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エラール 『No.0』
29話
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コメントでは『おいおい、サロメちゃんの手を煩わせるなよ』や、『俺のスプリングもいじって』など、バラエティに富んできている。
《じゃあ、調整も終わったみたいなので、そろそろ調律をお願いしようかと思います》
コメントでも楽しみにしていた人は一定数いたようで『調律見るの初めてかも』『頑張れー』『たぶんパリ北駅だな。なんか警官多いし』と、どんどん視聴者数に比例して増えてきている。
《はい! どうしよう、緊張するなー。ファイト! 私!》
「だからそういうのやめろって!」
届くことのないランベールの制止をよそに、チューニングハンマーを手に持ったサロメが調律を開始する。直前の打ち合わせでスタッフからは「フリだけでいいので。実際にはもう終わってますので、そのままでお願いします」と言われていたが、当然無視する。自分の調律があの程度だと思われたら、商売上がったりになる。まずは割り振りから。
《はい、というわけで調律が始まりました。とても繊細な作業なのでね、小声で失礼しますね》
基音のラから始まったオクターブを作りつつ、次は低音域のオクターブ、その次は高音域のオクターブを終える。もちろん全てサロメは一回で終わらせる。ダーン、と叩いてはいるが、パフォーマンスでしかない。合っていることはわかっている。
《しかし、とてもお若いのにすごいですよね、僕が彼女の年の頃なんて鼻たらしながらサッカーしてましたよ》
待っている間はトークで間を繋ごうとしているパスカルだが、三〇分くらいを予定しており、その間はコメントを返す時間ととっていた。もちろん調律が三〇分で終わるかなどわからなかったが、元々、調律は終わっている。いじられすぎなければいい。なんせ演奏は古いピアノを使っていることもあり、パスカル自身、実はあまり期待していなかった。言い訳は準備できてる。
《はい、今日はこのあとすぐそこなんですけど移動しまして、無料で演奏を……え、なに? なんか変?》
カメラの前でコメントを返しているパスカルであるが、二元中継で調律をしているサロメが映っている。『もっと至近距離で』なんてコメントもきてはいるが、本来はなにもしない予定だったため、邪魔をしてはいけないというそれっぽい理由をつけて少し遠く離して撮影。
そこに『調律ってあれでいいんだっけ?』『ハンマー握ってない』『まだ新人だった?』とコメントが入ってきている。
これにはパスカルも反応する。
《全然調律できてない? ハンマー握ってないって? いや、でも、あれ、握って、すぐ離した。うーん?》
たしかに不思議な感じがパスカルもしている。今まで目の前でやってもらった調律は、もっと右手のチューニングハンマーをグリグリといじりながら鍵盤を叩いていた気がする。しかしサロメはまずピンをいじって、まるで『確認するかのように』鍵盤を叩いているだけのように見える。
《たしかになんか違う気もしますけど……いや、でもなんか、めっちゃいい音かも……》
過去の記憶を辿るが、やはりやり方が違うような気がするな、とパスカルは混乱してきた。コメント返しそっちのけで調律を見ている。
《というか、え、もう終わる? 二三〇本あるんですよ? いいの? 大丈夫?》
およそ一五分ほどで作業は終了し、サロメはピアノを元の状態に戻す。見た目にはなにも変わっていないように見えるが、中身はしっかりと調律の施されたエラールとなっている。
《じゃあ、調整も終わったみたいなので、そろそろ調律をお願いしようかと思います》
コメントでも楽しみにしていた人は一定数いたようで『調律見るの初めてかも』『頑張れー』『たぶんパリ北駅だな。なんか警官多いし』と、どんどん視聴者数に比例して増えてきている。
《はい! どうしよう、緊張するなー。ファイト! 私!》
「だからそういうのやめろって!」
届くことのないランベールの制止をよそに、チューニングハンマーを手に持ったサロメが調律を開始する。直前の打ち合わせでスタッフからは「フリだけでいいので。実際にはもう終わってますので、そのままでお願いします」と言われていたが、当然無視する。自分の調律があの程度だと思われたら、商売上がったりになる。まずは割り振りから。
《はい、というわけで調律が始まりました。とても繊細な作業なのでね、小声で失礼しますね》
基音のラから始まったオクターブを作りつつ、次は低音域のオクターブ、その次は高音域のオクターブを終える。もちろん全てサロメは一回で終わらせる。ダーン、と叩いてはいるが、パフォーマンスでしかない。合っていることはわかっている。
《しかし、とてもお若いのにすごいですよね、僕が彼女の年の頃なんて鼻たらしながらサッカーしてましたよ》
待っている間はトークで間を繋ごうとしているパスカルだが、三〇分くらいを予定しており、その間はコメントを返す時間ととっていた。もちろん調律が三〇分で終わるかなどわからなかったが、元々、調律は終わっている。いじられすぎなければいい。なんせ演奏は古いピアノを使っていることもあり、パスカル自身、実はあまり期待していなかった。言い訳は準備できてる。
《はい、今日はこのあとすぐそこなんですけど移動しまして、無料で演奏を……え、なに? なんか変?》
カメラの前でコメントを返しているパスカルであるが、二元中継で調律をしているサロメが映っている。『もっと至近距離で』なんてコメントもきてはいるが、本来はなにもしない予定だったため、邪魔をしてはいけないというそれっぽい理由をつけて少し遠く離して撮影。
そこに『調律ってあれでいいんだっけ?』『ハンマー握ってない』『まだ新人だった?』とコメントが入ってきている。
これにはパスカルも反応する。
《全然調律できてない? ハンマー握ってないって? いや、でも、あれ、握って、すぐ離した。うーん?》
たしかに不思議な感じがパスカルもしている。今まで目の前でやってもらった調律は、もっと右手のチューニングハンマーをグリグリといじりながら鍵盤を叩いていた気がする。しかしサロメはまずピンをいじって、まるで『確認するかのように』鍵盤を叩いているだけのように見える。
《たしかになんか違う気もしますけど……いや、でもなんか、めっちゃいい音かも……》
過去の記憶を辿るが、やはりやり方が違うような気がするな、とパスカルは混乱してきた。コメント返しそっちのけで調律を見ている。
《というか、え、もう終わる? 二三〇本あるんですよ? いいの? 大丈夫?》
およそ一五分ほどで作業は終了し、サロメはピアノを元の状態に戻す。見た目にはなにも変わっていないように見えるが、中身はしっかりと調律の施されたエラールとなっている。
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