異世界堕落生活

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第二章 パジャリブ動乱

第二章エピローグ

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 死んだ、と思った。
 だが、手榴弾は爆発しなかった。
 トリガーを握り込めるほどの力が、ロスタビリに残っていなかったのかもしれない。

「勝った」

 俺は、その場に倒れ込んだ。
 もう動けない。
 体力はとうに空っぽ。
 気力だけで戦っていたが、それももう残っていない。
 だが、ロスタビリを殺し、大司祭を助け、もうやり残したことはない。
 完全勝利だ。

「こいつ、よくも」

 ところが、どこからか、まだまだ残っていた敵が現れ、俺の周囲を囲んだ。
 ロスタビリが戦っている間、ずっと隠れていたのだろう。
 情けない奴らだ。
 だが、こんな情けない奴らと戦う力さえ残していない俺が一番情けない。
 まさか、ここで終わるのか?
 ……そんなはずはない。
 階段の下から、地鳴りのような音が聞こえてきた。
 軍だ。
 突入した軍が階段を駆け上がる足音だ。
 ここまで本当に長かった。
 いやいや、待て待て。
 予定では、八分で軍がここまでくるはずだったじゃないか。
 実際の時間も、きっとそれに近いはずだ。
 ロスタビリとの戦いは、ほんの数分のできごとだったってことか?
 信じられない。
 何時間も戦った気がする。
 まぁ、いいか。
 あとは全部、軍に任せよう。
 自分たちよりはるかに多い兵士の姿を見て、俺も大司祭も忘れて逃げ出した残党は、すぐに狩られるはずだ。


 俺は兵士に連れられ、神殿の外に出た。
 事件の首謀者を殺し、人質を奪還した英雄の凱旋だ。
 とはいえ、それほどカッコイイものではなかった。
 なにせ自力で歩くことさえできず、タンカに乗せられて運ばれていたのだ。
 満身創痍にもほどがある。

「よく生きてたわね……ってセリフは、傷が治って本当に生き残るまでとっておいた方がいいかしら?」
「それはちょっと笑えないな」

 ニャーラの軽口に、舌打ちを添えて返事をしてやる。
 喉の傷のせいで、声が出しにくい。
 しゃべれないわけじゃないけどさ。
 急造の野戦病院に運ばれると、そこにクーミャが待っていた。

「旦那様、ご無事ですか!」

 クーミャが抱きついてきた。

「ぎゃあああああああああああ!!!」

 その衝撃は、傷口と内臓までをも刺激した。
 これは覚悟していなかった。
 覚悟がなければ、堪えることなんてできない。

「も、もうしわけございません」
「い……いい、けど、さ……」

 これから気をつけてくれれば。
 医者ががんばってくれて、俺の傷はその場で縫い合わされた。
 だが、安心はできない。
 ちゃんと治るかは、これから次第だ。
 化膿したら一大事だ。
 特に、腹の傷が化膿したらヤバイ。
 この国の医療レベルでは、おそらく助からないだろう。
 まだまだ気は抜けない。

「治るまで軍の病院に入院していいそうよ。パジャリブで最高の医療が受けられるし、費用はすべて軍が負担するって」

 ニャーラが、事後処理で忙しいドルク大佐からの伝言を持ってきた。
 ありがたくその申し出を受けよう。

「ところで、あんた軍に入る気はない? 今回の戦果があるから、素性不明のあんたでも受け入れてくれるわよ。それに、末端の兵士からじゃなく、下士官スタートにもなるわ」
「嫌だね」
「あんたがいればあたしも心強いんだけどな。また一緒に戦いましょうよ」
「今日が最初で最後だよ」
「次もあるわよ」
「ねぇよ!」

 叫んだら、また傷口が開いてしまった。
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