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二蝶

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「0に...なった?」 

 "トゥルースライフ"と呼ばれていた機械は静かに着地すると、入口を開き始めた。
 中から"大量の赤い霧"が噴射され、よく見えない。

「なんだ、この"赤い霧"...ユキ! こっちに来い!」
「う、うん!」

 〈サーモグラフィックアイ〉で、"出てきた何か"を視認する。
 すると、息する暇無く"異常な速さで迫る何か"がいた。

「ッ!!!」

 "首元まで迫ったソレ"を、俺は銃剣で間一髪止めた。
 "見えない何か"が、確実に俺の首を狙っていた。

「ルイ君ッ!!!」
「ルイッ!!!」
「...注意しろッ!!! コイツは...味方じゃないッ!!」

 赤い霧が払われた"ソイツ"は全身を現した。

「お、おまえ、なんで...」

 全身真っ白い服、髑髏のような仮面。
 上部の2本角は、"蝶の羽根"へと推移していった。

 意味が、意味が分からない。
 コイツは"夢だけの存在"のはずだ。
 意味が分からない。

 ヤツの右手から、"見えなかったソレ"が徐々に姿を現した。
 まるで空気が溶けるように、先端から発光していく。

 ― 0(ゼロ)の形状をした銃口、左右からカーテンのような残光、無限模様を映し出す七色蝶の羽根

 ...同じ
 この世に一つしかないのが今、"二つ"ある。

 これまで感じた事無いほどの悪寒が走る。
 全身から嫌な汗が噴き出る。

 お前は確実に死ぬ、身体の全てがそう言う。
 訴えてくるだけじゃない、前へ進むのを止めようとしてくる。

「ッ!? なッ!?」

 横から反撃しようとしたアスタだったが、青黒い剣が突如消失した。
 ユキも、シンヤも、ヒナも、カイも、ニイナも、誰もかれも。

 これって俺の...〈虹女神の一喝〉の上位互換!?
 "ELが付いた強力装備"でさえ、コイツには意味が無い!?

「これじゃ何も...」
「ユキ! 皆を頼む!! ここは、何とかする...!!」

 どうにかヤツの銃剣を弾き、一歩下がる。

「ごめんなさい...ルイしか今は...」

 ヤツの"もう一つの銃剣"が出てきた瞬間、"黒い波動?"に巻き込まれた。

「うっ!?」

 目を開けると、周りの景色が一変していた。

 これは...
 ...渋谷?
 
 "夜の渋谷スカイ"だった。
 当然のように仄かな光が、俺たちを照らす。

 あれ、皆は!?
 見回すと、誰もいなくなっていた。

「ここで俺を、やろうってのか」
「...」
「過去を殺したって、何も変わらないだろ!!」
「...」
「何か言えよ..."三船ルイ"!!!」

 俺はシンズノウの下から3つ目〈虹の屈折弾2(スペクトル・リフレクブラスター2)〉で、先制を図った。

 2の方を使えば、一度で二発撃つ事ができる。
 七色の長い光線が、屈折しながらヤツへと飛んでいく。

 走りながら何度も撃つが、なんとヤツは、"あの複雑な弾"に一度も当たる事は無かった。
 "この攻撃の弱点"が分かっているかのようだった。

「くッ!! だったら...」

 俺は、考えうる限りの策をアイツへとぶつけた。
 でも、そのどれもが読まれ、ここまで一度も当てる事が出来ていない。
 なのに、

「うっ...」

 ヤツの激しい攻撃は、俺を蝕んでいく。
 もう腹には5つの大きな穴が開き、血が止まらない。

 こんなんだったら、何もかも捨てて逃げだせばよかった...
 そういった気持ちさえ、出てしまう。

 でも、俺には待ってくれてる人がいる。
 期待してくれてる人がいる。
 ...信じてくれてる...人がいるッ!!

「はぁ...はぁ...ちっ!!」

 尋常では無い速さと、あまりの一撃の重さと、身体が幾つあってももう足りない。
 立っているのかさえ、分からなくなってきた。
 そう思った時だった。

「ぐぁぁぁぁ...!!!」

 限りある声を振り絞り、死ぬ思いで防いだ瞬間、"シンズノウの最後"が解禁された。

 俺は...
 ...俺は...まだ...

 未来も...超える...!!

 ― 〈二蝶剣銃(ツイン・イーリス)〉によって、俺の左手に"新たな銃剣"が追加された

 予想していない追撃だったのか、とうとうアイツを後ろへ下げた。
 それは、アイツが持っている"もう一つの銃剣"。

「お前に出来るなら...俺にだって出来る」

  ― 大きな白黒蝶の羽根が、白と黒の粒子を連れて、死を否定するように舞い上がった
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