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秒速何センチだか知らないけど
しおりを挟む某恋愛大作映画の舞台が自分の地元だった。
ストーリーのキモになるロケーションが、まさに学生時代、毎日使っていた田舎の駅だった。
その作品のことは名前だけは知っていた。
元々アニメ映画で、そちらも大ヒットしていたようで、その時点でもう自分が生まれ育った場所がクローズアップされてるというのは知識としては否応なく入ってきていたから。
最初にそう聞いた時点で見なかった理由、実写化してからようやく見たワケというのはさほどない。
アニメの時点で鑑賞していてもおかしくない、縁(えん)やら縁(ゆかり)とかいうものが十二分にはあったんだろうけど。
でもまあ、朧気に伝え聞く内容、ぱっと見のイメージ映像的なもので、そんなに自分が得意としている系のもんじゃないっていう確信、あるいは先入観があった。
色恋関係は嫌いじゃないけど、創作物でそればっかに特化したものを意識的に嗜好するほどには求めてないと。
素朴に『好み』としか言いようがないもので、敬遠とも言いづらいぼんやりとした気分でなんとなく避けていたんだと思う。
改めて実写になったものを見ることになったのも、別に能動的にそうしたいと思ったわけじゃなかった。
多分に非主体的な理由、単にたまたま付き合いで見る都合ができたとかその程度の理由に過ぎない。
だから殊更、慣れ親しんだ地元のロケーションがキー的に取り上げられた内容を見ても、そのこと自体にはさほど感慨やら感じいることなんてなかった。
ああ、そうなんだ、へー、なるほど程度のものであって。
作品の出来自体の感想を大きく左右するほどには、さほどの影響も齎すものではなかったんだけど。
ただ、鑑賞した後の気分は最悪だった。
はっきりいって、すごく不快でイライラした気持ちになった。
映画の出来が悪かったわけじゃ決してない。
むしろ話の筋やら演出やら、映像美やら、役者の演技やら、マイナスどころか相当よくできていていい映画だったんだろうとは思う。
純粋に作品としての出来だけなら、優れた良作といって差し支えないのだろうなとは感じたのである。
だからこれは作り手とか創作物自体の問題じゃなかった。
百パーセント、自分の問題、こちらの感じ方受け取り方だけのことだった。
映画の内容はとても儚く美しく、素晴らしい青春の輝きが転写、描写されているものだった。
だからこそ、打ちのめされて、辛くなったのかもしれない。
これが他の場所、ロケーション、見知らぬ土地のどこかの名も知らぬ駅とかならまだ話は違ったんだろう。
でもその煌く奇跡のような青春物語が展開されていたのはよりにもよって、自分自身が最も多感で愚かで純粋で小賢しかった時代の舞台そのもの。
あの駅舎で、自転車置き場で、ベンチで、ホームをつなぐ連絡高架で何があったか。
何をしてしまったのか。
取り返しのつかない失敗の数々、無様な醜態のアレコレの記憶。
否応なく喚起され、逃れられない宿痾の如く思い出してしまったらが最後、ジクジクと治らない古傷を苛む終わりなき鈍痛が襲ってくるのである。
ことさら、最も人生の失敗ごとの一つだと確信している、好きだった女子への告白。
別の学校へ通っていたあの子に、突然なんの脈絡もなく偶然一緒になった駅前。
まさに映画で主人公とヒロインが劇的な出来すぎの完璧すぎるほど美しいやり取りをして見せたその場所で。
向こうの都合も気持ちも状況もなんら配慮することなく、一方的かつ勝手な思い込みと勢いだけで敢行した無謀な特攻劇。
華々しくとは程遠い、これ以上ないほど無様で醜い幕引きへとあいなった、未だ消化するには苦すぎる惨劇。
自らの生々しすぎる記憶と経験の象徴そのものだからこそ、映画の出来とは全く関係なく、容赦ない劣等感、悔恨、後悔、憎悪めいたものに包まれてしまうのかもしれない。
勝手な言い分である。
誰も何も悪くない。
ただ、そう感じて想ってしまう自分だけが悪い。
最低で最悪なのは己だけという、ただそれだけの話である。
ただ、もうこの映画のことは思い出したくもないというのが正直なところだった。
秒速何センチだか知らないけど、迷惑な話だと思った。
了
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