Sonora 【ソノラ】

文字の大きさ
184 / 235
トランクイロ

184話

しおりを挟む
「なら聞くが、ピアニストの本質はなんだ? ピアノで世界を救うことか? 聴衆を幸せにすることか?」

 いきなり話が地球全体まで膨らむベアトリスの話。八八ある鍵盤を叩くだけで平和? 末期のガンが治癒される? お前はなにをしたい?

 シーン、と静まりかえる店内で、ベルはその内容を咀嚼してみる。が、流石に規模がデカすぎる。

「いや、そこまで大袈裟なことは……自分には無理、かな。できるのならやってみたいですけど……」

 誰ならできるのだろう。アルゲリッチ? ショパン? ルービンシュタイン? 方法まではわからないけど。全世界同時中継でリサイタルをやったところで、争いはなくなるのだろうか?

「なにもコンクールを目指したり、プロとして活動している者のことだけではない。人によっては、学校や職場で弾くために練習してきているだろうし、家で遊びで弾いている者も大勢いるだろう」

 国によっては『ピアニスト』というものは職業としてお金を稼いでいる者に当てはめることもあるが、基本的には弾く全ての者に当てはまる。趣味であれ仕事であれ、鍵盤を叩いたらピアニストだ。ベアトリスはそれを前提として話を進める。

 それには同調せざるをえないベルは、目線を外して首肯する。

「まぁ……そうですね……」

 そしてここでやっと座る。なんとなく、ひと呼吸おけた気がして。

 飲もうとカップを口にした時、もうコーヒーがないことに気づいたベアトリス。少し甘さを足したものがほしい。席を立ってエスプレッソマシンを動かす。店内に響くのはマシンの轟音。フラットホワイト。二杯作り、再度着席。

「……人それぞれ、弾く目的があるんだ。本質なんてものも人それぞれ。どうでもいい。そんなものはないのかもな」

 ほんの少しだけ飲みやすくなったエスプレッソ。苦味の中にまろやかさ。人生のようだ、と心の中。

 ソーサーとカップ。目の前に置かれ、湯気を放つ温かな液体。このコーヒーは、自身の本質というものなど考えないのだろう、とベルは自身の小ささを知る。

「それじゃあ、フローリストの本質、っていうのも——」

「難しく考えすぎているな。フローリスト、という枠組みから外れて考えたほうがいい。悩みを抱えている人間は他にどこに行く?」

 いつの間にか人生相談のようになっていることに疑問符を持ちつつも、自身のフローリスト観を紐解くベアトリス。参考になるかはわからないし、ならなかったところで知ったことではない。

 悩んだら。友達とか親とか。そうでないとすると。唸りながらも捻り出すベルの表情は険しい。

「……神父さん、とか」

 懺悔室、というものがあると聞いたことがある。顔も見えない状態で、神父さんにだけ罪を告白する。らしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...