Réglage 【レグラージュ】

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エストニア 『ザ・ヒドゥンビューティ』

119話

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 またも断られたラシッドは、さすがに少し落胆。もうちょっとだけ悩んでくれてもいいのに。

「弾けなくなった、とかではないんだよね。まぁでも突如辞めて、全く音楽とは関係ない職に就く者もいる。キミの場合は、抽象的でいいんだが、どんな理由が近い? 今後の参考に」

 他の教え子も悩む時があるだろう。そんな時になんと声をかけるべきか。この状況を使って練習。

 どうでもいいだろ、と喉元まで言いかけたが、開きかけた口を一度閉じ、そしてまた開くランベール。

「……ピアノを外側から見たくなった」

「外側?」

 予想外の答えに、ラシッドの声が高くなる。

 外側、というのもランベールは今思いついた。正しい表現なのかわからないが、この瞬間の正直な気持ち。

「よく引退したスポーツ選手がリポーターとかキャスターとして、現役選手に取材に行くだろ? あんな感じで。いや、違うか……? なんだろ、とりあえずそんな感じだ」

 手は止めずに、丁寧に作業はしつつ。何箇所かやはり気になる点はある。そこをとりあえず直さなければ、来た意味がわからない。目線も当然ピアノ。片手間でできるほどの技術も適当さも持ち合わせていない。

 しかし、むしろ興味をそそられる回答。ラシッドは身を乗り出す。

「面白い観点だ。それでそれで?」

 背中から変に圧力を感じつつも、ランベールは淡々と繊細な鍵盤の動きに集中する。

「それくらいだ。ピアノは弾くだけじゃない。部品を作る職人だっている。録音の技師だっている。調律師も。興味が移っただけだ」

「それで。外側から見てみて、なにか浮かび上がってきた?」

 間髪入れずにラシッドは次の質問。なんたって、かつての弟子が昔より刺激的になって帰ってきたのだから。その経緯が知りたくなるのも自然。録音しておけばよかった。

 そろそろ会話が面倒になってきたランベール。察せ、とオーラで語るが無視されている。

「まだ俺は駆け出しだ。大層なことはなにも。そんなすぐに真髄を極められるか」

 むしろ、奥が、底が深すぎて全体像すらわからない、ということだけがわかった。ピアノというものは、弾くのも調律するのも限界がない。のめり込むには充分すぎる。言葉に熱がこもる。

 なんだか浅い質問をしてしまったようで、ラシッドは内心で反省。色々な意味で成長している、と判断。嬉しい。

「それもそうか。で、弾きづらさの原因はわかった?」

 なんとなくはわかっているが、一応専門家からの意見も知りたい。違う原因だったら怖さもある。ピアノについては詳しい自負はあるが、それはあくまで弾くほう。直すことに関しては、手をつけるべきではない、と考えている。素人がいじって、より悪くするなんてのは避けたい。
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