Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
173 / 235
ブリランテ

173話

しおりを挟む
「? これはオードのものだから、持って帰っていいんだよ?」

 その様子にベルは首を傾げる。ボンボニエールも含めてオードが持参。花代は……アルバイト代から、と考えていた。オードの依頼とはいえ、まだ未熟な身。お金をいただくのは、少し気が引ける。

 そんな思いとは裏腹に、正確な金額はわからないので、オードはお札を何枚かベルに手渡す。

「いいのいいの。あ、これ花代ね。これでカルトナージュを置くメリットを、このお店に見てもらいたいからね。紹介しておいてもらっていい?」

 名刺代わりに、とそのまま席を立つ。気合いは入った。色々なお店をまわってみよう。次に花屋に寄ったら、同じようにカルトナージュに花を活けるならどうするか、聞いてみようか。

「一九区にあるカルトナージュ専門店『ディズヌフ』。まぁ、専門って言ってるけど、手芸全般はできるから、なんでも。レギュイユ・オン・フェットにも出店してるから。よろしく」

 レギュイユ・オン・フェットは、通称『針の祭典』とも呼ばれる、パリで行われる手芸の全国的な、いや、世界的な見本市。数万人が訪れるこのイベントは、一年に一度パリで開催される。そこで次に名前を売る作戦を、オードはこの場で決めた。

「その時はベルにまた、花を頼むかもね。その時は頼むよ」

「……え! ……いいの?」

 初めての顧客、と言っていいのかわからないが、先を見据えたオードの依頼。ベルはなんとなくベアトリスやシャルルのほうが、と思いつつも、感謝し受け入れる。

「うん、任せて!」

 深く考えることはない。また今日のように。ピアノを奏でるように。その曲をイメージして。花をアレンジメントする。そう捉えると、早く次の花をアレンジしたい。

「それじゃ行くよ。またね」

 花から幸福を受け取り、オードは店をあとにする。残されたのはボンボニエールに活けられた花。それをバッハの曲が包み込む。

 ベルは初めて、身内以外のためにアレンジメントをした。友人のように接することができたとはいえ、初対面。その事実に、少しポーッとした頭が、顔が、脳が少し熱い。

「終わ……ちゃった、んだ……」

 自身の中に確かな感触を残して、終わりを迎える。自分だけの花。一度テーマを決めたら、それに合う曲を無意識に選び出し、そして弾く。そこから導き出されるアレンジメント。そんなやり方も、いいのかもしれない。

「……むふふ……!」

 まず頭に浮かんだのはベアトリスの悔しそうな顔。きっと、今までよりは小言を言われる回数は減る、んじゃないかな、いや、そうだったらいいな、と画策。なんにせよ、成長はしているはず。

 続いてはシャルル。ずっとおんぶに抱っこされてきたり、実際にしてみたりしたが、指名されたという事実が彼との距離を近づけた気がする。きっとこの延長線上に彼はいる。だからこそ、生まれ変わったベル・グランヴァルとしてお店に貢献を——

 ピリリリリリ!

「ひぃッ!」

 電話が鳴る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...