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格が違う
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◆カトレア視点
あたしは今、アルクーレの街に来ている。
数日前までは別の街で活動をしていたのだけれど、何故かアルクーレのギルドマスターから指名依頼が入ったとかで、やってくる事になってしまった。
あたしとアルクーレのギルドマスターとの接点なんて、あの子……エイミーの娘シラハに体力回復薬を渡した時だけだ。
あの時は、ギルドマスターだなんて知らなかったけどね。
後日に領主様のお屋敷に呼ばれた時は、なにかやってしまったのかと思ってヒヤヒヤしたね……
だけどシラハに事情を話せたおかげで、エイミーが恨まれたままにならずに済んで本当に良かったよ。
あの子に、お母さんと呼ばれたのはむず痒かったけどね……
とはいえだ。
あたしがアルクーレに呼ばれたのは、おそらくはあの子絡みの事のはずだ。
さすがにあたしが魔物だという事は喋っていないとは思うけど、また領主様のお屋敷に行くことになるのかと思うと緊張するね。
そういえばアルクーレに向かう前に、アルクーレの街が魔物に襲われている…なんて話を聞いたけど、あの子は無事なんだろうね?
なんか急に不安になってきたね。
あの子は危なかっしい印象があるし……いきなり二階から落ちてきたしね。
何にせよ、まずは呼び出したアルクーレのギルドマスターに会うとしますか。
あたしは冒険者ギルドの中に入り、受付へと向かうと冒険者カードを出しながら受付嬢へと話しかける。
「此処へ呼び出された冒険者のカトレアだ。ギルドマスターは居るかい?」
「カトレアさんですね。来たらギルマスの部屋にお通しするように言われています。こちらへどうぞ」
そう言うと受付嬢が動き出し、あたしはその後をついて行く。
二階へと上がり、一番奥の部屋へと到着すると受付嬢がドアをコンコンと叩く。
人間はこのように報せや合図を求めたりするが、そのまま部屋に入ってしまえばいいといつも思う。
部屋の中で何をしていようが、そもそも隙を見せる方が間抜けなのだから。
「ギルマス。冒険者のカトレアさんがお着きになられました」
「おおっ、そうか! 通してくれ」
受付嬢が部屋の向こうにいるギルドマスターに、私の事を伝えると何故か嬉しそうな反応が返ってきた。
あたしとギルドマスターには関わりなんて全くといっていい程に無いというのに、なんでそんな反応になるんだ?
不思議に思いながらも部屋に入って行くと、ギルドマスターが席から立ちあがりながら、あたしに入ってくるように促す。
別に敵対している訳ではないから不思議ではないけれど、ここまで好意的に迎えられるのは珍しい。
「アゼリア、スマンが馬車を表に用意してきてくれ。すぐに出たい」
「わかりました」
受付嬢が頭を下げてから部屋の扉を閉める。
すぐに出たいって……そんなに急ぎなのかい?
「到着して早々に悪いな」
ギルドマスターが疲れた様子を見せながら、そんな事を言い出した。
急ぐのは別に依頼なんだから構いやしないけどね。
「それは良いんだけど、依頼の内容を聞いていいかい? 何をしに何処へ向かうかくらいは教えてもらいたいんだけど」
「ああ……これから向かうのは領主の屋敷だ」
予想はしていたけど、やっぱりか……
「そして、領主の屋敷で療養している、とある娘を治療して欲しい」
「は?」
治療?
何を言っているんだ、この男は……
「治療ってアンタ、あたしは冒険者だ! 病気だか怪我だか知らないが、そんなの医者に頼むもんだろ?!」
「分かってる! 分かってはいるんだが、もう何でも良いから何か手を打たなければ不味いんだ!」
「不味いって何がさ?」
「それは屋敷に着けば分かる……」
ギルドマスターは、そう言うと力なく肩を落とした。
あまりに変な事を言うから、ギルドマスターをアンタとか言ってしまったけど、そんな事よりこれから向かう場所に不安しかない。
「ちなみに、その娘ってのはシラハの事かい?」
「そうだ」
やっぱり……相手があの子なら断りたくはないけど、あたしに何ができるっていうのさ?
簡単な止血といった応急手当なら冒険者になってから覚えたけど、人間が罹る病気といったモノとは無縁だからね……
「依頼を断る気はないけど、力になれる保証はないよ? だから何も出来なかったとしても失敗扱いにはしないでほしい。あと成功報酬は当然だけど、失敗したとしてもアルクーレの街に来るまでにかかった費用くらいは補填して欲しい。それでも構わないのなら依頼を受けるよ」
「それで構わない」
構わないのかい……
ギルドマスターは安堵した表情をしているけれど、あたしは本当に何も出来ないんだけどねぇ。
「ギルマス、馬車の用意ができました」
「わかった。……カトレア」
「はいよ」
ギルドマスターが急かすようにして、あたしと馬車に乗り込んだ。
ガタゴトと揺れる馬車の中で、まだ聞いていなかった、あの子の容体について訊ねる。
「あの子……シラハは今、どんな状態なんだい?」
「屋敷に運ばれて来た時には起きていたみたいなんだが、休ませるとすぐに意識を無くしたらしい。そこから目を覚ましていない」
「運ばれて来たのはいつだい?」
「十日前だな」
「十日?!」
ガタっと立ち上がって声を上げてしまった。
寝たきりとはいえ、十日も飲まず食わずだなんて人間の身体が持つわけない!
「……十日もあって何も出来なかったって事かい?」
「そうなるな……」
ギルドマスターが気落ちしているが、あたしも力になれなさそうな話を聞いて力が抜けてしまう。
エイミーの娘だから助けてやりたい気持ちはあるけれど、あたしがエイミーを助けるとは訳が違うんだ。
無力感が込み上げてくる。
きっとエイミーも、こんな気持ちだったんだろうね。
そして馬車が領主様のお屋敷に到着した。
ギルドマスターに案内されるままに連れて来られた部屋からは、冷たい空気と身を突き刺すような魔力が漏れ出てきていた。
「……この部屋かい?」
「ああ……」
ギルドマスターの表情を見ると、緊張しているのが分かった。
あたしは緊張どころか今すぐにでも逃げ出したい気持ちだよ。
ギルドマスターが部屋の扉を開けると、真冬を思わせるような冷たい空気がそこにはあった。
しかもあちこち霜だらけで白くなっている。
「これは……」
別に人間の病気や怪我に詳しい訳ではないけれど、この状況が普通でない事は理解できた。
そして部屋の中にいた人とは思えない二人組と、冷気を発しながらも眠りについている、あの子が部屋の中にいた。
というか部屋の中にいる二人はナニ?!
「レギオラ。コレがシーちゃんの知り合い?」
「そ、そうだ……」
「シラハの知り合いと聞いてはいたが、また随分と珍妙な……」
この二人は人間じゃない……あたしはそう直感した。
しかも、そこいらにいるような魔物とも違う……ずっと上位な存在。
「ギルドマスター……この二人は……?」
「ああ…この二人はレティーツィアとガイアス。嬢ちゃんの…シラハの両親だ」
「両親?!」
こんな物騒な存在が両親?!
いや…この二人がいたから生贄にされても無事だったという可能性も?
以前あの子と話をした時は、その辺の事は細かく聞いてなかったね……
あたしが目の前の存在に困惑していると、ギルドマスターが顔を近づけてきた。
「この二人が嬢ちゃんが倒れてから、みるみると機嫌が悪くなっててな……屋敷の連中が怯えてるんだ。だから嬢ちゃんを治せるのなら、と藁にも縋る思いでアンタを呼んだんだ」
「あたしの評価が藁以下になろうが、こんなのが居るって聞いてたら断ってたよ……」
さっきから体の震えが止まらないくらいだしね……
「何が出来るかは分からないけれど、とにかく少し診させてもらうよ」
「頼む」
二人からの圧は無視して、とにかくこの子の様子を診ない事には始まらない。
しかし、診ようにも何故か冷気を発しているのだから触れなくて困る。
どうしたものか…と思案していると、ふとこの子から発せられている冷気から、圧を発している二人に似ている魔力を感じた。
血の繋がっている人間同士なら、魔力の波長が似ている事もあるかもしれない。
だけど、この二人とは血の繋がりはないはずだ。
だとするとコレは……
「ギルドマスター」
「な、なんだ? 何か分かったのか?」
「悪いんだけど、部屋の外に出ててくれるかい?」
「それは構わんが……良いのか?」
ギルドマスターがちらりと二人を見る。
心配はありがたいが、人間がいると話しにくいからね。
「大丈夫だよ」
「わかった。何かあれば呼んでくれ」
ギルドマスターはそう言うと部屋から出ていった。
「ふぅ……邪魔者が居なくなった所で聞きたいんだけどさ、アンタ達は何者だい?」
機嫌を損ねたら殺される不安はあるけれど、この子を助ける為には知りたい事がある。
「レギオラが私達の紹介はしたはずだけど?」
「それは聞いたよ。ただ、あたしが聞きたいのはそう言う事じゃない。アンタ達だって分かってるんだろ? あたしは人間じゃない。そしてアンタ達もだ」
「そうだな、我等は人間ではない。だが、それがシラハを治す事に繋がるのか?」
「それはまだ分からない。だけど治すにしても、いくつか知っておきたい事があるのさ」
「何が知りたいの?」
二人も、あの子を治す方法がなくて困っているのは間違いない。
だからこそ必要であるならば……と話してくれる気になったらしい。
「まずはアンタ達とこの子……シラハの出会った状況…かね?」
「シーちゃんと出会ったのは……――――」
と、少し話を聞いたんだけど、あの子がこの二人と会ったのはあたしと別れてから、そんなに経ってないらしい。
しかも竜?!
そりゃ震えも止まらなくなるよ!
格が違うにも程がある!
さらにあの子自身にも妙な力が備わってたなんてね。
領域……あたしがこの言葉を使った時に、確かにこの子は反応してた。
そりゃ気になりもするよね、自分にも似たような力があるのなら。
あの子は「またお話をしたいです」とも言っていた。
それは、その力についての相談もあったのかもしれない。
あたしは会いにくれば良いみたいな事を言ったけれど、その後はいくつかの街を転々としていたし……
もしかしなくても、相談も出来ず……今みたいな事に?
だとしたらエイミーに顔向けできない……!
何やってるんだよ、あたしは!
あたしに魔物の力を取り込むなんて事は出来ないけれど、領域という共通点があるのなら何かできるかもしれない。
疎ましい……そう思っていた力に頼らなければならないなんてね……
自嘲気味に笑うと、あの子…シラハを前に座り込むと、あたしは目を閉じて自身の領域に集中した。
//////////////////////////////////////////////////////
後書き
カトレア「なんで竜に睨まれながら治療しなきゃならないんだよ……」
レギオラ「やっぱり、あの二人の圧はヤベーよな」
カトレア「それを黙って依頼したアンタもヤベー奴だよ」
レギオラ「あの二人から早く解放されたくて、つい……」
カトレア「つい……じゃないから! 依頼に危険は付きものだけど、竜がいるとか死にに行くようなもんじゃん!」
シラハ「二人ともとっても優しいんですよ?」
カトレア「それはアンタ限定だよね?!」
レギオラ「嬢ちゃんを相手にしてる時は、本当に穏やかなんだよな……」
あたしは今、アルクーレの街に来ている。
数日前までは別の街で活動をしていたのだけれど、何故かアルクーレのギルドマスターから指名依頼が入ったとかで、やってくる事になってしまった。
あたしとアルクーレのギルドマスターとの接点なんて、あの子……エイミーの娘シラハに体力回復薬を渡した時だけだ。
あの時は、ギルドマスターだなんて知らなかったけどね。
後日に領主様のお屋敷に呼ばれた時は、なにかやってしまったのかと思ってヒヤヒヤしたね……
だけどシラハに事情を話せたおかげで、エイミーが恨まれたままにならずに済んで本当に良かったよ。
あの子に、お母さんと呼ばれたのはむず痒かったけどね……
とはいえだ。
あたしがアルクーレに呼ばれたのは、おそらくはあの子絡みの事のはずだ。
さすがにあたしが魔物だという事は喋っていないとは思うけど、また領主様のお屋敷に行くことになるのかと思うと緊張するね。
そういえばアルクーレに向かう前に、アルクーレの街が魔物に襲われている…なんて話を聞いたけど、あの子は無事なんだろうね?
なんか急に不安になってきたね。
あの子は危なかっしい印象があるし……いきなり二階から落ちてきたしね。
何にせよ、まずは呼び出したアルクーレのギルドマスターに会うとしますか。
あたしは冒険者ギルドの中に入り、受付へと向かうと冒険者カードを出しながら受付嬢へと話しかける。
「此処へ呼び出された冒険者のカトレアだ。ギルドマスターは居るかい?」
「カトレアさんですね。来たらギルマスの部屋にお通しするように言われています。こちらへどうぞ」
そう言うと受付嬢が動き出し、あたしはその後をついて行く。
二階へと上がり、一番奥の部屋へと到着すると受付嬢がドアをコンコンと叩く。
人間はこのように報せや合図を求めたりするが、そのまま部屋に入ってしまえばいいといつも思う。
部屋の中で何をしていようが、そもそも隙を見せる方が間抜けなのだから。
「ギルマス。冒険者のカトレアさんがお着きになられました」
「おおっ、そうか! 通してくれ」
受付嬢が部屋の向こうにいるギルドマスターに、私の事を伝えると何故か嬉しそうな反応が返ってきた。
あたしとギルドマスターには関わりなんて全くといっていい程に無いというのに、なんでそんな反応になるんだ?
不思議に思いながらも部屋に入って行くと、ギルドマスターが席から立ちあがりながら、あたしに入ってくるように促す。
別に敵対している訳ではないから不思議ではないけれど、ここまで好意的に迎えられるのは珍しい。
「アゼリア、スマンが馬車を表に用意してきてくれ。すぐに出たい」
「わかりました」
受付嬢が頭を下げてから部屋の扉を閉める。
すぐに出たいって……そんなに急ぎなのかい?
「到着して早々に悪いな」
ギルドマスターが疲れた様子を見せながら、そんな事を言い出した。
急ぐのは別に依頼なんだから構いやしないけどね。
「それは良いんだけど、依頼の内容を聞いていいかい? 何をしに何処へ向かうかくらいは教えてもらいたいんだけど」
「ああ……これから向かうのは領主の屋敷だ」
予想はしていたけど、やっぱりか……
「そして、領主の屋敷で療養している、とある娘を治療して欲しい」
「は?」
治療?
何を言っているんだ、この男は……
「治療ってアンタ、あたしは冒険者だ! 病気だか怪我だか知らないが、そんなの医者に頼むもんだろ?!」
「分かってる! 分かってはいるんだが、もう何でも良いから何か手を打たなければ不味いんだ!」
「不味いって何がさ?」
「それは屋敷に着けば分かる……」
ギルドマスターは、そう言うと力なく肩を落とした。
あまりに変な事を言うから、ギルドマスターをアンタとか言ってしまったけど、そんな事よりこれから向かう場所に不安しかない。
「ちなみに、その娘ってのはシラハの事かい?」
「そうだ」
やっぱり……相手があの子なら断りたくはないけど、あたしに何ができるっていうのさ?
簡単な止血といった応急手当なら冒険者になってから覚えたけど、人間が罹る病気といったモノとは無縁だからね……
「依頼を断る気はないけど、力になれる保証はないよ? だから何も出来なかったとしても失敗扱いにはしないでほしい。あと成功報酬は当然だけど、失敗したとしてもアルクーレの街に来るまでにかかった費用くらいは補填して欲しい。それでも構わないのなら依頼を受けるよ」
「それで構わない」
構わないのかい……
ギルドマスターは安堵した表情をしているけれど、あたしは本当に何も出来ないんだけどねぇ。
「ギルマス、馬車の用意ができました」
「わかった。……カトレア」
「はいよ」
ギルドマスターが急かすようにして、あたしと馬車に乗り込んだ。
ガタゴトと揺れる馬車の中で、まだ聞いていなかった、あの子の容体について訊ねる。
「あの子……シラハは今、どんな状態なんだい?」
「屋敷に運ばれて来た時には起きていたみたいなんだが、休ませるとすぐに意識を無くしたらしい。そこから目を覚ましていない」
「運ばれて来たのはいつだい?」
「十日前だな」
「十日?!」
ガタっと立ち上がって声を上げてしまった。
寝たきりとはいえ、十日も飲まず食わずだなんて人間の身体が持つわけない!
「……十日もあって何も出来なかったって事かい?」
「そうなるな……」
ギルドマスターが気落ちしているが、あたしも力になれなさそうな話を聞いて力が抜けてしまう。
エイミーの娘だから助けてやりたい気持ちはあるけれど、あたしがエイミーを助けるとは訳が違うんだ。
無力感が込み上げてくる。
きっとエイミーも、こんな気持ちだったんだろうね。
そして馬車が領主様のお屋敷に到着した。
ギルドマスターに案内されるままに連れて来られた部屋からは、冷たい空気と身を突き刺すような魔力が漏れ出てきていた。
「……この部屋かい?」
「ああ……」
ギルドマスターの表情を見ると、緊張しているのが分かった。
あたしは緊張どころか今すぐにでも逃げ出したい気持ちだよ。
ギルドマスターが部屋の扉を開けると、真冬を思わせるような冷たい空気がそこにはあった。
しかもあちこち霜だらけで白くなっている。
「これは……」
別に人間の病気や怪我に詳しい訳ではないけれど、この状況が普通でない事は理解できた。
そして部屋の中にいた人とは思えない二人組と、冷気を発しながらも眠りについている、あの子が部屋の中にいた。
というか部屋の中にいる二人はナニ?!
「レギオラ。コレがシーちゃんの知り合い?」
「そ、そうだ……」
「シラハの知り合いと聞いてはいたが、また随分と珍妙な……」
この二人は人間じゃない……あたしはそう直感した。
しかも、そこいらにいるような魔物とも違う……ずっと上位な存在。
「ギルドマスター……この二人は……?」
「ああ…この二人はレティーツィアとガイアス。嬢ちゃんの…シラハの両親だ」
「両親?!」
こんな物騒な存在が両親?!
いや…この二人がいたから生贄にされても無事だったという可能性も?
以前あの子と話をした時は、その辺の事は細かく聞いてなかったね……
あたしが目の前の存在に困惑していると、ギルドマスターが顔を近づけてきた。
「この二人が嬢ちゃんが倒れてから、みるみると機嫌が悪くなっててな……屋敷の連中が怯えてるんだ。だから嬢ちゃんを治せるのなら、と藁にも縋る思いでアンタを呼んだんだ」
「あたしの評価が藁以下になろうが、こんなのが居るって聞いてたら断ってたよ……」
さっきから体の震えが止まらないくらいだしね……
「何が出来るかは分からないけれど、とにかく少し診させてもらうよ」
「頼む」
二人からの圧は無視して、とにかくこの子の様子を診ない事には始まらない。
しかし、診ようにも何故か冷気を発しているのだから触れなくて困る。
どうしたものか…と思案していると、ふとこの子から発せられている冷気から、圧を発している二人に似ている魔力を感じた。
血の繋がっている人間同士なら、魔力の波長が似ている事もあるかもしれない。
だけど、この二人とは血の繋がりはないはずだ。
だとするとコレは……
「ギルドマスター」
「な、なんだ? 何か分かったのか?」
「悪いんだけど、部屋の外に出ててくれるかい?」
「それは構わんが……良いのか?」
ギルドマスターがちらりと二人を見る。
心配はありがたいが、人間がいると話しにくいからね。
「大丈夫だよ」
「わかった。何かあれば呼んでくれ」
ギルドマスターはそう言うと部屋から出ていった。
「ふぅ……邪魔者が居なくなった所で聞きたいんだけどさ、アンタ達は何者だい?」
機嫌を損ねたら殺される不安はあるけれど、この子を助ける為には知りたい事がある。
「レギオラが私達の紹介はしたはずだけど?」
「それは聞いたよ。ただ、あたしが聞きたいのはそう言う事じゃない。アンタ達だって分かってるんだろ? あたしは人間じゃない。そしてアンタ達もだ」
「そうだな、我等は人間ではない。だが、それがシラハを治す事に繋がるのか?」
「それはまだ分からない。だけど治すにしても、いくつか知っておきたい事があるのさ」
「何が知りたいの?」
二人も、あの子を治す方法がなくて困っているのは間違いない。
だからこそ必要であるならば……と話してくれる気になったらしい。
「まずはアンタ達とこの子……シラハの出会った状況…かね?」
「シーちゃんと出会ったのは……――――」
と、少し話を聞いたんだけど、あの子がこの二人と会ったのはあたしと別れてから、そんなに経ってないらしい。
しかも竜?!
そりゃ震えも止まらなくなるよ!
格が違うにも程がある!
さらにあの子自身にも妙な力が備わってたなんてね。
領域……あたしがこの言葉を使った時に、確かにこの子は反応してた。
そりゃ気になりもするよね、自分にも似たような力があるのなら。
あの子は「またお話をしたいです」とも言っていた。
それは、その力についての相談もあったのかもしれない。
あたしは会いにくれば良いみたいな事を言ったけれど、その後はいくつかの街を転々としていたし……
もしかしなくても、相談も出来ず……今みたいな事に?
だとしたらエイミーに顔向けできない……!
何やってるんだよ、あたしは!
あたしに魔物の力を取り込むなんて事は出来ないけれど、領域という共通点があるのなら何かできるかもしれない。
疎ましい……そう思っていた力に頼らなければならないなんてね……
自嘲気味に笑うと、あの子…シラハを前に座り込むと、あたしは目を閉じて自身の領域に集中した。
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カトレア「なんで竜に睨まれながら治療しなきゃならないんだよ……」
レギオラ「やっぱり、あの二人の圧はヤベーよな」
カトレア「それを黙って依頼したアンタもヤベー奴だよ」
レギオラ「あの二人から早く解放されたくて、つい……」
カトレア「つい……じゃないから! 依頼に危険は付きものだけど、竜がいるとか死にに行くようなもんじゃん!」
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