101 / 241
第101話:創造主の手と、世界で最初の朝日
しおりを挟む世界の天井、『星見の頂』。
その、絶対的な静寂の中で、最後の儀式が、始まろうとしていた。
星竜は、その神々しい頭を垂れ、新たなる神の誕生を、静かに見守っている。アルフォンス、ミカエラ、ローラン、仲間たち全員が、アークを囲むように、揺るぎない守りの陣を敷いていた。
アークは、仲間たちに一度だけ、力強く頷くと、祭壇――『星の揺り籠』へと、一人、進み出た。
彼の両手に、光と闇の全てを内包した、一つの、完璧な**『陰の世界樹の種子』**が、まるで心臓のように、穏やかに脈打っている。
彼は、その種子を、まるで愛しい我が子をそっと寝かしつけるかのように、水晶の揺り籠の中心へと、恭しく置いた。
そして、その揺り籠に、自らの両手を、そっと、触れた。
彼が注ぎ込むのは、もはや、ただの魔力ではない。
彼が、この世界で生きてきた、その魂の記憶、その全て。
病に苦しむ母を救いたいと願った、必死の祈り。
仲間たちと、腹の底から笑い合った、温かい食卓の光景。
兄が、その身を盾として、自らの全てを守り抜いてくれた、あの日の、血と覚悟の匂い。
聖女が、涙の中で、新たなる信仰を見出した、再生の輝き。
彼が愛した、全ての「陽だまり」の記憶を、新たなる世界の、最初の栄養として、その種子へと、惜しみなく、注ぎ込んでいった。
「――目覚めよ」
その、静かなる創造主の言葉に、星が、応えた。
**ゴオオオオオオオオオオオオッ!**
それは、音ではなかった。
世界そのものが、産声を上げたかのような、魂の震動。
種子から、一本の、夜の闇よりも深く、月の光よりも美しい、**黒檀と白銀の苗木**が、天を目指して、芽吹いた。
苗木は、星々の光を貪欲に吸い上げ、瞬く間に、天を突くほどの巨木へと成長していく。
そして、その再生に呼応し、世界の理が、連鎖を始めた。
遥か彼方、エルフの隠れ里で。
アークが遺した『陰の世界樹の分霊』が、主の誕生に共鳴し、力強く成長を始める。月光樹が、これまでで最も強く、優しい光を放った。その光の中で、水晶の眠りについていたエルフたちが、一人、また一人と、その瞼を、ゆっくりと開いていった。数千年の眠りは、終わりを告げたのだ。
そして、アークたちの故郷、辺境の森の奥深くで。
半身を失い、永い涙を流し続けていた、母なる『陽の世界樹』が、その失われた半身の帰還を、感じ取った。
その、黒く炭化していた幹から、全ての瘴気が、光となって浄化されていく。そして、天に向かって、地を揺るがすほどの、**歓喜の咆哮**を上げた。
黄金色の、生命力の奔流が、その幹から、世界中へと放たれた。ウルが、その根元で、母の完全な復活に、ただ、涙を流して喜びの声を上げていた。
白銀の『陰』の波動と、黄金の『陽』の波動。
二つの、世界の理を司る巨大な奔流が、星の大気の中で、初めて、出会った。
それらは、ぶつかり合うことなく、まるで、永い別離の果てに再会した恋人たちのように、どこまでも、どこまでも、優しく、互いを労わるように、絡み合い、そして、一つに溶け合っていった。
その、調和の光が、祝福の慈雨となって、世界中に降り注ぐ。
大地は、より豊かに。水は、より清らかに。空は、より蒼く。
世界は、その日、静かに、そして、確かに、**新生**した。
#### 創造主の眠り
星見の頂で。
最後の光景を見届けたアークは、その魂の全てを使い果たし、糸が切れたように、静かに、その場に崩れ落ちた。
彼の、金と白銀が混じり合った髪は、その役目を終えたとばかりに、完全な、雪のような純白へと変わっていた。
「――アーク!」
真っ先に駆け寄ったのは、兄アルフォンスだった。彼は、眠る弟の、あまりにも穏やかな寝顔を、その逞しい腕で、固く、固く、抱きしめた。
「……やったんだな。お前は、本当に……」
星竜が、その役目を終えた創造主に、最後の一瞥をくれると、深く、敬意に満ちた礼をし、再び、悠久の眠りへとついていく。
#### そして、陽だまりの食卓
――それから、十年後。
かつて、辺境と呼ばれたライナス男爵領は、今や、大陸で最も豊かで、平和な地として、その名を知られていた。
村は、美しい街並みを持つ**『陽だまりの街(ヒダマリ・タウン)』**となり、そこでは、人間と、目覚めたエルフたちが、何の隔たりもなく、共に笑い、暮らしている。
かつての『学び舎』は、今や、大陸中から学びの子らが集う、壮麗な**『ライナス・アカデミー』**となった。その若き学長は、逞しく成長した、**フィン**だった。
元『熾天使』**ミカエラ**は、この地に、精霊教会の新たな教え――生命そのものを祝福する『陽だまりの教え』の、最初の教会を建て、多くの民の、心の支えとなっている。
そして、この街の平和を守るのは、兄**アルフォンス**が率いる、人間とエルフの混成部隊**『聖域騎士団』**。彼は、もはや弟の影を追う者ではない。大陸最強と謳われる、気高き英雄として、その名を轟かせていた。
その日の、夕暮れ。
街のはずれにある、一軒の、少し大きな、しかし、どこにでもあるような、温かい家。
その庭にある、美しい黄金色のリンゴの木にかけられた梯子の上で、一人の、雪のように真っ白な髪を持つ青年が、夕陽を浴びて、気持ちよさそうに、昼寝をしていた。
「――アーク! いつまで寝てるの! もうすぐ、ご飯の時間ですよ!」
家の窓から、母の、変わらない、優しい声が響く。
青年――アークは、ゆっくりと目を開けると、「はーい」と、気の抜けた返事をしながら、梯子を降りた。
彼が、家の扉を開ける。
そこには、彼が、命を賭して守り、そして創り上げた、世界の全てがあった。
父と、母、そして、逞しい兄アルフォンス。
食卓を囲むのは、ローラン、ミカエラ、リオン、カエル、フィン、ダグ、セーラ、そして、遥々ザターラから訪れた、美しき共犯者ディアナ。暖炉の前では、すっかり大きくなったウルが、気持ちよさそうに丸くなっている。
テーブルの上には、湯気の立つシチューと、焼きたてのパン。そして、この世界の食卓を、根底から変えた、芳醇な香りを放つ『醤油』が、小皿に注がれている。
誰もが、何の憂いもなく、ただ、心の底から、笑い合っていた。
アークは、その、あまりにも温かい光景を、ただ、黙って見つめていた。
そして、自らの席に着く。
「まあ、アーク。何、にこにこしてるの?」
母の、優しい問いかけに。
彼は、全ての始まりの日のように、少しだけはにかむと、こう答えた。
「ううん。ただ……今日の晩ご飯も、すごく、美味しそうだなって」
これは、一人の青年が、規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、世界を救う、壮大な物語。
そして、これは、たった一つの、温かい食卓を取り戻すためだけの、とても、とても、小さな物語。
***
最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました。
この物語が、あなたの心の中に、小さな「陽だまり」を創れたのなら、作者として、これ以上の喜びはありません。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、そして、よろしければ新作へのフォローをいただけますと、次の物語を紡ぐ、最高の励みになります。
127
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?
mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。
乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか?
前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる