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占い師、和田つん
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タニマキたちは宿屋についた。
すると、食堂の方から、言い争う声が聞こえてくる。
「このやろう! でたらめな占いしやがって! 金を返しやがれ!」
酔っぱらいが、もう一人の客の胸ぐらをつかんで怒鳴っていた。
「どうしたんですか?」
まゆたんが、野次馬の一人に尋ねる。
「あの占い師が酔っぱらいを占ったんだ。そしたら、『一年後に末期の肝臓がんだと診断されて、その三か月後に死ぬ』って言われたんだ」
どうやら、占いの結果が気に入らないので、占い師に激高しているようだ。
「だから言ったんです! 一度占ったら運命が確定して、どんなことをしても未来を変えられなくなるって!」
必死に弁解する占い師。
「ふぁ~、眠いニャ。早く予約した部屋に行って、ベッドにダイブするニャよ」
タニマキには、困っている人を助けるという発想が、そもそもない。
「タニマキ! あの占い師を助けないと、ここに置いていくぞ?」
まゆたんが、少し怖い顔をしながら言った。
タニマキの自己中心的な性格には、さすがにもううんざりしているようだった。
「ニャ! めんどくさいニャ……」
とは言うものの、ここに放置されれば、また誰かに拉致されてしまう。タニマキは仕方なく仲裁に入った。
「やめるニャ! 酔っ払いめ! ワテは正義の味方やど!」
「なんだこいつ! まだ子猫のくせに!」
酔っ払いが大笑いした。野次馬たちも釣られて笑う。
「ニャ……舐めるんじゃないニャ!」
憤慨するタニマキ。しかしまったく迫力がなく、酔っぱらいは相手にしない。
「やめたまえ。暴力はよくないよ」
デビルが丁寧な口調で、紳士的に仲裁に入った。
「だ……誰だお前?」
デビルはまったく怒っていないのに、酔っぱらいはたじろいだ。顔が怖かったからである。
「お、覚えてろよ!」
そう言われていちいち覚えているはずもないが、とにかく酔っぱらいは自分の部屋に逃げていった。
「ありがとうございました!」
占い師は、デビルに感謝した。
「お礼にタダで占えニャ」
全く活躍していないタニマキが、対価を要求した。
「私の名は和田つん。さすらいの占い師です。一度占ってしまえば、その結果で示される未来を変更することは不可能となります。あなたたちにその覚悟があるのなら、ただで占ってあげましょう」
もし、自分にとって都合の悪い未来であったとしても、全面的に受け入れなければならないということだ。
「どうする? 僕は占ってもらいたいけど」とまゆたん。
「そうだね。僕も大丈夫だ」とデビル。
「ワ、ワテだって平気ニャ!」
覚悟ができているまゆたんとデビルに対し、タニマキは少し強がっている。
「わかりました。私の部屋で占いましょう」
タニマキたちは、つんの部屋に入った。占いが相当儲かっているのだろう。彼の部屋は、タニマキたちの部屋よりもはるかに広かった。水槽の中で、グッピーが光を受けて尾ひれを虹のように揺らしていた。ベッドの天蓋には、刺繍で孔雀が舞っている。
「さあ、誰から占いましょうか?」
つんにそう言われて、三人は顔を見合わせた。
「よし、僕から行くよ。将来、立派な魔王になれるかどうか占ってほしい」
デビルが先頭を切った。
つんは、デビルの肉球を握りしめ、目を閉じて心を集中させた。そしてまもなくしてから、こう言った。
「なれます。それも稀代の名君となるでしょう」
それを聞いて、デビルは安堵し、満面の笑みを浮かべた。
「良かったー!」
占ってもらうことによって、デビルは将来に希望を持てたようだ。
「よし、次は僕だ。将来、立派な学者になれるかどうか、占ってください」とまゆたん。
つんは、やはりまゆたんの肉球を握り、深呼吸して集中した。
「なれます。そして、ニャーベル賞を取るでしょう」
ニャーベル賞とは、科学の分野で優れた業績を達成した猫に贈られる、猫界最高の賞のことである。
「やったー!」
まゆたんは喜びのあまり、小躍りした。
すると、食堂の方から、言い争う声が聞こえてくる。
「このやろう! でたらめな占いしやがって! 金を返しやがれ!」
酔っぱらいが、もう一人の客の胸ぐらをつかんで怒鳴っていた。
「どうしたんですか?」
まゆたんが、野次馬の一人に尋ねる。
「あの占い師が酔っぱらいを占ったんだ。そしたら、『一年後に末期の肝臓がんだと診断されて、その三か月後に死ぬ』って言われたんだ」
どうやら、占いの結果が気に入らないので、占い師に激高しているようだ。
「だから言ったんです! 一度占ったら運命が確定して、どんなことをしても未来を変えられなくなるって!」
必死に弁解する占い師。
「ふぁ~、眠いニャ。早く予約した部屋に行って、ベッドにダイブするニャよ」
タニマキには、困っている人を助けるという発想が、そもそもない。
「タニマキ! あの占い師を助けないと、ここに置いていくぞ?」
まゆたんが、少し怖い顔をしながら言った。
タニマキの自己中心的な性格には、さすがにもううんざりしているようだった。
「ニャ! めんどくさいニャ……」
とは言うものの、ここに放置されれば、また誰かに拉致されてしまう。タニマキは仕方なく仲裁に入った。
「やめるニャ! 酔っ払いめ! ワテは正義の味方やど!」
「なんだこいつ! まだ子猫のくせに!」
酔っ払いが大笑いした。野次馬たちも釣られて笑う。
「ニャ……舐めるんじゃないニャ!」
憤慨するタニマキ。しかしまったく迫力がなく、酔っぱらいは相手にしない。
「やめたまえ。暴力はよくないよ」
デビルが丁寧な口調で、紳士的に仲裁に入った。
「だ……誰だお前?」
デビルはまったく怒っていないのに、酔っぱらいはたじろいだ。顔が怖かったからである。
「お、覚えてろよ!」
そう言われていちいち覚えているはずもないが、とにかく酔っぱらいは自分の部屋に逃げていった。
「ありがとうございました!」
占い師は、デビルに感謝した。
「お礼にタダで占えニャ」
全く活躍していないタニマキが、対価を要求した。
「私の名は和田つん。さすらいの占い師です。一度占ってしまえば、その結果で示される未来を変更することは不可能となります。あなたたちにその覚悟があるのなら、ただで占ってあげましょう」
もし、自分にとって都合の悪い未来であったとしても、全面的に受け入れなければならないということだ。
「どうする? 僕は占ってもらいたいけど」とまゆたん。
「そうだね。僕も大丈夫だ」とデビル。
「ワ、ワテだって平気ニャ!」
覚悟ができているまゆたんとデビルに対し、タニマキは少し強がっている。
「わかりました。私の部屋で占いましょう」
タニマキたちは、つんの部屋に入った。占いが相当儲かっているのだろう。彼の部屋は、タニマキたちの部屋よりもはるかに広かった。水槽の中で、グッピーが光を受けて尾ひれを虹のように揺らしていた。ベッドの天蓋には、刺繍で孔雀が舞っている。
「さあ、誰から占いましょうか?」
つんにそう言われて、三人は顔を見合わせた。
「よし、僕から行くよ。将来、立派な魔王になれるかどうか占ってほしい」
デビルが先頭を切った。
つんは、デビルの肉球を握りしめ、目を閉じて心を集中させた。そしてまもなくしてから、こう言った。
「なれます。それも稀代の名君となるでしょう」
それを聞いて、デビルは安堵し、満面の笑みを浮かべた。
「良かったー!」
占ってもらうことによって、デビルは将来に希望を持てたようだ。
「よし、次は僕だ。将来、立派な学者になれるかどうか、占ってください」とまゆたん。
つんは、やはりまゆたんの肉球を握り、深呼吸して集中した。
「なれます。そして、ニャーベル賞を取るでしょう」
ニャーベル賞とは、科学の分野で優れた業績を達成した猫に贈られる、猫界最高の賞のことである。
「やったー!」
まゆたんは喜びのあまり、小躍りした。
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