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地底人を探して
道をふさぐ倒れた馬車
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俺たちの馬車は速度を下げたが、移動を続けていた。
「さっきのは手下の山賊どもでしょう。おそらくこの先のどこかに奴らのねぐらがあって、待ち伏せや罠があるかもしれませんね」
トリアンは平然と言った。俺は当然ビビっている。自分を落ち着ける為にもアレックスとエータに向かって
「トリアン達は強いからアレックスとエータの出番は無いよ」
そう声をかけて気を紛らわせていたが、しばらくすると後ろからミラが指笛をピーと吹いた。
「この先に複数の人間がいる。20ほどだ」
エータの発言に俺は震え上がった。
木々が立ち並び、うねうねと曲がりながら上り下りを繰り返す街道の途中で、トリアンは一度馬車を止めて先頭を行くアレンを呼び戻した。
「ゴー隊長。ミラに先遣させて私は背後を警戒します。前はアレンに任せますが、万が一の時はお願いします」
「指揮官はお前だトリアン。指示だけでいい」
「はっ、ではミラ。行け!」
ミラは無言で馬を駆って街道を進んでいった。
すぐに戻ってきて「一緒に来て」と小さな声で言った。
「ミラ、何を見た?」
「馬車が倒れてる。馬も人もいない」
トリアンとゴーは見つめあい
「どのみち進まねばならん。皆で行こう」
ゴーがそう言ってアレンとトリアンを先頭にゆっくりと街道を進んだ。
見通しの悪い街道を進むと、ミラのいう通り馬車が倒されていた。
踏み固められたような道の上に、まだ新しいと思われる血だまりがあった。
「誰かが襲われたようだな。しかし・・・」
トリアンは一度言葉を切ってアレンとミラとゴーの顔を見て
「今の我々の任務は貴人の警護だ。馬車を通れるだけ寄せて先へ進もう」
俺はそれを聞いて胸がざわざわしていた。本当にそれでいいのか・・・
「ケン。君の手も貸してくれ」
落ち着かない俺にたいしてトリアンは馬から降りて声をかけてきた。
馬車にアレンとトリアンの馬を繋ぎ、俺とゴーとアレン・トリアンで倒れている馬車を街道の端に寄せていた。ミラは警戒に当たっている。
俺たちが馬車を寄せるために汗を流している時も、周囲の森は妙に静かだった。まるで、何かが潜んでいるかのように。
倒れた馬車の側を通る風が、草木をざわつかせる。緊張感がじわじわと広がり、心拍数が上がっていくのを感じた。
「キャー!」という悲鳴が響いた瞬間、心臓が止まるかと思った。女の人の声だ。俺たち全員が瞬時に顔を見合わせた。
「予定の通りに。何を優先するのか取り違えるな!」
トリアンが冷静に指示を飛ばした。彼の言葉は正しい。分かっている。でも・・・その冷静さがかえって、胸のざわめきを増幅させた。
グエンガさんの言葉が頭をよぎる。
「軍人は任務の遂行の為には自分の命も使い捨ての道具にする」
けれども、俺の中にいるもう一人の自分が、強く強く囁き続ける。
「何かが違う。助けられる命なら助けてあげるのは当たり前じゃないのか?」
皆乗馬して出発の準備が整い、馬車も動き出した。
俺は御者席に座り、隣のゴーに向かって言葉を絞り出した。
「助けられるのなら、助けてあげてほしい」
ゴーはしばらく俺の顔をじっと見つめていた。
彼の視線の奥には、何かを測りかねているような重さがあった。その後、無言で頷いた。
曲がり角を一つ曲がった先に女性が倒れていた。
おそらく年配の方だろう。白い長い髪が見えている。
先を見ると、もう一人倒れている。少し遠いが男性だろうか?僅かな血だまりのようなものも見えた。
素通りしようにも、道の真ん中に倒れているので、老婆の前で馬車は止まった。
トリアンは状況を把握しようと、周りをキョロキョロと見まわしてから
「馬車が通れるように道の端に寄せろ。老婆はミラ、向こうの男はアレン」
判断は早く、指示に従いアレンとミラは素早く下馬して倒れている人に向かおうとしている。
俺は自分でも信じられないのだが、声を上げていた。
「ま、待ってくれ!助かりそうなら助けてあげないか?」
トリアンは俺の顔を「何を言っているんだ?」といった表情で口を開けてみている。
アレンはどうしようかと俺とトリアンを見比べているが、ミラはぼーっとしている。
「トリアン。ケンの言う通りだ。民草を助けるのが我々の使命の一部だ」
ゴーはフォローしてくれたが、トリアンは納得いかないようで
「し、しかし隊長。王侯貴族を最優先するのが妥当かと」
ゴーは何かを言い返そうとしていたが、飲み込んで俺の顔を見た。
「あ、アレクシウス様がそう望んでいるのです。助かる命なら助けようと」
アレックスごめん。嘘をついてしまったけど、俺にはこれしか言えなかった。
トリアンは悩んでいるが、ミラが近くに倒れている老婆に駆け寄り、介抱をはじめたようだった。
「・・・仕方ない。見通しの悪い場所だ。十分警戒・・・」
「キャー!だ、誰か!助けて!」
すぐ近くで悲鳴が響いた。その曲がり角の先か?
アレンは「見てくる」とすぐに走り出していた。
トリアンは倒れている男のそばに駆け寄り、俺は馬車から降りるとアレンを追った。
本当にすぐの曲がり角の先では、道の真ん中で倒れている女性を剣やこん棒を持った山賊15人ほどで取り囲んでいた。
アレンに気付いた山賊が倒れている女性の体に剣を突きつけていた。
「おっと、これは騎士さまか?それ以上くるなら女は死ぬ。どうするね?」
剣を突きつけた大男は楽しそうに笑いながらアレンを見ている。周りの山賊もヤジを飛ばして大はしゃぎしている。
アレンは固まっており、俺はその光景を見て、腹の中が熱くなっていくのを感じていた。
「何故全員排除しないのかね?」
俺はいつの間にか隣にいるエータの声にハッとして
「ひ、人質を取られているんだよエータ!」
ささやき声だが強く言ってエータを睨んだ。隣にゴーも来ていた。
「あの女や山賊に価値はあるのかね?あのような使い方ならばあるのか」
「ちょっともう黙って引っ込んでてくれ!」
俺がそういうと、エータは黙った。後ろではトリアンとミラは倒れた人を介抱して肩を貸して立たせているようだった。
「さあ騎士様。お前の手の槍と腰の剣を捨てたら女はお前にやる。どうだ?」
下卑た笑いを称えて大男は楽しそうに笑っている。
「騎士様が全裸になったら女は解放だ!」
「裸の騎士と俺たち全員で戦って勝てたら、ならどうだ?」
「お前がサシでやれ!俺は裸の騎士に銀貨1枚だ」
わいわいと本当に楽しそうに山賊たちは騒ぎ出した。
俺は目の奥と腹の底がジンジンと熱くなっていくのを感じていた。
アレンは悩んでいるようで、一度トリアンとゴーを見た。
トリアンは立ち上がった男に肩を貸しているが、男は足がもつれて倒れて一緒にしゃがみこんでいる。ゴーは無表情で固まっている。体が震えていた。
トリアンは槍と腰の剣を山賊に向かって投げて
「女を放せ!」
そう言うと女を二人がかりで立ち上がらせた山賊はアレンに向かって女を突き飛ばした。
女は足元がおぼつかず、転ぶ寸前でアレンが抱きとめた。
大男は大きく息を吸って
「俺の勝ちだ!」
大声でそう言うとアレンが倒れた。
俺は咄嗟に駆け寄ろうとしてエータに腕をつかまれた。
何が起きたのかわからない。山賊は笑いながら大騒ぎをしている。
ゴーは「うおおおあああ」と叫びながら、アレンが受け止めた女の首を抜き放った剣で跳ねた。
「え・・・ゴー?」
俺はゴーの方に向かおうとしたら腕を引っ張っているエータに足をかけられて転倒した。
「エータ?何を・・・?」
俺はパニックになっていたが、エータはトリアンとミラが介抱していた男女の胸を刺し貫いていた。
トリアンとミラも倒れている。俺は余計にパニックになったが、ゴーの咆哮と山賊の奇声でそちらに目をやると、山賊の5~6人が既に倒れていた。
剣を抜いたゴーは恐ろしい正確さで手足を切り飛ばし、喉や目をついて的確に数を減らしていた。
残り5人程度になった山賊は
「親分がやられた、ずらかるぞ」
そう言ってバラバラに森や街道に散っていった。
ゴーは迷いなく街道を逃げた一人の山賊を走って追いかけて背中に剣を刺し、そのまま固まっていた。
俺はその姿を呆然と見ていた。そして思い出した。
トリアン、アレン、ミラの存在を。
近くで倒れているアレンの元に行くと、彼は目を開けたまま痙攣していた。腹部にアイスピックのような物が刺さっているのが見えた。
「アレン!大丈夫か?え、エータ!助けてくれ!」
俺はエータを探して振り向くと、エータはミラの腹から同じようなアイスピックのような物を抜き取り
「毒を注入されている。トリアンもミラも腹膜を抜かれているので解毒剤があっても手遅れだ」
その言葉は、俺の心にアイスピックのように突き刺さった。
俺は地面に座り込んだ。
「なんで・・・こんな・・・こと・・・」
足が見えた。顔を上げるとゴーの顔が見えた。表情は無かったが、握りしめた拳から血がポタリと垂れた。
アレンの胸にゴーの握る剣があてがわれた。
「アレン、よく・・・戦った」
ゴーは一瞬、目を閉じた。静寂の中で、彼の心にある小さな躊躇が渦巻く。しかし、次の瞬間、彼は目を開け、冷静さを取り戻した
ゴーの剣は静かにアレンの胸に吸い込まれ、アレンは動かなくなった。
目の前で繰り広げられる惨劇に、俺はただ呆然と立ち尽くした。体が動かない。頭の中で無数の思考が渦巻く中、ただ一つの問いが浮かび上がる。
「なぜ・・・ゴー、なんで?」
その言葉は、俺の口から出ることはなかったが、俺の心の中で叫んでいた。
「トリアン、ミラ。お前達もよく・・・戦っ・・・罠だと気付いてい・・・」
そうつぶやいてからアレンと同じように自らの剣でトリアンとミラの胸を刺し貫いた。
「どうして、こんなことが…」
ゴーの背中を見つめ、俺は心の中で叫んだ。俺の中に沸き上がる感情が、まるで渦のように膨れ上がっていく。恐怖、怒り、悲しみ・・・それらが交錯する中で、俺は一歩も動けなかった。
「少し時間が欲しい」
ゴーはそう言って街道脇の木の下に穴を掘っていた。
三人の墓を作るようだった。
元々薄暗い街道だったが、日も暮れるにつれて周囲は静まり返っていく。小鳥のさえずりも消え、ただ風の音だけが響いていた。悲しみと絶望が空気を重くしていた。
「環境によろしくない」
エータはそんなことを言って山賊の死体を一か所に集めて火をつけていた。
アレックスは数人の息のある山賊の首筋に噛みつき、とどめをさして血液を補充しているようだ。
俺は何もする気が起きず、焚火の前でへたり込んでいた。何かをしなければと思うのに、体が動かない。エータは最初から「全員排除してしまえ」と言っていた。わかっていたのか?
俺が助けられるなら助けたいと言ったからこうなってしまったのか?その問いが、俺の心を引き裂くように渦巻いていた。
ゴーはかつての部下を失ってしまった。大切な仲間を三人も・・・
ゴーは一心不乱に穴を掘っている。
その姿を見て、俺は手伝いに行った。
二人は無言で穴を掘り、一人一人丁寧に運び、土をかけた。
それほど仲良かったわけじゃないのに、土に埋まっていく姿を見ていたら涙が出てきた。
「ケン、やはりあなたは優しい。彼らの為に泣いてくれるのですね」
ゴーは力なくそういいながら土をかけている。
俺は手を止めて、一度涙を拭って地面に正座してゴーに謝罪した。
「俺が、俺があの時『助けられるなら』なんて言わなければこんなことには・・・。本当に申し訳ない」
ゴーも片膝をついてケンの肩に手を置いて
「頭を上げてください。私もまさか全員がグルだったとは思いませんでした。トリアン達も国に仕える兵ですから、いつかこうなる覚悟は持っていたはずです・・・」
彼の声には重苦しい思いがこもっていたが、その手は俺の肩に温もりを与え、少しだけ震えていた。俺たちの絆が、どんな困難にも負けない力になると信じたかった。
「さっきのは手下の山賊どもでしょう。おそらくこの先のどこかに奴らのねぐらがあって、待ち伏せや罠があるかもしれませんね」
トリアンは平然と言った。俺は当然ビビっている。自分を落ち着ける為にもアレックスとエータに向かって
「トリアン達は強いからアレックスとエータの出番は無いよ」
そう声をかけて気を紛らわせていたが、しばらくすると後ろからミラが指笛をピーと吹いた。
「この先に複数の人間がいる。20ほどだ」
エータの発言に俺は震え上がった。
木々が立ち並び、うねうねと曲がりながら上り下りを繰り返す街道の途中で、トリアンは一度馬車を止めて先頭を行くアレンを呼び戻した。
「ゴー隊長。ミラに先遣させて私は背後を警戒します。前はアレンに任せますが、万が一の時はお願いします」
「指揮官はお前だトリアン。指示だけでいい」
「はっ、ではミラ。行け!」
ミラは無言で馬を駆って街道を進んでいった。
すぐに戻ってきて「一緒に来て」と小さな声で言った。
「ミラ、何を見た?」
「馬車が倒れてる。馬も人もいない」
トリアンとゴーは見つめあい
「どのみち進まねばならん。皆で行こう」
ゴーがそう言ってアレンとトリアンを先頭にゆっくりと街道を進んだ。
見通しの悪い街道を進むと、ミラのいう通り馬車が倒されていた。
踏み固められたような道の上に、まだ新しいと思われる血だまりがあった。
「誰かが襲われたようだな。しかし・・・」
トリアンは一度言葉を切ってアレンとミラとゴーの顔を見て
「今の我々の任務は貴人の警護だ。馬車を通れるだけ寄せて先へ進もう」
俺はそれを聞いて胸がざわざわしていた。本当にそれでいいのか・・・
「ケン。君の手も貸してくれ」
落ち着かない俺にたいしてトリアンは馬から降りて声をかけてきた。
馬車にアレンとトリアンの馬を繋ぎ、俺とゴーとアレン・トリアンで倒れている馬車を街道の端に寄せていた。ミラは警戒に当たっている。
俺たちが馬車を寄せるために汗を流している時も、周囲の森は妙に静かだった。まるで、何かが潜んでいるかのように。
倒れた馬車の側を通る風が、草木をざわつかせる。緊張感がじわじわと広がり、心拍数が上がっていくのを感じた。
「キャー!」という悲鳴が響いた瞬間、心臓が止まるかと思った。女の人の声だ。俺たち全員が瞬時に顔を見合わせた。
「予定の通りに。何を優先するのか取り違えるな!」
トリアンが冷静に指示を飛ばした。彼の言葉は正しい。分かっている。でも・・・その冷静さがかえって、胸のざわめきを増幅させた。
グエンガさんの言葉が頭をよぎる。
「軍人は任務の遂行の為には自分の命も使い捨ての道具にする」
けれども、俺の中にいるもう一人の自分が、強く強く囁き続ける。
「何かが違う。助けられる命なら助けてあげるのは当たり前じゃないのか?」
皆乗馬して出発の準備が整い、馬車も動き出した。
俺は御者席に座り、隣のゴーに向かって言葉を絞り出した。
「助けられるのなら、助けてあげてほしい」
ゴーはしばらく俺の顔をじっと見つめていた。
彼の視線の奥には、何かを測りかねているような重さがあった。その後、無言で頷いた。
曲がり角を一つ曲がった先に女性が倒れていた。
おそらく年配の方だろう。白い長い髪が見えている。
先を見ると、もう一人倒れている。少し遠いが男性だろうか?僅かな血だまりのようなものも見えた。
素通りしようにも、道の真ん中に倒れているので、老婆の前で馬車は止まった。
トリアンは状況を把握しようと、周りをキョロキョロと見まわしてから
「馬車が通れるように道の端に寄せろ。老婆はミラ、向こうの男はアレン」
判断は早く、指示に従いアレンとミラは素早く下馬して倒れている人に向かおうとしている。
俺は自分でも信じられないのだが、声を上げていた。
「ま、待ってくれ!助かりそうなら助けてあげないか?」
トリアンは俺の顔を「何を言っているんだ?」といった表情で口を開けてみている。
アレンはどうしようかと俺とトリアンを見比べているが、ミラはぼーっとしている。
「トリアン。ケンの言う通りだ。民草を助けるのが我々の使命の一部だ」
ゴーはフォローしてくれたが、トリアンは納得いかないようで
「し、しかし隊長。王侯貴族を最優先するのが妥当かと」
ゴーは何かを言い返そうとしていたが、飲み込んで俺の顔を見た。
「あ、アレクシウス様がそう望んでいるのです。助かる命なら助けようと」
アレックスごめん。嘘をついてしまったけど、俺にはこれしか言えなかった。
トリアンは悩んでいるが、ミラが近くに倒れている老婆に駆け寄り、介抱をはじめたようだった。
「・・・仕方ない。見通しの悪い場所だ。十分警戒・・・」
「キャー!だ、誰か!助けて!」
すぐ近くで悲鳴が響いた。その曲がり角の先か?
アレンは「見てくる」とすぐに走り出していた。
トリアンは倒れている男のそばに駆け寄り、俺は馬車から降りるとアレンを追った。
本当にすぐの曲がり角の先では、道の真ん中で倒れている女性を剣やこん棒を持った山賊15人ほどで取り囲んでいた。
アレンに気付いた山賊が倒れている女性の体に剣を突きつけていた。
「おっと、これは騎士さまか?それ以上くるなら女は死ぬ。どうするね?」
剣を突きつけた大男は楽しそうに笑いながらアレンを見ている。周りの山賊もヤジを飛ばして大はしゃぎしている。
アレンは固まっており、俺はその光景を見て、腹の中が熱くなっていくのを感じていた。
「何故全員排除しないのかね?」
俺はいつの間にか隣にいるエータの声にハッとして
「ひ、人質を取られているんだよエータ!」
ささやき声だが強く言ってエータを睨んだ。隣にゴーも来ていた。
「あの女や山賊に価値はあるのかね?あのような使い方ならばあるのか」
「ちょっともう黙って引っ込んでてくれ!」
俺がそういうと、エータは黙った。後ろではトリアンとミラは倒れた人を介抱して肩を貸して立たせているようだった。
「さあ騎士様。お前の手の槍と腰の剣を捨てたら女はお前にやる。どうだ?」
下卑た笑いを称えて大男は楽しそうに笑っている。
「騎士様が全裸になったら女は解放だ!」
「裸の騎士と俺たち全員で戦って勝てたら、ならどうだ?」
「お前がサシでやれ!俺は裸の騎士に銀貨1枚だ」
わいわいと本当に楽しそうに山賊たちは騒ぎ出した。
俺は目の奥と腹の底がジンジンと熱くなっていくのを感じていた。
アレンは悩んでいるようで、一度トリアンとゴーを見た。
トリアンは立ち上がった男に肩を貸しているが、男は足がもつれて倒れて一緒にしゃがみこんでいる。ゴーは無表情で固まっている。体が震えていた。
トリアンは槍と腰の剣を山賊に向かって投げて
「女を放せ!」
そう言うと女を二人がかりで立ち上がらせた山賊はアレンに向かって女を突き飛ばした。
女は足元がおぼつかず、転ぶ寸前でアレンが抱きとめた。
大男は大きく息を吸って
「俺の勝ちだ!」
大声でそう言うとアレンが倒れた。
俺は咄嗟に駆け寄ろうとしてエータに腕をつかまれた。
何が起きたのかわからない。山賊は笑いながら大騒ぎをしている。
ゴーは「うおおおあああ」と叫びながら、アレンが受け止めた女の首を抜き放った剣で跳ねた。
「え・・・ゴー?」
俺はゴーの方に向かおうとしたら腕を引っ張っているエータに足をかけられて転倒した。
「エータ?何を・・・?」
俺はパニックになっていたが、エータはトリアンとミラが介抱していた男女の胸を刺し貫いていた。
トリアンとミラも倒れている。俺は余計にパニックになったが、ゴーの咆哮と山賊の奇声でそちらに目をやると、山賊の5~6人が既に倒れていた。
剣を抜いたゴーは恐ろしい正確さで手足を切り飛ばし、喉や目をついて的確に数を減らしていた。
残り5人程度になった山賊は
「親分がやられた、ずらかるぞ」
そう言ってバラバラに森や街道に散っていった。
ゴーは迷いなく街道を逃げた一人の山賊を走って追いかけて背中に剣を刺し、そのまま固まっていた。
俺はその姿を呆然と見ていた。そして思い出した。
トリアン、アレン、ミラの存在を。
近くで倒れているアレンの元に行くと、彼は目を開けたまま痙攣していた。腹部にアイスピックのような物が刺さっているのが見えた。
「アレン!大丈夫か?え、エータ!助けてくれ!」
俺はエータを探して振り向くと、エータはミラの腹から同じようなアイスピックのような物を抜き取り
「毒を注入されている。トリアンもミラも腹膜を抜かれているので解毒剤があっても手遅れだ」
その言葉は、俺の心にアイスピックのように突き刺さった。
俺は地面に座り込んだ。
「なんで・・・こんな・・・こと・・・」
足が見えた。顔を上げるとゴーの顔が見えた。表情は無かったが、握りしめた拳から血がポタリと垂れた。
アレンの胸にゴーの握る剣があてがわれた。
「アレン、よく・・・戦った」
ゴーは一瞬、目を閉じた。静寂の中で、彼の心にある小さな躊躇が渦巻く。しかし、次の瞬間、彼は目を開け、冷静さを取り戻した
ゴーの剣は静かにアレンの胸に吸い込まれ、アレンは動かなくなった。
目の前で繰り広げられる惨劇に、俺はただ呆然と立ち尽くした。体が動かない。頭の中で無数の思考が渦巻く中、ただ一つの問いが浮かび上がる。
「なぜ・・・ゴー、なんで?」
その言葉は、俺の口から出ることはなかったが、俺の心の中で叫んでいた。
「トリアン、ミラ。お前達もよく・・・戦っ・・・罠だと気付いてい・・・」
そうつぶやいてからアレンと同じように自らの剣でトリアンとミラの胸を刺し貫いた。
「どうして、こんなことが…」
ゴーの背中を見つめ、俺は心の中で叫んだ。俺の中に沸き上がる感情が、まるで渦のように膨れ上がっていく。恐怖、怒り、悲しみ・・・それらが交錯する中で、俺は一歩も動けなかった。
「少し時間が欲しい」
ゴーはそう言って街道脇の木の下に穴を掘っていた。
三人の墓を作るようだった。
元々薄暗い街道だったが、日も暮れるにつれて周囲は静まり返っていく。小鳥のさえずりも消え、ただ風の音だけが響いていた。悲しみと絶望が空気を重くしていた。
「環境によろしくない」
エータはそんなことを言って山賊の死体を一か所に集めて火をつけていた。
アレックスは数人の息のある山賊の首筋に噛みつき、とどめをさして血液を補充しているようだ。
俺は何もする気が起きず、焚火の前でへたり込んでいた。何かをしなければと思うのに、体が動かない。エータは最初から「全員排除してしまえ」と言っていた。わかっていたのか?
俺が助けられるなら助けたいと言ったからこうなってしまったのか?その問いが、俺の心を引き裂くように渦巻いていた。
ゴーはかつての部下を失ってしまった。大切な仲間を三人も・・・
ゴーは一心不乱に穴を掘っている。
その姿を見て、俺は手伝いに行った。
二人は無言で穴を掘り、一人一人丁寧に運び、土をかけた。
それほど仲良かったわけじゃないのに、土に埋まっていく姿を見ていたら涙が出てきた。
「ケン、やはりあなたは優しい。彼らの為に泣いてくれるのですね」
ゴーは力なくそういいながら土をかけている。
俺は手を止めて、一度涙を拭って地面に正座してゴーに謝罪した。
「俺が、俺があの時『助けられるなら』なんて言わなければこんなことには・・・。本当に申し訳ない」
ゴーも片膝をついてケンの肩に手を置いて
「頭を上げてください。私もまさか全員がグルだったとは思いませんでした。トリアン達も国に仕える兵ですから、いつかこうなる覚悟は持っていたはずです・・・」
彼の声には重苦しい思いがこもっていたが、その手は俺の肩に温もりを与え、少しだけ震えていた。俺たちの絆が、どんな困難にも負けない力になると信じたかった。
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