つるぺたビキニアーマーのエルフ娘とオークの話

かめのこたろう

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ぺたんこ胸のエルフ娘は今度こそオークに勝つ自信があるみたいです①

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 ヘレンさんはこれ以上ないほど上機嫌だった。

 アゲアゲだった。

 この数日、どこへ行くにもずっと鼻歌を歌いながらスキップをしていた。
 ピコピコ長い耳を動かしながら、満面笑みの美人エルフがご機嫌でいるところは誰が見ても微笑ましいものであった。
 八百屋のオヤジなどは思わず、「おっ、ヘレンさん何かいいことあったのかい?」とサービスをしてしまうくらい。
 そんな周囲のやさしい反応がさらにヘレンさんをいい気分にさせる。

 笑うエルフには福来る。
 幸せスパイラル、人生の絶頂を味わっていた。
 
 そう、自分はもう馬の糞ではないのだ!
 目覚めてしまったのだ!
 恐ろしい威力の必殺「時間差ブレード」に開眼した一流の戦士なのだ!

 あの後、冒険者酒場に寄ってその話をジョッドとヤクに早速披露した。
 何時になく真に迫ったヘレンさんの様子にどうやら本当っぽいと思った二人は心のそこからの賛辞を送ってくれる。
 そんな二人に早くも自尊心をフルチャージして鼻高々、余裕しゃくしゃくの態度を取ってしまう。
 思わず上機嫌で、「うふふ、今度は魔法使いとしてのわたしの実力も見せてあげる!」とパーティを組んで難易度の高いクエストに同行することも約束してしまうくらい。
 そうして終始楽しそうなヘレンさんを囲んだ飲み会は一晩続き。
 三人ともふらふらで解散した。
 その日の麦酒の味は一生忘れられないだろうと思った。

 そんな風に過ごしている今日この頃。
 既に帰り支度も始めている。
 長らく借りていた街外れの借家のロッジを片付け始めていた。

 さようなら、辺境の冒険者の街。
 偉大な魔法使いであり戦士でもある英雄が、一時とは言え腰を据えた場所として語られるであろう。 
 と自分に酔った詩的で恥的なセリフを呟きながら片付けを続ける。
 だって後はちょちょいと逃げたオーク達を探して止めを刺せばいいだけなんだもの。
 あ、あとジョッドたちと一緒に一回クエスト行ってあげなくちゃね!
 大好きな不思議草ジャムの瓶を箱詰めをしながら、にやーと口元が笑ってしまう。

 まずオークたちにトドメをさす、次にジョッドたちとクエストをこなす、そして帰る!
 この世の春を謳歌しているエルフ娘は、そう具体的な日程を検討し始めるのであった。

………

 一方そのころ。
 ヘレンさんとは真逆に、この世の冬に晒されて凍え切っているオスがいた。

 ボスオークであった。

 ヘレンさんに泣かれておっぱいが拝めず、さらに子分たちの冷たい態度に大きな心の傷を負った哀れな悲劇のモンスター。
 彼を包むのは冬どころか遥か北方絶対凍土地帯を席巻するブリザードであった。
 数日行方不明になっていたボスオーク。
 さすがにお腹が減ったのであろう、やっとアジトである洞窟に姿を見せるも、子分たちとは一言も口をきかない。
 さすがに悪いと思った子分たちは食事の面倒などをみるも、ずっと巣穴の奥で膝を抱えており、話しかけてもぷいっと顔を背けてしまう。

 完全にいじけて閉じこもっちゃっていた。

 そうして今日も子分たちはめんどくさい親分の説得に励むのであった。

「親分~、もう出てきてくださいよ~。MSB」

「俺たちが悪かったですから、MSB」

「ボスが元気ないとかなしいっす、MSB」

「やっぱボスだよなー、ボスしかいないよなー、MSB」

 ボスオークの巣穴の入り口で口々に声を上げる子分オークたち。
 発言内容自体はここ数日やってきた説得と大して変わっていない。
 だが、今回は今までとはちょっと違う。
 考え抜かれた高度な情報戦が展開されていた。
 発案者である子分オークA(本名:ガンドルフ=ディル=オーカス)はその手ごたえを早くも感じつつあった。

「あーあ、親分がいねーと、俺たち何にもできねーよなー? MSB」

 ぴくりとボスオークの耳が動いた。
 ちろりと目がこちらを向く。
 反応があった!

 ばっと手を上げて、静かにするよう促す子分オークA。
 やがてジト目で明らかにふてくされながらも、ボスオークは口を開く。

「……そのMSBってなんだよ……さっきから……」

 わが意を得たり!
 トラトラトラ!
 ニイタカヤマノボレ!
 子分オークAは一気にたたみかける!

「何言ってるんですか~、そんなのマジ(M)ステキ(S)ボス(B)に決まってるじゃないですか!」

 精一杯にやにやと愛想笑いをしながら、揉み手を駆使する。
 ここが正念場だ。

「……マジステキボス……?」

「マジステキボスです」

 ぴくりぴくりと両耳が順に反応した。
 今だ!
 背後に回した後ろ手で、くいっくいっと合図を送る。
 他の子分オーク達はそれを見て、わざとらしくないように刺激しないようにそろーっと声を上げる。

「……MSB」

 初めは静かに。
 沈んだイノシシ顔がこっちを向いた。

「MSB」

 徐々に大きくなる唱和。
 ゆっくりと腰を上げ始めるボスオーク。

「MSB!」

 立ち上がり入り口へとゆっくりと近づく。
 その顔と目には輝きが戻りつつある。
 子分たちの掛け声も遂には手拍子を加えた大合唱になっていく。

「「MSB!!」」

 完全に身体を巣穴から出し、子分オーク達の歓声に応えるボスオーク。
 もはや先ほどまでの様子は微塵も無い、力強さと自信に満ち溢れていた。

「俺は……俺こそはマジステキボス!」

 こうして遂に。
 恐るべきモンスターは復活したのであった。
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