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55 唐突なバトル展開は熱いテコ入れ II

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家の奥にあった剣を片手に人攫いを探すヴァルマルスは、ロズリーが攫われた街へと来ていた。
彼等がまだこの街に残っていると読んでいたのだ。

用が済めば、犯人は一刻も早く現場から離れるもの・・・そう思いがちだが、そうすると国境などにすぐに連絡が行き案外容易く捕まってしまうのだ。
故に誘拐犯などはむしろ近くで息を潜めほとぼりが覚めるのを待つ事が多い。

そして見るからに金持ちの子供という風貌ではない二人・・・それもキシリーではなく妹のロズリーの方を攫ったのは、商品目的だろう。
となれば彼女はまだ無事に生きているはずだ。

ヴァルマルスはこれまでの転生の中でそういった連中を相手にした事もあったし、なにより自分がそちら側だった事もある。
そのような経験から彼は判断していた。

街外れの港にある、沢山の倉庫。
使われているものも使われていないものも沢山有る。・・・つまり身を隠すには持ってこいだ。
加えて港という事は最終的に船での脱出が可能だろう。
ヴァルマルスは虱潰しに倉庫を回った。

・・・彼の予想は的中した。



「ああ!?誰だテメェ?」
「なんだクソガキ!!おうちを間違えた訳じゃねえだろ!!」

大声で喚く、5人の汚らしい男達。更に奥には・・・彼等のリーダーだろうか、頬杖を付く色の白い男。
そして彼等の中に手を後ろで縛られたロズリーがいた。

「ヴァル・・・!!」

やはりヴァルマルスの思惑通りロズリーには目立つ傷などは無かった。
彼女の無事を確認するとヴァルマルスはゆっくりとそちらの方へ歩いていった。

「おい、何のつもりだテメェ剣なんか持ちやがって!」
「まさかこのメスガキを助けにでも来たってのかよ!?」
「おーおーカッコイイねぇ!王子様気取りか。そんな元気な子はちいとばかり可愛がってやらなきゃなぁ・・・。」

「ああ、全員纏めてかかってくるんだな。」
「・・・あ?」

ぼそりと言ったヴァルマルスの言葉に、罵声を浴びせていた男達は一瞬言葉を失った。余りに唐突な予想外の言葉に耳を疑ったのだろう。
だがすぐにその内容を理解し・・・その顔を紅潮させていく。

「んだとゴラァ!!やっちまえ!!」
「ああああっ!!」

爆発する如く飛び出す男達。
瞬間、ヴァルマルスも地を蹴った。

ざざざざざ・・・ざんっ!

流れる様に五発・・・いや六発。
ヴァルマルスは五人を全員一撃で戦闘不能に追い込むとそのままロズリーの縄を斬り、彼女を抱えて元いた位置へと戻った。

「ああ・・・?あああっ!!痛てぇ!!」

訳も分からぬ間に致命的な攻撃を受け、男達は悲鳴を上げた。
ヴァルマルスはそっとロズリーを下ろし、彼女にここから急いで離れるように言った。

「・・・まだだ、まだ終わってはいない。」
「え?」

表情を変えぬヴァルマルスの緊迫した目の先に居たのは、椅子に座ったままの色の白い男だった。
仲間があっという間に倒されたというのに彼はうっすらと笑みさえ浮かべていた。

「いやあ、見てたよ・・・凄いね。動きも然ることながら、その駆け引きがさ。わざわざ彼等に一斉に襲いかからせたのは、僕に実力を悟られる前に他のカタを付けて彼女を救出したかったんだろ?・・・フフフ、今の動きの間もずっと視界の端にはちゃんと僕を捉えてたよね。怖いなあ、まるで子供じゃないみたいだ。アハハ・・・。」

笑う男。しかし直ぐにその笑みは背筋が凍るような表情に変わる。

「・・・本当に何、君?」

じっと男が睨みを効かすと、刃物を突き付けられた様な寒気がヴァルマルスを襲った。
これ程の殺気を持つ者は・・・今までの世界にはいなかった。
だがすぐにまた男は楽しそうな表情を取り戻すと、ゆらりと立ち上がった。

「心配しなくても女の子を人質にする様な真似はしないさ。・・・僕はエタール、少しの間だけど覚えておいてね。」

彼が蛇のような長い手にナイフを手にすると、ヴァルマルスもより一層力強く剣を構えた。



その動きは・・・蛇のようだった。
伸縮自在の蛇。しなやかなその腕から、ナイフの牙が伸びてくる。
目測の腕の長さを超え、思いがけぬ距離から攻撃してくる。

がきぃいん!

エタールのナイフを、ヴァルマルスは何とか防御した。

「へえ、今のを防ぐのか・・・じゃあこれはどうかな?」

何処からともなく更にナイフを取り出し、もう片方の手に握る。
伸縮自在の牙は・・・倍になる。

こうなればもうヴァルマルスは距離を取り続ける事に専念する他なかった。いくら武器の長さで勝っていても、体格差があり過ぎる。今の子供の体のリーチでは接近して攻撃する事すらままならない。

・・・というより、近づく方が更に危険なのだ。
ナイフなどは元々小回りの効く接近戦でこそ輝く武器だ。そこにみすみす飛び込んでいけば・・・今以上の異次元の動きで切り刻まれるだろう。

八方塞がりのヴァルマルス。
だが彼には一つだけ可能性が残されていた。
それはこの世界に来た時に神に与えられた・・・能力だった。
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