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新生

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 〈ネオシンギュラリティへの階段〉を使うには、もう体力が足りなかった。
 【発動条件を満たしていません】と、アイコンが黒くなっていて、使えなかったんだ。
 ギリギリ使えたのが"全身全霊のさっきのアレ"だった。

 今までの階で消耗しすぎたんだろうか?
 でも、やらなければ誰かが死んでいた。
 そうに違いない。

 コイツと戦ってみて分かった、あの天魔神よりも確実に強い。
 アイツが"ラスボス前の強さ"があるんじゃなかったのか?
 この"UnRuleの前提"が、おかしくなっている。

 ...死ぬ
 ...死ぬ
 ここで...死ぬ

 ― コ コ デ 死 ヌ

 ユキも死ぬ。
 ヒナも死ぬ。
 シンヤも死ぬ。

 死ぬ。
 死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。

 またあの頭痛だ。
 いい加減にしろ。
 どこまで俺を苦しめる?

 また"アイツ"だ。
 白い視界の先に、また"アイツ"が立っている。

 全身真っ白に、髑髏のような仮面の男。
 両手には、前も見た【大蝶イーリス】と瓜二つの銃剣。

「いい加減にしろ...人のところに勝手に入ってきて...誰なんだよ、お前ッ!!!」

 ヤツがこっちを見る。
 その瞬間、七色蝶の銃口が俺へと向けられた。

「んだよ...俺を...殺すのか?」

 ヤツは喋らない。
 静観だけを貫く。

 俺も七色蝶の銃口をヤツへと突き付ける。
 "最後の足掻き"をするように。

 "最後の足掻き"?
 なんで?
 なんで"足掻く必要"がある?

 俺は死ぬんだ。
 死ぬのに。

 ...

 ......

 なんでまだ...

 生きようと...

 ...なんで...

 そう思った時、ユキの笑った顔、ヒナのぱぁっと明るくなった顔、シンヤの嬉しそうな顔が、それぞれがデジタルサイネージのように空中に浮かび上がって回った。

 次第に、ユエさんの顔、"死んでしまったあの人の顔"まで。
 色んな人の喜んでいる様子が、俺の周りを回り続ける。

「(ルイ...わたし...いっしょにいたい...いきて...いっしょにいたい...)」

 最後にユキの声が脳内に響いた。
 一緒にいたいって、生きて一緒にいたいって。

「ユキ...俺は...」

 倦怠感や痛み、痺れが動きの邪魔をする。
 どこまでも纏わりつく。
 それでも、

「...それでも、俺はッ!!」

 銃口を強く握った。
 そして俺は、

「まだ...死ぬ時間じゃないッ!!!!」

 きっと同時だったと思う。
 俺とヤツ。
 トリガーを引いたのは。

 視界は晴れていった。
 ヤツの姿はまた霧にように消えていく。
 また分からないままに、現実世界へ戻る俺の身体。

 ただ分かる事は、俺は"アイツ"に突っ込んでいた。

「マダ分カラナイノカ?」

 すぐに何事も無かったように反撃され、反射的に七色蝶の銃剣を盾にする。
 あまりの威力に、ついには銃剣にヒビ割れが起きた。

 ...最後だ
 もうこれ以外に方法は無い。

 全身全霊を超えた賭け。
 蓄積されていったのは体や武器への痛みだけじゃない。

「アンタに見せてやる、俺に眠る"超奇跡"を...!!」

 俺は黒いアイコンから使用可能になった、"下から2番目のズノウ"を解き放った。
 〈虚無限蝶への新生(ゼロインフィニット・リインカーネイション)〉

 これは"全ての条件と段階を満たさないと"できない。
 "下2つ以外の全てズノウ"を使う事と、武器の蓄積経験値、身体能力適正、それら全てを。

 俺の銃剣は、ヒビ割れから剝がれ始めた。
 七色の羽根は、輪郭以外が空間となり、"無限模様"を映し出した。

 銃口は"0(ゼロ)の形状"へと変形し、銃剣腹部からは"カーテンのような残光"が左右から溢れ出る。
 これは"あの男が持っていたものと全く同じモノ"だった。

 ズノウの先に"シンズノウ"が解禁され、新たに追加されていく。
 俺はその中から1つを取り出した。

 〈これは身体が耐え切れず焼身する可能性があります。それでも使いますか?〉

 もうここにはいられないかもしれない。
 もうみんなと一緒にいられないかもしれない。
 全てを覚悟した俺の脳は、〈はい〉の一文へと手を伸ばした。

 〈インフィニット・ネオシンギュラリティ・ドライブ〉によって、人体損傷を無視した行動が始まった。
 ヤツか俺が倒れるまで、無限に光刃で攻撃し続ける。

 俺の銃剣は、"階段のような不思議な点滅光"を左右から噴射させ、全体をグリッチ状にしながら振り回された。
 振り回すたび、"七色の粒子"を発する。

「死刑ノ邪魔ヲスルナァァァァァァァァッ!!!!!!」

 ヤツも今までに見せていない"黒炎を纏った光刃"と、人間離れした速さで追い付こうとしてくる。
 今まではまだ手加減していたのか、温存していた全てを放ってくる。

 対抗しようと、全身に焼けるような痛みが駆ける。
 死ぬほどの頭痛が「これ以上やればお前は焼け死ぬ」と、訴え続けてくる。
 なのに、何もかもを無視した俺の意志は、止まる事を選ばない。

 ― 超える、限界も理不尽も、全て...!!

 手の感覚なんてとっくに無い。
 あるのは、"理不尽ヲ壊ス覚悟"、それだけ。

 だからこの戦いも、ほんの少し俺の覚悟が上回っただけだと思う。
 22撃目から付いてこれなくなったヤツは、"ある事"を囁きながら霧のように消えて行った。
 確かに聞こえた、「ソウカ、アノ人ノ」という声。

「なぁ!? 今何したんだ!? 凄すぎだろお前ッ!!!」
「...」
「おい、ルイ!?」
「...」
「どうしたんだよ、おい!!?」
「...」
「死んで...ないよな...?」

 シンヤの最後の声の後、全てが真っ暗になった。
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