現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん

文字の大きさ
111 / 241

第111話:陽だまりの揺り籠と、絶望する鉄鷲

しおりを挟む

#### 漆黒の津波

夜明け。
地平線の彼方が、朝日で白み始めた、その瞬間。
一本の、長く、物悲しい角笛の音が、南方の穀倉地帯の静寂を無慈悲に切り裂いた。

それを合図に、地平線が、黒く、蠢き始めた。
それは、もはや軍隊ではなかった。大地を覆い尽くし、全てを飲み込む、**漆黒の津波**。五千の兵士が掲げる無数の槍先が、昇り始めた太陽の光を鈍く反射し、まるで巨大な獣の牙のように煌めいていた。その先頭では、おぞましい姿の合成獣(キメラ)が、大地を揺るがす咆哮を上げ、巨大な破城槌が、ゆっくりと、しかし確実に、絶望の象徴として『陽だまりの砦』へと迫ってくる。

その、あまりにも圧倒的な暴力の奔流を、遥か後方、黒鉄の玉座に座る大公ギュンターは、恍惚と眺めていた。
ギュンターの唇に、獲物の断末魔を聞く直前の、絶対的な捕食者の笑みが浮かんだ。彼の脳裏に映るのは、単なる勝利ではない。この、小賢しい南の猿どもが必死で築き上げた『希望』そのものを、根こそぎ喰らい尽くす、至上の愉悦だった。
彼は、傍らの将軍に、まるで晩餐の時刻でも尋ねるかのように、気だるげに問いかけた。
「蹂躙まで、あと、何分だ?」
「はっ! このまま進軍いたしますれば、ものの十分もかからず、城壁は崩れ、抵抗する者どもは、血の海に沈みましょうぞ!」
「そうか。ならば、存分に恐怖を味わわせてやれ。我が鷲の爪が、その喉笛を掻き切る、その瞬間までな」
ギュンターは、これから始まる一方的な蹂躙を思い描き、その唇を、満足げに舐め上げた。

#### 創造主の設計図

その、同じ瞬間。
遥か北、陽だまりの街の、静かな書斎で。
地図の上の、南方の戦場を示す一点に、そっと手を置いていたアークの、二色の瞳が、カッと、開かれた。
彼の魂は、数千キロの距離を超え、戦場の、その中心へと飛んだ。彼の視界には、もはや人間の兵士の群れなど映っていない。ただ、巨大なチェス盤の上を、無秩序に動き回る、黒い駒の群れだけが見えていた。

(……来たか)
彼の口元に、絶対的な支配者の、静かなる笑みが浮かぶ。
(僕の、設計図の、そのど真ん中へ)

その瞬間、アークの魂の呟きが、南の戦場に仕込まれた『心臓』へと、奇跡の号砲を鳴らした。

#### 陽だまりの揺り籠

鉄鷲公国軍の先頭が、砦まであと二百メートルという地点にまで迫った、その時だった。
**世界が、産声を上げた。**

ズズズズズンッ!
漆黒の津波が迫る、その足元で。リオンが決死の覚悟で平原の中心に植えた、たった一粒の**『聖浄樹の種子』**が、アークの魂を宿し、大地そのものが巨大な心臓であるかのように、一度だけ、大きく脈動したのだ。
次の瞬間、ギュンターを含む、全ての兵士の足元から、地響きを伴う轟音と共に、何千、何万という、黒鉄のように硬い『鉄鋼樹』の根と、聖なる光を放つ『聖浄樹』の蔓が、天を突く勢いで噴出した。

「なっ……なんだ、これは!?」
「地面が……! 地面が、生きているぞ!」

平原だったはずの場所は、ほんの数十秒で、その姿を、完全に変貌させた。
大地は隆起し、壁となり、行く手を阻む。ある場所では、底なしの深い谷が口を開け、またある場所では、鋭い木の槍が、無数に突き出す罠へと変わる。
それは、もはや戦場ではなかった。侵入者を拒絶し、その全てを飲み込むために絶えずその姿を変え続ける、**巨大な『生きた迷宮(リビング・ラビリンス)』**。
アークが、この日のために仕掛けた、最終防衛システム『陽だまりの揺り籠』が、ついに、その牙を剥いたのだ。

五千の軍勢は、その圧倒的な数の暴力故に、より悲惨な形で、迷宮の餌食となった。
完璧な楔のはずだった陣形は、内側から食い破られ、もはやただの烏合の衆。兵士たちは、互いの顔すら見失い、孤独な迷い人として、見えざる恐怖に悲鳴を上げるしかなかった。
完璧だったはずの陣形は、完全に分断され、兵士たちは、互いの位置すら把握できない、孤独な迷い人へと成り果てた。

「馬鹿な……! 魔法だと!? これほどの、大規模な魔法が、あるというのか!」
玉座の上で、ギュンターが、初めて焦りの声を上げた。その、猛禽のような鋭い瞳に、信じられないものを見る、動揺の色が浮かぶ。
だが、地獄は、まだ始まったばかりだった。

迷宮の壁の、その遥か上。
『陽だまりの砦』の城壁の上で、エルフの弓兵長リオンが、その千年の時を生きる瞳を、静かに細めた。
「――時は、満ちた。森の怒りを、思い知るが良い」
彼が、音もなく弓を引き絞る。だが、その矢が狙うのは、人の命ではない。迷宮の、いくつかの重要な結節点。
リオンの矢が地に突き刺さった瞬間、迷宮の壁から、幻惑の花粉を撒き散らす『惑わしの花』が一斉に咲き誇り、分断された兵士たちの間に、さらなる混乱と、疑心暗鬼を生み出していく。
「敵はどこだ!」「裏切り者だ! 後ろから斬られた!」
兵士たちは、もはや、見えない敵の影に怯え、同士討ちを始める始末だった。

戦場は、完全に、巨大な捕食者の胃袋の中と化していた。兵士たちの雄叫びは、恐怖の悲鳴へと変わり、その士気は、完全に崩壊した。
「……退け」
ギュンターは、屈辱に顔を歪ませ、奥歯をギリリと鳴らしながら、絞り出すように、その言葉を口にした。
「全軍、退けぇぇぇぇっ!」

#### 最後の舞台

だが、アークの設計図は、その王手(チェック)を、逃さない。
撤退しようとする、ギュンターの本隊。その周囲の、迷宮の壁だけが、まるで意志を持つかのように、より高く、より強固な、円形の闘技場のような壁へと、変貌したのだ。
完全に、孤立させられた、王の部隊。

そして。
『陽だまりの砦』の、これまで固く閉ざされていた城門が、ギギギギギ……と、重い音を立てて、ゆっくりと、開かれていく。

その、開かれた門の中から。
まるで、この瞬間のために用意されたかのような夜明けの光を、その黒鉄の鎧の一身に浴びて。絶望の迷宮に差し込む、唯一の希望の光そのものとして、ただ一人、ゆっくりと姿を現す男がいた。
黒鉄の鎧を纏い、古のドワーフアックスを、その肩に担いで。
アルフォンス・ライナス。

彼の、蒼い瞳は、もはや、他の兵士など映していない。
ただ一点。
孤立した闘技場の中心で、屈辱と怒りに震える、敵の総大将、大公ギュンターだけを、絶対的な捕食者の目で、真っ直ぐに、見据えていた。

「――ようこそ、俺たちの陽だまりへ」
アルフォンスの、静かだが、その場にいる全ての者の魂を震わせる声が、響き渡った。
「さあ、始めようぜ、大将首。あんたと俺の、最後の戦いをな」

***

最後までお読みいただき、ありがとうございます。面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、フォローをいただけますと、執筆の励みになります。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...