異世界堕落生活

一色緑

文字の大きさ
7 / 47
第一章 未知の世界と賑わう大都市

第七話:奴隷少女、買ってみた

 競りは進んでいく。
 次から次に、人間が売られていく。
 ランダーの番になった。

「さあ、今度は親子での出品です。もちろん、まとめてお買い上げになる必要はございません。お好きな者のみ選んでいただくことも――」
「私と子供を引き離さないでください!」

 司会者の言葉を遮り、母親が叫んだ。

「私が何人分も働きます。だから、だから、どうか子供たちと一緒にいさせてください」

 涙を流しながら訴える母親。
 だが、競りの参加者たちの耳には届かなかった。

「子供の大きい方だけ、六百」
「同じく、七百」

 バラバラに競りが始まった。
 数分後には、無情にも、三人ともバラバラの主の者たちに売られることになった。

「やめて! 子供たちと一緒にいさせて! 子供たちと!」
「うるせえ!」

 母親を競り落とした男が、彼女の顔を拳で殴った。
 いきなりの暴力に呆気にとられる母親を、男はさらにもう一発殴った。

「お前はガキのことなんぞ考えなくていい! おれに儲けさせることだけ考えてろ!」

 違う主人に売られた以上、もはや彼女たち親子が揃う未来はないのだろう。家族の永遠の別れだが、子供たちは泣かなかった。泣けば、殴られることがわかっているのかもしれない。
 金を手に戻ってきたランダーはホクホク顔。

「三人合わせて七千五千七百。手数料で一割取られるから、六千七百五十か。いやぁ、儲かった儲かった」
「……お前、奴隷商人だったのか」
「そうだよ、それがどうしたの?」
「…………」

 どうした、と言われても、どう答えたらいいのか分からなかった。
 奴隷制なんてものは非人道的で許されないこと……というのは詭弁だ。
 なぜなら、奴隷制の否定は、現代の地球の文化だから。
 言うまでもなく、この世界は、この世界の人々のものだ。日本人のものでも、地球人のものでもない。
 奴隷制が彼らの文化であるならば、それを正しいとか間違っているとか言う権利は俺にも、俺以外の地球人にもない。あってはならない。
 あると言う奴は、自分の信じる文化圏の正義を、違う文化圏に無理やり押し付ける侵略者だ。

「それでは、いよいよ最後の商品です。あっと、皆さん、まだ帰らないで。最後は目玉中の目玉です」

 理屈としては奴隷制を受け入れられるが、しかし、だからといって、目の前で人間が売り買いされるのを見るのは気持ちいいものじゃない。
 なんというか……単純に、腹が立つんだ。
 金と契約書だけで、本人の意思と関係ないところで人生が動かされる。
 それがとにかく気に入らない。

「なんと、ガルラオン族のクーミャちゃんです。そう、あのガルラオン族です。“神に嫌われた民族”“穢れの象徴”などと呼ばれる、あの哀れなガルラオンですの少女です」

 紹介と共にステージに現れたのは、水色の髪をした十二、三歳の美しい少女だった。


 売りに出されている奴隷の少女は虚ろな瞳で明後日の方を向いていた。
 すべてどうでもいい。どうにでもなれ。
 自分自身に、そう言い聞かせているように見える。
 端正な顔を絶望の色で染めた彼女は、地球と同じように、この世界にも慈愛に満ちた神様なんていないことを俺に教えてくれた。

「ガリラオン族特有の水色の髪と、その外見の美しさはまるで宝石のよう。
 残念ながら、一部の差別主義者により迫害を受け、ガルラオン族の血を引く者は、今やわずかを残すのみ。
 純血ともなれば、もはや手のひらサイズの宝石以上に珍しいと言っても過言ではないでしょう。
 本日競りにかけられますクーミャちゃんは、なんと! その純血のカルラオン族なのです。
 このような奴隷が競りにかけられるのは、今日が最後かもしれません。
 一千リンからスタート!!」

 彼女は人気があった。
 あっという間に二千まで上がり、まだ上がり続ける。
 みんな、彼女が欲しいのだろう。
 だけど……。
 こいつらの誰が彼女を買ったとしても、彼女は苦しみ続けるのだろう。
 自分の意思とは関係ないところで運命が決まる。サイコロで人生を決めるようなものだ。不幸を回避し、幸福になるための努力をすることさえできない。
 その哀れな人生を思うと、悲しさを通り越して怒りが沸いてくる。
 なんとかしてやりたい。
 だが、俺になにができる?
 ここで銃を乱射して、騒ぎを起こして彼女を連れ出すか?
 無理だ、たとえうまく逃げ出したとしても、すぐに捕まって、殺されるのがオチだろう。
 ここで見ているしかできないのか?

「なんだい、兄さん。すごい目しちゃって。あの奴隷の女がそんなに気になる?」
「ああ、気になる」
「なら、買えばいいよ」
「買う?」

 そうか、その手があったか。俺が彼女を買ってしまえばいいんだ。

「いい考えだ。だが、金がない」
「工面してやってもいいよ。でも、条件がある」
「なんだ?」
「兄さんが腕に巻いてる時計が欲しい」

 腕時計のことか。
 こいつは、出発の数日前に沢木とポーカーをして、勝ち分として奪い取ったものだ。プラチナ製で、文字盤にはダイヤが散りばめられ、針は象牙。
 買おうとすれば、一千万円では足りないだろう。

「それが気になってたんだよ。時計ならこの国にもある。でも、腕に巻けるサイズの時計なんて聞いたこともない。おまけにこの緻密なデザイン。こいつを欲しがる金持ちはいくらでもいる」

 奴隷を売った金で時計を買い、より高い値段で金持ちに売ろうってわけか。
 いいさ、がっぽり儲けろ。

「どうだい?」
「決まりだ。おい、その女に六千出すぞ!」

 ランダーとの話がまとまると同時に、俺は手を挙げた。
 まだ三千になったばかりだったところへ、いきなりの倍増。どうやらこれは競りのマナーに反していたらしく、他の参加者たちが異世界の無粋者へ蔑みの目を向けてくる。
 だから?
 こういうところじゃ金がすべてなんだろ?
 俺の六千リンに、対抗馬はない。
 だが、司会者は、なかなか締めない。
 突然の急騰に驚いているのか、それとも、このていどじゃ落札させないってことか?

「六千五百!」

 自分で値を上げた。
 まだ足りないのか?

「七千!」

 いくらでも出すぞ。
 俺が時計を売り、ランダーが奴隷を買う金を工面するってとこまでしか話してないからな。
 具体的な値段は決まってない、つまり、ランダーはいくらだって払うってことだ。

「八千!」
「き、決まりです。そこのあなた!」

 かくして俺は水色の髪の少女の所有権を得た。
 隣でランダーが、

「競りの基本を知らないのか? もっと安く買えたぞ!」

 と叫んでいたが、悪いな、俺は他人の財布の中には興味ないんだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

「お従妹様の看病で五年、夜会に出ておりませんの」

歩人
ファンタジー
侯爵令嬢イレーネは婚約者アーロンの要請で、五年にわたり彼の「病弱な従妹」クレアを看護してきた。夜会も社交も諦め、毎晩クレアの枕元で看護した。だが二十三歳の誕生日、医師会の抜き打ち健診でクレアは「むしろ同世代で最も健康」と診断される。イレーネが見せてもらった五年分の薬代明細には、存在しない薬品と架空の処置が並んでいた。アーロンは慌てる。「誤解だ。クレアは本当に弱くて……」イレーネは微笑んだ。「では、五年分の看護費と、わたくしが失った社交時間を、具体的な数字にして頂戴いたしましょう」。医師会長が断言する。「詐病誘導と医療費架空請求。司法に回します」。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!