とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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今日の天気は吹雪ですが局地的に青空が見えますよ。

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 いきなりですが、今日は集落の外が猛吹雪に見舞われています。

 私が此処に来てからは、雪がちらほらと降る事はあっても、視界を遮られる程の吹雪は初めてだ。

「ふむ……もしかするとレティーツィアの真化が始まっているのかもしれんな」
「そうなの?」

 一緒に吹雪を眺めていた父さんが、そんな事を言い出した。
 そうだとしたら、その瞬間に立ち会ってみたいよね。

「ああ、レティーツィアの魔力を強く感じるからな」
「母さんの所に行っちゃダメかな?」
「……シラハでは、今のレティーツィアに会うのは厳しいだろう。おそらくスキルを使っても冷気を凌げまい」
「そっか……それじゃ、仕方ないね」

 父さんに、そう言われては納得するしかない。
 スキルを使っても、母さんの側が寒かったのは事実だし。

 せっかくだから真化を見たかったのだけど残念無念。


「それなら俺も行こうではないか!」
「ついでにレイリーも連れていけば役に立つはずだ!」

 そこにマグナスさんとお爺ちゃんがやってくる。あと、ついでにレイリーも。

「ねぇ長老……そこに僕の意志は関係ないの?」
「居候でタダ飯喰らいの穀潰しがっ! 少しはシーちゃんの役に立とうとは思わんのか!」
「それ、そのまま長老に返ってくる発言だからね?!」

 たしかにマグナスさんがいれば、暖をとりながら母さんの所に行けるかもしれない。
 でもレイリーって、何が出来るんだろ……
 
「あれ? なんか僕の力を疑われている気がするんだけど……」
「レイリーが何かしてるところを見た事ないので……」
「むむ……たしかに娘ちゃんの前では力を使った事はないかも」
「レイリーの評価は低くても構わないが、シーちゃんの為になるのならいくらでも力を使え!」
「理不尽!」

 レイリーの力は知らないけれど、何かしら寒さを凌げる力でもあるのかな?
 お爺ちゃんは、役に立つって確信してるみたいだし。


「では行くと決まったのなら、すぐに出発だ! この瞬間にも真化が終わってしまうかもしれんからな!」
「お前が仕切るなマグナス」
「そういうなガイアス! こういう出来事は、どんな時であっても面白くてな! 気が急いてしまう!」
「はしゃぐのはいいけど、娘ちゃんが凍えないようにしなきゃなんでしょ? ちょっと待っててねー……えっと、レティーツィアがいるのはあっちだよね?」

 レイリーが少し悩む素振りをした後に天を仰いだ。

 上に何があるんだろう? と私もつられて空を見上げると、さっきまで空を覆っていた分厚い雲に裂け目ができていた。

「雲が……」

 私達がいる場所から母さんがいる辺りまでの雲が綺麗に裂けている。

「なっはっはっ! レイリーの力は相変わらず凄まじいな!」
「いやー、それほどでも……。それより娘ちゃん! どうだった僕の力はさ?」

 レイリーが、ちょっとドヤ顔で聞いてくる。……くっ、素直に凄いと言い難い。

「レイリーは、やればできる子だったんですね」
「あれ? なんか、あまり褒められてる気がしない……」
「人間社会では最高の褒め言葉ですよ?」
「そうなの?!」

 褒め言葉ととるかは人によると思うけどね……

 それよりも、レイリーは雲を操れるのかな?
 たしか初めて会った時に天竜だと紹介されたけど、もしかして天候そのものを操れたりするの?
 だとしたらレイリーって、実は凄い竜なんじゃ……


「レイリーなんぞ放って置いて、レティーツィアの下に行くぞ」
「そうだね」
「親子揃って酷くない?!」
「今はレイリーよりも、レティーツィアの方が気になっているだけだろう! だから気にするな!」

 レイリーがマグナスさんに慰められているのを横目に見ながら、私は竜の姿になった父さんの背中に乗る。

「くぅ……儂の背に乗って欲しかったのだが……」

 そして、お爺ちゃんが少し悔しそうだったけど、そこはスルーで……
 さあさあ、母さんの所へレッツゴー!








 そんなこんなで、母さんの所にやって来た。
 さすがに竜が四人もいるのに絡んでくる魔物もいなかった。

「あら……ガイアス。シーちゃんも来てくれたのね」
「当然だとも」
「でもシーちゃんに、この冷気は辛いはずよ……」
「そこはマグナスとレイリーが、喜んで力を貸してくれているぞ」
「え……僕は半ば強制だっ――あいた?!」

 反論しようとしたレイリーが、父さんの尻尾で叩かれた。
 ちょっと可哀想ではあるけれど、少しは空気を読もうよ……


 私が母さんの方を見ると、母さん自身から発せられている冷気のせいなのか、白い靄が周囲を漂っていた。

 時折その靄の隙間からアクアマリンのような透明感のある竜鱗が見える。

 あれが真竜としての母さんの竜鱗…………綺麗。

「父さん、母さんの竜鱗綺麗だね。なんか宝石みたい」
「そうだな。……ところでシラハは宝石が好きなのか?」
「綺麗だからねー。でも、それで全身をキラッキラに着飾ったりするのは好きじゃないよ?」
「そうなのか……。あのような石ころに興味は無かったが、シラハが欲しいのなら少し集めてみるか?」
「……街を襲っちゃダメだよ?」
「わ…わかっているともっ」

 怪しい……釘を刺しておかなかったら、容赦なく略奪しそうな雰囲気だったよね?


 父さんと話している間にも、母さんの竜鱗がパキパキと音を立てながら色を変えていく。

「ねえ、父さん。母さんの真化が終わったら何竜になるの?」
「ふむ……ここまで冷気を発しているのだから氷か雪……と言ったところか?」
「たぶん、氷だと思うよ」

 私の何気ない質問に答えてくれた父さんの推測の一つを、レイリーが後押しする。

「なんで氷だと思うんです?」
「ほら此処に来る前に、僕…吹雪というか天候に干渉したでしょ? もしもレティーツィアが雪の真竜になるのだとしたら、限定的にとはいえ僕と同じで天候に干渉できる事になる。そうなると僕の力でも吹雪は止められなかった可能性があるんだよね。雪の真竜が得意とする環境下では、たぶん干渉できないから」
「そういうものですか……」

 竜の力の関係はよく分からないなぁ……
 そうなると誰が一番強い、とかも簡単には測れないって事なのかな。

「じゃあ、母さんが氷の真竜だったとして、なんで今みたいな吹雪が発生してるんです?」
「んー……あんまり詳しい事は分からないけど、レティーツィアの魔力が何らかの影響を与えてるんじゃない?」

 レイリーの説明が急に雑になった!

「シーちゃんや、その力に近いモノは真竜の影響を受け易いという事だ。その背負う真竜の名によって、どれに特化するかが変わってくる」
「どれに特化……」

 お爺ちゃんがレイリーの説明を引き継いでくれた。

 真化って単純に竜の属性が決まるだけかと思っていたけど、何に特化するかが決まるって事なんだ。
 雪も氷ではあるはずなんだけど、その辺りの区分を考えても仕方ないか。

 魔力が当たり前のようにある異世界こっちの事象を、前世の知識で考えたって意味ないだろうし。



 そんな説明を受けたり考察をしたりしている間に、母さんの周りから靄が消えていった。

「あれ……終わり?」
「そのようだな」

 なんというか……ちょっと拍子抜けな感じがしてしまった。

 いやいや…いつだか目の前で進化したハイオークも、色が変わるだけだったじゃん。

 ただ竜だから何か凄い事が起きるのかも、って勝手に期待してただけ。
 しかもマグナスさんやレイリーの協力がなければ、私が近付くのは難しかった。
 凄い人が周りにいるから分からなくなっていただけで、母さんを中心に発生していた吹雪自体が凄い事なんだよ。

 あまり竜目線に慣れすぎると、自分にできる事を見誤りかねないから気を付けないとね。




「ふぅ……ようやく終わったわ」

 声を聞いて改めて母さんを見ると、全身が全てアクアマリンのような薄い青色の竜鱗に覆われていた。

「母さん、真化おめでとう。すっごく綺麗だよ」
「あら…ありがとうね、シーちゃん。でも見ているだけでは退屈だったんじゃないかしら?」
「そんな事ないよ。色々と話を聞かせてもらってたし」

 母さんは私と話しながら人化する。
 そんな母さんを器用だなぁ、と考えながら見ていると急に胸の辺りに冷たいモノを感じた。

「…………?」
「シーちゃん、どうしたの?」
「んー? ……わかんない。気のせいかな?」
「そう?」

 ほんの一瞬だけ冷たさを感じたけど、それもすぐに治ったし大丈夫かな?
 それとも寒い所に居たから風邪でもひいたかな?

 それなら早く帰って暖かくして休まないとなぁ……




「それじゃあ、そろそろ戻りましょうか」
「そうだね。あ…その前に、この仮設住宅を崩しちゃうね」
「せっかく作ってくれたのだし、このまま残しておいてくれてもいいのだけれど……」
「それだと困る人もいるかもだから……」

 おもに神様がね……

 なので【迷宮創造】を使って仮設住宅をボロボロっと崩して領域解除。
 これで神様に怒られる事はないと思う。

 場所を貸してくれて、ありがとうございました。と心の中で手を合わせながら礼を伝えておく。
 心の中は読めなくても、感謝の気持ちくらいは伝わるはず! きっと……





 帰りは、お爺ちゃんの背に乗って帰る事に。
 そして私は母さんに抱き締められている。

「はぁ……シーちゃんの久しぶりの温もり……」
「今はもう身体は冷たくないね」
「ええ。本当にそれが一番辛かったわ……シーちゃんに抱きつけないから」

 母さんにとって苦だったのは、そこなんだね……



 そして家の前に到着すると、そこにはクーリヤさんとルミーナさんが待っていた。

「シラハさん!」

 一番にルミーナさんが私に駆け寄ってくる。
 
 もしかして、ちょっと前に話たばかりの事が本当に……?

「帝国が兵を動かしたって情報が入ったんだけどね、どうも行き先はエルフの森じゃないみたいなの!」

 良かったぁー……と、ルミーナさんが安堵した表情を浮かべている。

 私もそれは良かったですね、って返すところなんだけど、なら帝国は何処へ向けて出発したの?

「あのルミーナさん。帝国兵は何処に向かっているんですか?」
「え? ……えーっとエルフの森がない方角?」
「もう少し詳しくお願いします」
「ごめんなさい、私はあまり知らなくて……。あ、でも向かっていった方角は国境を隔てる高い壁があるって聞いたかも……?」
「国境……」

 国境に向かっている、という事は領土侵犯しようとしてる?
 何処かの国と戦争……

 戦争に介入する気はないけれど、もし帝国が向かっているのが私の知っている所だとしたら?



 最悪な想像が私の脳裏を過ってしまった。







//////////////////////////////////////////////////////

後書き
狐鈴「やっと投稿できた……」
シラハ「どうしたの? 何か言い訳があるなら言ってごらん?」
狐鈴「シラハが冷たい……。そして実は熱が下がらなくて……」
シラハ「ちゃんとした理由だった…だと……」
狐鈴「熱で苦しんでる時、ああ…シラハみたいにスキルがあればパパッと治せるのになぁって、しょうもない事ばかり考えてた」
シラハ「いや、私のスキルじゃ病気は治せないからね?」
狐鈴「知ってるけど、何かに縋りたい的な?」
シラハ「重症だね」
狐鈴「うむん」

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