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ブリランテ
173話
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「? これはオードのものだから、持って帰っていいんだよ?」
その様子にベルは首を傾げる。ボンボニエールも含めてオードが持参。花代は……アルバイト代から、と考えていた。オードの依頼とはいえ、まだ未熟な身。お金をいただくのは、少し気が引ける。
そんな思いとは裏腹に、正確な金額はわからないので、オードはお札を何枚かベルに手渡す。
「いいのいいの。あ、これ花代ね。これでカルトナージュを置くメリットを、このお店に見てもらいたいからね。紹介しておいてもらっていい?」
名刺代わりに、とそのまま席を立つ。気合いは入った。色々なお店をまわってみよう。次に花屋に寄ったら、同じようにカルトナージュに花を活けるならどうするか、聞いてみようか。
「一九区にあるカルトナージュ専門店『ディズヌフ』。まぁ、専門って言ってるけど、手芸全般はできるから、なんでも。レギュイユ・オン・フェットにも出店してるから。よろしく」
レギュイユ・オン・フェットは、通称『針の祭典』とも呼ばれる、パリで行われる手芸の全国的な、いや、世界的な見本市。数万人が訪れるこのイベントは、一年に一度パリで開催される。そこで次に名前を売る作戦を、オードはこの場で決めた。
「その時はベルにまた、花を頼むかもね。その時は頼むよ」
「……え! ……いいの?」
初めての顧客、と言っていいのかわからないが、先を見据えたオードの依頼。ベルはなんとなくベアトリスやシャルルのほうが、と思いつつも、感謝し受け入れる。
「うん、任せて!」
深く考えることはない。また今日のように。ピアノを奏でるように。その曲をイメージして。花をアレンジメントする。そう捉えると、早く次の花をアレンジしたい。
「それじゃ行くよ。またね」
花から幸福を受け取り、オードは店をあとにする。残されたのはボンボニエールに活けられた花。それをバッハの曲が包み込む。
ベルは初めて、身内以外のためにアレンジメントをした。友人のように接することができたとはいえ、初対面。その事実に、少しポーッとした頭が、顔が、脳が少し熱い。
「終わ……ちゃった、んだ……」
自身の中に確かな感触を残して、終わりを迎える。自分だけの花。一度テーマを決めたら、それに合う曲を無意識に選び出し、そして弾く。そこから導き出されるアレンジメント。そんなやり方も、いいのかもしれない。
「……むふふ……!」
まず頭に浮かんだのはベアトリスの悔しそうな顔。きっと、今までよりは小言を言われる回数は減る、んじゃないかな、いや、そうだったらいいな、と画策。なんにせよ、成長はしているはず。
続いてはシャルル。ずっとおんぶに抱っこされてきたり、実際にしてみたりしたが、指名されたという事実が彼との距離を近づけた気がする。きっとこの延長線上に彼はいる。だからこそ、生まれ変わったベル・グランヴァルとしてお店に貢献を——
ピリリリリリ!
「ひぃッ!」
電話が鳴る。
その様子にベルは首を傾げる。ボンボニエールも含めてオードが持参。花代は……アルバイト代から、と考えていた。オードの依頼とはいえ、まだ未熟な身。お金をいただくのは、少し気が引ける。
そんな思いとは裏腹に、正確な金額はわからないので、オードはお札を何枚かベルに手渡す。
「いいのいいの。あ、これ花代ね。これでカルトナージュを置くメリットを、このお店に見てもらいたいからね。紹介しておいてもらっていい?」
名刺代わりに、とそのまま席を立つ。気合いは入った。色々なお店をまわってみよう。次に花屋に寄ったら、同じようにカルトナージュに花を活けるならどうするか、聞いてみようか。
「一九区にあるカルトナージュ専門店『ディズヌフ』。まぁ、専門って言ってるけど、手芸全般はできるから、なんでも。レギュイユ・オン・フェットにも出店してるから。よろしく」
レギュイユ・オン・フェットは、通称『針の祭典』とも呼ばれる、パリで行われる手芸の全国的な、いや、世界的な見本市。数万人が訪れるこのイベントは、一年に一度パリで開催される。そこで次に名前を売る作戦を、オードはこの場で決めた。
「その時はベルにまた、花を頼むかもね。その時は頼むよ」
「……え! ……いいの?」
初めての顧客、と言っていいのかわからないが、先を見据えたオードの依頼。ベルはなんとなくベアトリスやシャルルのほうが、と思いつつも、感謝し受け入れる。
「うん、任せて!」
深く考えることはない。また今日のように。ピアノを奏でるように。その曲をイメージして。花をアレンジメントする。そう捉えると、早く次の花をアレンジしたい。
「それじゃ行くよ。またね」
花から幸福を受け取り、オードは店をあとにする。残されたのはボンボニエールに活けられた花。それをバッハの曲が包み込む。
ベルは初めて、身内以外のためにアレンジメントをした。友人のように接することができたとはいえ、初対面。その事実に、少しポーッとした頭が、顔が、脳が少し熱い。
「終わ……ちゃった、んだ……」
自身の中に確かな感触を残して、終わりを迎える。自分だけの花。一度テーマを決めたら、それに合う曲を無意識に選び出し、そして弾く。そこから導き出されるアレンジメント。そんなやり方も、いいのかもしれない。
「……むふふ……!」
まず頭に浮かんだのはベアトリスの悔しそうな顔。きっと、今までよりは小言を言われる回数は減る、んじゃないかな、いや、そうだったらいいな、と画策。なんにせよ、成長はしているはず。
続いてはシャルル。ずっとおんぶに抱っこされてきたり、実際にしてみたりしたが、指名されたという事実が彼との距離を近づけた気がする。きっとこの延長線上に彼はいる。だからこそ、生まれ変わったベル・グランヴァルとしてお店に貢献を——
ピリリリリリ!
「ひぃッ!」
電話が鳴る。
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