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犠牲

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 まずは俺が走って前に出た。
 誰かが出なければ、アイツの巨大銃で撃たれて間違いなく全員死ぬ。

 ...だったら
 ...俺が!!

 何とか予定通りにアイツは2つの巨大銃を俺に合わせきた。
 後の事は二人に任せるしかない。

「コイツは一旦俺がやる!!! 二人はあっちを頼む!!!」

 二人からは「分かった」という言葉が響いた。

「自分から死にに行ってくれるなんて、なんとまぁ、最近の若者はアホに磨きがかかってますねぇ~」
「ルイをバカにするなんて...許せない!!!」
「ちょ!? 新崎さん!?」

 後ろで会話が聞こえるが、今はそれどころではない。
 俺は"この絶対絶望野郎"をどうにかしなくてはいけない。

 本当はやりたいわけがない。
 目の前に"死"があるんだ。
 誰がやりたいと思う?

 でも、俺は決めたんだ。
 死んでもアイツを壊すって。
 あのクソふざけた総理をぶち壊すって。

 どんな事だって乗り越えて。
 ...アイツに...絶対辿り着く!!!

 突如轟音が鳴り響き、ヤツの片方の銃に禍々しいモノが溜まっていった。

 ヤバい!!!
 コイツを止めないと!!!
 絶対死ぬ!!!

 この少しの猶予、見逃したら終わると感じた俺は、即座に脳内で【大蝶イーリス】を呼んだ。
 するとユエさんの言った通り、"ズノウ"というスキルっぽいものの一覧が脳内に出現した。
 その中の一つを選ぶと、俺の身体はヤツへと大きく飛んだ。

 跳躍し、天魔神の腹部分にまで到達した俺の身体。
 5メートルくらいは飛んでるんじゃないか?

 武器の先端からは"異様に長い閃光刃"が現れ、後部の蝶の羽根が大きく舞った。
 その瞬間に上半身は捻られ、

「ッ!!」

 初撃が繰り出された。
 1発目は赤、2発目は黄、3発目は青、4発目は紫と、"色の光爆撃斬"が次々ヤツへと叩き込まれた。
 その度に、幾つも散らばる七色蝶の羽根。

 最後の一撃を放つと、意外にもヤツは怯み、巨大銃の攻撃は一旦止まった。
 見るからに、かなりの威力を有した連撃だ。

 この威力って...
 俺はユエさんの一言がフラッシュバックした。

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『それはね、【大蝶イーリス】っていう"UnRule"の一番最後のボス"R.E.Dの分身"が持つ予定だった"イレギュラーな銃剣"なの』

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 そうか...
 いける...!!
 これならやれる!!!

「三船君!! 今から参戦する!!」

 後ろを振り向くと、アオさんが走って来ていた。
 白く細長い剣からは、なんと真空斬が飛び、一気に6発ほどがヤツへと当たった。
 だが、先程のようなくらった様子は無く、

「...やっぱりか...僕のでは、気休めにしかならない」

 あの剣は相当強力なもののはず。
 この"UnRule"開発員の一人が、自分の武器にあえて弱いものを選ぶはずが無い。
 使ってる武器の強さだけじゃ、コイツには太刀打ちできないって事なのか?

 ユキたちの方を見ると、残り3人と戦っている。
 たぶんもう少しでこっちに来てくれるはず。

 と思った途端、ヤツはまた光り始めた。
 さっきまでの巨大銃がまさかの"盾と剣"に入れ替わっている。

「な...!! コイツ武器変えるのか!?」
「アイツは分が悪いと感じた武器は有利になるものに変えてくる!!! 注意してくれ!!!」
「...はい!!!」

 俺は次のズノウを選ぶ。
 さっきは〈七色蝶新星(セブンズ・スーパーノヴァ)〉を選んだが、次はコイツだ。
 選んだ途端、俺の銃剣は変形しだした。

「!? これは!?」

 長く伸びた形状となったコレは、もはや両手で持つ必要が出てきた。
 大きく丸み帯びた銃口となったそこには、いろんな色の光が溜め込まれていく。
 あっという間に溜まったそれは、ヤツへと放たれた。

 なんと一発でヤツの盾を貫通し、左腕を吹き飛ばした。
 左腕はタキシード風の黒い悪魔の方だ。

 その腕は一瞬で霧のように消えていく。
 よし、次はコイツで...!!

 とやろうとしたが、アイツは怯むこと無く巨大剣を振り下してきた。
 だけど、ただの空振り。

 しかし、"違和感のある空振り"だった。
 "今の攻撃"は一体なんだ?

 俺の身体に異常は無い。
 というか、"俺に向けて"じゃないように見えなかったか?
 ...もしかして

「アオさん! 大丈夫で」

 振り向いた刹那。
 その視線の先。

 ...

 .....

 ......?

 あれは...なんだ...?

 ア レ ハ ...... ナ ン ダ ......?

 "誰か"がバラバラにされており、体の破片が幾つも飛び散っていた。
 鮮血に染まっていく東京駅。
 俺は"誰"を見ている?

 見てはいけないものを見ている。
 第六感がそう発する。

 あの"散らばった破片の正体"を俺は知っている。
 いや、ここにいる全員が知っている。
 俺は力無き言葉で"その人物の名"を呼んだ。

「......アオ......さん......?」
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