14 Glück【フィアツェーン グリュック】

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必要と不要。

69話

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「……うん……」

 起きた瞬間感じたのは、室内の寒さ。よくあるのだが、かけていたはずの布団が落ちている。ベッドのサイズに対して大きすぎるのだろうか。ボーッとしつつも、薄暗い中、いつもの通りキッチンへ向かい、コーヒーを淹れる。店ではこだわりのコーヒーだが、家ではかなり適当。挽きたての豆さえ使えれば、メーカーなどはなんでもいい。

 沸かしている間もボケっとマシンを見続ける。時刻は五時。結構寝たはず。仕事を再開せねば。そういえば、アニーさんからなにか来ていたような。電気を点け、携帯を確認する。

「う……」

 未読六一件。ひとつひとつ確認するが、そのどれもがどうでもいいような内容。お風呂は最初にどこから洗うか、カカオは二七度以上ないと育ちにくいなど、返す言葉も中々見つからない。

「……何事でしょうか」

 そういえば、最後にこんなことを考えて、携帯を見ることを昨夜はやめた気がする。一応、重要ななにかもあるかもしれないので、コーヒーを片手に全部に目を通す。そこへ。

 <既読つきましたけど、起きたところですか?>

「……」

 一度携帯をソファーに置いて、天井を見ながら深呼吸。アルトバウは天井が高いところが多い。ここも三メートル以上ある。模様を見ていると、当然だがコーヒーの香り。いつもより、さらに深く身に染みる。

 窓に移動し、まだ暗い夜のベルリンの街並みを見下ろす。ここは四階のため、かなり遠くまで見える。こんな時間だが、明るく灯っている場所もある。ガラスに映り込んだ自分。窓は三枚ガラスが入っているため、かなり断熱性が高い。部屋の中はそこまで寒さは感じない。そして着信。

 <起きてますか?>

 これまでも、度々メッセージが飛んでくることはあったが、それでも二往復くらいで完結していた。しかもしっかりと、お店についてなどの中身のある内容。

「……頭が痛くなってきました……」

 ひと言だけ返信する。

「起きてます。仕事を片付けます」

 その後も着信音が鳴った気もするが、放置してソファーで作業を続ける。ホールで豆から挽くのであれば、静かに挽ける手動のコーヒーミルが必要。電動のグラインダーは騒音がすごい。とてもじゃないが、ホールではできない。電源もない。

「……とすると、最低でも四つは必要で、しっかりと挽けるとなると、やはりひとつ四〇〇ユーロくらいは……」

 お金の問題もあるが、もし効果がなかったときはどうするか、と先のことも思い悩む。効果があっても、回転率を下げるようだと意味がない。難しいところだが、やってみないとこればかりはわからない。

「他にも、淹れる練習や、その他の器具も揃えなければ。合うメニューの刷新も必要です。ビロルさんやオリバーさん達と打ち合わせて——」

 着信音が鳴る。メッセージが届く。

 ユリアーネは一度うずくまった後、そのままの体勢で横に倒れ、ソファーに身を預けた。

「……落ち着きましょう」

 テーブルの上の、すっかり冷めたコーヒーを飲む。雑味がより濃く感じた。
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