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臆病なフィルダー・チョイス
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「次は道具屋に寄ろう」
まゆたんが言った。
他の三人は旅の知識がまるでないため、リーダーの判断に従うしかない。
「特に薬草はたくさん買っておかないとね。今の我々じゃ、これだけは魔法で代用できないから」とまゆたん。
「ごめんね、まゆたん」
ルリテルが申し訳なさそうに言う。彼女はまだ修業中で、回復魔法はまだ完全には使えないからだ。
「いいんだよ、ルリテル。君はまだ若いんだし、しかたない。でも、年齢のわりには魔法の覚えが本当に速いよ」
まゆたんはすかさずフォローして、自分の妹が自信を失わないようにする。
道具屋は、大通りに面した一角にあった。『フィルダー・チョイスの道具屋』と、看板には雑な手書きの文字が並んでいる。
壁は青く塗られているが、ところどころ色むらが目立つ。店主が自らペンキを塗ったのだろう。店の佇まいからは、「見た目なんてどうでもいい」という無頓着さが、どこか滲み出ている。
「またシャン・チュイみたいな面倒くさいやつがやってる店じゃあるまいニャ」
タニマキは、悪い予感がした。
「大丈夫だよ、ああいうことは続くもんじゃないさ」
まゆたんは笑いながら入口のドアを開けた。
「い、いらっしゃいませ」
内気そうな店員がいた。彼がフィルダー・チョイスだろうか。
「薬草が欲しいんですが」とまゆたん。
「そ、それならこっちです」
その店員が、まゆたんたちを、消え入りそうな声で薬草のコーナーまで案内した。
「一束500円です」
ニャニャン共和国の通貨は『円』である。
「50束ください」
まゆたんはそう言いながら、自身の三次元ポケットからお金を取り出そうとした。
「500円×50束は、ええと、ええと……」
店員はしどろもどろになって、なかなか計算できない。
「頼りないやつニャ。60,000円ニャよ」とタニマキ。
「25,000円よ。多く払うつもり?」
ルリテルがすかさず修正する。
「す、すみません」
店員は申し訳なさそうに、まゆたんから代金を受け取った。
「何か他に、旅に有用な道具とか薬とかはありませんか?」とまゆたん。
「ええと……ええと……」
その店員は、なんだか接客が苦手なようだ。
その時、一匹の美しい三毛猫が店に入ってきた。
「い、いらっしゃいませ……」
店員は、タニマキの声量の10分の1くらいの大きさの声で挨拶した。
「フィルダーさん、こんにちは」
どうやらこの雌猫と店員は知り合いらしい。
そしてこの店員は、やはりフィルダー・チョイスであった。
「お前がフィルダー・チョイスか。頼りニャいから使用人かと思ったニャ」
人が傷つくことを平気で言う、無神経なタニマキ。
「す、すみません」
そして、その必要はないのに謝るフィルダー。
三毛猫はマタタビローションを選んでいる。
フィルダーは、その雌猫をうっとりとしたまなざしで見つめていた。
「フィルダーめ、あの女にホの字ニャ」とタニマキ。
「『ホの字』って何?」
デビルがまゆたんに尋ねる。
「ええと、この古語辞典によれば、『惚れている』という意味の言葉みたいだね」とまゆたん。
タニマキの使う言葉は死語過ぎて、もはや古語辞典に載るレベルなのだ。
三毛猫はフィルダーの丁寧な説明を受けて、一つの商品を購入した。
「じゃあまたね、フィルダーさん」と礼儀正しい三毛猫。
「セ、セシルさん。また明日」
その三毛猫はセシルという名前らしい。フィルダーは、セシルに応対するときだけは笑顔である。
セシルは、モデルのように優雅な歩き方で店を出て行った。
「フィルダー、お前、あのセシルとかいう雌猫が好きニャのか?」と直球で質問するタニマキ。
「は、はい」とフィルダー。
「じゃあ、さっさと食事に誘えばいいニャ。見ててじれったいニャよ」
タニマキには、繊細な感性が全くない。
「そんな勇気はないですよ」
フィルダーは、目をそらしながら言った。
「フィルダーさんはイケ猫なのに、もったいないな」とルリテル。
「何かいい方法はないですかね……」と他人任せなフィルダー。
「もし、セシルさんと仲良くなる方法を提案したら、薬草をただにしてくれますか?」
すかさずまゆたんは交渉に持ち込んだ。
「ぜ、是非お願いします。セシルさんと付き合えるんなら、25,000円なんて安いもんだ」
フィルダーは興奮して少し声が大きくなった。
「しかしニャ。声をかけるだけならまだしも、付き合うとなるとニャ」
タニマキはあまり乗り気ではない。
「まあまあ、何か方法があるはずだよ。考えてみよう」
まゆたんはこういう難題を解決することが大好きなのだ。それに、お金を節約するに越したことはない。
「きょ、今日はもう遅いです。近くに僕の父親が経営する宿屋がありますから、どうぞ泊まって行ってください。ただで構いませんから」
フィルダーが魅力的な提案をしてきた。
「やったあ! 久しぶりにお風呂に入れる!」
ルリテルがはしゃぐ。
「食事は豪華なものを出せニャ」
タニマキは、どこまでも強欲である。
まゆたんが言った。
他の三人は旅の知識がまるでないため、リーダーの判断に従うしかない。
「特に薬草はたくさん買っておかないとね。今の我々じゃ、これだけは魔法で代用できないから」とまゆたん。
「ごめんね、まゆたん」
ルリテルが申し訳なさそうに言う。彼女はまだ修業中で、回復魔法はまだ完全には使えないからだ。
「いいんだよ、ルリテル。君はまだ若いんだし、しかたない。でも、年齢のわりには魔法の覚えが本当に速いよ」
まゆたんはすかさずフォローして、自分の妹が自信を失わないようにする。
道具屋は、大通りに面した一角にあった。『フィルダー・チョイスの道具屋』と、看板には雑な手書きの文字が並んでいる。
壁は青く塗られているが、ところどころ色むらが目立つ。店主が自らペンキを塗ったのだろう。店の佇まいからは、「見た目なんてどうでもいい」という無頓着さが、どこか滲み出ている。
「またシャン・チュイみたいな面倒くさいやつがやってる店じゃあるまいニャ」
タニマキは、悪い予感がした。
「大丈夫だよ、ああいうことは続くもんじゃないさ」
まゆたんは笑いながら入口のドアを開けた。
「い、いらっしゃいませ」
内気そうな店員がいた。彼がフィルダー・チョイスだろうか。
「薬草が欲しいんですが」とまゆたん。
「そ、それならこっちです」
その店員が、まゆたんたちを、消え入りそうな声で薬草のコーナーまで案内した。
「一束500円です」
ニャニャン共和国の通貨は『円』である。
「50束ください」
まゆたんはそう言いながら、自身の三次元ポケットからお金を取り出そうとした。
「500円×50束は、ええと、ええと……」
店員はしどろもどろになって、なかなか計算できない。
「頼りないやつニャ。60,000円ニャよ」とタニマキ。
「25,000円よ。多く払うつもり?」
ルリテルがすかさず修正する。
「す、すみません」
店員は申し訳なさそうに、まゆたんから代金を受け取った。
「何か他に、旅に有用な道具とか薬とかはありませんか?」とまゆたん。
「ええと……ええと……」
その店員は、なんだか接客が苦手なようだ。
その時、一匹の美しい三毛猫が店に入ってきた。
「い、いらっしゃいませ……」
店員は、タニマキの声量の10分の1くらいの大きさの声で挨拶した。
「フィルダーさん、こんにちは」
どうやらこの雌猫と店員は知り合いらしい。
そしてこの店員は、やはりフィルダー・チョイスであった。
「お前がフィルダー・チョイスか。頼りニャいから使用人かと思ったニャ」
人が傷つくことを平気で言う、無神経なタニマキ。
「す、すみません」
そして、その必要はないのに謝るフィルダー。
三毛猫はマタタビローションを選んでいる。
フィルダーは、その雌猫をうっとりとしたまなざしで見つめていた。
「フィルダーめ、あの女にホの字ニャ」とタニマキ。
「『ホの字』って何?」
デビルがまゆたんに尋ねる。
「ええと、この古語辞典によれば、『惚れている』という意味の言葉みたいだね」とまゆたん。
タニマキの使う言葉は死語過ぎて、もはや古語辞典に載るレベルなのだ。
三毛猫はフィルダーの丁寧な説明を受けて、一つの商品を購入した。
「じゃあまたね、フィルダーさん」と礼儀正しい三毛猫。
「セ、セシルさん。また明日」
その三毛猫はセシルという名前らしい。フィルダーは、セシルに応対するときだけは笑顔である。
セシルは、モデルのように優雅な歩き方で店を出て行った。
「フィルダー、お前、あのセシルとかいう雌猫が好きニャのか?」と直球で質問するタニマキ。
「は、はい」とフィルダー。
「じゃあ、さっさと食事に誘えばいいニャ。見ててじれったいニャよ」
タニマキには、繊細な感性が全くない。
「そんな勇気はないですよ」
フィルダーは、目をそらしながら言った。
「フィルダーさんはイケ猫なのに、もったいないな」とルリテル。
「何かいい方法はないですかね……」と他人任せなフィルダー。
「もし、セシルさんと仲良くなる方法を提案したら、薬草をただにしてくれますか?」
すかさずまゆたんは交渉に持ち込んだ。
「ぜ、是非お願いします。セシルさんと付き合えるんなら、25,000円なんて安いもんだ」
フィルダーは興奮して少し声が大きくなった。
「しかしニャ。声をかけるだけならまだしも、付き合うとなるとニャ」
タニマキはあまり乗り気ではない。
「まあまあ、何か方法があるはずだよ。考えてみよう」
まゆたんはこういう難題を解決することが大好きなのだ。それに、お金を節約するに越したことはない。
「きょ、今日はもう遅いです。近くに僕の父親が経営する宿屋がありますから、どうぞ泊まって行ってください。ただで構いませんから」
フィルダーが魅力的な提案をしてきた。
「やったあ! 久しぶりにお風呂に入れる!」
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