つるぺたビキニアーマーのエルフ娘とオークの話

かめのこたろう

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ぺたんこ胸のエルフ娘がビキニアーマーを着て今日もオークにやられちゃうようです①

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 盗賊のジョッドがヘレンさんが向かいから歩いてくるのに気がついたのは、ハンターのヤクと雑魚モンスター狩りに行った帰り道のことだった。
 すぐに向こうも気がついたようで、こちらに視線を向けているのがわかる。
 やがてすぐ側まで来ると、あいさつを交わした。

「こんにちは、ヘレンさん。」

「こんにちはジョッドくん、ヤクさん」

「今日も日課のオーク狩り?」

「ええ、そうよ。今日こそあいつらをぎったんぎったんにしてやるんだから」

 小さく形の良い鼻からふんふんと息を出し、握ったこぶしを胸の前でぶんぶんふる。

 かわいい。

 エルフは皆、顔が整っているが、ヘレンさんもそれに漏れず顔かたちは綺麗だった。
 さらさらの金髪を束ねて馬の尻尾のように後ろにたらし。
 エルフにしては丸みを帯びた瞳はどちらかというと可愛い感じ。
 小さく筋の通った鼻梁とその先の唇も桜色で、めったに見られない美人だった。

 のだが。

「もうやめておいたほうがいいんじゃないか? それ」

 ヤクが禁句を口にする。
 朴訥な狩人に悪気は無かったが、それは禁句だった。
 言われたヘレンさんの顔に不穏な色が出てくる。

「……”それ”って。なにかしら?」

「その格好だよ」

 ヤクが指差すその姿。
 エルフ特有のスレンダーでしなやかそうな肢体のほとんどは露(あらわ)。
 身に纏っているのは、胸と股間を覆う赤く薄い布と両肩につけたアーマー兼シールド。
 それに皮のブーツだけ。
 細身ながらも健康的に輝く玉のような肌と身体を惜しむことなく晒している。

 いわゆる伝統的な女戦士の格好だった。

「エルフが戦士の格好をしているのがおかしいの? そんなの偏見よ! 偉大なエルフ族にかかれば戦士職くらいわけもなくやりこなせることを教えてあげるわ!」

 エルフが戦士の格好をしているのはおかしい。
 普通、ソーサラーや召喚士、それこそヤクのような狩人に適正があり、それ以外に成ることなどほとんどないのだ。
 種族特性として、器用さや魔法力、俊敏性が卓越しているのだから当然である。

 でも 真っ赤な顔で唾を飛ばしてヤクにくってかかるヘレンさんにとってみれば、それこそ”おかしい”ことになってしまうらしい。

「いくらエルフが偉大でも、向き不向きがあるだろ。そもそも……」

 正論を吐くヤク。
 その視線がヘレンさんの胸へと移る。

「それ、どう見ても合ってないだろ。そんな風に着るもんなのか?」

 3人の視線が集まるそこ。
 それはまさに。

 絶壁だった。

 もう完全にぺったんこ、エルフはスレンダーと言ってもこれほどのものはありえない。
 お年頃のはずなので、明らかにヘレンさんだけのユニークな特性であった。
 そして二つの三角形の薄い布で覆っているだけなのだから、余計に悲壮感が漂う。
 本来は豊かな胸を吊り下げ、ばいんばいんと揺れるものに対応するためにあてがうもののはずなのだ。
 だからヤクの言うとおり、明らかに違和感があった。
 戦士というより、年端も行かない幼い踊り子のような感じになってしまっていた。

 キッと顔を上げたヘレンさんはさらに沸騰した。

「なによ! ちょっと控えめなサイズなだけじゃない! ここの大きさで戦士はするものじゃないわ! なんにもおかしいところなんかない!」

 腰に手を当て、ぐっと胸を張って見せ付けるようにする。
 おぉ、さすが恥ずかしくないのか。
 と見ていると、見る見る真っ赤になってぷるぷる震えだした。
 やっぱりとっても恥ずかしいらしい。
 図星を突かれると自ら突っ込んでいってしまうタイプのようだった。

「まあまあ。やめろよ、ヤク。ヘレンさん、ごめん。悪気はないんだ」

 たぶんうっすら涙が浮かびだしたのは気のせいじゃないと判断し、ジョッドは間に入る。

「なんにでも挑戦するヘレンさんは偉いと俺は思ってるよ。だからそう興奮しないで」

 その言葉に少し冷静さを取り戻したのか、しばしきょろきょろとジョッドとヤクの顔を交互に見ていたが。
 やがて「じゃあ、もう行くから。絶対戦果を上げてくるから見てなさいよ!」と言い残し、ヘレンさんはぷりぷりと歩き去っていった。

「……まあ」

 可憐な(特に胸が)エルフが去った方を見やっていたヤクが口を開く。

「オーク達も何故か命はとろうとしてないみたいだし。大丈夫か」

「うん、いつも格好はぼろぼろでも大きな怪我はしないで帰ってくるもんね。それに本人は戦士になりきってて使おうとしないけど、魔法は相当強い筈だよ」

「あんなのやめて、普通に魔術師でもやってくれたら一緒に組むんだがなぁ」

「そうだね。俺も何度か誘ってみたけどだめだった。自分がやりたくてやってるんだから、諦めるのを待つしかないよ」

「ああ、もったいないもったいない」

「また負けて戻ってきたら慰めてやろうよ」

「そうだな」

 結局なんだかんだ言っても。
 みんな一生懸命で胸が可愛いヘレンさんが好きなのだった。

………

「出て来い、魔物たち! この勇者ヘレンが退治してくれる!」

 岩山に響く声。
 ヘレンさんはオークの棲家である洞窟に向かって叫んだ。
 やがて姿を現すいくつもの影。
 エルフや人間に比べると大きく太い屈強な体躯、その全身は茶色の毛に覆われて。
 顔は猪。
 おのおの手には槍や斧を持った凶悪なモンスター。

 オークだった。

「まぁた、お前か。懲りないヤツだな。こないだも散々思い知らせてやったのに」

 中心に立つ、一際大きな個体がヘレンさんに言った。

「でたな、親玉! こないだは油断しただけだ! 今日こそ、この剣の錆にしてやる!」

 両手で構えていた剣を片手で持ち直し、その切っ先を向ける。
 ぱっと見は勇ましい格好だが、すぐにプルプルと腕が震えだした。
 初級武器であるはずの「銅の剣」を明らかにもてあましている様子を呆れたようにボスオークは見ながら。

「うん、まあいいけど。でもまたお前が負けたら覚悟しろよ」

「こっ、この悪逆な化け物め! あんな卑猥で下劣な事を二度とさせるものか!」

「でも俺らオークだし。そういう生き物だし。昔っから人間やエルフのお姫様とか騎士とか負かして好きにしちゃうのが仕事みたいだし」

「な、なんて呪われた邪悪な生物なのか……。やはりここで引導を渡さねばならないようだな!」

 前回やられたことを思い出し、ちょっと腰が引けた。
 でもすぐに思い直し、崇高な使命感の元、悪の根源を絶つことを心に誓う。
 それにもう限界なので剣は両手で持ち直した。

「ふふふ、勇者とやらがそこまで言うなら相手をしなくてはならねぇな。我らオーク族の恐ろしさ、身をもって味わうがいい!」

「くっ、私の燃え上がる正義の心の熱さを思い知るのはそっちのほうだ!」

 セリフだけは格好良く盛り上がり始める二人。
 その横で、子分オーク達はぼそぼそと話している。

「親分もあんな気持入れちゃって、楽しそうだよな」

「ほら、ヘレンさんのこと大好きだから」

「うん、めちゃめちゃ愛しちゃってるよな」

「だってあんな可愛い子が必死で剣に振り回されて、涙ぐんでるんだぜ。俺だってたまんねえよ」

「よかったよな、今日も来てくれて。これだけが楽しみで生きてるわ」

「ほんっと、オークでよかった」

 「だな」「だな」とうなずきあう。
 そんな子分たちを尻目に、ヘレンさんとボスオークはもうあと少しでお互いの攻撃が届き始める距離まで近づいて対峙していた。

「その無謀さに敬意を表して、一対一で相手してやろう」

 精一杯、格好をつけてボスオークは言う。

「化け物にも少しは矜持というものがあるらしいな。だが手加減はせんぞ!」

 内心、”手加減をするのはこっちじゃん。全力でこなくちゃキミはダメじゃん”と思いつつも、おくびにも出さない出来たオス、それがボスオークであった。

「さぁ、来い! 由緒ある雑魚モンスターの恐ろしさを味わうがいい!」

 バッっと斧を片手に持ち、両手を広げて誘う。
 ヘレンさんはそれを見て、”今こそ勝機っ!”と戦士の勘が自分の身体を迸るのを感じた。
 もちろん、ただの勘違いである。

「うりゃぁぁぁぁ~」

 おぼつかない足取りでへろへろと剣を掲げながら近づく。
 まあ、子供が歩くよりは早い。
 でもそんな攻撃は、”うへえ、よろよろしてる! 可愛い!”とボスオークを喜ばせるだけであった。
 やっと目の前まで来るとぶうんと剣を振ってくる。
 一応、真面目な顔でぎりぎりでよけてやる。
 すると、がきぃんと空振りした剣が地面に音を立てた。

「うぅ~~……。や、やるな! 今のをかわすとは!」

 たぶんしびれているのだろう、振り落とした体勢で動かないままヘレンさんは言った。
 その様にも感動を覚えていたボスオークははっと我に返って慌てて返す。

「ふ、ふ、ふ。並みのモンスターならば今のでやられていたであろうが。このボスオーク様には通用せんわ!」

 ちゃんと相手も立てつつ自分のすごさを見せ付ける。
 そんな交渉術もヘレンさんのためならがんばって使ってみる、それがやるときはやるオス、ボスオークであった。

「小癪な……。これならどうだ!」

 やっとしびれも取れたのだろう、ヘレンさんはまた振りかぶって攻めてくる。
 当然、ふらふらでよわよわ。
 今度はその手をがっと掴んだ。
 細く華奢な腕は女の子の柔らかさを毛むくじゃらな手のひらに伝えてくる。

「うっ、離せっ!」

 ヘレンさんは必死で離れようともがく。

 本当はもっと付き合ってあげるつもりであったが、我慢ができなくなってしまった。
 やはり必死でがんばる可愛いヘレンさんを見ているだけで本能がむくむくとわきあがってとまらなくなる。
 ”もういいや、十分だよね。俺、女の子の気持ちを尊重できたよね”と言い訳しながらも自分の思いを優先する、目的のためなら自分ですら騙すことができる効率的でリアリストなオス、それがボスオークであった。

 そうしているうちにも、必死なヘレンさんは片手を取られたままキックとかパンチも繰り出している。
 ぽこぽこと音を立ててボスオークの身体に当ててくるも、逆に痛いのだろう、みるみるその力も弱くなっていく。
 このままでは可憐なエルフの体が駄目になってしまうと案じたボスオークはたたみかけることにした。
 さっさと本題を始めて、堪能させてもらおうグフフと思った。

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