現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん

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第42話:沈黙の庭と、気配を断つ衣

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#### 静寂の牢獄

ドワーフの日誌がもたらした、絶望的な真実。
「――奴は、マナを喰らう」
その言葉を理解した瞬間、一行が休息していた『地下庭園』は、その姿を、全く別のものへと変えた。
絶対的な安息の地は、一夜にして、脱出不可能な「光の牢獄」へと。

焚き火を囲む一行の間に、重い沈黙が流れる。
兄アルフォンスは、その手に握りしめた、ドワーフの戦斧を、ただ、無言で見つめていた。
(馬鹿な……! せっかく、この斧と、この腕で、アークを守れると思ったのに……。相手は、近づくことすらできないのか……! これでは、俺は、また、ただの役立たずじゃないか……!)
前話で、ようやく自らの「剣」としての役割を見出し、証明したばかりの彼が、その力が全く通用しない、新たな、そして、より根源的な絶望に、再び直面していた。

ローランが、厳しい表情で現状を分析する。「我々は、動けん。アーク様の魔法を使えば、奴を刺激する。ウル殿の神聖な気配も、奴にとっては、極上のご馳走だろう。だが、ここに留まり続ければ、この庭園が放つマナが、いずれ、奴を呼び寄せる。我々は、完全に詰んでいる」

#### 逆転の発想

仲間たちが絶望に打ちひしがれる中、アークだけが、別のものを見ていた。
彼は、自分の腕の中で、ブルブルと震えながら、必死に、自らの神聖な光を、体の内側へと押しとどめようとしている、ウルの姿を見ていた。
(……隠す? 抑える?)
その、小さな相棒の、必死の行動が、アークの脳内に、一つの閃きをもたらす。
(そうだ。これまで、僕は、生命力を『与え』、『育てる』ことばかり考えてきた。でも、逆もできるはずだ。生命力を『吸収』し、『遮断』する、特殊な植物を、僕の魔法で創り出せば……!)

アークは、ウルと共に、庭園の探索を始めた。
彼が探すのは、最も生命力に満ちた植物ではない。その逆。
庭園の隅の、最も光が届かない場所で、周囲の苔の光すらも吸い込むかのように、ひっそりと生えている、黒々とした、奇妙な**『吸光蔓(きゅうこうかずら)』**。その、特異な性質に、アークは、この窮地を脱するための、唯一の希望を見出した。

#### 気配を断つ、沈黙の魔法

アークは、その『吸光蔓』を手に、仲間たちの前に戻る。
彼が披露するのは、これまでの、成長や形成といった、派手な魔法ではない。
(建物の壁に、断熱材や、吸音材を入れるのと同じだ。植物が持つ、光を吸収する性質、音を吸収する性質。その『機能』だけを、極限まで引き出し、増幅させ、一つの『素材』として再設計するんだ……!)
『植物成形』を、極限まで緻密にコントロールし、植物の「性質」そのものを、再設計する、超高等技術だった。

アークは、吸光蔓に、静かに語りかけるように、魔力を注ぎ込んでいく。「光を、マナを、音を、外に漏らすな。全てを、その内側へと、封じ込めろ」。
彼の意志に応え、黒い蔓が、自らの意志を持つかのように、互いに編み込まれていく。
数時間後、そこには、光を一切反射しない、まるで、空間の一部が切り取られたかのような、漆黒のローブが、十着、完成していた。

アークが、そのうちの一着を、ウルにそっと着せる。すると、ウルが放っていた、微かな神聖な光が、完全に消失した。ウルは、そこにいるはずなのに、その気配が、ほとんど感じられなくなった。

#### 静寂の旅立ち

一行は、その**『沈黙の衣(サイレント・クローク)』**を、全員が身にまとった。
それは、まるで、薄い闇そのものを編み込んだかのような、奇妙な質感の衣だった。身にまとった瞬間、周囲の音が、すっと遠くなる。仲間たちの体温すら感じられない。まるで、世界から切り離されたかのような、絶対的な孤独。だが、それと同時に、どんな鎧よりも心強い、絶対的な『安心感』が、そこにはあった。

彼らは、光と、癒やしの音色に満ちた『地下庭園』を、後にする。
漆黒の衣をまとった一行が、再び、暗い坑道へと、足を踏み入れた。
彼らが、日誌に記されていた、巨大な縦穴のそばを通りかかった、その瞬間。

ゴウン…………ゴウン…………

地の底の、さらに底から、巨大な心臓が、ゆっくりと、しかし、確かに脈打つような、悍ましい**「振動」**が、再び、彼らの足元を揺るがした。
その悍ましい振動を感じた瞬間、一行は、誰に言われるでもなく、全員が、呼吸を止め、その場に凍りついた。それは、思考による判断ではない。巨大な捕食者を前にした、小動物の、抗いがたい、本能的な反応だった。百戦錬磨のローランですら、その背中に、何十年ぶりかの、冷たい汗が流れるのを感じていた。

『山の心臓』が、すぐそこに、眠っている。
脈動は、彼らの存在に気づくことなく、やがて、静かに収まっていった。
『沈黙の衣』は、確かに、機能していた。

彼らは、安堵のため息をつくと同時に、自らが、どれほど恐ろしい存在の、すぐそばを通り抜けようとしているのかを、改めて、肌で理解する。
静寂の中、彼らは、さらなる闇の奥へと、音を殺して、その一歩を、再び踏み出すのだった。

***

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