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仮設住宅、建てちゃいます。
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なんか寒くて目が覚めました、おはようございます。
って、今日はやけに冷えるなぁ……と思ったけど、これって母さんの影響だよね?
マグナスさんは人化してる時は熱気とかを感じないけど、やっぱり真化する前だと力の制御が利かないのかな?
家の中が寒いので、いつもより一枚多く服を着込んで活動開始。
「おお…シーちゃん、おはよう」
「お爺ちゃん、おはよー」
お爺ちゃんの来訪から数日、お爺ちゃんは家に泊まっている。
レイリーも家に入れると狭いので、マグナスさんの寝床で引き取ってもらった。
帰らなくて良いの? と聞いたんだけど、お爺ちゃんと一緒に戻らないと帰ってこなさそうだから……と嘆いていた。
「今日は昨日より随分と寒くなったようだし、そろそろマグナスから竜鱗を貰った方が良いんじゃないか?」
「そうだね。あとでマグナスさんにお願いしてみるよ」
「その必要はない! 朝一で持ってきたぞ!」
お爺ちゃんと話をしていたら、唐突にマグナスさんがやって来た。
「起き抜けにマグナスさんの声は頭に響くので、もう少し静かにして貰えると助かります……。でも竜鱗は、ありがたく貰っておきます」
「うむ!」
朝からマグナスさんは元気だなぁ……
寒い日の朝は布団から出たくない私にとって、そのテンションは辛い……
「娘ちゃんは、朝って元気ないんだねー」
「朝っぱらからレイリーに会って、元気な人っているんですか?」
「朝から娘ちゃんが手厳しいっ!」
「せっかくのシーちゃんとの団欒に水を差すとは……」
「ガイアスの娘には、この冷気は少々堪えるだろうと思ったから急いで持ってきたのだ! 許せ長老!」
「マグナスさんの竜鱗は暖かいですねぇ……。手がじんわりと暖かく……あ、やっぱり熱いです」
レイリーを黙らせてから、マグナスさんの持ち込んだ竜鱗で暖を取る。
でも、そのままだと直接触ってなくても熱いなぁ……
「なら、少し砕くか!」
マグナスさんは、そう言うと竜鱗を何度も殴り付けて、いくつかの破片を作る。
私が殴ったら火傷しそう……そもそも砕けるかも怪しいし。
いくつかに分けた破片を家の各所に置いて、どうにか私が家の中で凍えずにすむ室温にできた。ふぃ~…ぬくぬく
「ここまでシーちゃんが寒がるのなら、そろそろ私は外に出なきゃ駄目ね」
「まだ平気だよ……?」
「でも無理をさせて風邪でもひいたら大変よ」
母さんの心配はもっともだ。
私は、今生では風邪をひいた記憶はないけれど、村に閉じ込められていた時に、よく風邪をひかなかったもんだと思う。
最悪、風邪を拗らせて死んでたんじゃないかな……
エルフのルミーナさんなら風邪に効く薬も取り扱ってるかもだけど、別に風邪をひきたい訳でもないしね。
「なら母さんが、ゆっくりできる場所を用意してくるね」
「無理はしないでね」
「うん!」
私は食事を摂ると、母さんの為の仮設住宅を作る為に行動を開始する。
「我もついて行こう」
「一人でも大丈夫だよ?」
「レティーツィアの為の場所を用意するとなると、シラハはまた魔力を沢山使うのだろう? それなら、もしも動けなくなった時の為にも我が側に居なければな」
「そうだね。それじゃあ、もし私が倒れたらよろしくね」
「できれば倒れる前にスキルの使用を止めて欲しいのだが……。まぁ、シラハの気の済むようにするといい」
父さんが少し呆れた様子で、私にそう伝える。
心配かけない為にも、倒れる事のないようにしないとね。
私と父さんは、仮設住宅を建てる候補地をいくつか見繕う。
その中で父さんがお薦めしたのが、神様に会った岩山だった。
父さん曰く、あの岩山周辺は魔力が濃いわりには魔物も少なくて、なかなかに快適な場所なんだそうな。
魔力が濃いと、なんだか調子が良くなるらしいんだってさ。
さすがは神様だなー……と思ったんだけど、そんな場所に仮設住宅建てちゃって良いのかな?
神様の領域に御利益があるのかは分からないけど、父さんの話を聞く限りだと好ましい場所みたいだし……
でも、なんか罰当たりな気もするんだよね……どうしよっかな。
なんて少し悩みはしたけれど、一時的にその場所を使わせて貰うだけだし、神様はきっとそんな些細な事は気にしない…はずっ
母さんには、居心地良く過ごしてもらいたいしね!
というわけで【迷宮領域拡大】で、魔力をどばーっと流して私の領域をー……って、岩山に上手く魔力が流れない。
やっぱり神様の領域だし、それは無理かぁ……ちょっと岩山の表面だけ均したかったんだけどな。
それが無理なら、周囲の雪に魔力を流して……これなら問題なさそうだね。
私の領域となった雪を動かして、岩山を雪で固めて、形を整えて……
よし完成っ!
「今回は作るのが早かったな」
「少し慣れたってのもあるけど、どうも雪は地面を均すのよりは楽みたい」
「なるほどな、扱う物によって難度が変わるのか」
「形が変えやすいからかな? それよりも一度、人化を解いた状態で父さんに上に乗って貰いたいんだけど、良いかな?」
「強度を調べたいのだろう? それくらいは手伝うとも。でなければ後で何をしていたのだ、とレティーツィアに怒られてしまうからな」
「母さんなら怒るんじゃなくて、父さんを蔑んだ目で見てきそうだよね」
「……それは怖いな」
父さんが竜の姿に戻りながら、雪山と化した元岩山の上に乗って崩れないかを確認していく。
雪を押し固めれば氷みたいになるし、ここは一年を通して冬みたいだから、暖かくなって溶けちゃう心配もない。
「うむ。特に問題はなさそうだな」
「良かった。父さん、ありがとう」
父さんによる検証も終わって、無事に仮設住宅は完成だ。
「シラハは魔力をそれなりに使っているし、今日の狩りは我がやっておこう。シラハは、早めに帰って休んでいるといい」
「うん。それじゃあ、今日のご飯は任せちゃうね」
「任せるがいい!」
父さんの提案はありがたいんだけど、この前は生焼け肉が出てきたし、焼くくらいは私がやろうかなー……とか、ちょっと言い出しにくい。
まぁ生焼けだろうと生肉だろうと、お腹壊す人なんて誰もいないんだけどね……。
単純に、その日の焼き加減がレアかミディアムかウェルダンかってだけの話だし。
あー……お肉の事を考えていたらヨダレが……
「あ、シラハだー。やっほー」
「シラハさん、こんにちは」
「クーリヤさんにルミーナさん、こんにちは。ルミーナさんが畑にいるの珍しいですね」
私が畑を通りがかると、クーリヤさんとルミーナさんが何やら話をしていた。
この二人は、よく一緒にいるなぁ。
「時々クーリヤさんの家のお野菜と、ウチの薬を交換してるんですよ」
「ルミーナの作ってくれる薬で野菜が元気になるからねー。虫除けにもなるしー」
「便利なモノがあるんですね」
「私達エルフは森の中で暮らしてるから、虫除けは必需品なのよ」
「森の中に住んでるから、虫とか平気なのかと思ってました」
「虫は無理。私達の家って樹木をくり抜いて作られてるから、虫が湧いたら最悪よ?」
うわー…それはイヤだ。
でも木の中に作られた家は見てみたいなぁ。
「虫は野菜を齧って駄目にするから嫌いー」
「こんな寒い場所にも虫って湧くんですね」
「その環境に適した虫は少なからずいるものよ」
虫の話をしてると、なんか体がムズムズしてくる……。
「そうそう…話は変わるんだけどね。少し前から人間の国がバタバタしてるみたいよ?」
「人間の国って……いくつかあると思うんですけど」
「あー…そうだよね。なんだったかな……たしか帝国とか呼ばれてた気がするんだけど」
「帝国というと、ガルシアン帝国の事ですか?」
「そんな感じだった気がするわ」
ルミーナさん随分と曖昧な……
「その帝国が、どうかしたのー?」
「なんか鉄製品や食料品を集めてるとか? そんな事を仲間が言ってたの」
「食料はともかく鉄製品を集めてるって、農具とかじゃないんですよね?」
「荷を調べた訳じゃないから、ハッキリとした事は分からないみたいなんだけど、たぶん武器なんじゃないかって」
「なんの為に……って、考えるまでもないですよね」
「まぁ、戦争しかないよねー」
「何処を攻めるのかは、まだ分からないけど、私達エルフが住んでいる森に来るんじゃないかって、皆が不安がってるのよね」
エルフの森が帝国とどれくらいの距離があるかは知らないけれど、きな臭い動きがあれば警戒はするよね。
「エルフが住んでいる場所は人に知られているんです?」
「知られてはいないはずなんだけど、私達が気が付いてないってだけで相手にはバレているって事も考えられるし……」
「そうですよね」
「最近は誰かが攫われたって話も聞いてないから、大丈夫だと思うんだけど……」
「攫われた事があるんですか?」
ルミーナさんが怖い事をサラッと言っているけれど、よくある事なのかな……
「昔はそこそこね。攫われて奴隷にされるらしいの。エルフは人間に人気らしいし」
「取り戻そうとかは……」
「したみたいだけど、誰も帰ってこなかったって……。だから昔住んでた場所を捨てて、今私達が住んでいる森に移り住んだらしいの」
「人間は碌なことしませんね……」
「だねぇ……。でも全部の人間が悪い訳じゃないのも分かってるし、どうする事もできないから」
ルミーナさんの言葉には諦めの感情が含まれている気がした。
どれくらい前の事なのかは不明だけど、同じ人間がやった事として、なんか気まずい。
「だから人間の街には入らないで、できる範囲で情報を集めてるの。まぁ警戒するくらいの事しかできないんだけど」
「何もしないよりは、良いんじゃないかなー」
帝国か……あそこには良い印象がないからなぁ。
力ある人が士官できる実力主義、みたいな事を言ってたっけ?
そうなると力を誇示する為に、戦争を引き起こすなんて事もありえるのかな……やだやだ。
「そんなに心配なら炎竜様に助けてもらうとか、どうー?」
「クーリヤさんが頼んでくれるの?」
「私より、シラハの言う事の方が聞いてくれる気がするー」
「言いたい事は分からなくもないですけど、引っ越してきたばかりの私が頼み事するのは気が引けるんですけど……」
こっちに来てから、買い物するのにルミーナさんにはお世話になってるから、力になるのは構わないんだけど……
もしも本当に帝国が攻めてきた場合、マグナスさんに出動してもらったら、攻めた側が蹂躙されちゃうよね。
いや……攻めてきたんだから同情はしないんだけど、その場合は一番被害を受けるのは末端の兵士な訳で……その人達の中で強制されて戦争に参加した人が、私がマグナスさんに声をかけたが為に殺される…って言うのが辛い。
こんな考えをしてる時点で、私は戦争だとか人を指揮する立場は向いてないんだろうけど……もしも、その矛先が全部私に向けられたとしたら問答無用で殺すんだろうなぁ、と矛盾した考えが私の中にはある。
いや、もっと単純に考えよう……
全く面識もない兵士の心配と、たまにくる行商とお喋りする程度の付き合いだとしても、どちらかを選ぶとなれば当然ルミーナさんを選ぶ。
両方を救う?
無理無理。私に、そこまでの行動力はないし。
戦争を止めるにしても、ルミーナさん達エルフを避難させるにしても、反発してくる人達は出てくる。
そんな人達を説得できるほどの影響力なんて私にはない。
だから、もしもルミーナさん達が危機に陥ったら、それを助ける。
私に出来る事なんて、そんなもんだ。
「わかりました。マグナスさんには私が話をしておくので、ルミーナさんは何か動きがあれば教えてください」
「ええ、わかったわ。ありがとうシラハさん」
ルミーナさんが、ホッとした表情になる。
でも、これってもしもの話だからね。
このやり取りが杞憂に終わってくれるのが一番だよね。
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
神様「たまには扉を置いてある場所の空気でも入れ替えるとするかの……って、なぜ全方位を塞がれておるのじゃ!?」
シラハ「あ、ちょっと岩山を借りてますよ」
神様「これは借りてるという程度ではない気がするのじゃ!」
シラハ「あとで元に戻しておくので大丈夫です」
神様「すでに大丈夫じゃないんじゃが……」
シラハ「母さんの真化が終わるまでで良いんです。でないと母さんの事が気になって気になって、うっかり死んじゃいそうです」
神様「酷い脅し方なのじゃ! 神を脅迫するとか、お主は本当に怖いヤツなのじゃ!」
シラハ「今度、お供物を持ってくるので機嫌をなおしてくださいよ」
神様「妾をモノで釣ろうなどとは……。そういえばテラの世界にはタピオカという物を入れた飲み物があると聞いたのじゃ。それを持ってきてくれたら許してやるのじゃ!」
シラハ「なるほど、わかりました。……タピオカってデンプンだっけ? まぁ、神様はタピオカを食べた事ないだろうしカエルの卵でも入れておけば誤魔化せるよね?」
神様「それだけは絶対にやめるのじゃー!」
って、今日はやけに冷えるなぁ……と思ったけど、これって母さんの影響だよね?
マグナスさんは人化してる時は熱気とかを感じないけど、やっぱり真化する前だと力の制御が利かないのかな?
家の中が寒いので、いつもより一枚多く服を着込んで活動開始。
「おお…シーちゃん、おはよう」
「お爺ちゃん、おはよー」
お爺ちゃんの来訪から数日、お爺ちゃんは家に泊まっている。
レイリーも家に入れると狭いので、マグナスさんの寝床で引き取ってもらった。
帰らなくて良いの? と聞いたんだけど、お爺ちゃんと一緒に戻らないと帰ってこなさそうだから……と嘆いていた。
「今日は昨日より随分と寒くなったようだし、そろそろマグナスから竜鱗を貰った方が良いんじゃないか?」
「そうだね。あとでマグナスさんにお願いしてみるよ」
「その必要はない! 朝一で持ってきたぞ!」
お爺ちゃんと話をしていたら、唐突にマグナスさんがやって来た。
「起き抜けにマグナスさんの声は頭に響くので、もう少し静かにして貰えると助かります……。でも竜鱗は、ありがたく貰っておきます」
「うむ!」
朝からマグナスさんは元気だなぁ……
寒い日の朝は布団から出たくない私にとって、そのテンションは辛い……
「娘ちゃんは、朝って元気ないんだねー」
「朝っぱらからレイリーに会って、元気な人っているんですか?」
「朝から娘ちゃんが手厳しいっ!」
「せっかくのシーちゃんとの団欒に水を差すとは……」
「ガイアスの娘には、この冷気は少々堪えるだろうと思ったから急いで持ってきたのだ! 許せ長老!」
「マグナスさんの竜鱗は暖かいですねぇ……。手がじんわりと暖かく……あ、やっぱり熱いです」
レイリーを黙らせてから、マグナスさんの持ち込んだ竜鱗で暖を取る。
でも、そのままだと直接触ってなくても熱いなぁ……
「なら、少し砕くか!」
マグナスさんは、そう言うと竜鱗を何度も殴り付けて、いくつかの破片を作る。
私が殴ったら火傷しそう……そもそも砕けるかも怪しいし。
いくつかに分けた破片を家の各所に置いて、どうにか私が家の中で凍えずにすむ室温にできた。ふぃ~…ぬくぬく
「ここまでシーちゃんが寒がるのなら、そろそろ私は外に出なきゃ駄目ね」
「まだ平気だよ……?」
「でも無理をさせて風邪でもひいたら大変よ」
母さんの心配はもっともだ。
私は、今生では風邪をひいた記憶はないけれど、村に閉じ込められていた時に、よく風邪をひかなかったもんだと思う。
最悪、風邪を拗らせて死んでたんじゃないかな……
エルフのルミーナさんなら風邪に効く薬も取り扱ってるかもだけど、別に風邪をひきたい訳でもないしね。
「なら母さんが、ゆっくりできる場所を用意してくるね」
「無理はしないでね」
「うん!」
私は食事を摂ると、母さんの為の仮設住宅を作る為に行動を開始する。
「我もついて行こう」
「一人でも大丈夫だよ?」
「レティーツィアの為の場所を用意するとなると、シラハはまた魔力を沢山使うのだろう? それなら、もしも動けなくなった時の為にも我が側に居なければな」
「そうだね。それじゃあ、もし私が倒れたらよろしくね」
「できれば倒れる前にスキルの使用を止めて欲しいのだが……。まぁ、シラハの気の済むようにするといい」
父さんが少し呆れた様子で、私にそう伝える。
心配かけない為にも、倒れる事のないようにしないとね。
私と父さんは、仮設住宅を建てる候補地をいくつか見繕う。
その中で父さんがお薦めしたのが、神様に会った岩山だった。
父さん曰く、あの岩山周辺は魔力が濃いわりには魔物も少なくて、なかなかに快適な場所なんだそうな。
魔力が濃いと、なんだか調子が良くなるらしいんだってさ。
さすがは神様だなー……と思ったんだけど、そんな場所に仮設住宅建てちゃって良いのかな?
神様の領域に御利益があるのかは分からないけど、父さんの話を聞く限りだと好ましい場所みたいだし……
でも、なんか罰当たりな気もするんだよね……どうしよっかな。
なんて少し悩みはしたけれど、一時的にその場所を使わせて貰うだけだし、神様はきっとそんな些細な事は気にしない…はずっ
母さんには、居心地良く過ごしてもらいたいしね!
というわけで【迷宮領域拡大】で、魔力をどばーっと流して私の領域をー……って、岩山に上手く魔力が流れない。
やっぱり神様の領域だし、それは無理かぁ……ちょっと岩山の表面だけ均したかったんだけどな。
それが無理なら、周囲の雪に魔力を流して……これなら問題なさそうだね。
私の領域となった雪を動かして、岩山を雪で固めて、形を整えて……
よし完成っ!
「今回は作るのが早かったな」
「少し慣れたってのもあるけど、どうも雪は地面を均すのよりは楽みたい」
「なるほどな、扱う物によって難度が変わるのか」
「形が変えやすいからかな? それよりも一度、人化を解いた状態で父さんに上に乗って貰いたいんだけど、良いかな?」
「強度を調べたいのだろう? それくらいは手伝うとも。でなければ後で何をしていたのだ、とレティーツィアに怒られてしまうからな」
「母さんなら怒るんじゃなくて、父さんを蔑んだ目で見てきそうだよね」
「……それは怖いな」
父さんが竜の姿に戻りながら、雪山と化した元岩山の上に乗って崩れないかを確認していく。
雪を押し固めれば氷みたいになるし、ここは一年を通して冬みたいだから、暖かくなって溶けちゃう心配もない。
「うむ。特に問題はなさそうだな」
「良かった。父さん、ありがとう」
父さんによる検証も終わって、無事に仮設住宅は完成だ。
「シラハは魔力をそれなりに使っているし、今日の狩りは我がやっておこう。シラハは、早めに帰って休んでいるといい」
「うん。それじゃあ、今日のご飯は任せちゃうね」
「任せるがいい!」
父さんの提案はありがたいんだけど、この前は生焼け肉が出てきたし、焼くくらいは私がやろうかなー……とか、ちょっと言い出しにくい。
まぁ生焼けだろうと生肉だろうと、お腹壊す人なんて誰もいないんだけどね……。
単純に、その日の焼き加減がレアかミディアムかウェルダンかってだけの話だし。
あー……お肉の事を考えていたらヨダレが……
「あ、シラハだー。やっほー」
「シラハさん、こんにちは」
「クーリヤさんにルミーナさん、こんにちは。ルミーナさんが畑にいるの珍しいですね」
私が畑を通りがかると、クーリヤさんとルミーナさんが何やら話をしていた。
この二人は、よく一緒にいるなぁ。
「時々クーリヤさんの家のお野菜と、ウチの薬を交換してるんですよ」
「ルミーナの作ってくれる薬で野菜が元気になるからねー。虫除けにもなるしー」
「便利なモノがあるんですね」
「私達エルフは森の中で暮らしてるから、虫除けは必需品なのよ」
「森の中に住んでるから、虫とか平気なのかと思ってました」
「虫は無理。私達の家って樹木をくり抜いて作られてるから、虫が湧いたら最悪よ?」
うわー…それはイヤだ。
でも木の中に作られた家は見てみたいなぁ。
「虫は野菜を齧って駄目にするから嫌いー」
「こんな寒い場所にも虫って湧くんですね」
「その環境に適した虫は少なからずいるものよ」
虫の話をしてると、なんか体がムズムズしてくる……。
「そうそう…話は変わるんだけどね。少し前から人間の国がバタバタしてるみたいよ?」
「人間の国って……いくつかあると思うんですけど」
「あー…そうだよね。なんだったかな……たしか帝国とか呼ばれてた気がするんだけど」
「帝国というと、ガルシアン帝国の事ですか?」
「そんな感じだった気がするわ」
ルミーナさん随分と曖昧な……
「その帝国が、どうかしたのー?」
「なんか鉄製品や食料品を集めてるとか? そんな事を仲間が言ってたの」
「食料はともかく鉄製品を集めてるって、農具とかじゃないんですよね?」
「荷を調べた訳じゃないから、ハッキリとした事は分からないみたいなんだけど、たぶん武器なんじゃないかって」
「なんの為に……って、考えるまでもないですよね」
「まぁ、戦争しかないよねー」
「何処を攻めるのかは、まだ分からないけど、私達エルフが住んでいる森に来るんじゃないかって、皆が不安がってるのよね」
エルフの森が帝国とどれくらいの距離があるかは知らないけれど、きな臭い動きがあれば警戒はするよね。
「エルフが住んでいる場所は人に知られているんです?」
「知られてはいないはずなんだけど、私達が気が付いてないってだけで相手にはバレているって事も考えられるし……」
「そうですよね」
「最近は誰かが攫われたって話も聞いてないから、大丈夫だと思うんだけど……」
「攫われた事があるんですか?」
ルミーナさんが怖い事をサラッと言っているけれど、よくある事なのかな……
「昔はそこそこね。攫われて奴隷にされるらしいの。エルフは人間に人気らしいし」
「取り戻そうとかは……」
「したみたいだけど、誰も帰ってこなかったって……。だから昔住んでた場所を捨てて、今私達が住んでいる森に移り住んだらしいの」
「人間は碌なことしませんね……」
「だねぇ……。でも全部の人間が悪い訳じゃないのも分かってるし、どうする事もできないから」
ルミーナさんの言葉には諦めの感情が含まれている気がした。
どれくらい前の事なのかは不明だけど、同じ人間がやった事として、なんか気まずい。
「だから人間の街には入らないで、できる範囲で情報を集めてるの。まぁ警戒するくらいの事しかできないんだけど」
「何もしないよりは、良いんじゃないかなー」
帝国か……あそこには良い印象がないからなぁ。
力ある人が士官できる実力主義、みたいな事を言ってたっけ?
そうなると力を誇示する為に、戦争を引き起こすなんて事もありえるのかな……やだやだ。
「そんなに心配なら炎竜様に助けてもらうとか、どうー?」
「クーリヤさんが頼んでくれるの?」
「私より、シラハの言う事の方が聞いてくれる気がするー」
「言いたい事は分からなくもないですけど、引っ越してきたばかりの私が頼み事するのは気が引けるんですけど……」
こっちに来てから、買い物するのにルミーナさんにはお世話になってるから、力になるのは構わないんだけど……
もしも本当に帝国が攻めてきた場合、マグナスさんに出動してもらったら、攻めた側が蹂躙されちゃうよね。
いや……攻めてきたんだから同情はしないんだけど、その場合は一番被害を受けるのは末端の兵士な訳で……その人達の中で強制されて戦争に参加した人が、私がマグナスさんに声をかけたが為に殺される…って言うのが辛い。
こんな考えをしてる時点で、私は戦争だとか人を指揮する立場は向いてないんだろうけど……もしも、その矛先が全部私に向けられたとしたら問答無用で殺すんだろうなぁ、と矛盾した考えが私の中にはある。
いや、もっと単純に考えよう……
全く面識もない兵士の心配と、たまにくる行商とお喋りする程度の付き合いだとしても、どちらかを選ぶとなれば当然ルミーナさんを選ぶ。
両方を救う?
無理無理。私に、そこまでの行動力はないし。
戦争を止めるにしても、ルミーナさん達エルフを避難させるにしても、反発してくる人達は出てくる。
そんな人達を説得できるほどの影響力なんて私にはない。
だから、もしもルミーナさん達が危機に陥ったら、それを助ける。
私に出来る事なんて、そんなもんだ。
「わかりました。マグナスさんには私が話をしておくので、ルミーナさんは何か動きがあれば教えてください」
「ええ、わかったわ。ありがとうシラハさん」
ルミーナさんが、ホッとした表情になる。
でも、これってもしもの話だからね。
このやり取りが杞憂に終わってくれるのが一番だよね。
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後書き
神様「たまには扉を置いてある場所の空気でも入れ替えるとするかの……って、なぜ全方位を塞がれておるのじゃ!?」
シラハ「あ、ちょっと岩山を借りてますよ」
神様「これは借りてるという程度ではない気がするのじゃ!」
シラハ「あとで元に戻しておくので大丈夫です」
神様「すでに大丈夫じゃないんじゃが……」
シラハ「母さんの真化が終わるまでで良いんです。でないと母さんの事が気になって気になって、うっかり死んじゃいそうです」
神様「酷い脅し方なのじゃ! 神を脅迫するとか、お主は本当に怖いヤツなのじゃ!」
シラハ「今度、お供物を持ってくるので機嫌をなおしてくださいよ」
神様「妾をモノで釣ろうなどとは……。そういえばテラの世界にはタピオカという物を入れた飲み物があると聞いたのじゃ。それを持ってきてくれたら許してやるのじゃ!」
シラハ「なるほど、わかりました。……タピオカってデンプンだっけ? まぁ、神様はタピオカを食べた事ないだろうしカエルの卵でも入れておけば誤魔化せるよね?」
神様「それだけは絶対にやめるのじゃー!」
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