人しくなる。
そうそう、少し落ち着こうや。
「ふぅ……」
会話が途切れたところで、嬢ちゃんの母親が抱きとめたままの嬢ちゃんをそのままに、近くにあった岩に腰掛ける。
それだけ見ると本当に親娘そのものなんだよな。
「帰らんのか?」
「シーちゃんが助けようとした子達を、そのまま放って行くわけにもいかないわ……。だから、シーちゃんが目を覚ますまではここにいるわ」
「仕方ないか……」
どうやら二人は、まだ俺達と一緒に居るらしい。
俺達はボロボロだし、腕の立つヤツがいてくれるのはありがてぇ。
とはいえ、サシャが喧嘩をうらなきゃいいんだがな……
「そんじゃ、火だけでも起こすとするか……」
「ディアンは治療です!」
なんか嬢ちゃんの両親には話しかけ難いから、この場から離れたかったんだが、ルーアに止められた。
ルーアは怪我をしている奴は放っておけないからな……
ライオスやサシャも怪我はしているが、その辺の融通はきくからまだマシだけどな。
その間にライオスとサシャが薪を拾ってくる。
「シーちゃんは何故、貴方達と一緒に行動していたの?」
暇だったのか、嬢ちゃんの母親が俺に話しかけてきた。
俺も治療を受けている間は暇だから、嬢ちゃんが俺達と合流した経緯を説明する。
すると、嬢ちゃんの母親が頭を抱え始めた。
「シーちゃんだけなら逃げる事もできたでしょうに、なんで、こんなボロボロになるまで……」
「レティーツィア……シラハは我を使い走りにさせてまで人助けをさせようとするのだぞ? 自分の目の前に助ける対象がいれば無理もするだろう」
「そうだけど……」
なんだかな……
最初は娘を助けにきた頼れる両親って感じだったが、少し話せば放任主義かとも思える発言。
そんで今は娘の無理な行動に頭を悩ませている。
よく分からんが、やはり娘の事は気にかけているのは分かった。
「アンタら、なんで嬢ちゃんが一人で出歩くのを認めたんだ?」
「何故って?」
「アンタらを見てると普通に親が子を心配している様に見えるのに、なんで危険な一人旅を認めたのかが分からねえんだよ」
俺の言葉に二人が少し考える素振りをする。
そして、
「一人旅って危険なのか?」
「その辺なら、危険はないと思うけど……」
なんて台詞が返ってきた。
いや、何言ってるんだコイツら……
そうか…嬢ちゃんの一人旅を認めたのはコイツらが、そもそも一人旅を危険なものと認識していなかったからなのか……それはなんと言えばいいのだろうか。
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「それは私に言われても治せないので我慢してください……」
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「確認?」
さっきまでの会話をしていると疲れるから、話題を変えてくれるのは構わないが、確認する事なんか何かあるのか?
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アレを嬢ちゃんが倒した。というのは違う気もしないでもないが、ボコボコにしていた当の本人がそれでいいのなら、どうでもいいか……
だが、あれ程の魔物だ。
今回、俺達が調査している理由とも関係している可能性もあるんだよな……
そうなると、全てとは言わないがジャガールの変異種だと証明できるだけの証拠が欲しい。
「つまり、アレの魔石はシラハの物という事で構わんな?」
「ん、魔石? それだけでいいのか?」
「それ以外に必要な物があるか?」
俺がどうにか交渉して証拠となる物だけでも確保しないとな、と考えていると魔石以外要らないと言われた。
いや……正気か?
あれだけ硬い外皮なら、頑丈な防具ができるだろうし、爪や牙も武器の材料になるはずだ。
なのに要らないとか……
「魔石は構わないが、他にも欲しい物があるんじゃないのか?」
「要らんだろ。どう見ても筋張っていて不味そうだ」
「いや、誰が肉質の話をしたんだよ!」
ここでも二人はよく分かっていない様子だった。
なんだよ本当にコイツらは!
常識っつうもんが備わってないのかよ!
「ま、まぁ……取り分の話は嬢ちゃんが起きてから改めて話すとしよう」
「それで構わんぞ」
というか父親の方はなんで喋り方が、そんなに尊大なんだよ……
その後は、戻ってきたライオスとサシャも治療を受けつつ、焚き火で暖をとった。
その間も嬢ちゃんの両親は、嬢ちゃんの寝顔を覗き込んでは微笑ましそうにしていた。
それを見てサシャは、なんだか気不味そうな顔をしていたが、あれは人ん家の事情に口出ししたコイツが悪いからな。
それよりも……腹が減ったなぁ……
俺の腹の虫が鳴くと三人に睨まれた。
好きで鳴らしたんじゃねぇんだから、俺を睨むんじゃねぇ!
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後書き
サシャ「お腹減ったね……」
ディアン「言うな。余計に腹が減る」
ライオス「帰ったら、まず食事にしよう。腹一杯食べような」
ディアン「だから言うなって…!」
ルーア「モツ鍋とか食べてお腹の中から温まりたいです……」
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