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30.ハルキの動揺

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 ちょっと待て、一大事だ。カズサがあいつの元にいる?何で?そんなに深い仲なのか?三年間、ずっと一緒にいた俺に、今の今まで何も言わなかったのに?
 でもカズサが酔っ払った時、川木田のことはよく分からないと言っていた。
 それに、俺のことは好きって言ってくれたんだ。でも何故?そんなに俺が頼りないのか?
 いや、ここでカズサを責めてどうする!本当に大事なものを見失うな、しっかりしろっ!
「ああ~!!クソッ!」
 思わず、ハルキ地面を蹴った。あれこれ勝手に考えても答えが出る訳じゃない。
 とにかく、カズサに連絡をとスタッフルームにスマホを取りに行こうとすると。

「おーいハルキ、そろそろ開けるぞ。配置に戻れよって、どうした・・・・・・?」
 タカキがハルキを呼びに来たが、ものすごく焦っているハルキを見て逆に焦った。
「えっ、あっ?そんな時間?ごめんっ、ちょっとだけ待って。すぐ戻るから」
 兄を押しのけスタッフルームに走った。
 自分のロッカーを開け、乱暴にスマホを取り出すとすぐにカズサに電話をした。
 しかし、一向に繋がらない。
 3回掛け直したところで、少し冷静になる。とりあえずメッセージを残して、持ち場に戻った。
 ハルキは目の前の仕事をただただこなすが、心はどこか上の空だ。
 今のところ奇跡的にミスは起こしていないが、タカキから見るとどこか危なっかしく目が離せなかった。

「なあハルキ、何があった?今日は手も足りてるから、お前午後からあがれよ」
 カウンター内ですれ違う際に、タカキが声を掛けた。
「兄貴・・・・・・」
「さっき、イズミちゃんが来てたことと関係あるんだろ?」
 兄になら何かアドバイスをくれるだろうか、これまでの過程をずっと見てきてくれた兄ならと少し逡巡しつつも話すことにした。
「カズサが、あいつんところにいるんだ」
 ハルキは苦々しく呟く。
「ああ?件のライバルか。何?二人だけでデートでも行っちゃった?」
「いや、あいつんとこに泊まってるんだって」
「はっ!?」
 予想の斜め上以上の答えが返ってきて、タカキも混乱した。
「ええ~!!もうそういう関係?カズサ君、大人の階段上っちゃった?」
「縁起でもないこと言うな!」
 ハルキは思わず握ったグラスに力を込める。
「おいおい、割らないでくれよ。後でゆっくり話聞いてやるから、自棄にならずにきちんと帰れよ。」
「うん」
 タカキの言葉に返事して、ハルキは仕事に戻った。
 言われた通り午後からあがらせてもらったが、心は全く晴れなかった。
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